談合金・リベートは「交際費」になるのか|建設業者・管理会社・設計事務所への支払いを税務で整理

談合金・リベートは「交際費」になるのか|建設業者・管理会社・設計事務所への支払いを税務で整理

目次

はじめに

先日、公正取引委員会が、関東地区のマンション大規模修繕工事をめぐって、設計コンサル業者に委託して発注される工事の施工業者らに、排除措置命令と課徴金納付命令を出しました。

公正取引委員会の発表によれば、審査の過程で、設計コンサル業者が大規模修繕工事の発注に関する情報を施工業者に提供し、その施工業者が工事を受注した場合に、**工事請負契約金額の一定割合に相当する金銭(手数料等)**を施工業者が設計コンサル業者に支払っていた事実が確認されました。公取委は、この手数料等について、提供される情報の内容等によっては、施工業者間の自由な競争をゆがめるおそれがあるとしています。

この金銭は、独占禁止法だけでなく、法人税の面でも、本当に役務の対価なのか、それとも受注のための謝礼・贈答なのかという問題を生じさせます。私たち税理士にとって重要なのは、支払った金銭を税務上どう処理するかという点です。

「外注費」なのか「支払手数料」なのか、それとも「交際費等」なのか。この区分を誤ると損金算入が制限され、さらに架空外注費の計上など仮装・隠蔽が認定されれば、重加算税につながることがあります。

この記事では、裁決・判決の枠組みと、私自身が税務調査で受けてきた指導を踏まえ、**支払先別(建設業者・管理会社・設計事務所)**に整理します。

1. 判断の物差しは「交際費等の三要件」

租税特別措置法は、交際費等を「得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」と定めています。

東京高裁平成15年9月9日判決(萬有製薬事件)は、これを次の三要件で判断しました。

  1. 支出の相手方が事業に関係のある者であること
  2. 支出の目的が、取引関係の円滑な進行を図ることであること
  3. 行為の形態が、接待・供応・慰安・贈答その他これらに類する行為であること

三つすべてを満たして初めて交際費等になります。逆に言えば、実際の役務の対価であれば、②目的と③形態に当たらず、外注費や手数料として扱える余地があります。

また、通達は交際費等の例として、建設業者等が工事の入札等に際して支出する談合金その他これに類する費用を挙げています。

2. 裁決・判決から見える「分かれ目」

実体があれば外注費 ― 平成11年12月14日裁決

土木建築業者3社が共同企業体(JV)を組んで町庁舎の工事を落札し、粗利益の20%をJ社に外注費として支払いました。課税庁は「降り賃(談合金)」として交際費等と認定し、重加算税も課しました。

しかし審判所は、次の事実からJ社を実質上の共同企業体の構成員と認めました。

  • J社が運営委員会・施工委員会に人を出し、意思決定と現場運営に参加していた
  • 利益の20%だけでなく、瑕疵の補修費用も20%負担していた

結論は、共同事業参加の対価としての利益分配であり、交際費等ではない。更正処分も重加算税も全部取り消されました。

実体がなければ交際費等 ― 昭和57年12月24日裁決(調整金員)

公共工事の落札時に、実体のない架空伝票を起票して、請負金額の約10〜15%を次点入札業者に支払っていた事案では、取引を円滑化するための一種の謝礼金として、交際費等に該当すると判断されています(裁決事例集No.25・109頁)。

受注の紹介手数料でも、選定権限者への金銭は交際費等 ― 非公開裁決

税のしるべ(平成30年8月27日号)の報道によれば、受注した工事の紹介手数料として支出した金銭が、施工業者の選定権限を持つ者への金銭の贈答にあたるとして、三要件すべてに該当し交際費等とされた事例があります(非公開裁決のため詳細は確認できません)。

架空外注費での資金還流 ― 東京地裁令和8年4月17日判決

受注者が発注側の出張所長の指示で水増し請求をし、架空の外注費で現金を還流させていた事案です。第一審の東京地裁は、水増し分を架空の売上げと認定し、益金に算入されないとしました。課税庁が主張した交際費等については、金額が売上高の約3〜6割に及ぶことなどから、採用しませんでした。

ただし、この判決は特殊な事実関係の下で納税者が実態を立証できたから結論が変わった事案です。実体のない外注費が認められるという意味ではありません。

3. 支払先別の整理

支払先立場税務上の見方
① 建設業者受注者側施工の分担や責任負担など実体があれば外注費。実体がなく受注・入札の調整のための金員なら交際費等
② マンション管理会社管理組合の受託者(発注者側に近い)説明会など実際の役務の対価で、契約・金額が整っていれば手数料の余地。実体が乏しい謝礼は交際費等
③ 設計事務所管理組合の設計監理者(発注者側)管理組合側で施工業者の選定を支援する立場。受注の見返りの金銭は利益相反の問題を生じ、交際費等とされやすい

判断の軸は、相手が受注者側で実際に役務を提供しているのか、発注者側で業者選定に影響を及ぼす立場にいるのかという点です。

なお、宅建業者のように、工事のあっせんを事業として行っている者への手数料は、あっせんを業とする者への対価として、通常は問題になりません。

交際費等にならない場合 ― 措置法通達61の4(1)-8

情報の提供や、取引の媒介・代理・あっせん等の役務の提供を業としていない者に金品を交付した場合でも、その交付が正当な対価の支払と認められるときは、交際費等に該当しません。通達は、例として次の要件をすべて満たす場合を挙げています。

  1. 金品の交付が、あらかじめ締結された契約に基づくものであること
  2. 提供を受ける役務の内容が契約で具体的に明らかにされ、これに基づいて実際に役務の提供を受けていること
  3. 交付した金品の額が、提供を受けた役務の内容に照らして相当と認められること

ここで注意したい点が三つあります。

  • 事前の契約が出発点です。 支払った後に契約書を作っても、要件を満たしません。
  • 契約書があるだけでは足りません。 「紹介する」と書いてあるだけでは役務の内容が具体的とはいえず、実際に何を行ったのかを示す記録が必要です。金額も、役務に見合っている必要があります。
  • 通達は、取引の相手方の従業員等を対象から除いています。 発注者側の担当者個人に渡る金銭は、この通達では救われません。

事前の契約が正当に取り交わされていれば、交際費等に当たらないとされた裁決もあります(平成3年7月10日裁決。得意先の代表者等とのコミッション・ロイヤリティ契約に基づく手数料)。一方、得意先の担当者に対するコミッションで、支払先の決定や金額の算出を支払側が任意に行い、相手方に請求する権利があったとは認められないとして、交際費等とされた裁決もあります(昭和48年3月19日裁決)。契約の有無だけでなく、契約に基づく権利義務が実際に存在し、支払いがその役務等の正当な対価といえるかが分かれ目です。

設計事務所への支払いについては、さらにその立場を考える必要があります。

設計事務所は、管理組合から委託を受けて診断・設計・工事監理を行い、施工業者の選定についても管理組合を支援する立場にあります。その立場にある設計事務所が、施工業者から紹介料や受注額に応じた手数料を受け取り、その施工業者の選定に関与すれば、発注者である管理組合との利益相反が問題になります。国土交通省も、設計コンサルタントが自社にバックマージンを支払う施工会社が受注できるよう働きかける事例を、管理組合の利益と相反する問題として注意喚起しています。

したがって、設計事務所への支払いは、「施工業者を紹介したから手数料を支払った」と説明するだけでは、通常の紹介業者への手数料と同じようには考えにくくなります。特に、施工業者の選定に影響を及ぼす立場にある設計事務所へ、受注の見返りとして金銭を支払う場合は、契約書の体裁が整っていても、実質で判断されます。私の調査経験でも、次回から交際費として扱うと言われました。

4. 税務調査の現場から

ここからは、私自身の経験です(依頼者が特定されないよう、一般化しています)。

管理会社

管理会社に支払う手数料は、私の経験では工事代金の5%程度が一つの目安でした。これを超えて高額になると、調査で役務の内容や対価性について詳しい説明を求められることがあり、私自身も交際費として処理するよう指導を受けた経験があります。

ただ、私の経験では、これまで実際に交際費課税にまで至った例はありません。

なお、5%という水準は法令上の基準でも、現在の一般的な相場を示すものでもありません。当時の税務調査や取引実務の中で得た経験上の感覚です。金額の大きさそのものが交際費等の要件ではなく、目的や実態を判断する一つの材料になります。役務の実体や契約内容など、個別の事実関係によって結論は変わります。

設計事務所

設計事務所については、対応がはるかに厳しくなります。税務署から、「設計事務所は設計が目的なので、手数料は一切支払わないように。支払うなら交際費だ」という指導を受けたことがあります。しかも今回は指導にとどまるが、次回からは交際費として扱うとの予告付きでした。

管理会社とは違い、設計事務所は管理組合から委託を受け、設計・監理だけでなく施工業者の選定を支援する立場にあります。その立場にある者が、施工業者から受注の見返りとして金銭を受け取ることは、管理組合との利益相反の問題を生じさせます。

そのため、通常の紹介業者への手数料とは同じようには考えにくく、対価性が認められにくいということだと理解しています。

顧問先の対応

この件で、顧問先の会社は、国土交通省からの情報と税務署からの指摘の両面から、設計事務所との取引を見直しました。

国土交通省は平成29年1月に通知を出し、大規模修繕工事の設計・監理方式で、管理組合の利益と相反する立場に立つ設計コンサルタントの存在を指摘しています。令和5年の通知でも、設計コンサルタントが利益相反行為を起こさない中立的な立場で施工会社の選定が行われるよう、管理組合に留意を求めています。

結果として、国交省は管理組合側の利益保護という観点から、税務署は法人税の適正な課税という観点から、同じような取引を問題視していたことになります。

5. 交際費等とされたときの課税

  • 交際費等に該当した場合は、損金算入が制限されます。中小法人には一定の損金算入措置がありますが、外注費・支払手数料として全額損金処理できる場合とは取扱いが異なります。
  • 相当な理由なく、支出先の氏名・名称や支出目的などを帳簿書類に記載していない支出は、使途秘匿金として追加の法人税が課されることがあります。
  • 独占禁止法の課徴金は、法人税法上、損金に算入できません。
  • 外注費として計上していた実体のない支払いが「仮装」と認定されれば、重加算税の対象です。

損金算入できるかどうかは、独占禁止法や刑法上の適法性の判断とは別です。「交際費として処理すれば大丈夫」という発想は危険です。

6. 実務で押さえるポイント

  1. 契約書を事前に締結し、業務範囲・報酬の算定方法を明記する。
  2. 役務の実績(議事録、名簿、資料、作業報告書)を残す。
  3. 受注額に一定率を乗じただけの報酬で、具体的な役務内容との対応関係を説明できない場合は、対価性について確認を受けやすい。売上に比例していても交際費等とされた裁決があり(昭和47年12月8日裁決)、比例かどうかではなく、相手方と目的で判断される。
  4. 相手が発注者側の選定権限者なら、手数料の名目でも交際費等とされやすい。
  5. 管理組合など発注者に報酬の存在が開示されているかを確認する。
  6. 談合や受注調整に関与しない。税額よりも、課徴金や指名停止のほうがはるかに大きな損失になり得る。

おわりに

談合金やリベートの税務上の扱いは、「名目」ではなく、誰に、何の対価として、どんな実体で支払ったかで決まります。

建設業界のリベートや手数料の取扱い、税務調査への備えについて、判断に迷う支払いがありましたら、お早めにご相談ください。


税理士法人松野茂税理士事務所 〒660-0861 尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F(阪神尼崎駅徒歩1分)

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案の判断は専門家にご相談ください。

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