【資本取引シリーズ8】減資による欠損てん補とは?会計処理・別表五(一)・均等割への影響

【資本取引シリーズ8】減資による欠損てん補とは?会計処理・別表五(一)・均等割への影響
目次

はじめに:繰越欠損を抱えた会社が、資本金を減らして財務内容を整える

減資による欠損てん補は、会計では貸借対照表の見た目が整い、法人税では何も起きない取引です。そして、法人住民税の均等割は下がる可能性があります。

次のようなご相談があります。

  • 過去の赤字が累積し、貸借対照表に大きな繰越損失(マイナスの繰越利益剰余金)が残っている
  • 資本金は大きいままなので、純資産がマイナス(債務超過)、またはそれに近い状態になっている
  • 金融機関に提出する決算書の見栄えを整えたい。あわせて、均等割の負担も軽くしたい

このような場面で使われるのが、資本金を減らして、その分を繰越損失に充てる「減資による欠損てん補」です。現金が出ていくわけではなく、純資産の部の中で振り替えるだけの取引です。

今回は、資本取引シリーズの第8回として、事例3(資本金700万円を減少して欠損てん補に充てる)で、会計・法人税・地方税の取扱いを確認します。

減資の手続と会計処理

減資とは資本金の減少です。会社法上は、資本金という数字を小さくする取引と整理されています(会社法447条)。原則として株主総会の特別決議が必要ですが、定時株主総会で決議し、減少する資本金の額が法令に基づく欠損額を超えない場合には、普通決議で行うことができます(会社法309条2項9号)。いずれの場合も、債権者保護手続(官報公告と催告、会社法449条)が必要です。

資本金を減らすと、減った分は「その他資本剰余金」になります。この剰余金を、繰越損失(マイナスの繰越利益剰余金)に充てるのが欠損てん補です。剰余金の処分として、会社法452条に基づく株主総会の決議で行います。

事例3の前提は次のとおりです(単位:万円)。資本金等の額は資本金と同額の1,200万円とします。

項目減資前減資・欠損てん補後
資産1,5001,500
負債2,0002,000
資本金1,200500
繰越利益剰余金△1,700△1,000
純資産合計△500△500

会計上の仕訳は2段階です。

資本金 700 / その他資本剰余金 700
その他資本剰余金 700 / 繰越利益剰余金 700

2つ目の仕訳でいう「繰越利益剰余金の増加」は、マイナス残高が縮小するという意味です。資本金の減少の効力発生日と欠損てん補の効力発生日を同日にすれば、その他資本剰余金は貸借対照表に残りません。

注意:債務超過は、この手続では解消しません。 純資産の部の中で振り替えるだけなので、純資産合計は△500万円のままです。変わるのは、資本金が小さくなり、繰越損失が縮小するという内訳です。

法人税:何もなかったものとして扱う(別表五(一)で振替調整)

資本金を減らして欠損てん補に充てても、株主への払戻しはありません。純資産の部の中で振り替えただけなので、法人税法上は何もなかったものとして扱います。資本金等の額も利益積立金額も変わらず、所得にも影響しません。なお、会計上の繰越損失が700万円減っても、法人税法上の繰越欠損金は減少しません。税務上の繰越欠損金は別表七(一)で管理されており、減資による欠損てん補で消滅するものではありません。

税務上の仕訳:なし

ただし、会計上は資本金が700万円減り、繰越損失が700万円縮小しています。会計と税務の区分がずれるため、別表五(一)で振替調整を行います。具体的には、Ⅰ「利益積立金額の計算に関する明細書」の資本金等の額欄に△700万円を記載し、Ⅱ「資本金等の額の計算に関する明細書」の利益積立金額欄に700万円を記載します。この調整によって、税務上の資本金等の額も利益積立金額も変動しないことを表します。

別表五(一) Ⅰ 利益積立金額の計算に関する明細書(単位:万円)

区分期首現在減増差引翌期首現在
資本金等の額△700△700
繰越損益金△1,700700△1,000
差引合計額△1,700△1,700

別表五(一) Ⅱ 資本金等の額の計算に関する明細書(単位:万円)

区分期首現在減増差引翌期首現在
資本金又は出資金1,200△700500
利益積立金額700700
差引合計額1,2001,200

差引合計額は、利益積立金額が△1,700万円、資本金等の額が1,200万円で、減資の前後で変わりません。税務上の数字が何も動いていないことが、この表から確認できます。

第5回の無償増資と同じ「振替調整」の形ですが、符号は逆になります。

地方税:均等割の基準額から欠損てん補額を減算できる

法人税では何も起きない減資ですが、法人住民税の均等割では、基準額が下がる可能性があります。

平成27年度税制改正により、均等割の税率区分の基準となる額を計算するときは、法人税法上の資本金等の額から、次の金額を減算することになっています(地方税法23条1項4号の5)。

  • 資本金または資本準備金の減少によって生じたその他資本剰余金を、会社法452条により欠損てん補に充てた額(平成18年5月1日以後の会社法適用期間)

事例3では、資本金等の額1,200万円から、欠損てん補額700万円を減算します。

項目金額(万円)
法人税法上の資本金等の額1,200
欠損てん補額(減算)△700
均等割の税率区分の基準となる額500

資本金と資本準備金の合計額(500万円)との比較でも、基準額は500万円です。資本金等の額が1,000万円を超える区分から、1,000万円以下の区分に下がるため、均等割の負担は軽くなります。道府県民税の標準税率では、年5万円から年2万円になり、年3万円の減少です。市町村民税の均等割も、従業者数に応じて下がる場合があります。

1年以内の要件に注意が必要です。 減算が認められるのは、その他資本剰余金として計上してから1年以内に欠損てん補に充てた額に限られます(地方税法施行規則1条の9の6第3項)。資本金を減少した日と欠損てん補の効力発生日を同日にしておけば、この要件は問題になりません。なお、均等割の申告では、欠損てん補の事実や金額を確認できる書類が求められる場合があります。株主総会議事録、株主資本等変動計算書、官報公告の写しなどを保存し、自治体ごとの提出書類を確認してください。

逆に、資本金を減少してその他資本剰余金に計上しただけで、欠損てん補に充てなかった場合は、減算できません。均等割への影響もありません。ただし、減資前に資本金等の額が資本金と資本準備金の合計額を下回っていたときは、資本金の減少で合計額が小さくなるため、均等割が下がる場合があります(地方税法52条4項)。

実務のポイントとまとめ

減資による欠損てん補は、株主への払戻しを伴わず、法人税の所得計算にも影響しません。一方で、決議・公告・登記などの手続が必要です。効果を正しく理解して使うことが大切です。

  • 債務超過は解消しない。純資産合計は変わらないので、金融機関には「内訳が整う」ことを説明する(純資産の改善と誤解されないようにする)
  • 繰越損失が縮小すると、将来利益が出たときに、剰余金の配当ができる状態に近づく
  • 債権者保護手続(官報公告と催告)が必要なので、スケジュールに余裕を見る
  • 均等割は、資本金等の額が1,000万円を超える区分から下がる場合に、効果が大きい
  • 資本金を減少した日と欠損てん補の効力発生日を同日にし、1年以内の要件を確実に満たす
  • 別表五(一)で、利益積立金額と資本金等の額の振替調整を忘れない
  • 資本金の額は、許可要件・入札参加資格・取引先の与信などに使われる場合がある。減資の前に影響を確認する

まとめ

  1. 減資は、資本金を減らしてその他資本剰余金とする取引。欠損てん補に充てると、繰越損失が縮小する
  2. 法人税では「何もなかったもの」として扱い、資本金等の額も利益積立金額も変わらない
  3. 別表五(一)では、プラスマイナス同額の振替調整が必要
  4. 均等割では、欠損てん補額(1年以内に充てた額)を基準額から減算でき、負担が下がる場合がある
  5. 無償増資は加算、減資による欠損てん補は減算と、地方税の取扱いが逆になる(第5回参照)

減資をお考えの方は、会社法の手続、財務内容の見え方、許可・取引への影響まで含めて、実行前に当事務所へご相談ください。


税理士法人松野茂税理士事務所(阪神尼崎駅徒歩1分) 

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