役員・従業員の海外渡航費、どこまでが「非課税の旅費」? 給与課税されないための判定基準を税理士が解説

役員・従業員の海外渡航費、どこまでが「非課税の旅費」? 給与課税されないための判定基準を税理士が解説

海外出張や海外研修の機会が増える中、「渡航費用のうち、どこまでを会社の経費(非課税の旅費)として処理できるのか」というご相談を受けることが多くなっています。

海外渡航費は、判定を誤ると税務調査で「給与(賞与)」と認定され、役員・従業員側では所得税の追徴、会社側では源泉徴収漏れや役員給与の損金不算入につながる可能性があります。また、海外出張に関する支出は、国内取引と国外取引とで消費税の取扱いも異なるため、区分して処理する必要があります。今回は、所得税法・法人税基本通達に基づく判定の考え方を、実務目線で整理します。

目次

1. 海外渡航費が非課税とされる根拠

使用者が役員または使用人に対して海外渡航のために支給する旅費等は、その海外渡航が使用者の業務の遂行上直接必要と認められる場合に、その海外渡航のために通常必要と認められる部分の金額に限り、非課税とされます。

根拠となる主な通達は以下のとおりです。

  • 所得税法9条1項4号
  • 所得税基本通達9-3
  • 法人税基本通達9-7-6~10
  • 所得税基本通達37-17~22
  • 平成12年10月11日付課法2-15ほか

なお、所得税基本通達37-17~22は、主として個人事業者が使用人等に支給する海外渡航費等の必要経費算入に関する取扱いであり、法人の役員・従業員に支給する旅費の所得税非課税を説明する際は、所得税基本通達9-3も併せて確認する必要があります。

ポイントは「業務遂行上必要かどうか」と「金額が通常必要な範囲内かどうか」という二段階の判定になっている点です。どちらか一方を満たすだけでは非課税になりません。

2. 渡航の性質による4つの区分

海外渡航費は、その旅行の性質に応じて次の4区分に分けて考えます。

(イ)業務遂行上必要と認められる場合

基本費用(交通費、宿泊費、渡航手続費用など、通常主催者やエージェントに支払い込む費用)と、その他の費用(支度金、日当等)のいずれについても、「その旅行に通常必要と認められる部分の金額」は非課税(旅費)、これを超える部分は給与等(賞与)として課税されます。

(ロ)業務遂行上必要な旅行と観光旅行とを併せて行う場合

業務目的の旅行に観光を組み合わせたケースです。基本費用・その他の費用について、まず「その旅行に通常必要と認められる部分の金額」(A)を算出し、これに後述する損金等算入割合を乗じた金額が非課税、残額は給与等となります。

(ハ)取引先との商談等を直接の動機とする海外渡航を機会に、併せて観光を行うこととした場合

法人税基本通達9-7-9にいう「商談等を直接の動機とする」旅行に当たるかどうかは、業務従事割合とは別に、旅行の目的・経緯等から実質的に判定する事実認定の問題です。直接の動機が特定の取引先との商談や契約締結等であると認められる場合には、業務を行う場所までの往復の旅費は全額非課税となります。それ以外の費用については、通常必要と認められる部分の金額の合計額(B)に損金等算入割合を乗じた額が非課税、残額は給与等となります。

(ニ)観光を目的とする場合

観光が主目的の渡航です。この場合は、観光期間中に行った業務について直接要した部分の費用のみが非課税となり、それ以外の基本費用等はすべて給与等として扱われます。

3. 海外視察旅行における「業務従事割合」の判定

同業者団体等が主催する海外視察旅行に観光が組み込まれている場合には、平成12年10月11日付課法2-15ほか「海外渡航費の取扱いについて」により、次の計算式で求める業務従事割合を基礎として、損金算入額を計算します。

なお、この業務従事割合は、すべての海外渡航について一律に適用される機械的な判定基準ではありません。個別の商談出張、契約締結、展示会への参加などについては、旅行の目的、旅行先、旅行経路、旅行期間、実際の行動内容等を総合勘案し、法人税基本通達9-7-6以下により実質的に判定します。

業務従事割合 = 視察等業務の日数 ÷(視察等業務の日数+観光の日数)

分母・分子に算入する日数の考え方は次のとおりです。

  • 視察等業務の日数観光の日数:後述する「行動内容による判定」に従って、個々の行動を仕分けます
  • 旅行日の日数:原則として、目的地までの往復および移動に要した日数をいい、通常は分母・分子のいずれにも含めません
  • その他の日数:休日、休養、帰国準備等の日数をいい、原則として分母・分子のいずれにも含めません
  • 日数は昼間の通常の業務時間(おおむね8時間)を1日として、行動状況に応じておおむね0.25日単位で算出します
  • 土曜・日曜等の休日であっても、業務に従事した日は視察等の日数に含めます。反対に、旅行のほとんどが観光で、前後の行動状況から一連の観光と認められる場合は、観光の日数に含めます

業務従事割合は、10%単位で区分し、10%未満の端数を四捨五入して「損金等算入割合」を求めます。例えば、業務従事割合が85%であれば損金等算入割合は90%となり、業務従事割合が15%未満であれば損金等算入割合は10%以下となります。

4. 業務遂行上必要かどうかの判定基準

業務従事割合を計算する前提として、そもそも「業務遂行上必要な渡航」に当たるかどうかは、旅行の目的・旅行先・旅行経路・旅行期間等を総合勘案して判定します。実務では、次の2つの視点でチェックするとわかりやすくなります。

(1)形式基準による判定

次に掲げる旅行は、原則として業務遂行上直接必要な海外渡航に該当しないものとして取り扱われます。

  1. 観光渡航の許可によるもの(渡航国の事情等でやむを得ず観光渡航の許可により業務のための渡航を行う場合は、実態に応じて判定)
  2. 旅行業者等が行う団体旅行への応募によるもの
  3. 同業者団体その他これに準ずる団体が主催する団体旅行で、主として観光目的のもの
  4. 親族または業務に常時従事していない同伴者に係るもの

ただし、次のような同伴については、明らかに渡航目的の達成に必要な同伴として上記4に該当しないとされています。

  • 自己が常時補佐を必要とする身体障害者であるため補佐人を同伴する場合
  • 国際会議への出席等のために配偶者を同伴する必要がある場合
  • 外国語に堪能な人または高度な専門的知識を有する人の同伴を必要とする場合

(2)行動内容による判定

旅行期間内の個々の行動について、業務遂行上必要と認められるもの・認められないものの例は次のとおりです。

非課税(旅費)とされる行動の例

  • 取引先との商談、契約の締結等
  • 工場、店舗等の視察・見学・訪問
  • 展示会、見本市等への参加・見学
  • 市場・流通機構等の調査研究
  • 国際会議への出席
  • 海外セミナーへの参加
  • 同業種団体または関係官庁等の訪問・懇談

(ただし、これらの行動であっても業務に全く関係のないものは除かれます。)

給与等(賞与)とされる行動の例

  • 観光に付随して行った簡易な見学、儀礼的な訪問等
  • ロータリークラブ等これに準ずる会議で、私的地位に基づいて出席したもの
  • 団体旅行における自由行動時間での私的な外出

5. 損金等算入割合を用いた金額按分

同業者団体等が行う海外視察旅行については、旅行に通常要する費用に損金等算入割合を乗じて、旅費として損金算入する金額を計算します。

判定表にまとめると、次のとおりです。

業務従事割合往復の交通費の額その他の費用の額使用人等に対する給与(賞与)
85%以上全額全額なし
85%未満~50%以上で、その海外渡航が業務遂行上直接必要と認められる場合全額その他の費用の額 × 損金等算入割合その他の費用の額 ×(1-損金等算入割合)
50%未満~15%以上旅行に通常要する費用 × 損金等算入割合左記の計算に含む旅行に通常要する費用 ×(1-損金等算入割合)
15%未満なしなし旅行に通常要する費用の全額

平成12年通達は、損金等算入割合90%以上なら全額算入、10%以下なら全額不算入とし、それ以外は原則として旅行に通常要する費用に損金等算入割合を乗じて計算する構造です。

業務従事割合が50%以上であっても、往復交通費の全額が旅費となるためには、その海外渡航自体が業務遂行上直接必要と認められることが必要です。

また、特定の取引先との商談や契約締結等を直接の動機とする海外渡航の機会に観光を併せて行った場合は、法人税基本通達9-7-9により、業務を行う場所までの往復旅費を業務遂行上必要なものとして取り扱います。この判定は、業務従事割合だけでなく、渡航の目的や経緯等から実質的に行います。法人税基本通達は、海外渡航の業務上の必要性を旅行目的、旅行先、経路、期間等から判定し、業務に直接関連する部分を旅費として取り扱う構造です。

※業務従事割合は四捨五入前の実際の割合です。損金等算入割合は、業務従事割合を10%単位で区分し、10%未満の端数を四捨五入して算定します。そのため、業務従事割合85%以上は損金等算入割合90%以上に、業務従事割合15%未満は損金等算入割合10%以下に対応します。

6. 実務上のポイント

顧問先から海外渡航費のご相談を受ける際、次の点を必ず確認・整備していただくようお願いしています。

  1. 渡航目的を渡航前に明確化しておくこと:出張命令書や稟議書に、商談先・視察先・目的を具体的に記載する
  2. 行動記録(日程表)を作成・保存すること:業務従事割合の算定根拠となるため、現地でのスケジュールを日付・時間単位で記録しておく
  3. 観光を組み合わせる場合は区分を意識した費用管理:往復交通費とその他費用(宿泊費、支度金、日当等)を分けて管理し、業務日・観光日・移動日を仕分けておく
  4. 同伴者がいる場合の取扱いに注意:配偶者や親族の同伴費用は、原則として給与課税の対象になりやすい点を事前に説明しておく

海外渡航費は、業務目的か観光目的かの線引きが曖昧になりやすく、税務調査でも指摘されやすい項目です。渡航前の計画段階から税理士に相談いただくことで、非課税の範囲を最大限確保しつつ、追徴課税のリスクを避けることができます。


海外出張・海外研修に関する税務処理でお悩みの経営者様は、当事務所までお気軽にご相談ください。

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