外形標準課税の付加価値割とは?初めての申告書作成で迷いやすい計算方法を解説

外形標準課税の申告書を初めて書く方へ【付加価値割の基礎】
目次

はじめに 付加価値割の基礎

外形標準課税の対象法人になると、法人事業税の申告では「所得割」だけでなく、「付加価値割」や「資本割」の計算が必要になります。特に付加価値割は、報酬給与額・純支払利子・純支払賃借料・単年度損益をもとに計算するため、法人税の所得計算とは異なる視点で集計しなければなりません。

初めて外形標準課税の申告書を作成する場合、「どの給与を報酬給与額に含めるのか」「仕掛品に振り替えた労務費はどう扱うのか」「雇用安定控除や賃上げ促進税制はどこで調整するのか」といった点で迷いやすくなります。

この記事では、外形標準課税のうち特に重要な「付加価値割」について、申告書作成で間違いやすいポイントを中心に、計算式と具体例を交えてわかりやすく解説します。


外形標準課税とは?まずおさらい

法人事業税は、都道府県に納める地方税です。通常の法人は「所得」に税率をかけて計算しますが、資本金1億円超の法人(外形標準課税対象法人)は、所得以外の基準でも課税されます。これが外形標準課税です。

外形標準課税は以下の3つで構成されています。

区分課税標準赤字でも課税される?
所得割各事業年度の所得×(所得がなければゼロ)
付加価値割各事業年度の付加価値額○(赤字でも課税あり)
資本割資本金等の額○(赤字でも課税あり)

「赤字でも税金がかかる」のが外形標準課税の最大の特徴であり、担当者が戸惑う原因の一つです。


令和6年度改正で対象法人が拡大されました

従来の外形標準課税の対象は「事業年度末日の資本金が1億円超の法人」でしたが、令和6年度(2024年度)税制改正により、減資・分社化による課税逃れを防ぐため、対象法人が段階的に拡大されています。

令和7年4月1日以後開始事業年度から(減資への対応):

  • 前事業年度に外形標準課税の対象だった法人が、当事業年度に資本金1億円以下となったが、払込資本の額(資本金+資本剰余金)が10億円超の場合も対象
  • なお、令和7年4月1日以後最初に開始する事業年度については経過措置があり、過去の外形標準課税の適用状況や資本金・資本剰余金の推移によって判定が変わる場合があります。

令和8年4月1日以後開始事業年度から(100%子法人への対応):

  • 払込資本50億円超の特定法人との間に完全支配関係がある法人等で、事業年度末日の払込資本が2億円超の法人についても外形標準課税の対象となる場合があります。

これまで外形標準課税と無縁だった会社でも、グループ再編や組織変更後に対象となるケースが増えていますので、注意が必要です。


付加価値割とは何か?

付加価値割は、法人がその事業活動で生み出した付加価値の大きさに着目して課税するものです。

政府税制調査会は、付加価値額を「法人の人的・物的活動量を客観的かつ公平に示す」指標と位置づけており、外形基準として理論的に最も優れているとしています。

付加価値額の計算式

付加価値額 = 収益配分額 + 単年度損益

収益配分額は以下の3つの合計です。

収益配分額 = 報酬給与額 + 純支払利子 + 純支払賃借料

つまり、最終的には次のようになります。

付加価値額 = 報酬給与額 + 純支払利子 + 純支払賃借料 + 単年度損益

各構成要素を詳しく解説

① 報酬給与額

役員・使用人に対して支出する給与等の合計額です。

含まれるもの(主なもの)

  • 役員報酬・給料・賃金・賞与・退職手当
  • 確定拠出年金(DC)・確定給付企業年金の掛金(事業主負担分)
  • 退職金共済の掛金
  • パートタイマー・非常勤役員への支給も含む(雇用期間の長短は問わない)

含まれないもの(主なもの)

  • 法人税で損金不算入となる役員給与
  • 所得税で非課税となる通勤手当・在勤手当
  • 法定福利費の事業主負担分(健康保険・厚生年金等)
  • 賞与引当金の繰入額

⚠️ 重要ポイント:報酬給与額は「支払ベース」で計上する

報酬給与額のもっとも重要なポイントは、法人税の損金算入時期ではなく、実際に支払った事業年度(支出ベース)で計上することです。

法人税では給与を損金算入する時期と、事業税の付加価値割で計上する時期がズレることがあります。典型例が**仕掛品や固定資産に振り替えられた給与(労務費)**です。

仕掛品等に含まれる給与の取扱い

建設業・製造業などで、期末に仕掛品や製品に給与(労務費)が含まれる場合、法人税では翌期以降に売上原価として損金算入されますが、付加価値割では支出した事業年度に報酬給与額へ算入します。

逆に、前期に支出して仕掛品に含まれていた給与が当期の売上原価として損金算入された場合は、当期の報酬給与額から除外します(前期に算入済みのため)。

給与の状況法人税(損金)事業税・付加価値割(報酬給与額)
当期支出 → 仕掛品に振替損金にならない(翌期以降)当期に算入する
前期仕掛品 → 当期売上原価へ当期の損金当期は算入しない(前期算入済)
当期支出 → 当期損金算入当期の損金当期に算入する

数値例

当期に給与3,000万円を支払い、そのうち800万円が期末に仕掛品へ振り替えられた場合:

法人税上の損金(給与):3,000万円 - 800万円 = 2,200万円
付加価値割の報酬給与額:3,000万円(支払全額)

また、前期末の仕掛品に含まれていた給与600万円が当期の売上原価として損金算入された場合:

法人税上の損金(売上原価の一部):600万円 算入
付加価値割の報酬給与額:600万円を除外(前期に報酬給与額として算入済み)

この「支払ベース」のルールは純支払利子・純支払賃借料にも共通する考え方です。決算書の損金額だけを見て集計すると誤りが生じるため、特に製造業・建設業の担当者は注意が必要です。

出向者がいる場合の特別ルール

  • 通常の給与(退職給与以外):実質的負担者(給与負担金を支払った法人)の報酬給与額
  • 退職給与:形式的支払者(出向元法人)の報酬給与額

労働者派遣を受けている場合

派遣会社に支払った派遣料の75%を、通常の報酬給与額に加算します。

報酬給与額 = 通常の報酬給与額 + 支払労働者派遣料 × 75%

逆に、派遣を行った法人は、受け取った派遣料の75%を控除します(ただし、派遣労働者に係る報酬給与額が限度)。


② 純支払利子

純支払利子 = 支払利子 ー 受取利子(支払利子を上限とする)

受取利子が支払利子を上回る場合は、ゼロとして計上します(マイナスにはなりません)。

支払利子に含まれるもの(主なもの)

  • 借入金の利息
  • 社債の利息
  • コマーシャル・ペーパーの差額
  • 手形売却損(手形割引料)
  • 利子税・延滞金(地方税法所定のもの)

支払利子に含まれないもの

  • 銀行・信用保証協会に支払う保証料(負債の利子に該当しない)
  • 売上割引料(支払期日前の早期回収に対するもの)

受取利子に含まれるもの(主なもの)

  • 貸付金の利息
  • 国債・地方債・社債の利息
  • 預金利息
  • 還付加算金

③ 純支払賃借料

純支払賃借料 = 支払賃借料 ー 受取賃借料(支払賃借料を上限とする)

対象となる権利(賃借権等):土地または家屋の使用・収益を目的とする権利で、存続期間が1ヶ月以上のもの

具体的には、地上権・地役権・永小作権・土地や建物の賃借権などが含まれます。

注意点

  • 消費税・地方消費税を除いた金額で計算します
  • 権利金・更新料などの一時金は含まれません
  • 賃借料と共益費が明確に区分されている場合、共益費は含まれません
  • 1ヶ月未満の短期賃貸借は含まれません
  • **リース取引(ファイナンスリース)**に係るリース料は含まれません

④ 単年度損益

法人税の所得計算に準じて計算しますが、繰越欠損金の控除前の金額を使用します。

第六号様式の欄68(仮計)の金額を使います。つまり、欠損金の繰越控除(69欄)を適用する前の金額です。


計算例でマスターする

例題(基本)

以下の資料から付加価値額を計算してください。なお、雇用安定控除の適用はありません。

項目金額
単年度損益1,200万円
役員・使用人への給与7,500万円
純支払利子900万円
純支払賃借料1,800万円

計算過程

収益配分額 = 7,500万円 + 900万円 + 1,800万円 = 10,200万円
付加価値額 = 10,200万円 + 1,200万円 = 11,400万円(千円未満切捨)

雇用安定控除を忘れずに

なぜ雇用安定控除が必要なのか?

付加価値割の仕組みを思い出してください。

付加価値額 = 収益配分額(報酬給与額 + 純支払利子 + 純支払賃借料)+ 単年度損益

ここで重要なのが、報酬給与額と単年度損益は表裏一体の関係にある点です。

給与を増やせば法人税の所得(単年度損益)は減少し、給与を減らせば単年度損益は増加します。つまり、給与を削減しても付加価値額の合計はほとんど変わらないため、外形標準課税だけで見れば人件費を削ってもメリットがない計算構造になっています。

しかし問題があります。付加価値割は人件費(報酬給与額)にも課税される税です。人件費の多い労働集約型の企業ほど、付加価値割の税負担が重くなります。このまま放置すると、企業が**「外形標準課税の税負担を減らすために従業員を削減・給与を引き下げる」**という行動につながりかねません。

そこで設けられたのが雇用安定控除です。

「外形標準課税による人件費課税が雇用に悪影響を与えないようにするための緩和措置」(地方税法第72条の20)

具体的には、収益配分額のうち報酬給与額の占める割合が70%を超える法人(=人件費比率が高い企業)に対して、超過した分を付加価値額から控除できるようにしました。これにより、「雇用や給与水準を維持するほど税負担が軽くなる」というインセンティブが生まれます。

報酬給与額を減らした場合との比較イメージ

雇用を維持した場合給与を削減した場合
報酬給与額多い少ない
単年度損益少ない(給与分だけ利益減)多い(給与削減分だけ利益増)
付加価値額(控除前)ほぼ同額ほぼ同額
雇用安定控除適用あり → 税負担が軽くなる適用なし

このように、雇用安定控除は人を大切にする企業ほど得をする仕組みとして設計されています。サービス業・介護業・建設業など、売上に対して人件費比率が高い業種の法人は必ず適用を確認してください。


判定と計算

報酬給与額が収益配分額の70%を超える法人は、付加価値額から雇用安定控除額を差し引くことができます。

判定:報酬給与額 > 収益配分額 × 70% → 適用あり

雇用安定控除額 = 報酬給与額 ー (収益配分額 × 70%)

課税標準となる付加価値額 = 付加価値額 ー 雇用安定控除額

計算例

項目金額
報酬給与額1億5,000万円
純支払利子800万円
純支払賃借料3,600万円
収益配分額1億9,400万円
単年度損益2,500万円

判定:1億5,000万円 > 1億9,400万円 × 70% = 1億3,580万円 → 適用あり

雇用安定控除額:1億5,000万円 ー 1億3,580万円 = 1,420万円

課税標準となる付加価値額:1億5,000万円 + 800万円 + 3,600万円 + 2,500万円 ー 1,420万円 = 2億480万円


付加価値割における賃上げ促進税制の控除 ※時限措置

制度の概要

賃上げ促進税制(旧・所得拡大税制)は、法人税では給与増加額の一定割合を税額から直接控除できる制度ですが、法人事業税の付加価値割においても対応する控除が設けられています(地方税法附則第9条)。ただし、付加価値割では税額控除ではなく課税標準(付加価値額)からの控除となる点に注意が必要です。

適用期間:令和4年4月1日 〜 令和9年3月31日までに開始する事業年度

適用要件

① 原則として法人税の賃上げ促進税制の適用要件を満たすこと

② 継続雇用者に対する給与等支給額の増加割合が前事業年度比3%以上であること

継続雇用者給与等支給額 ー 継続雇用者比較給与等支給額
───────────────────────────────── ≧ 3%
        継続雇用者比較給与等支給額

③ 資本金10億円以上かつ常時従業員1,000人以上の法人、または常時従業員2,000人超の法人は、上記に加えて「マルチステークスホルダー方針」の宣言・公表・届出等が必要です。


⚠️ 最重要:法人税は「税額控除」、事業税は「課税標準からの控除(所得控除)」

賃上げ促進税制を理解する上で、法人税と事業税(付加価値割)では控除の性質がまったく異なる点を押さえておく必要があります。

法人税事業税・付加価値割
控除の種類税額控除課税標準控除(所得控除相当)
控除のタイミング算出税額から直接差し引く付加価値額(課税標準)から差し引く
効果控除額がそのまま納税額の減少控除額 × 税率分だけ納税額が減少

法人税では、給与増加額の一定割合を算出税額から直接引くため非常に効果が大きい制度です。一方、事業税(付加価値割)では、課税標準となる付加価値額から引く仕組みです。最終的な税負担の軽減効果は「控除額 × 付加価値割の税率(大阪府1.26%)」にとどまります。


雇用安定控除と重なる部分は案分して除く

賃上げ促進税制による控除額をそのまま付加価値額から引くと、雇用安定控除とで同じ給与増加部分を二重に控除することになってしまいます。

なぜ二重になるのかを整理すると、雇用安定控除も賃上げ促進税制も、いずれも「報酬給与額」を出発点として計算されます。賃上げにより報酬給与額が増加した部分は、雇用安定控除額の増加にも影響します。この重複を排除するため、次の算式で雇用安定控除が適用されなかった部分だけを案分して控除します。

付加価値割からの控除額 = 控除対象雇用者給与等支給増加額
                         × (報酬給与額 ー 雇用安定控除額)
                         ÷  報酬給与額

算式のイメージ

報酬給与額全体
├─ 雇用安定控除に対応する部分(= 雇用安定控除額相当) → 控除対象から除く
└─ 雇用安定控除が適用されなかった部分               → この割合分だけ控除できる

雇用安定控除額がゼロの法人(人件費比率70%以下)は、分子と分母が同じになるため、控除対象雇用者給与等支給増加額がそのまま控除額となります。


数値例で確認

前掲の計算例をもとに、控除対象雇用者給与等支給増加額が400万円だった場合:

項目金額
報酬給与額1億5,000万円
雇用安定控除額1,420万円
控除対象雇用者給与等支給増加額400万円

ステップ① 雇用安定控除と重なる部分を案分して除く

付加価値割からの控除額
  = 400万円 × (1億5,000万円 ー 1,420万円)/ 1億5,000万円
  = 400万円 × 1億3,580万円 / 1億5,000万円
  = 400万円 × 0.9053…
  ≒ 362万円

(雇用安定控除と重なる部分として除かれた額:400万円 ー 362万円 = 38万円)

ステップ② 最終的な課税標準の確定

課税標準となる付加価値額
  = 2億480万円(雇用安定控除後)ー 362万円(賃上げ促進税制控除)
  = 2億118万円

ステップ③ 大阪府の税額(参考)

付加価値割の税額 = 2億118万円(千円未満切捨) × 1.26% = 約253万5千円

使用する申告書様式

賃上げ促進税制の控除を受ける場合は、第六号様式別表五の六の三(給与等の支給額が増加した場合の付加価値額の控除に関する明細書)を作成・添付します。法人税の別表と連動する箇所が多いため、法人税の申告作業と並行して準備することをお勧めします。

実務上の注意点:法人税の賃上げ促進税制は税額控除であるため効果が目立ちますが、付加価値割でも課税標準からの控除が受けられます。法人税の申告が完了したら、必ず付加価値割の調整計算も確認してください。控除額は税率分の軽減にとどまりますが、失念することのないよう注意が必要です。


税率と税額の計算

付加価値割の標準税率は1.2%(地方税法第72条の24の7)ですが、都道府県によって異なります。

都道府県標準税率実際の税率(例)
標準1.2%1.2%
大阪府1.2%1.26%(超過税率)
東京都1.2%1.26%(超過税率)

大阪府の場合の税額計算例

付加価値割の税額 = 課税標準額(千円未満切捨) × 1.26%

会計処理の注意点

付加価値割・資本割の税額は、所得割と会計処理が異なります

区分会計上の処理
所得割法人税、住民税及び事業税(P/L下部)
付加価値割・資本割販売費及び一般管理費(租税公課)

外形標準課税の対象となった初年度は、この処理を誤るケースが多いので注意が必要です。


申告書類と添付書類

確定申告書(第六号様式)に加え、次の明細書が必要です。

明細書内容
別表五の二付加価値額及び資本金等の額の計算
別表五の三報酬給与額に関する明細書
別表五の三の二労働者派遣等に関する明細書(派遣がある場合)
別表五の四純支払利子に関する明細書
別表五の五純支払賃借料に関する明細書

申告期限は原則として各事業年度終了の日から2ヶ月以内です。ただし、申告期限の延長承認を受けている法人(会計監査人設置会社・大法人・通算法人など)は、その承認内容に従います。また、前事業年度に外形標準課税の対象だった法人は、事業年度が6月を超える場合、中間申告(予定申告)が義務となります。


まとめ:付加価値割の計算フロー

  1. 報酬給与額を集計する(通勤手当・法定福利費などを除く。派遣があれば加算/控除)
  2. 純支払利子を計算する(支払利子 ー 受取利子、マイナスはゼロ)
  3. 純支払賃借料を計算する(支払賃借料 ー 受取賃借料、消費税抜き)
  4. 収益配分額 = ①+②+③
  5. 単年度損益を確認する(繰越欠損金控除前)
  6. 付加価値額 = 収益配分額 + 単年度損益
  7. 雇用安定控除を判定・計算する(報酬給与額 > 収益配分額 × 70%なら適用)
  8. 課税標準額(千円未満切捨)× 税率(大阪府1.26%)

外形標準課税の申告は、法人税の申告と並行して行う必要があります。初めての申告は、各明細書の集計から始め、余裕を持って準備されることをお勧めします。

ご不明な点があれば、お気軽に当事務所までお問い合わせください。


税理士法人松野茂税理士事務所 〒660-0861 尼崎市御園町24 尼崎第一ビル 7F(阪神尼崎駅徒歩1分) TEL:06-6419-5140

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