非上場株式評価の節税スキーム、「黄色信号」はすでに「赤信号」に変わりつつある

非上場株式評価の節税スキーム、「黄色信号」はすでに「赤信号」に変わりつつある

スタッフ:先生、有識者会議の第4回資料に載っていた8つのスキーム事例、読んでいて正直「よくこんな組み方を考えるな」と感心してしまいました。

先生:分かります。私も同じ感想を持ちました。読んでいると、素晴らしい出来だな、と一瞬うなってしまう。会社規模の操作、グループ法人税制の使い方、無議決権株式の活用、どれも法令・通達の仕組みを深く理解していないと組めない設計です。技術的には、本当によくできています。

スタッフ:でも、感心するのと、実際に勧められるかどうかは別ですよね。

先生:そこが今日一番お伝えしたいことです。感心してしまうほど巧妙な設計であればあるほど、それが世に出た瞬間、危険信号の色は一気に変わります。今日はこのテーマでお話ししたいと思います。

目次

1. なぜ「素晴らしい」と感じてしまうのか

先生:租税回避スキームというのは、法令・通達の要件を字義通りに満たしながら、経済効果だけを狙い通りに動かす、いわばパズルです。会社規模区分の判定基準、株式等保有特定会社の25%基準、財産評価基本通達185の3年以内取得要件、こうした形式基準の一つ一つは、単体で見れば何の問題もない合理的なルールです。それを組み合わせて、狙った通りの評価額に着地させる。これは高度な専門知識と経験がなければ設計できません。ですから、実務家として読めば読むほど、その技術力に唸ってしまうのは、ある意味自然な反応だと思います。

スタッフ:でも、その「よくできている」という感覚こそが、危険のサインでもあるわけですね。

2. 資料に載った時点で、もう「黄色信号」

先生:国税庁が有識者会議という公開の場に、これだけ具体的な事例を出してきたということ自体が、重要なメッセージだと私は受け止めています。国税庁がこの資料で示しているのは、あくまで「こうした行為が確認されている」という事実の提示であり、個々の事例について総則6項で否認できるかどうかまで明言しているわけではありません。ここは資料の記載を超えて断定しないよう、慎重に読む必要があります。

ただし、一人の税理士の実務感覚として申し上げれば、これだけ具体的に構造を把握し、有識者に説明できるだけの資料を作れている以上、当局側には相応の対応の検討・準備があると考えるのが自然だと思います。これはあくまで私の推測であり、参考意見にすぎませんが、少なくとも「もう黄色信号は灯っている」と見て行動するのが、実務家としての賢明な態度だと思います。

3. 一税理士の視点で見た「危うさ」――事例⑦を例に

スタッフ:8事例の中でも、先生が特に「これは危ない」と感じられたのはどれですか。

先生:配当還元評価で第三者に株式を売却し、その後、会社が自己株式として買い戻す、というタイプの事例です。個々の取引だけを見れば、譲渡も自己株取得も、それぞれ独立した適法な取引です。ですが、税理士としてこの一連の流れを見ると、いくつも「なぜ」が浮かびます。

そもそも、支配権もなく、換金市場もない非上場の少数株式を、赤の他人がわざわざ買う理由がどこにあるのか、という問題があります。この不自然さは、時間が経っても消えません。仮に、第三者への譲渡が実質を伴わず、一時的に名義を移しただけのものと評価されれば、当初の株主が実質的に株式を保有し続けていたのではないか、という問題が生じます。その場合、後の自己株式取得についても、誰に対する経済的利益の移転なのか、みなし配当課税を含めて再構成される可能性があります。しかも、その間に相続が発生すれば、今度は相続税の名義財産としての取り込みが問題になります。

これはあくまで、私が実務家として理論的に組み立てた否認の可能性であり、国税庁がこの通りに否認すると決まっているわけではありません。訴訟になれば、資金の出捐者は誰か、議決権を実際に行使していたか、契約書はいつ作られたかといった、個別の事実関係の積み上げによって結論は変わります。それでも、「理屈の上でこれだけ多くの切り口がある」ということ自体が、実務家としては十分な警告だと感じます。

4. 資料に示された8つの事例

スタッフ:第4回資料に載っている8つの事例、あらためて項目だけ並べてみましょうか。

先生:概要を並べると、次のようになります。いずれも、通達上の形式的な基準(会社規模区分、議決権割合、保有資産の割合、取得時期など)の「境界線」を意図的に操作している点が共通しています。

  1. 子会社を利用した会社規模区分の操作――株式交換等を経由して、評価会社の会社規模区分を有利な方向に転換
  2. 種類株式(無議決権株式)を利用した配当還元方式適用株主の作出――議決権のない株式を発行し、世代を飛ばして保有させることで配当還元評価の対象株主を作出
  3. 組織再編による評価方式の転換――吸収分割等を利用し、純資産価額方式から類似業種比準方式への転換を図る
  4. グループ法人税制を利用した循環的な資金移動による株価圧縮――ホールディングス会社と子会社間の寄附・貸付を循環させ、評価額を圧縮
  5. オペレーティングリースを利用した一時的な株価圧縮――中古資産の簡便法・定率法による減価償却を利用
  6. 株主構成の操作による「同族株主のいない会社」化――議決権割合を意図的に分散させ、同族株主判定を外す
  7. 第三者を一時的に介在させた評価方式の転換――配当還元評価での譲渡と、その後の自己株式取得を組み合わせる
  8. 法人が貸付用不動産を購入し、3年超経過後に株式を移転するスキーム――純資産価額方式における不動産の評価差額を利用し、株価を圧縮

スタッフ:それぞれの位置づけについては、以前の記事でも整理していますね。

先生:はい。今日はその中でも特に議論を深めた事例⑦を中心にお話ししました。

5. リスクとリターンがねじれている

先生:もう一つ強調したいのは、こうしたスキームを設計する側と、それを実行して申告する側とで、リスクの負い方が全く違うということです。スキームを提案するコンサルや業者は、契約上の免責条項などにより、否認された場合の責任が限定されていることも少なくありません。成功すれば報酬を得て、失敗しても契約上の免責でその場を去るケースが多いのが実情です。一方、申告書に署名する税理士は、総則6項や名義株認定で否認されれば、追徴税額そのものに加えて、依頼者からの損害賠償という形で、事務所の存続そのものを賭けることになります。

依頼者にとっても同じです。追徴税額に加え、延滞税が発生し、事実関係によっては過少申告加算税や重加算税が問題となることもあります。さらに、名義財産と認定されれば、相続税評価のやり直しまで発生しかねません。設計を考えた側の責任が限定される一方で、実行し申告した側に大きなリスクが集中する。これでは、どれだけ技術的に優れていても、割に合う話にはなりません。

6. まとめ ―― 流行物の節税は、必ず封じ込められる

スタッフ:今日のお話をまとめると、どういうことになりますか。

先生:流行りの節税スキームというのは、本質的に「まだ発見されていないだけの手口」であって、「安全な手口」ではありません。有識者会議の資料に事例として載る、業界内で話題になる、コンサル業者が営業をかけてくる。その時点で、すでに黄色信号は灯っています。そして通達改正という形で網が張られれば、信号は一気に赤に変わります。技術的にどれだけ感心する出来であっても、それを実際に提案し実行するかどうかは、まったく別の判断です。

私たちの事務所では、こうした行き過ぎた節税スキームはご提案しません。堅実に評価通達の枠内で申告し、書面添付制度で説明責任を尽くす。それが、事務所と依頼者双方の人生を守る、唯一確実な方法だと考えています。

参考資料

本記事は、国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」第4回資料(令和8年7月3日開催)を参考に作成しています。原文は以下でご確認いただけます。

国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第4回)」資料(PDF)


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