食料品の消費税1%案と簡易課税の2年縛り|本則課税への切替えをどう考えるか

食料品の消費税1%案と簡易課税の2年縛り|中小企業が今から確認すべきこと

食料品の消費税率を引き下げる案について、報道や民間シンクタンクの分析では、2027年4月から一定期間、軽減税率対象の食料品の税率を8%から1%へ引き下げ、所得連動の給付と組み合わせて家計負担を抑える方向が検討されているとされています。本記事では、この動きが中小企業の消費税実務――とくに簡易課税の2年縛りと還付――にどう関わるのかを、当事務所スタッフとの対話形式で整理します。

はじめにお断り

本記事は2026年6月時点の報道・議論段階の情報に基づくものです。食料品1%案も、簡易課税の縛りを緩める救済特例も、まだ法律として確定したものではありません。制度の最終的な内容・時期は今後の法案・政省令によります。実際の判断は必ず最新情報をご確認のうえ、顧問税理士にご相談ください。

目次

1.いま議論されていること

スタッフ

先生、ニュースで「食料品の消費税を1%に下げる」と出ていました。8%がさらに下がるということですか?

先生

そうだね。報道ベースでは、軽減税率対象の食料品について、一定期間、税率を8%から1%へ引き下げる案が検討されている。そのうえで、所得連動の給付と組み合わせて、家計の実質負担を抑えるという考え方だ。

ただし、これはまだ法律として確定したものではない。ポイントは「税率をゼロにする案ではなく、1%案が検討されていること」「期間限定の措置として議論されていること」「給付とセットで考えられていること」だね。外食は対象外とされる方向で整理されている。

スタッフ

家計には嬉しい話ですが、これって事務所の顧問先の実務にも関係してくるんでしょうか。

先生

大いに関係する。とくに飲食料品を扱う小売業、テイクアウト・弁当販売などの飲食物販、それから設備投資や輸出をする事業者だ。税率の区分が増えればレジとインボイスの対応が必要になるし、税率が下がる局面では「本則課税と簡易課税のどちらが有利か」が今まで以上に効いてくる。ここで効いてくるのが簡易課税の選択なんだ。

2.なぜ「簡易課税の2年縛り」が問題になるのか

スタッフ

そもそもの確認なのですが、消費税の納税額はどう決まるのでしょうか。簡易課税と本則課税で何が違うんですか。

先生

本則課税(原則課税)の消費税は、ごく単純化すると次の引き算で決まる。

納付税額 = 売上で「預かった」消費税 − 仕入・経費で「支払った」消費税

本則課税は、実際に支払った消費税を1円単位で差し引ける。一方で簡易課税は、実際の仕入・経費は見ずに、売上の消費税にみなし仕入率(業種ごとに決まった割合)を掛けて、仕入控除を“概算”で計算する。事務は楽になるが、実際の経費が多くてもそれは反映されない。だから「実際の経費が多い事業者は本則が有利、少ない事業者は簡易が有利」と分かれるわけだ。

スタッフ

では、食料品が1%になると、その有利・不利のバランスが変わるということですか。

先生

そこが今回の肝だ。お弁当屋さんを例に考えてみよう。これまで簡易課税が有利だった事業者でも、本則のほうが有利に逆転すると予想される

食料品1%になると、お弁当の売上で預かる消費税は1%に下がる。食材の仕入も1%だ。ところが――水道光熱費・店舗の家賃・備品・包装資材などは、引き続き10%の消費税を支払う。つまり「預かる税は1%と小さいのに、経費の一部では10%を払い続ける」という形になる。

本則課税なら、この10%で支払った経費の消費税をきちんと差し引けるので、納税額がぐっと小さくなる。経費構成によっては、本則課税のほうが明らかに有利になるケースが出てくる。ところが簡易課税のままだと、売上が1%に下がった分だけ概算の控除も小さくなり、10%で払った経費は一切反映されない。結果、本則なら下がるはずの税額が下がらず、損をしてしまうんだ。

前提となる現行ルール

  • 簡易課税は実際の課税仕入れを使わず、みなし仕入率で概算するため、10%で支払った経費が多くても納税額に反映されない(本則なら反映される)。
  • 簡易課税にはいわゆる「2年縛り」があり、一度選択すると原則として2年間は本則課税に戻せない。
  • 本則に戻すには「簡易課税制度選択不適用届出書」を、戻したい課税期間の初日の前日まで(個人なら前年12月31日まで)に提出する必要がある。
スタッフ

つまり、食料品1%で本則のほうが有利になったのに、簡易課税を選んだばかりの事業者は、2年縛りのせいですぐには本則に戻せず、有利なはずの本則を使えない、ということですね。

先生

そのとおり。これまで簡易課税が有利でそれを選んでいた事業者ほど、食料品1%で本則有利に逆転したときに、この2年縛りに引っかかりやすい。「制度選択のタイミングで損をする」事業者をどう扱うか、という論点が出てくるわけだ。

なお、設備投資の多い年や輸出取引のある事業者では、本則なら還付(差引きがマイナスで税が戻る)になる場面もある。お弁当屋さんのケースは還付というより「納税額が下がる・本則が有利になる」という話で、効き方の度合いは業態によって違う、と整理しておくといい。

3.「2年縛りの緩和」という救済構想

こうした懸念を踏まえると、今後の制度設計では次のような「救済」が論点になる可能性があります(いずれも現時点では構想・要望・実務上の見立てであり、確定した制度ではありません)。

  • 簡易課税の2年縛りを一時的に緩和する特例を設ける。
  • 一定の期限までに届出をすれば、まだ2年を経過していなくても本則課税へ切り替えられるようにする。
  • 税率引き下げで本則有利に変わる事業者の切替(および還付が見込まれる事業者の還付申告)に対し、事務負担・審査期間の面でも対応する。

地方の商工会議所・税理士会・青色申告会などからも、簡易課税やインボイス後の2割特例の運用について、実務負担や制度選択の不利益を懸念する声が出る可能性があります。とくに、法案の成立や詳細公表が直前になると、年内に判断したい中小企業が対応しきれないという、タイミングの問題が大きなテーマになります。

ここが実務家の悩みどころ

救済特例が「出る前提」で動くのは危険ですが、「出ないと決めつけて何も準備しない」のも、いざ特例が出たときに届出期限へ間に合いません。出ても出なくても動けるように、今から試算と情報整理をしておくのが現実的な構えです。

4.制度変更に伴う救済パッケージの可能性

食料品1%案は、単に税率を下げるだけでなく、家計への給付、中小企業・農家への影響、レジ・インボイス対応、制度選択による不利益など、複数の論点をあわせて考える必要があります。

対象救済の方向(議論段階)
家計食料品の税率1%+所得連動給付で「実質ゼロ」に近づける。
中小企業・農家減税に伴う影響を、資金繰り支援・補助金などで緩和する。
制度選択で不利になった事業者インボイス後の2割特例や簡易課税の選択で不利になった層を、猶予・特例で広く救済する方向。

さらに、食料品の税率を下げると地方自治体の税収にも影響が及びます。制度化される場合には、地方財政への影響や事業者支援も含めた調整が避けられないと考えられ、国会の議論にとどまらず、地方も巻き込んだ大きな制度変更となる可能性があります。

当事務所の予想

ここから先は、確定情報ではなく、長年この分野を見てきた当事務所としての予想・見立てです。

当事務所は、食料品1%案は単なるアイデア段階を超え、実現に向けた具体化の議論が進みつつあるとみています。仮に制度化される場合には、与党税制調査会や財務省での詰めだけでなく、地方財政への影響や事業者支援も含めた調整が避けられないと考えられます。

そして当事務所が本命とみているのは「簡易課税の2年縛りをどう扱うか」です。税率を1%に下げれば、これまで簡易課税が有利だった食料品小売・飲食物販などの事業者でも、本則課税のほうが有利に逆転するケースが増えると見込まれます(設備投資や輸出の多い事業者では、本則で還付になる場面もあります)。そこで縛りを放置すれば「制度選択で損をした」という不満が生じやすいため、何らかの緩和特例・救済措置が併せて講じられる可能性は十分にある、というのが当事務所の読みです。

もっとも、これはあくまで予想です。実務家として大事なのは「決まりそうかどうか」を当てにいくことではなく、決まった場合にすぐ動ける状態を作っておくことです。届出期限が短い制度では、特例が出てから動いたのでは間に合いません。「出ても出なくても損をしない準備」を、当事務所として顧問先にお勧めしています。

※あくまで当事務所の予想であり、制度化を保証するものではありません。最終的な内容は今後の法案・政省令によります。

5.税理士・顧問先が今から準備すべきこと

スタッフ

法案が固まる前に、私たちが先回りでできることはありますか。

先生

三つある。順番に整理しよう。

① 簡易課税 vs 本則課税のシミュレーション

これまで簡易課税が有利だった食料品小売・飲食物販などの事業者は、食料品1%で本則のほうが有利に逆転しないかを試算しておきます。設備投資・輸出・原材料高騰などで還付が見込まれる事業者も同様です。簡易のままでよいか、本則に戻すかを2〜3年スパンで見ておくことが大切で、単年で得でも、2年縛りを含めた複数年で見ると判断が変わることがあります。

② 2年縛りと特例の可能性を説明しておく

顧問先には「現行は2年縛りだが、今回の制度変更の流れの中で、一時的な緩和特例が設けられる可能性もある。仮に出た場合にすぐ判断できるよう、今から情報を整理しておきましょう」と先に伝えておきます。特例は届出期限が短いことが多いので、判断材料を事前に揃えておくことが何より大事です。

③ レジ・クラウド会計の準備

軽減税率の区分が「8%→1%」へ変わる場合のレジ設定、インボイスの記載方法、弥生会計やクラウド会計の税率区分設定の見直しなど、システム面の影響を早めに確認し、顧問先へ周知します。区分が増えるほど入力ミスのリスクも上がるため、運用ルールの整備までセットで考えておくと安心です。

6.当事務所のスタンス

食料品の消費税引き下げ案は、「家計の実質負担の軽減」だけでなく、「中小企業・農家への影響」「レジ・インボイス対応」「簡易課税や2割特例を選択している事業者への影響」など、実務上さまざまな論点を伴う制度変更になる可能性があります。

当事務所では、この最新の動きを引き続き注視し、次のような論点を整理しています。

  • 飲食業・小売業のレジ・インボイス対応
  • 飲食物販・食料品小売など、本則有利に逆転しないかの簡易課税・本則課税シミュレーション
  • 設備投資・輸出取引・10%課税仕入れが多い事業者の納税額試算(還付の有無を含む)
  • 簡易課税と本則課税の見直し(2年縛り・特例対応を含む)

本記事についてのお願い

本記事は、制度の動向を一般的に解説することを目的としたものです。記事の内容に関する個別のお問い合わせはお控えくださいますようお願いいたします。具体的な取扱いは、状況により判断が分かれます。実際のご対応にあたっては、最新情報をご確認のうえ、顧問税理士にご相談ください。

※本記事は2026年6月時点で公表されている報道・議論等に基づいて作成しています。食料品1%案・簡易課税の緩和特例はいずれも確定した制度ではなく、今後の法案・政省令により内容や時期が変わる可能性があります。個別の判断は最新情報をご確認のうえ、顧問税理士にご相談ください。

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