年末調整の時期が近づくと、毎年必ずといっていいほど聞かれるのが「結局、うちの子はいくらまで働いて大丈夫なの?」というご質問です。
しかも今年はさらに厄介です。所得税の基礎控除は、令和7年度税制改正と令和8年度税制改正が2年連続で行われ、
- 基礎控除の金額が本人の所得によって変わるうえに、その基準額自体が令和7年分と令和8年分で違う
- 給与所得控除の最低保障額も2年連続で引き上げられた
- 扶養親族と配偶者では適用される控除と収入上限が違う
- 大学生年代(19歳~22歳)には「特定親族特別控除」という新しい特例ができ、その基準額も今年また変わった
- 所得税・住民税・社会保険では扶養の基準がそもそも一致していないうえ、社会保険側も今年・来年で制度が変わる
という状況が重なっています。「103万円の壁」の説明も、去年の記事と今年の記事で数字が違う、ということが実際に起きています。
この記事では、制度をひとつずつ順番に説明するのではなく、皆さまからよくいただく4つの疑問に沿って整理します。改正が2段階になっているため、まず**「去年(令和7年度改正)→今年(令和8年度改正)」の流れ**を押さえたうえで、今年12月の年末調整で実際に使う令和8年分の数字を確認してください。最後に年収別の早見表もまとめています。
1. 基礎控除はいくらになったのか
基礎控除は、令和6年分までは、合計所得金額2,400万円以下の人について48万円でした(2,400万円超では段階的に減少します)。ポイントは、**令和8年分の基礎控除は「一度改正されたあと、さらにもう一度改正された」**という点です。
- 1回目の改正(令和7年度税制改正):基礎控除の本則を48万円→58万円に引き上げ。そのうえで、合計所得132万円以下の人には37万円を恒久的に上乗せし、基礎控除95万円としました(この37万円の上乗せは時限措置ではありません)。さらに、合計所得132万円超655万円以下の人には、令和7・8年分限定で30万円・10万円・5万円を時限的に上乗せしました。この時限上乗せ分は、令和9年分から終了し、58万円に戻る予定でした(=132万円以下の95万円だけは、令和9年分以降も維持される予定でした)。
- 2回目の改正(令和8年度税制改正):令和7年12月26日に税制改正大綱が閣議決定され、令和8年3月31日に改正法が成立しました。1回目の改正で決まったばかりの本則58万円をさらに62万円へ引き上げ、令和8・9年分の上乗せも42万円・5万円の2段階に組み替えました。
つまり令和8年分の基礎控除は、1回目の改正内容がそのまま使われているのではなく、2回目の改正で上書きされた金額が使われます。時系列で整理すると次のとおりです。
| 本人の合計所得金額 | 令和7年分(去年) | 令和8・9年分(今年・来年) | 参考:令和10年分以後 |
|---|---|---|---|
| 132万円以下 | 95万円 | 104万円 | 99万円 |
| 132万円超336万円以下 | 88万円 | 104万円 | 62万円 |
| 336万円超489万円以下 | 68万円 | 104万円 | 62万円 |
| 489万円超655万円以下 | 63万円 | 67万円 | 62万円 |
| 655万円超2,350万円以下 | 58万円 | 62万円 | 62万円 |
| 2,350万円超2,400万円以下 | 48万円 | 48万円 | 48万円 |
| 2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 | 32万円 | 32万円 |
| 2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 | 16万円 | 16万円 |
| 2,500万円超 | 0円 | 0円 | 0円 |
「令和9年分は58万円に戻る」という説明は、正確には合計所得132万円超の方についての話でした(132万円以下の方は、もともと95万円のまま令和9年分以降も変わらない予定でした)。いずれにしても、この予定自体が2回目の改正でさらに上書きされ、令和8・9年分は上表のとおりの金額になっています。
去年との違いで押さえておきたい点は2つです。
- 本則が58万円から62万円へ引き上げられました。令和8・9年分の基礎控除は「62万円+上乗せ額(42万円または5万円)」という構成です。なお、今後は物価動向を踏まえて基礎控除等を見直す仕組みが設けられています。
- 去年あった「132万円超336万円以下=88万円」「336万円超489万円以下=68万円」という中間区分がなくなり、合計所得489万円以下はすべて104万円に統一されました。
給与所得控除の最低保障額も2段階で上がっています。
| 区分 | 給与所得控除等 |
|---|---|
| 令和7年分 | 最低保障額65万円 |
| 令和8・9年分 | 本則69万円。給与収入190万円以下は特例により74万円 |
| 給与収入190万円超220万円未満(令和8・9年分) | 給与所得金額を別途調整する特例あり |
| 給与収入220万円以上 | 今回の改正による変更なし |
年末調整の実務では、「去年の基礎控除申告書に書いた金額の感覚」で今年も書いてしまうミスが起きやすいので、必ず今年用の申告書様式(金額区分が変わっています)で確認する必要があります。
【重要】なぜ年末調整で還付額が増えることがあるのか
ここが今年、従業員の方から最も質問が来るはずのポイントです。毎月の給与から天引きされている源泉徴収税額と、12月の年末調整で計算し直す税額とでは、前提となる基礎控除の金額がそもそも違います。
- 期中(1〜11月)の毎月の源泉徴収:令和8年分の「源泉徴収税額表」を使いますが、この表は基礎控除58万円(上乗せ特例は織り込まれていません)、給与所得控除の最低保障額65万円を前提に作られています。令和8年度改正で決まった「62万円+上乗せ」「69万円・74万円」は、月々の税額表には反映されていません。
- 12月の年末調整:ここで初めて、実際の合計所得金額に応じた令和8年度改正後の金額で1年分の税額を計算し直し、天引き済みの税額との差額を精算(通常は還付)します。
令和8年分の税額表には、令和7年度改正で設けられた基礎控除の上乗せ特例も、令和8年度改正による引上げも織り込まれていません。基礎控除だけを見ても、年末調整時の差額は所得階層によって次のとおりです。
| 合計所得金額 | 税額表に織り込まれた基礎控除 | 年末調整で使う基礎控除 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 489万円以下 | 58万円 | 104万円 | +46万円 |
| 489万円超655万円以下 | 58万円 | 67万円 | +9万円 |
| 655万円超2,350万円以下 | 58万円 | 62万円 | +4万円 |
以下は、税額表に織り込まれた基礎控除58万円と、年末調整で適用する104万円との差額46万円による影響だけを取り出した単純試算です。この46万円には、令和7年度改正で設けられた上乗せ特例と令和8年度改正による引上げの両方が含まれており、「令和8年度改正だけによる減税額」ではありません。実際の年末調整の還付額は、毎月の給与・賞与額、扶養人数、社会保険料控除、生命保険料控除、住宅ローン控除、控除増加による税率区分の変化など多くの要素で変わるため、あくまで目安としてご覧ください。
- 追加控除46万円の全額に**5.105%**の税率(所得税5%+復興特別所得税)が適用される場合:46万円×5.105% ≒ 2.3万円
- 追加控除46万円の全額に**10.21%**の税率が適用される場合:46万円×10.21% ≒ 4.7万円
- 追加控除46万円の全額に**20.42%**の税率が適用される場合:46万円×20.42% ≒ 9.4万円
例えば10.21%の税率が適用される人では、この単純試算上の減税効果は約4万7,000円です。ただし、実際の還付額とは異なる点にご留意ください。また、住民税は所得税とは別ルート(翌年度課税)で反映されるため、この試算には含まれていません。
「なぜ今年は年末調整でこんなに戻ってくるのか」という質問には、期中の源泉徴収は令和7年度改正までの基準で計算されており、令和8年度改正分(62万円への引き上げ)は年末調整でまとめて精算される、とご案内いただくのが分かりやすいかと思います。
2. 子どもはいくらまで働けるのか
ここも2段階で基準が動いています。年齢によって適用される制度が異なる点は変わりません。
(1) 一般の扶養親族(16歳以上、大学生年代を除く)
扶養控除の対象となる所得要件は、48万円 →(令和7年度改正)58万円 →(令和8年度改正)**62万円以下(給与収入136万円以下)**へと2段階で引き上げられました。
(2) 特定親族(19歳以上23歳未満・大学生年代)
「特定親族特別控除」の基準額も、去年の制度をベースに今年また4万円分スライドしています。
| 年分 | 特定扶養控除の所得基準 | 特定親族特別控除の対象上限 |
|---|---|---|
| 令和7年分 | 58万円以下(給与収入123万円以下) | 123万円以下(給与収入188万円以下) |
| 令和8年分(今年) | 62万円以下(給与収入136万円以下) | 123万円以下(給与収入197万円以下) |
令和8年分の特定親族特別控除額(控除額の刻み)は次のとおりです。
| 特定親族の合計所得金額(給与収入の目安) | 控除額 |
|---|---|
| 62万円超 85万円以下(136万円超159万円以下) | 63万円 |
| 85万円超 90万円以下(159万円超164万円以下) | 61万円 |
| 90万円超 95万円以下(164万円超169万円以下) | 51万円 |
| 95万円超 100万円以下(169万円超174万円以下) | 41万円 |
| 100万円超 105万円以下(174万円超179万円以下) | 31万円 |
| 105万円超 110万円以下(179万円超184万円以下) | 21万円 |
| 110万円超 115万円以下(184万円超189万円以下) | 11万円 |
| 115万円超 120万円以下(189万円超194万円以下) | 6万円 |
| 120万円超 123万円以下(194万円超197万円以下) | 3万円 |
| 123万円超(197万円超) | 適用なし |
去年の記事でご案内した「188万円まで」という上限は、今年は197万円までに伸びています。大学生年代のお子さまがいるご家庭には、この上限が毎年動くことを説明しておくと親切です。年末調整で適用を受けるには、従業員の方から「給与所得者の特定親族特別控除申告書」の提出を受ける必要がある点は変わりません。
なお、これはあくまで税金(所得税)の話です。社会保険の被扶養者としての年収要件は別基準(150万円未満)になります。詳しくは「4. 税金と社会保険の扶養は何が違うのか」をご覧ください。
3. 配偶者はいくらまで働けるのか
配偶者控除・配偶者特別控除の所得要件も、扶養親族と同じ流れで動いています。
| 年分 | 同一生計配偶者の所得要件(配偶者控除) | 配偶者特別控除の対象上限 |
|---|---|---|
| 改正前 | 48万円以下(給与収入103万円以下) | 133万円以下(給与収入約201万円以下) |
| 令和7年分 | 58万円以下(給与収入123万円以下) | 133万円以下(給与収入201万5,999円以下) |
| 令和8年分(今年) | 62万円以下(給与収入136万円以下) | 133万円以下(給与収入207万円以下) |
ここで重要なのは、配偶者控除の対象(136万円以下)を超えても、控除額がすぐに減り始めるわけではないという点です。納税者本人の合計所得が900万円以下の場合、配偶者特別控除は給与収入169万円以下まで満額(38万円)が維持されます。
| 配偶者の給与収入(本人の合計所得900万円以下の場合) | 所得税の控除 |
|---|---|
| 136万円以下 | 配偶者控除38万円(満額) |
| 136万円超 169万円以下 | 配偶者特別控除38万円(満額) |
| 169万円超 207万円以下 | 配偶者特別控除(段階的に減少) |
| 207万円超 | 適用なし |
したがって、配偶者に係る所得税の控除額という観点では、給与収入169万円以下まで38万円の控除が維持されるとご案内するのが正確です。ただし、136万円以下は「配偶者控除」、136万円超では「配偶者特別控除」と、適用される制度が変わります。なお、納税者本人の合計所得が900万円を超えると(900万円超950万円以下、950万円超1,000万円以下、1,000万円超)控除額は段階的に縮小・消滅しますので、個別の試算をおすすめします。
4. 税金と社会保険の扶養は何が違うのか
税金の扶養と社会保険の扶養は、判定基準も金額もまったく別の制度です。しかも今年は税金側だけでなく、社会保険側の基準も一部変わっています。
| 比較項目 | 税金(所得税・住民税)の扶養 | 社会保険の扶養 |
|---|---|---|
| 判定単位 | 合計所得金額(1年間の実績) | 年間収入の見込み額(今後1年間の見込み) |
| 主な基準 | 62万円以下(給与収入136万円以下)/19歳以上23歳未満は給与収入197万円以下まで特定親族特別控除が段階的に適用 | 原則130万円未満。配偶者を除く19歳以上23歳未満は150万円未満 |
| 基準を超えた場合 | 一般の扶養親族は扶養控除の対象外。19歳以上23歳未満や配偶者は、所得に応じて特別控除の対象となる場合がある | 被扶養者から外れ、勤務先で加入要件を満たせば健康保険・厚生年金に加入。満たさない場合は原則として国民健康保険・国民年金へ加入 |
| 年末調整との関係 | 年末調整で判定・控除額を計算 | 会社の人事・健康保険組合等で随時判定(年末調整とは別) |
社会保険側で押さえておきたい2つの改正
- 19歳以上23歳未満の被扶養者(配偶者を除く)の年収要件が150万円未満に拡大:日本年金機構によると、令和7年10月1日以降の扶養認定から「年間収入130万円未満」が「年間収入150万円未満」に変わっています。大学生年代のお子さまについては、税制上の壁(136万円・197万円)とは別に、社会保険は150万円未満という基準になります。
- いわゆる「106万円の壁」の月額賃金要件(8.8万円)が撤廃予定:令和8年10月から、短時間労働者の社会保険加入要件のうち「月額賃金8.8万円以上」の要件が撤廃される予定です(最終的な施行日は政令で確定)。令和8年9月現在、対象となる企業規模は厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業です。撤廃後は「週の所定労働時間20時間以上」「2か月を超える雇用の見込み」「学生でないこと」などが主な基準になります(大学生は原則として短時間労働者への適用拡大の対象外ですが、正社員の4分の3以上働く場合などは通常の要件で加入対象になり得ます)。
税金の壁(136万円・169万円・197万円等)と、社会保険の壁(130万円・150万円・106万円の要件撤廃)は性質がまったく異なり、今年はどちらも変わっているため、年末調整のご案内の際は両方を分けて説明することを強くおすすめします。
年収別の早見表(令和8年分=今年の基準)
税金の扶養と社会保険の扶養で基準が違うため、大学生年代のお子さまと配偶者を分けて整理します。あくまで給与収入のみの目安としてご覧ください。
大学生年代のお子さま(19〜22歳)
| 給与収入の目安 | 税金:扶養控除・特定親族特別控除 | 社会保険:被扶養者認定 |
|---|---|---|
| 136万円以下 | 特定扶養控除63万円(満額) | 原則として扶養内 |
| 136万円超150万円未満 | 特定親族特別控除63万円(満額) | 原則として扶養内 |
| 150万円以上159万円以下 | 特定親族特別控除63万円(満額) | 原則として扶養外 |
| 159万円超197万円以下 | 特定親族特別控除が段階的に減少 | 原則として扶養外 |
| 197万円超 | 適用なし | 原則として扶養外 |
配偶者
| 給与収入の目安 | 税金:配偶者控除・配偶者特別控除(本人の合計所得900万円以下) | 社会保険:被扶養者認定 |
|---|---|---|
| 130万円未満 | 配偶者控除38万円(満額) | 原則として扶養内 |
| 130万円以上136万円以下 | 配偶者控除38万円(満額) | 原則として扶養外 |
| 136万円超169万円以下 | 配偶者特別控除38万円(満額) | 原則として扶養外 |
| 169万円超207万円以下 | 配偶者特別控除が段階的に減少 | 原則として扶養外 |
| 207万円超 | 適用なし | 原則として扶養外 |
※ 実際の適用可否は合計所得金額での判定が原則であり、給与以外の所得がある場合や本人の所得水準(配偶者控除・配偶者特別控除は納税者本人の合計所得900万円・950万円・1,000万円で段階的に縮小、1,000万円超で対象外)によって変わります。個別の判定は必ず試算のうえご案内ください。
※ 106万円の壁(賃金要件)は令和8年10月に撤廃予定です(施行日は政令で確定)。撤廃後は「週20時間以上」等の要件が中心になります。
※ 住民税の基礎控除(43万円)は今回の改正で変更されていません。「所得税は非課税だが住民税は課税される」ケースが生じ得るため、住民税の非課税限度額は別途、お住まいの自治体でご確認ください。
年末調整のご案内では、「いくらまで働いて大丈夫か」という一言に集約されがちですが、実際には税金の話なのか、社会保険の話なのか、扶養親族の年齢、そして今年は去年と数字が変わったかどうかによって、答えがまったく変わります。従業員の皆さまへのご案内資料には、この4つの疑問に沿った構成を使っていただくと、問い合わせの数もぐっと減らせるはずです。
参考資料
- 国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」
- 国税庁「令和8年分 年末調整のしかた(昨年と比べて変わった点)」
- 日本年金機構「19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件の変更」
- 厚生労働省「年収の壁への対応」









