増資、減資、自己株式の取得、剰余金の配当、合併。これらは、損益計算書にあまり表れない取引です。それでも、税務では会計と扱いが異なる場面が多く、見落とすと申告漏れや思わぬ課税につながります。
一方で、うまく使えば、均等割の引下げや財務内容の改善、事業承継対策にも役立ちます。この記事では、資本等取引とは何か、なぜ注意が必要なのかを整理します。
資本等取引の定義
資本等取引とは、一般に、損益取引とは区別される資本に関する取引をいいます。法人税法22条5項では、次の3つを資本等取引と定めています。
| 番号 | 資本等取引の内容 |
|---|---|
| ① | 法人の資本金等の額の増加または減少を生ずる取引 |
| ② | 法人の行う利益または剰余金の分配(中間配当に規定する金銭の分配を含む) |
| ③ | 残余財産の分配または引渡し |
法人税の所得は、資本等取引以外の取引による収益を益金に、費用・損失を損金に算入して計算します(法法22条2項・3項)。資本等取引そのものは、原則として所得計算上の損益を生じさせません。たとえば、株主からの出資や、株主への払戻しそのものは、所得を増減させません。ただし、現物配当や組織再編などでは、別途、資産の譲渡損益等が生じる場合があります。
ここでいう「資本金等の額」とは、法人が株主等から出資を受けた金額として、政令で定める金額です(法法2条16号、法令8条1項)。帳簿上の「資本金」とは別の金額です。
資本等取引の主な種類
実務でよく出てくる資本等取引は、次の5種類です。
- 自己株式の取得・処分
- 剰余金の配当(現物配当を含む)
- 増資
- 減資
- 合併などの組織再編成
税務では、資本金等の額や利益積立金額がどう動くかを、取引ごとに確かめます。概要は次のとおりです。
| 取引 | 資本金等の額 | 利益積立金額 |
|---|---|---|
| 金銭出資の増資(新株発行) | 払込金額だけ増加 | 変動なし |
| 無償増資 | 変動なし | 変動なし |
| 減資(払戻しなし) | 変動なし | 変動なし |
| 利益剰余金からの配当 | 変動なし | 減少 |
| 資本剰余金からの配当 | 法定の計算による額を減少 | 超過額(みなし配当)があれば減少 |
| 自己株式の取得 | 取得株式に対応する額を減少 | 超過額(みなし配当)があれば減少 |
| 自己株式の処分 | 処分価額分を増加 | 変動なし |
| 合併・分割など | 増減あり | 増減あり |
この表は概要です。自己株式の取得には、市場取引による取得など、みなし配当が生じない場合もあります。合併・分割は、適格か非適格かで計算が変わります。自己株式の取得の計算方法は、別の記事で詳しく説明します。
なぜ見落とされやすいのか
資本等取引が見落とされやすい理由は、主に3つあります。
- 損益に影響しない場合が多い。利益が動かないため、税額を気にして見る機会が少なく、税務面のメリットも意識されにくくなります。
- 会計と税務でルールがかい離している。会計は「資本金・資本剰余金・利益剰余金」、税務は「資本金等の額・利益積立金額」で考えるため、同じ取引でも数字がずれます。
- 会計・税務・法務がクロスする。株主総会の決議や債権者保護手続きは会社法、仕訳は会計基準、申告は法人税法と、根拠が分かれています。
ズレが生じる代表的な3つの例
| 取引 | 会計・会社法 | 税務 |
|---|---|---|
| 減資で欠損てん補 | 資本金の減少と、利益剰余金のマイナスの減少を認識 | 何もなかったものとして扱う |
| 自己株式の取引 | 資本剰余金と利益剰余金の増減額が、税務の資本金等の額・利益積立金額の増減額と一致しない | 資本金等の額と利益積立金額に区分して計算 |
| 合併・分割など | 資本剰余金の増加のみを認識し、利益剰余金の変動を認識しない場合がある | 適格合併(または適格分割)に該当する場合、資本金等の額と利益積立金額の増加を認識する場合がある |
このズレは、決算書だけを見ていては分かりません。税務上の金額は、法人税の申告書の別表五(一)で確認します。会計と税務で区分がずれたときは、原則として申告調整が必要になります。
資本等取引の活用場面
資本等取引は、税務のメリットも含めて、有利な活用ができる場合が少なくありません。代表的な場面は次の4つです。
| 場面 | どう活用するか | 注意点 |
|---|---|---|
| 均等割の引下げ | 減資して法人住民税の均等割の基準額を下げる | 欠損てん補に充てない減資では、基準額は下がらない場合がある |
| 財務内容の改善 | 減資で欠損てん補をし、繰越利益剰余金のマイナスを解消する | 税務上は何もなかった扱いなので、別表五(一)で調整が必要 |
| 事業承継対策 | 会社が後継者以外の株主から自己株式を取得し、後継者の議決権割合を相対的に高めて、経営権の集中を図る | 買取価額を適正に決める必要がある |
| 分散した株主からの株式の取得 | 会社が自己株式として買い取り、株主を整理する | みなし配当のチェックと源泉徴収が必要 |
どの場面でも、損益には現れにくいため、あとから気づくこともあります。実行する前に、税務への影響を確かめることが重要です。
会計・税務・法務がクロスする分野での専門家の役割
資本等取引は、会計・税務・法務がクロスする、高い専門性が求められる分野です。とくに、実行前に次の3つを同時に確かめる必要があります。
| 分野 | 確認すること |
|---|---|
| 会社法(法務) | 株主総会の決議、債権者保護手続き、財源規制、登記 |
| 会計 | どの勘定科目で、いつ、どう仕訳を切るか |
| 税務 | 資本金等の額・利益積立金額への影響、申告調整、源泉徴収、均等割 |
この3つは、どれか一つを間違えると、手続きや申告をやり直すことになりかねません。税理士は、税務だけでなく、会計と法務とのつながりを見ながら、実行前から関わることが重要です。
まとめ ― 当事務所へのご相談
- 資本等取引とは、損益取引以外の取引で、純資産の変動をもたらす取引です。自己株式、剰余金の配当、増資・減資、合併などがあります。
- 損益に影響しない場合が多いため見落とされやすく、会計と税務で区分がずれる場合には、別表五(一)などで適切な申告調整が必要になります。
- うまく使えば、均等割の引下げ、財務内容の改善、事業承継対策にも活用できます。
当事務所は、組織再編やM&A、事業承継を含む資本取引の相談を承っています。実行する前に、まずご相談ください。
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