相続した実家や空き家を売却する際、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる「空き家特例(被相続人居住用財産に係る譲渡所得の特別控除)」は、相続人にとって非常に有利な制度です。
しかし、遺産分割の方法・遺留分の処理・生前贈与との組み合わせ・未分割のまま売却するタイミングなど、さまざまな場面で「使えると思っていたのに使えなかった」というトラブルが実務では後を絶ちません。
本記事では、シリーズ第5回〜第8回の内容を整理し、実務上のポイントをQ&A形式でわかりやすくまとめます。
| 📋 本記事が参照するシリーズ記事 第5回 代償分割と換価分割で税制上の扱いが全く違う! https://tax-ms.jp/souzoku-akiya-105/ 第6回 未分割でも適用できるが要注意!国税庁の見解を解説 https://tax-ms.jp/souzoku-akiya-106/ 第7回 遺留分侵害額請求と空き家特例の適用要件について https://tax-ms.jp/souzokuzei-akya-107/ 第8回 家屋と土地の両方を相続することが要件 https://tax-ms.jp/souzokuzei-akiya-108/ |
第5回 代償分割と換価分割―どちらを選ぶかで控除額が倍違う!
相続人が複数いる場合、「不動産を共有にしたくない」という理由から代償分割が選ばれることがよくあります。しかし、空き家特例との関係では換価分割との間に大きな差があります。
| Q | 代償分割を選ぶと、代償金を受け取った相続人も空き家特例を使えますか? |
| A | 使えません。 代償分割では、空き家を単独取得した相続人(A)のみが「相続により取得し譲渡した」として特例を適用できます。 代償金を受け取った相続人(B)は空き家の現物を取得していないため、「相続により被相続人居住用家屋を取得した相続人が譲渡する」という要件に該当せず、特例は適用できません。 控除額はAの最大3,000万円のみとなります。 |
| Q | 換価分割を選べば、相続人全員が空き家特例を使えますか? |
| A | 要件を満たせば、全員が適用できます。 換価分割では、相続人A・Bがいったん共有で空き家を相続取得し、その後速やかに売却して代金を分割します。 A・B双方が「相続により取得」して「譲渡」しているため、各自の持分に対して最大3,000万円の控除が可能です。 持分1/2ずつであれば合計最大6,000万円の控除になり、代償分割の2倍の節税効果が得られます。 ※令和6年1月1日以後の譲渡では、一定の場合、相続人の人数により控除額が1人あたり2,000万円となることがあります(相続人が3人以上のケース等)。本記事では主に相続人2人のケースを前提に解説しています。 |
| Q | 換価分割を選ぶ際の手続き上の注意点は何ですか? |
| A | 以下の3点を必ず行ってください。 ① 遺産分割協議書に「換価分割」である旨を明記する ② 相続登記を共有(例:A・B各1/2)で行う ③ 相続後、速やかに売却する これらを怠ると換価分割として認められない恐れがあります。一時的に共有状態が生じますが、すぐ売却するため継続的な管理の煩わしさは回避できます。 |
| 第5回 実務のポイント ✔ 代償分割は「共有を避ける」目的では有効だが、空き家特例の活用では換価分割に大きく劣る ✔ 換価分割を選ぶと持分比例で最大6,000万円の控除が可能になる ✔ 協議書への明記・共有登記・速やかな売却の3点セットが必須 |
▶ 詳細記事:第5回
第6回 未分割のまま売却しても空き家特例は使えるが、申告期限に要注意!
遺産分割協議がまとまらないうちに空き家を売却しなければならないケースもあります。この場合の取扱いは国税庁の質疑応答事例でも明確に示されています。
| Q | 遺産分割協議が成立していなくても、空き家特例は使えますか? |
| A | 使えます。未分割でも空き家特例の適用は可能です。 ただし、原則として「法定相続分」に応じて各相続人が譲渡所得を申告する必要があります。 売却代金の実際の受取額に関わらず、法定相続分に対応する譲渡益と特別控除を申告することになります。 |
| Q | 確定申告期限前に遺産分割協議が成立した場合は、その割合で申告できますか? |
| A | できます。確定申告期限(翌年3月15日)までに換価代金の分割が確定し、相続人全員が協議で定めた割合に基づいて申告した場合は、その申告が認められます。 これが「次善策」として実務上有効な対応です。 |
| Q | 確定申告期限後に遺産分割協議が成立した場合、申告のやり直し(更正請求)はできますか? |
| A | できません。これが最も重要な注意点です。 国税庁の見解では、法定相続分による申告は、不動産を譲渡した時点で課税要件が確定しているとされます。 その後の代金分配方法(遺産分割の内容)は、すでに完了した譲渡所得の計算に影響しないため、更正請求は認められません。 「とりあえず売却して後からゆっくり分割を決めよう」と進めてしまうと、実際の受取額と税務上の申告内容に大きな乖離が生じる危険があります。 |
| 第6回 実務のポイント ✔ 未分割でも空き家特例の適用は可能(原則:法定相続分で申告) ✔ 確定申告期限(翌年3月15日)までに協議成立 → 協議割合での申告が認められる ✔ 確定申告期限後の協議成立 → 更正請求は不可。法定相続分の申告が確定する ✔ 最善策:売却前に遺産分割協議を成立させること |
▶ 詳細記事:第6回
第7回 遺留分侵害額請求と空き家特例―金銭を受け取っても特例は使えない
遺言により相続人の1人が空き家を取得した場合、もう1人の相続人が遺留分侵害額請求を行うことがあります。この場合の空き家特例の適用関係は、民法改正の内容と密接に関連します。
| Q | 平成30年の民法改正で遺留分制度はどう変わりましたか? |
| A | 大きく2点が変わりました。 【改正前】「遺留分減殺請求」→ 請求により不動産の現物(共有持分)を取得 【改正後】「遺留分侵害額請求」→ 請求により取得するのは金銭債権(現物ではない) 改正により不動産が共有状態になることを防ぎ、相続後のトラブルを軽減する仕組みに変わりました(令和元年7月1日施行)。 |
| Q | 遺留分侵害額請求で金銭を受け取った相続人は空き家特例を使えますか? |
| A | 使えません。 遺留分侵害額請求により取得するのは「金銭債権」であり、空き家の所有権(現物)を取得したわけではありません。 空き家特例の要件は「相続により被相続人居住用家屋を取得した相続人が譲渡すること」であるため、現物を取得していない相続人には特例は適用されません。 遺言により空き家を取得した相続人(A)は、他の要件を満たせば特例の適用を受けられます。 |
| 第7回 実務のポイント ✔ 民法改正後(令和元年7月1日以降)の遺留分は「金銭債権」のみ ✔ 金銭を受け取っただけでは「相続により取得」に該当しないため特例不可 ✔ 改正前(現物共有持分を取得)とは扱いが異なる点に注意 ✔ 遺言内容と空き家特例の関係は、事前に税理士へ相談することを推奨 |
▶ 詳細記事:第7回
第8回 家屋と土地の両方を「相続により」取得することが要件
相続対策として生前贈与を活用することは珍しくありませんが、空き家特例との関係では、家屋と土地を誰がどのような原因で取得したかが重要なポイントになります。
| Q | 家屋を生前贈与で取得し、土地だけを相続で取得した場合、空き家特例は使えますか? |
| A | 使えません。 空き家特例の要件の一つに「相続により被相続人居住用家屋及びその敷地等を取得したこと」があります。 家屋を生前贈与で取得し、土地のみを相続で取得した場合、家屋については「相続により取得」したことにならないため、この要件を満たさず特例が適用できません。 |
| Q | 相続対策として生前贈与を行う場合、何に注意すればよいですか? |
| A | 将来の空き家売却を見越した場合、家屋や土地の一部を生前贈与すると、空き家特例の適用ができなくなる可能性があります。 生前対策(贈与・遺言)を検討する際は、相続税の節税効果だけでなく、将来の譲渡所得税への影響も含めて総合的に判断することが重要です。 特に「家屋と敷地の両方を相続により取得する」という要件が崩れないよう、遺言の内容や生前贈与の対象財産を慎重に設計する必要があります。 |
| 第8回 実務のポイント ✔ 空き家特例は「家屋と敷地の両方を相続により取得すること」が大前提 ✔ 家屋の一部でも生前贈与で取得していると、相続した土地分も含めて特例不可 ✔ 相続対策の生前贈与が、将来の不動産譲渡に思わぬ課税をもたらすことがある ✔ 生前贈与を含む相続対策は、相続税と譲渡所得税の両面からシミュレーションを |
▶ 詳細記事:第8回
場面別 空き家特例の適用可否 一覧表
これまでの内容を一つの表に整理しました。
| 場面・取得方法 | 特例 適用 | 理由・ポイント |
| 代償分割 ~空き家を単独取得した相続人 | ○ | 相続により取得して譲渡するため適用可(最大3,000万円) |
| 代償分割 ~代償金を受け取った相続人 | × | 空き家を相続取得していないため特例不可 |
| 換価分割 ~各相続人 | ○ | 全員が相続取得→譲渡。持分に応じて合計最大6,000万円の控除が可能 |
| 遺留分侵害額請求 ~遺言で空き家を取得した相続人 | ○ | 相続により現物を取得し譲渡するため適用可 |
| 遺留分侵害額請求 ~金銭のみを受け取った相続人 | × | 金銭債権の取得であり「相続により取得」に非該当 |
| 家屋を生前贈与で取得し、土地だけを相続した場合 | × | 家屋を「相続により取得」していないため特例不可 |
| 家屋・土地の両方を相続で取得した場合 | ○ | 他の要件を満たせば適用可能 |
| 未分割のまま売却(法定相続分で申告) | ○ | 法定相続分に応じて各人が申告。確定申告期限後は内容変更不可 |
総まとめ 空き家特例を確実に使うための5つの鉄則
| 5つの鉄則 ✔ 【鉄則1】売却前に遺産分割協議を成立させる(未分割売却は確定申告期限が命綱) ✔ 【鉄則2】複数相続人がいる場合は換価分割を検討する(代償分割より最大2倍の節税効果) ✔ 【鉄則3】遺留分は民法改正で「金銭債権」になった点を再確認する ✔ 【鉄則4】生前贈与と空き家特例の相性は必ず事前にシミュレーションする ✔ 【鉄則5】判断に迷ったら早めに専門家へ。売却後では取り返しがつかない |
空き家特例は要件が細かく、遺産分割の方法・生前贈与の有無・申告のタイミングなど、あらゆる場面に落とし穴があります。「使えると思っていた特例が使えなかった」という事態を防ぐためにも、売却前の段階でぜひ当事務所にご相談ください。
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本記事は以下4記事の内容をまとめたものです。各記事で事例の詳細を確認いただけます。
第5回 代償分割と換価分割で税制上の扱いが全く違う!

第6回 未分割でも適用できるが要注意!国税庁の見解を解説

第7回 遺留分侵害額請求と空き家特例の適用要件

第8回 家屋と土地の両方を相続することが要件

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