はじめに
相続した実家を売却する際に使える「空き家特例(被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の3,000万円特別控除)」は、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる非常に大きな節税制度です。
しかし、空き家特例は単に「相続した空き家を売ったら使える」という制度ではありません。相続後に貸付・居住・事業利用をしていないか、譲渡対価が1億円以下か、譲渡先が親族などの特別な関係者に該当しないか、相続税の取得費加算など他の税制と併用できるかなど、実務では慎重な判断が必要です。
特に複数の相続人がいる場合は、分筆や共有、売却の順番、他の相続人による適用後譲渡によって、当初は使えると思っていた空き家特例が使えなくなるケースもあります。
この記事では、空き家特例シリーズ第29回から第32回までの内容をまとめ、相続した実家の売却で3,000万円控除を正しく使うために注意すべきポイントを、尼崎の税理士が実務目線で解説します。
※令和6年1月1日以後の譲渡で、被相続人居住用家屋やその敷地等を取得した相続人が3人以上いる場合は、控除額が1人あたり最高2,000万円となる点にも注意が必要です。
シリーズの全体像
| 回数 | テーマ | 主なポイント |
|---|---|---|
| 第29回 | 利用制限の落とし穴 | 分筆・貸付・譲渡のタイミング |
| 第30回 | 1億円判定 | 複数相続人・分割売却・適用後譲渡 |
| 第31回 | 譲渡先の要件 | 「特別な関係がある者」の範囲 |
| 第32回 | 他の税制との併用 | 住宅ローン控除・取得費加算との関係 |
第29回|利用制限の落とし穴|分筆と譲渡タイミングが命
ポイント
空き家特例を適用するには、「相続の時から譲渡の時まで、事業・貸付・居住のいずれの用途にも使用していないこと」が条件です(措法35条3項)。
実務で最も注意が必要なのが、複数の相続人がいる場合の利用制限の判断単位です。
被相続人が生前に土地を分筆していた場合は、相続人ごとに取得した各土地を個別に判断します。一方、相続人が相続後に分筆した場合は、分筆前の土地全体を一体として判断するため、他の相続人が貸付を開始しただけで自分の特例も使えなくなります。
ただし、決定的な逃げ道があります。「利用制限は譲渡の時まで」という条文の読み方です。自分の譲渡が完了した後に他の相続人が土地を利用しても、すでに完了した譲渡には影響しません。つまり誰が先に売却するかが、特例適用の可否を左右します。
▶ 詳しくはこちら:29回 相続した実家の売却で600万円損しない!利用制限の落とし穴と対策
第30回|1億円判定の落とし穴|共有・分割・適用後譲渡の合算
ポイント
空き家特例の要件の一つに、「譲渡対価の額が1億円以下であること」があります。この判定は単独の譲渡だけでなく、一定期間内の複数の譲渡を合算して行われます。
計算式は次のとおりです。
対象譲渡 + 適用前譲渡 + 適用後譲渡 ≦ 1億円
- 適用前譲渡:相続開始日から対象譲渡を行った年の12月31日までの間に行われた他の相続人等の譲渡
- 適用後譲渡:対象譲渡の翌年1月1日から、対象譲渡の日以後3年を経過する年の12月31日までの間の譲渡
この判定期間は最長約7年間に及びます。1億円を1円でも超えると全員が特例を適用できなくなるため、複数の相続人がいる場合は共有者間の情報共有と売却スケジュールの調整が不可欠です。
また、当初は1億円以下で申告して特例を適用した後、「適用後譲渡」によって合計が1億円を超えた場合は、超えた日から4ヶ月以内に修正申告が必要です。
▶ 詳しくはこちら:30回 空き家特例の1億円判定とは?共有・分筆・適用後譲渡の注意点
第31回|譲渡先の落とし穴|「特別な関係がある者」とは
ポイント
空き家特例には**「誰に売るか」という譲渡先の要件**もあります。配偶者や直系血族(父母・子・孫など)、生計を一にする親族、売却後に同居することになる親族などの「特別な関係がある者」への譲渡は、特例の対象外です。
実務でよく混乱するのが兄弟姉妹や娘婿への売却です。
兄弟姉妹は「傍系血族」であり、「直系血族」ではありません。別生計・別居であれば原則として特例の適用が可能です。娘婿(直系姻族)も、条文上は適用除外の明示対象ではなく、生計が別で同居もしていなければ問題ありません。
「生計を一にする」かどうかは同居の有無だけでは判定されず、経済的な扶養関係の実態(生活費の送金など)で判断されます。親族間売買を検討する場合は、必ず事前に専門家へ相談することが重要です。
▶ 詳しくはこちら:31回 空き家特例が使えない譲渡先とは?特別な関係がある者を解説
第32回|他の税制との併用関係|住宅ローン控除・取得費加算の選択
ポイント
空き家特例を適用する際は、他の税制との関係も必ず確認が必要です。主要な論点を整理します。
○ 併用できる制度
- 居住用財産の3,000万円控除(措法35条1項):同一年中でも年度をまたいでも併用可能。ただし合計控除額は3,000万円が上限。
- 住宅ローン控除(措法41条):空き家を売って3,000万円控除を受け、同年に新居を購入して住宅ローン控除を受けることが可能。なお、自己のマイホームを売却した場合の3,000万円控除と住宅ローン控除は原則として重複適用に制限がありますが、相続した空き家に係る3,000万円控除については、住宅ローン控除との併用が可能とされています。ここを混同しないよう注意が必要です。
× 併用できない制度
- 居住用財産の軽減税率(措法31条の3):どちらか選択適用となるため、有利判定が必要。
- 相続税の取得費加算(措法39条):同一資産については選択適用。相続税額と譲渡益の大きさによって有利な方を選ぶ。
- 固定資産の交換特例(措法37条):空き家特例との重複適用は不可。
特に注意すべきなのが**「取得費加算か空き家特例かの選択を誤ると、修正申告で取り戻せない」**という点です。当初申告時に取得費加算の適用を選択していなかった場合、後から1億円超が判明して空き家特例が使えなくなっても、修正申告で取得費加算へ変更することはできません(当初申告要件)。申告前の慎重な判断が求められます。
▶ 詳しくはこちら:32回 空き家特例と他の税制は併用できる?住宅ローン控除・取得費加算との関係
4回シリーズで学ぶ「失敗しない空き家売却」チェックリスト
✅ 相続開始時点での土地の状況(分筆の有無)を確認した
✅ 複数の相続人がいる場合、売却スケジュールを事前に協議した
✅ 1億円判定の範囲(適用前・適用後譲渡の合計)を把握している
✅ 譲渡先が「特別な関係がある者」に該当しないか確認した
✅ 住宅ローン控除・取得費加算との有利不利を比較した
✅ 売却前に税理士へ相談した
まとめ
空き家特例は最大3,000万円という大きな節税効果を持つ一方、適用要件は非常に複雑で、一つのミスが数百万円の税負担増に直結します。
利用制限・1億円判定・譲渡先の要件・他税制との関係、これら4つの論点はそれぞれ独立したルールでありながら、相互に連動して結果を左右します。特に複数の相続人がいるケースでは、遺産分割協議の段階から税理士に相談し、全員で連携して計画を進めることが最大のリスク回避策です。
税理士法人松野茂税理士事務所へのご相談
空き家の売却・相続税申告について、個別の状況に応じた判断が必要な場合は、お気軽にご相談ください。30年の経験を持つ税理士が、最適なアドバイスを提供いたします。
トップ
税理士法人松野茂税理士事務所
📍 〒660-0861 尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F(阪神尼崎駅徒歩1分)
☎ 06-6419-5140








