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令和8年(2026年)、中小企業庁と国税庁でそれぞれ進められてきた二つの検討会が、いずれも「令和9年度税制改正」という同じ節目に向かっています。一つは事業承継税制(親族内承継)の抜本見直し、もう一つは取引相場のない株式の評価方法(財産評価基本通達)の抜本改正です。両者は別組織・別テーマの検討会ですが、事業承継の現場では株価評価と納税猶予制度は表裏一体であり、実務への影響を正しく見通すには両方を合わせて押さえておく必要があります。
本記事では、現時点(令和8年9月)で公表されている一次情報をもとに、確定している事実と、報道・審議会資料から見えている見通しを分けて整理します。
1. 事業承継税制の見直し ― 中小企業庁「中小企業の親族内承継に関する検討会」
中小企業庁は令和7年6月、「中小企業の親族内承継に関する検討会」(座長:柳川範之・東京大学大学院教授)を設置しました。
これまでの経緯
- 第1回(令和7年6月11日):検討会設置、現状分析
- 第2回(令和7年7月10日):施策の効果検証
- 第3回(令和7年8月13日):中間とりまとめ(案)
- 令和7年12月12日:中間とりまとめ公表
- 第4回(令和8年2月27日):事業承継税制の方向性等を議論
- 第5回(令和8年4月15日):猶予措置のあり方等を継続議論
- 第6回(令和8年8月5日):**報告書(案)**を提示
確定している事実
- 現行の事業承継税制(特例措置)は、特例承継計画の提出期限が令和8年度税制改正で令和9年9月30日まで再延長された。一方、実際に贈与・相続を行う適用期限は令和9年12月31日で、こちらは延長されていない。
- 令和8年度与党税制改正大綱には「適用期限到来後の在り方については…本措置の適用状況や課税の公平性等の観点も踏まえて多角的な検討を行い、令和9年度税制改正において結論を得る」と明記されている。
報告書(案)で示された見直しの方向性(8論点)
- 猶予対象株式数(一般措置における議決権株式総数の3分の2という上限の見直し。なお現行の特例措置ではこの上限は既に撤廃済み)
- 猶予割合(一般措置では相続税80%・贈与税100%となっている差の解消。なお現行の特例措置では贈与・相続とも100%。早期の贈与承継を促進する方向)
- 猶予措置の在り方(賃上げ・設備投資・地域貢献等の実績に応じた猶予税額の免除を検討)
- 雇用確保要件(絶対水準からベンチマーク対比や賃上げ・省力化投資等の代替指標への見直し)
- ガバナンス・透明性の確保
- 海外子会社株式の取扱い(対象化を検討)
- 後継者の人数(現行最大3名の妥当性を再検証)
- その他(利子税の一部免除、信託株式の取扱い、報告手続きの簡素化)
効果検証で判明した数値(報告書案・関連資料より)
- 事業承継税制活用企業のうち「早期の事業承継に踏み切れた」との回答:約54%
- 「株式の集約が進んだ」との回答:約45%
- 一方、「設備投資の増加」「賃上げの実現」を具体的効果として挙げた企業はそれぞれ数%台にとどまる
- 潜在的な活用対象企業は年間約1.1万~1.2万社と推計される一方、現行の活用者数はその1/4~1/3程度
これらの数値から、報告書案は「現行制度は事業承継の実行・株式集約には寄与しているが、承継後の投資や賃上げを直接促す制度としては十分に機能していない」という問題意識を明確にしています。
2. 非上場株式評価の抜本改正 ― 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」
国税庁は令和8年4月16日に開催を公表し、同月20日に第1回会合を開催(座長:佐藤英明・慶應義塾大学大学院教授)。会計検査院が令和6年11月、評価方式間の乖離を利用した恣意的な会社規模変更による評価額圧縮スキームの存在等を指摘したことが契機となっています。
これまでの経緯
- 第1回(令和8年4月20日)
- 第2回(令和8年5月11日)
- 第3回(令和8年6月4日)
- 第4回(令和8年7月3日)
- 第5回(令和8年8月20日):国税庁が、類似業種比準方式に代えて「残余利益方式」を導入する方向の見直し案を提示
- 第6回(令和8年9月16日):残余利益方式・特定の評価会社に関する具体的な検討事項を提示(詳細は次項)
確定している事実・報道されているスケジュール見通し
- 議論の内容を令和9年度税制改正大綱に盛り込む方針が報道されており、パブリックコメントを経て、早ければ令和10年(2028年)1月から新ルール適用との報道もあるが、正式な適用開始日は現時点で示されていない
- 見直しの中心は類似業種比準方式で、純資産価額方式・配当還元方式についても波及する可能性が指摘されている
令和8年9月16日の第6回会議で示された内容 第6回会議では、類似業種比準方式に代わる「残余利益方式」について、制度設計に踏み込んだ試算・検討事項が提示されました。
- 残余利益の加算期間:5年程度とする案
- 還元率:8%と仮定した試算(還元率自体の算出方法は第7回以降で検討)
- 使用する帳簿等:法人税申告書ベースでの算定を軸に検討
- 含み損資産の減損処理、オペレーティングリース・役員報酬等による利益操作への対応
- 子会社株式(完全支配関係にあるもの)の評価への反映範囲
- 従業員持株会株式の固定価格評価の取扱い
- 純資産価額方式による「実質的な頭打ち」(現行の選択適用)を存置すべきかの検討
- 「特定の評価会社」(資産管理会社・組織再編直後の会社・休業中の会社等)の区分整理
- 試算では、評価額が現行の申告評価額より低下する会社の割合は、小会社で約7~8割、大会社で約2~3割となった
これらはいずれも検討段階の試算・前提であり、最終的な評価方法として確定したものではありません。
3. 二つの改正の時間軸を並べると
| 改正テーマ | 結論・決定の時期 | 適用開始時期 |
|---|---|---|
| 事業承継税制 | 令和9年度税制改正で結論を得る方針 | 未定。現行特例措置は、特例承継計画の提出期限が令和9年9月30日、贈与・相続による適用期限が令和9年12月31日 |
| 非上場株式評価 | 令和9年度税制改正大綱への反映が報道されている | 早ければ令和10年1月との報道があるが、正式決定ではない |
両検討会は組織も所管も異なりますが、結論を令和9年度税制改正大綱に盛り込む方針という点では時間軸が近い位置にあります。ただし、事業承継税制は租税特別措置法等の改正(国会審議事項)を伴うのに対し、非上場株式評価は財産評価基本通達の改正によって実施されるとみられ、両者は改正手続が異なるため、決定時期と適用開始時期が一致するとは限りません。株式評価については早ければ令和10年1月から新ルールを適用するとの報道もありますが、現時点で正式な適用開始日は示されていません。
4. 実務への示唆(現時点)
- 事業承継税制は「猶予」中心から「成長投資に応じた免除」への転換が示唆されている。ただし新制度の対象者、現行特例措置からの移行方法、既に特例承継計画を提出した企業の取扱いについては、現時点では明らかになっていない
- 非上場株式評価は、類似業種比準方式に代えて残余利益方式を導入する方向で議論が進んでおり、実現すれば、事業承継税制における猶予対象株式の評価額そのものにも影響する
- 事業承継税制については令和9年度税制改正での結論を、非上場株式評価については税制改正大綱への反映内容と、その後の財産評価基本通達の改正内容を確認する必要がある。現時点では、いずれも検討会・有識者会議における議論の段階にとどまる
- 二つの検討会は同じ税制改正のタイミングに向かっているが、両制度が正式に連動して改正されると決まったわけではない点には留意が必要
年末の税制改正大綱公表に向けて、両テーマの動向を引き続き注視してまいります。続報は本ブログにて随時お伝えします。
※本記事は令和8年9月16日時点で公表されている一次資料(中小企業庁配布資料、国税庁公表資料〈同日公表の第6回有識者会議資料を含む〉)および報道情報に基づいています。今後の議論の進展により内容が変更される可能性があります。









