非上場会社が解散・清算して残余財産を株主に分配した場合、個人株主側では「配当所得(みなし配当)」と「株式の譲渡損益」に区分して計算します。分配額をまとめて1つの所得として計算してはいけません。この記事では、前提を「非上場会社が残余財産を一括して全部分配し、株主が個人である場合」に絞り、株主側と会社側の計算を順に説明します。
先に押さえる3点
- 分配額は「その株式に対応する資本金等の額」までと、それを超える部分(みなし配当)に分ける。
- 株式の譲渡収入は「分配額-みなし配当」。ここから株主の取得費を引いて譲渡損益を出す。
- 会社側の計算に使うのは税務上の資本金等の額、株主側の譲渡損益に使うのは株式の取得費。使う金額が違う。
第1部 個人株主側の計算
個人株主の計算で使う金額は2つです。用途が違うので、混同しないようにしましょう。
| 項目 | 意味・使い方 |
|---|---|
| その株式に対応する資本金等の額 | 会社の税務上の資本金等の額を基礎に算定。みなし配当の計算に使う |
| 個人株主の株式取得費 | 株主が株式を取得したときの取得価額。株式譲渡損益の計算に使う |
図で確認:みなし配当と株式譲渡損益の関係
残余財産を分配した場合、まず分配額を「資本金等の額に対応する部分」と「みなし配当となる部分」に区分します。
みなし配当を除いた部分が株式の譲渡収入になります。この譲渡収入と株主の株式取得費を比較することで、譲渡益または譲渡損を計算します。
次の図は、みなし配当と株式譲渡損益の関係を3つのケースに分けて示したものです。

左:会社側の計算(みなし配当の算定)
残余財産の分配額が、その株式に対応する資本金等の額を上回るため、超過部分についてみなし配当が生じます。
中央:みなし配当と株式譲渡益が生じるケース
みなし配当を除いた譲渡収入が株式取得費を上回っているため、その差額が株式譲渡益となります。
みなし配当は配当所得として総合課税、株式譲渡益は一般株式等に係る譲渡所得等として申告分離課税の対象になります。
右:みなし配当と株式譲渡損失が生じるケース
みなし配当を除いた譲渡収入が株式取得費を下回っているため、その差額が株式譲渡損失となります。
この譲渡損失は、みなし配当から差し引くことはできません。また、上場株式等の譲渡益とも損益通算できません。
このように、みなし配当が同じ金額でも、株主の株式取得費によって譲渡益が生じる場合も、譲渡損失が生じる場合もあります。
計算の順序
計算は次の順番で行います。なお、分配額は源泉徴収前の金額を使います。
| 順序 | 計算式 |
|---|---|
| ① みなし配当 | 分配額 - その株式に対応する資本金等の額(マイナスなら0) |
| ② 株式の譲渡収入 | 分配額 - ①のみなし配当 |
| ③ 株式の譲渡損益 | ② - 株式取得費(譲渡費用があれば控除) |
※この記事では、残余財産の全部を一括して分配し、分配直前の税務上の資本金等の額がプラスである場合を前提としています。
具体例:分配額10万円の場合
分配額10万円、対応する資本金等の額5万円、株式取得費3万円の場合です。
| 区分 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| みなし配当 | 10万円 - 5万円 | 5万円 |
| 株式の譲渡収入 | 10万円 - 5万円 | 5万円 |
| 株式の譲渡原価 | あK部式取得費は | 3万円 |
| 株式の譲渡益 | 5万円 - 3万円 | 2万円 |
今回のように残余財産の全部を一括分配する前提では、取得費の全額3万円を譲渡原価として控除します。
申告・処理上の注意点
個人株主の申告で気をつける点をまとめます。
- みなし配当は原則として総合課税です。 非上場株式の配当なので、会社は20.42%(所得税及び復興特別所得税)を源泉徴収します。令和9年1月1日以後は、防衛特別所得税の導入と復興特別所得税率の引下げが行われますが、合計税率の20.42%に変更はありません(No.2507)。源泉徴収された所得税等は、確定申告で総合課税として申告することにより精算されます。他の所得が少ない場合や、事業所得・不動産所得の赤字、所得控除がある場合には、源泉徴収税額の全部又は一部が還付されることがあります。ただし、少額配当として申告不要を選んだ場合は、源泉徴収された税額は還付されません。なお、総合課税で申告するみなし配当については、配当控除の適用も確認してください。
- 株式の譲渡益は申告分離課税です。 一般株式等に係る譲渡所得等として申告します。
- 株式の譲渡損失は、みなし配当から差し引けません。 配当所得と株式の譲渡損益は、別の区分で計算します。
- 区分計算と申告の要否は別の問題です。 少額配当の申告不要制度が使えるかを確認してください。非上場株式の判定基準は、10万円×配当計算期間の月数÷12です(1回に支払を受ける配当等の額がこの金額以下なら申告不要)。ただし、清算に伴うみなし配当については、通常の配当の判定式を機械的に当てはめず、適用の可否や判定方法を個別に確認してください。なお、住民税では所得税と取扱いが異なり、申告が必要になる場合があります。
- 次の場合は別途確認が必要です。 分配が複数回に分かれる場合と、株主が法人の場合です。
第2部 会社側のみなし配当の計算
会社が分配する金額は、①資本の払戻し部分(その株式に対応する資本金等の額)と、②それを超える部分(みなし配当=利益の分配)に分かれます。会社はみなし配当の部分について源泉徴収を行い、株主へ通知します。
比較するのは登記上の資本金ではなく、法人税法上の「資本金等の額」です。株主の取得費は、会社の計算には使いません。
計算手順
- 分配直前の税務上の資本金等の額を確認する(別表五(一)で確認)。
- 分配総額を確定する(金銭+金銭以外の資産の時価)。
- 会社全体のみなし配当総額=分配総額-資本金等の額。
- 株主ごとに持株割合で、資本金等の額とみなし配当を按分する。
- 個人株主分のみなし配当に20.42%を乗じて、源泉所得税等を計算する。
- 送金額=分配額-源泉所得税等。
- 株主へ支払通知書(みなし配当額・1株当たり金額等)を交付する。
- 源泉徴収した所得税及び復興特別所得税は、原則として翌月10日までに納付する。「配当等とみなす金額に関する支払調書」と合計表は、原則として支払確定日から1か月以内に税務署へ提出する(提出要否は個別に確認)。
清算に伴うみなし配当では、分配額だけでなく支払確定日も確認してください。支払確定日は、源泉徴収、支払調書の提出期限、株主の所得計上時期を判断するうえで重要になります。
株主へ伝える金額
株主はこれをもとに確定申告をするので、次の4点を必ず伝えます。
- 分配額(源泉徴収前)
- みなし配当の額と1株当たりの金額
- 源泉徴収税額
- みなし配当以外の部分(株式譲渡収入となる額)
計算例:分配総額1,000万円・株主A氏60%・B氏40%
資本金等の額が500万円、株主はA氏60%・B氏40%(いずれも個人)の場合です。
| 項目 | 会社全体 | A氏(60%) | B氏(40%) |
|---|---|---|---|
| 分配額(源泉前) | 1,000万円 | 600万円 | 400万円 |
| 対応する資本金等の額 | 500万円 | 300万円 | 200万円 |
| みなし配当 | 500万円 | 300万円 | 200万円 |
| 源泉所得税等(20.42%) | 102万1,000円 | 61万2,600円 | 40万8,400円 |
| 実際の送金額 | 897万9,000円 | 538万7,400円 | 359万1,600円 |
株主側では、譲渡収入=分配額-みなし配当(A氏300万円、B氏200万円)となります。ここから各自の取得費を引いて、譲渡損益を計算します。会社の分配額が同じでも、取得費が違えば、株主ごとに譲渡損益は変わります。
実務では計算する前の準備が重要:解散前に役員退職金を検討する
実務では、解散前に役員退職金を適正に支給して利益剰余金を減らし、残余財産の分配額が税務上の資本金等の額以下になるよう調整することがあります。同族会社で長年の利益剰余金が多額にあると、清算時に多額のみなし配当が生じるからです。このため、残余財産が見込まれる段階で、みなし配当がどれだけ生じるかを事前に試算してください。
試算例
| 項目 | 退職金支給前 | 退職金支給後 |
|---|---|---|
| 資本金等の額 | 500万円 | 500万円 |
| 残余財産見込額 | 3,000万円 | 500万円 |
| 役員退職金 | — | 2,500万円 |
| みなし配当 | 2,500万円 | 0円 |
退職金 2,500万円が適正額として認められることを前提にした、税金その他の清算費用を考慮しない単純化した例です。実際は、退職金の損金算入で法人税負担も変わります。
退職金は退職所得として原則分離課税になり、勤続年数に応じた退職所得控除もあるため、みなし配当をそのまま総合課税で受け取る場合と比べて有利になる場合が多いです。ただし、役員等の勤続年数が5年以下の場合は特定役員退職手当等となり、退職所得控除後の金額の2分の1を課税する取扱いが使えません。必ず個別に試算してください。
確認する点
- 退職の実態があるか
- 退職金の額が適正か。過大な役員退職給与は損金不算入となるリスクがあります
- 損金算入の時期
解散登記が済んでいても、退職金の処理がすべて不可能になるわけではありません
国税庁のタックスアンサーNo.2725「退職所得となるもの」には、法人解散後も引き続き役員または使用人として清算事務に従事する人に対し、解散前の勤続期間に対する退職手当等として支払うものは退職所得になるとあります。ただし、その計算の基礎となった勤続期間を、後の退職手当等の計算で再度算入しないことが条件です。急な解散では事前に調整する余地が少なくなり、処理が複雑になりますが、解散後の支給も検討できます。
残余財産を分配する前の確認順序
- 役員退職金の適正額と支給決議
- 解散事業年度・清算事業年度の法人税負担
- 債務の弁済と清算費用
- 残余財産の確定額
- みなし配当と株式譲渡損益
分配額が資本金等の額以下でも、株式譲渡損失が出ることがあります
残余財産が資本金等の額以下で、みなし配当が0円になっても、株主の株式取得費が分配額を上回れば、株式譲渡損失が生じます。この損失は、他の一般株式等の譲渡益との通算に限られ、給与や配当などとは通算できません。ここで説明しているのは、残余財産が少額でも分配される場合です。
残余財産がまったく分配されない場合は、株式譲渡損失を計上できないことがあります
残余財産が1円も分配されずに清算結了する場合は、株式譲渡損失が生じるとは限りません。重要なのは解散した時点ではなく、清算が結了して株式が消滅した時点です。
国税庁のタックスアンサーNo.1475「破産等により株式の価値が失われたときの特例」は、発行会社の破産などで株式の価値が失われても、その損失は原則として他の株式等の譲渡益や給与所得など他の所得から控除できないとしています。国税庁No.1475で説明されている例外は、特定口座で保管していた上場株式の特定管理株式等などに限られます。通常の非上場同族会社の株式は、原則としてこの例外の対象になりません。ただし、エンジェル税制の特定株式(特定中小会社の株式を払込みにより取得したもの)は、発行会社が解散して清算が結了したときに株式の譲渡があったとみなす特例があります(国税庁タックスアンサーNo.1531参照)。適用には確定申告書への記載や所定の書類の添付などが必要です。顧問先がこの株式を持っていないか、清算前に確認してください。
| 項目 | 取扱い |
|---|---|
| 株式取得費500万円 | 投資額として失われる |
| 残余財産の分配ゼロ | 株式譲渡収入なし |
| 税務上の譲渡損失500万円 | 原則として認められない |
| 他の非上場株式の譲渡益との通算 | 原則としてできない |
一方、残余財産が少額でも分配される場合は、所得税法第25条と租税特別措置法第37条の10に基づいて、みなし配当と株式譲渡損益を区分して計算します。国税庁のタックスアンサー No.1536でも、解散による残余財産の分配として交付を受けた金銭等のうち、みなし配当を除いた金額が株式等の譲渡収入とされます。租税特別措置法関係通達(37の10-3)の算式は、「収入金額=交付を受けた金銭等の価額の合計額-みなし配当額」、「取得価額=従前の取得価額×払戻等割合」です。残余財産の全部を分配する場合は、株式取得費の全額を控除する計算になります。たとえば、株式取得費500万円、分配直前の資本金等の額500万円(プラス)で、残余財産の全部の分配額が1円の場合、みなし配当は0円、譲渡収入は1円で、株式譲渡損失は4,999,999円と計算できます。したがって、分配が1円でもある場合と、まったく分配されずに清算結了する場合では、所得税上の取扱いが大きく異なります。分配がある見込みかどうかは、清算の早い段階で必ず確認してください。なお、この譲渡損失は他の一般株式等の譲渡益としか通算できず、上場株式等の譲渡益や配当所得とは通算できません。これは適法に残余財産の全部を分配する場合の計算です。損失を作る目的で、形式的に1円を動かすことを勧めるものではありません。
担当者の確認チェックリスト
分配の計算をする前に、次の点を確認してください。
- 登記上の資本金ではなく、税務上の資本金等の額を使っているか
- 分配額は源泉前の金額か
- 持株割合や種類株式の有無を確認したか
- 一部分配・複数回分配の場合、按分計算を別途行っているか
- 株主が法人の場合、源泉税率・受取配当等の益金不算入・完全支配関係の取扱いを確認したか
根拠条文
- 法人税法第24条(配当等の額とみなす金額)
- 所得税法第25条(配当等とみなす金額)
- 租税特別措置法第37条の10(一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例)
国税庁の資料も確認してください。
個別のケースでは、株式の取得費や資本金等の額の確認で計算結果が大きく変わります。清算のご相談は、早めに税理士にお問い合わせください。








