はじめに
船舶の修理・整備を手がけるお客さまからよく聞かれる質問があります。「外洋に出ていく船だから輸出免税になるんじゃないですか?」というものです。
今回は、スタッフが調査船の修理案件で顧客ともめた実例をもとに、外航船舶等の定義→誰から請けたか→どこで役務を提供したかという三段階の整理法を解説します。
第一段階:その船は「外航船舶等」か?
スタッフ 「先生、お客さまが外洋に出て行く調査船の修理をしたんです。これって『外航船』の修理だから輸出免税になりますよね?国際航海してますし……。」
松野 「いいところに目をつけたね。でも、その『外航船』という言葉を、一般的な意味で使っているのか、消費税法上の外航船舶等の意味で使っているのかで、結論がガラッと変わるんだ。まず定義を確認しよう。」
スタッフ 「定義があるんですね。」
松野 「消費税法基本通達7-2-1(4)に、こうはっきり括弧書きで定義されている。」
【消費税法基本通達7-2-1(4)外航船舶等の定義】
外航船舶等(専ら国内及び国外にわたって又は国外と国外との間で行われる旅客又は貨物の輸送の用に供される船舶又は航空機をいう。以下同じ。)
(注)外航船舶等には、日本国籍の船舶又は航空機も含まれる。
スタッフ 「『専ら旅客又は貨物の輸送の用に供される』というのがポイントですね。」
松野 「そう。キーワードは『専ら』と『旅客又は貨物の輸送』の二つだ。だから、こういった船はすべて対象外になる。」
- 漁船:魚を獲るのが目的
- 調査船・南極観測船:調査・観測が目的
- 作業船・作業台船:工事・作業が目的
- 内航船:国内のみの航行
スタッフ 「外洋に出ていること自体は関係ない。『何のための船か』で決まるわけですね。それと(注)書きの『日本国籍も含まれる』というのは?」
松野 「日本の船でも外国の船でも、国籍は関係ない、ということだよ。よく『日本の船だから国内扱いでは?』と誤解する方がいるので、念のため明記されている。典型的な外航船舶等は、専ら国際航路を走るコンテナ船や旅客船のような船だね。」
第二段階:直接請負か、下請けか? 代理人はどうなる?
スタッフ 「では、本当に外航船舶等に該当する船の修理なら、すべて輸出免税になるんですか?」
松野 「もう一つ条件がある。消費税法基本通達7-2-10にはっきり書いてあるんだ。」
【基本通達7-2-10 船舶運航事業者等の求めに応じて行われる修理の意義】
令第17条第1項第3号又は第2項第1号ハ《外航船舶等の修理》の規定の適用に当たって、「船舶運航事業者等」の求めに応じて行われる修理は、船舶運航事業者等からの直接の求めに応じて行う修理に限られるのであるから、船舶運航事業者等から修理の委託を受けた事業者の求めに応じて行う修理は、これに含まれないことに留意する。
(注)船舶運航事業者等から修理の委託を受けた事業者の求めに応じて修理として行う役務の提供は、課税資産の譲渡等に該当し、当該修理の委託をした事業者にとっては課税仕入れとなる。
スタッフ 「『直接の求め』に限る、と明記されているんですね。」
松野 「そう。外航船であっても、一次受託者(元請け)から依頼を受けて行う下請け修理は輸出免税に含まれない。そして通達の(注)書きにあるとおり、その下請け修理は課税資産の譲渡等(通常の課税売上)として扱われ、委託した元請け側にとっては課税仕入れになる。」
スタッフ 「一つ確認なんですが、船舶運航事業者等の『代理人』を通じて修理の依頼が来た場合はどうですか?代理人だと、直接の求めじゃないということになりますか?」
松野 「そこは下請けとはっきり区別しないといけないね。代理人というのは、法律上、本人(船舶運航事業者等)のために意思表示をする者だから、代理人を通じた依頼であっても、実質的には船舶運航事業者等からの直接の求めと同じに扱われる。輸出免税の対象になるよ。」
スタッフ 「なるほど。代理人と下請けは全然違うんですね。」
松野 「そう。整理するとこうなる。」
| 依頼の経路 | 法的性格 | 輸出免税 |
| 船舶運航事業者等から直接 | 直接請負 | ○ |
| 船舶運航事業者等の代理人を経由 | 実質的に直接請負と同視 | ○ |
| 元請け業者(一次受託者)から依頼 | 下請け | ✗(課税売上) |
スタッフ 「書類の宛名や契約書の当事者が誰か、というのが判断の手がかりになりますね。」
松野 「ただ、船舶のエージェント(代理人)が介在する場合は、発注書や契約書の宛名がエージェントの会社名になっていることが多いから、書類の名義だけで判断しようとすると少し迷うかもしれない。その場合は、エージェントが船舶運航事業者等の代理として動いているのか、それとも元請けとして自分の名で発注しているのかを、取引の実態で確認するといいよ。」
スタッフ 「取引の流れと実態を見て判断する、ということですね。そういえば、修理が終わったとき船長からサインをもらうって聞いたんですが。」
松野 「そう。工事完了時に船長のサイン(船長証明)をもらうのが実務上の慣行なんだ。これがそのまま、どの船の・どこでの工事かを証明する書類になる。輸出免税の証明書類としても、役務提供場所の証拠としても使えるから、きちんと保存しておくといいよ。」
第三段階:役務提供場所で内外を判定する
スタッフ 「調査船の修理や下請け修理が輸出免税にならない場合、どの法律の根拠で国内・国外を判定するんですか?」
松野 「根拠は消費税法第4条第3項第2号だよ。条文はこうなっている。」
【消費税法第4条第3項第2号】
資産の譲渡等が国内において行われたかどうかの判定は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める場所が国内にあるかどうかにより行うものとする。
二 役務の提供である場合 当該役務の提供が行われた場所(当該役務の提供が運輸、通信その他国内及び国内以外の地域にわたって行われるものである場合その他の政令で定めるものである場合には、政令で定める場所)
スタッフ 「役務の提供は、提供が行われた場所が基準なんですね。」
松野 「そう。船舶の修理は典型的な役務の提供だから、実際に修理をした場所が国内か国外かで消費税の課否が決まる。さらに基本通達5-7-15では、こう補足されている。」
【基本通達5-7-15 役務の提供に係る内外判定】
役務の提供が行われた場所とは、現実に役務の提供があった場所として具体的な場所を特定できる場合にはその場所をいうのであり、具体的な場所を特定できない場合であっても役務の提供に係る契約において明らかにされている役務の提供場所があるときは、その場所をいうものとする。
スタッフ 「現実の作業場所が分かればその場所、分からなければ契約書に書いてある場所で判定するということですね。」
松野 「そうだ。それでも判定できない場合、たとえば国内と国外にまたがって連続して行われる役務で対価が合理的に区分されていないようなケースは、施行令第6条第2項第6号により役務提供者の事務所等の所在地で判定することになる。ただし、船舶の修理のように修理場所が明確に特定できる場合は、原則どおり現実の作業場所で判断すれば足りる。」
スタッフ 「整理するとこうなりますね。」
| 修理場所 | 内外判定 | 消費税の扱い |
| 国内のドック | 国内取引 | 課税売上 |
| 海外のドック | 国外取引 | 不課税売上 |
| 国内・国外にまたがり対価が区分不明 | 役務提供者の事務所所在地で判定 | 事務所が国内なら課税売上 |
松野 「まさに。だから実務では、どのドック(港)で修理したかを発注書や工事完了報告書・船長証明で必ず確認しておくことが重要なんだ。契約書に作業場所を明記しておくと、税務調査のときも説明がスムーズになるよ。
それと一点補足しておくと、輸出免税と国外取引(不課税)は似て非なるものだ。
- 輸出免税:課税売上(税率0%)として申告する。輸出免税売上として計上するから、消費税の申告書にも数字が上がってくる。
- 国外取引(不課税):そもそも消費税の課税対象外。申告書の課税売上には含まれない。
帳簿や申告書の区分を間違えないようにしてほしい。」
頭の体操:国外ドックで下請けをしたときの仕入れはどうなる?
スタッフ 「先生、関連して仕入れの取り扱いも教えてください。国外ドックでの下請け工事のとき、材料をどこで買うかで扱いが違うとおっしゃっていましたよね。」
松野 「例えば、うちが日本の造船所から外航船修理の一部を海外ドックで下請けするとしよう。売上は国外取引なので不課税売上になる。そのときの材料調達のパターンが二つあって、扱いが変わってくる。」
松野 「一つ目は、日本国内で材料を購入して海外に持ち出すパターン。」
- 日本での材料購入:国内の課税仕入れ
- 売上は国外取引(不課税)だが、国内の課税仕入れとして仕入税額控除の対象になる
松野 「二つ目は、材料をすべて現地(国外)で調達するパターン。」
- 現地での材料購入:そもそも日本の消費税の課税対象外
- 日本の消費税の仕入税額控除の話には乗らない
スタッフ 「整理すると……
- 売上側:輸出免税(課税売上・税率0%)か国外取引(不課税)かで区別
- 仕入側:国内課税仕入れ(控除対象)か国外の対象外仕入れ(控除の議論に乗らない)かで区別
この組み合わせで考えるわけですね。」
松野 「そうそう。ここを混同すると、仕入税額控除の計算を誤ることになるから注意が必要だよ。」
今回の案件の結論
スタッフ 「先生、今回の案件に戻すと……。外洋に出る調査船だけど、消費税上の外航船舶等には該当しない。修理は国内のドックで行ったので、通常の課税売上として処理する。お客さまの『外洋に出るから輸出免税では?』という主張は認められない、ということですね。」
松野 「その理解でばっちり。三段階の整理で考えれば、実務上のモヤモヤはほとんど解消できる。」
- 入口:外航船舶等の定義を押さえる(旅客・貨物の輸送が専らの目的か。国籍は無関係)
- 誰から請けたか:船舶運航事業者等からの直接請負か(代理人経由も含む)、下請けか
- どこで役務を提供したか:現実の作業場所が国内か国外か(船長証明・契約書への明記が重要)
松野 「この三段階さえ頭に入っていれば、どんな船舶修理案件でも迷わずに判断できるよ。」
まとめ:根拠条文・通達の一覧
| 通達・条文 | 内容 |
| 基本通達7-2-1(4) | 外航船舶等の定義:専ら旅客・貨物輸送の用に供される船舶・航空機。日本国籍も含む |
| 基本通達7-2-10 | 輸出免税となる修理は船舶運航事業者等からの直接の求め(代理人経由含む)に限る。下請けは課税売上(委託者の課税仕入れ) |
| 消費税法第4条第3項第2号 | 役務の提供の内外判定は役務が行われた場所による |
| 基本通達5-7-15 | 現実の作業場所が特定できればその場所。契約書に明記があればその場所 |
| 施行令第6条第2項第6号 | 場所が不明・対価が区分できない場合は役務提供者の事務所所在地で判定 |
| 判定の段階 | 内容 | 消費税の扱い |
| ①外航船舶等○+直接請負(代理人含む) | 輸出免税の要件を満たす | 輸出免税(課税売上・税率0%) |
| ①外航船舶等○+下請け | 通達7-2-10により免税から除外 | 課税売上(元請けは課税仕入れ) |
| ①調査船・漁船・作業船・内航船など | 外航船舶等に該当しない | 役務提供場所で内外判定へ |
| ③役務提供場所が国内 | 消費税法4条3項2号・通達5-7-15 | 課税売上 |
| ③役務提供場所が国外 | 同上 | 不課税売上 |
船舶関連の消費税は、「外航」「外洋」という言葉のイメージに引きずられがちです。しかし判断の軸は船の主目的・請負形態・役務提供場所の三点です。根拠通達をしっかり押さえ、発注書・契約書・船長証明・工事完了報告書で事実関係を記録しておくことが、実務上のトラブルを防ぐ最大の対策になります。
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