はじめに
相続した実家を売却する際に活用できる「被相続人の居住用財産に係る3,000万円特別控除(空き家特例)」。この特例には「昭和56年5月31日以前に建築された建物であること」という重要な建物要件があります。
しかし実務では、この要件をめぐって**「登記簿謄本だけでは判断できない」「増築があるとどうなる」「庭だけ先に売っても大丈夫か」**など、様々な疑問が生じます。
第13回〜第16回では、空き家特例の建物要件にまつわる実務上の論点を4回にわたって解説しました。今回はそのエッセンスをQ&A形式でまとめてご紹介します。
Q1. 登記簿謄本の建築年月日が昭和56年6月1日以降でも、空き家特例を使えることがあるって本当ですか?
▶ 詳細解説:第13回 空き家特例の旧耐震基準判定のポイント
先生: はい、あります。これは実務でも見落とされやすいポイントです。
空き家特例の趣旨は「旧耐震基準で建てられた建物」を対象にすることにあります。昭和56年6月1日に建築基準法が改正されて新耐震基準が施行されましたが、改正前に建築確認申請を済ませていた建物が、工期の関係で改正後に竣工・登記されるケースが相当数あります。
スタッフ: 改正前の「駆け込み着工」ですね。
先生: そうです。たとえば建築確認が昭和56年3月、竣工・登記が昭和56年9月というケースは実際によくありました。この場合、登記簿謄本だけ見ると「昭和56年6月1日以降」ですが、実態は旧耐震基準の建物です。
財務省の税制改正解説(平成28年度)でも、昭和56年5月31日以前に建築工事に着手したことが書面により明らかなものは特例対象に含まれると示されており、措置法通達35-26(2)では、以下の書類で代替証明できることが規定されています。
| 書類 | 要件 |
|---|---|
| 確認済証 | 昭和56年5月31日以前に交付されたもの |
| 検査済証 | 記載の確認済証交付年月日が同日以前のもの |
| 建築請負契約書 | 同日以前に締結されたことがわかるもの |
スタッフ: では昭和56年前後の建物は、登記簿謄本の年月日だけで諦めてはいけないということですね。
先生: そのとおりです。まず建築確認関連書類を確認する。書類がない場合は市区町村の建築課で建築計画概要書を閲覧して確認するという手順を踏んでください。
Q2. 相続した実家に後から増築がある場合、空き家特例の適用はどうなりますか?
▶ 詳細解説:第14回 空き家特例における増築と民法の付合の関係
先生: 増築が行われている場合は、民法の「付合」という概念が重要になります。
たとえば「昭和50年建築の母屋に、昭和60年に2階部分を増築した」というケース。増築部分は昭和56年6月1日以降の建築ですが、2階への出入りが1階内部の階段だけという構造であれば、「強い付合」が成立し、建物全体が一体として昭和50年建築とみなされます。この場合は空き家特例の適用が可能です。
スタッフ: 逆に付合が成立しない場合は?
先生: 増築部分に独立した外部への出入口があり、区分所有登記も可能な構造であれば「弱い付合」または付合不成立となり、増築部分については特例の適用が困難になります。「昭和50年建築の母屋に離れを増築し、離れには独立した玄関がある」というケースが典型例です。
判定の目安は次の通りです。
空き家特例の適用が可能(強い付合)
- 増築部分への出入りが既存建物内部からのみ
- 登記上、一棟の建物として登記されている
- 固定資産税評価上、一体として評価されている
- 区分所有登記ができない構造
適用が困難(弱い付合または付合不成立)
- 増築部分に独立した外部への出入口がある
- 区分所有登記が可能な構造
- 別棟として固定資産税の評価がなされている
スタッフ: リフォームの場合はどうですか?
先生: 増築ではなく既存建物の大規模なリフォームであれば、「大規模の修繕・模様替」に該当します。この場合、建物の建築年月日は変わりません。昭和50年建築の建物を平成25年に全面リフォームしても、建築年月日は昭和50年のまま。特例適用に影響はありません。ただし、実質的な建て替え(改築)に近い工事の場合は要注意で、個別の判断が必要です。
Q3. 建物を取り壊さずにそのまま売却して特例を使うには、何が必要ですか?
▶ 詳細解説:第15回 空き家特例と耐震基準の確認方法
先生: 建物を残したまま売却する場合(いわゆる「現況渡し」や「古家付き土地」の売却)で空き家特例を使うには、建物が新耐震基準に適合していることを証明しなければなりません。
スタッフ: 旧耐震基準の古い建物でも証明できますか?
先生: できます。耐震改修工事をして基準を満たしていれば、建築士や指定確認検査機関が発行する耐震基準適合証明書を取得することで証明できます。また、もともと新耐震基準(昭和56年6月以降建築)の建物であれば、建築確認済証や検査済証で確認できます。
特例適用に使える証明書類は次の3種類です。
- 耐震基準適合証明書(建築士・確認検査機関が発行)
- 建設住宅性能評価書(耐震等級の記載があるもの)
- 既存住宅売買瑕疵保険の付保証明書
いずれも譲渡契約日からさかのぼって2年以内に発行されたものが有効です。
スタッフ: 気をつけるべき点はありますか?
先生: 証明書の取得や耐震工事には時間がかかります。売却契約を締結してしまってから「やっぱり証明書が間に合わない」となっても後の祭りです。売却のスケジュールを決める前に、専門家への相談と耐震確認を最優先に行うことが大切です。
Q4. 相続した実家の庭先だけ分筆して売却した場合、空き家特例は使えますか?
▶ 詳細解説:第16回 空き家特例と庭先切り売りの落とし穴
先生: これが「庭先切り売りの落とし穴」です。結論からいうと、家屋を残したまま庭だけを分筆して売却しても、空き家特例は使えません。
スタッフ: なぜですか?
先生: 空き家特例の条文は「当該家屋またはその敷地」の譲渡を対象としています。家屋が残っている状態では、庭先部分は「当該家屋の敷地」とはいえません。また、空き家特例の目的は「空き家の発生防止・解消」ですから、家屋が残ってしまっては制度趣旨を満たさないのです。
スタッフ: では、どうすれば庭先部分でも特例が使えますか?
先生: 先に家屋を取り壊して更地にしてから、土地を分筆して売却する方法であれば、「当該家屋の敷地に供されていた土地」として扱われ、空き家特例の適用が可能になります。ポイントは「家屋を取り壊して空き家が存在しない状態にすること」です。
まとめると次のようになります。
| 売却パターン | 空き家特例の適用 |
|---|---|
| 家屋を残して庭先だけ売却 | ✕ 適用不可 |
| 家屋を取り壊してから土地を分筆・売却 | ○ 適用可能 |
| 家屋ごと(建物+敷地)売却 | ○ 適用可能(耐震要件に注意) |
スタッフ: 取り壊し費用もかかりますが、3,000万円の控除と比べれば十分元が取れるケースも多そうですね。
先生: そうです。売却前に税理士に相談して、取り壊しコストと節税効果をシミュレーションしてから判断することをお勧めします。
4回のポイントまとめ
| 回 | テーマ | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| 第13回 | 旧耐震基準の判定 | 登記年月日が昭和56年6月以降でも、建築確認が5月31日以前なら確認済証等で特例適用可 |
| 第14回 | 増築と民法の付合 | 強い付合(内部接続のみ)なら建物全体が旧耐震扱い。リフォームは建築年月日に影響しない |
| 第15回 | 耐震基準の確認方法 | 現況渡し売却では耐震基準適合証明書等が必要。取得には時間がかかるので早めに確認 |
| 第16回 | 庭先切り売りの落とし穴 | 家屋を残して庭だけ売っても特例NG。先に建物を取り壊してから売却すれば適用可能 |
まとめ
空き家特例の「昭和56年5月31日以前に建築された建物」という要件は、一見シンプルに見えて、実務では多くの落とし穴が潜んでいます。登記簿謄本の年月日だけで諦めない、増築がある場合は付合の観点から確認する、現況渡し売却では耐震証明書を早めに取得する、庭先を先に売らない——これらを押さえておくだけで、数百万円単位の節税効果に差が出ることがあります。
相続した不動産の売却をお考えの方は、売却スケジュールを決める前にぜひ一度ご相談ください。
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