はじめに
非上場株式の相続税評価において、類似業種比準方式は主要な評価手法の一つです。この方式で「1株当たりの利益金額(○C)」を計算する際、非経常的な利益の金額は除外して計算することが財産評価基本通達183に規定されています。
しかし実務では、「どの利益が非経常的なのか」の判断が争点となるケースが少なくありません。本稿では、通達の規定をもとに、裁判例・裁決例・国税庁の質疑応答事例を整理し、実務上の判断ポイントを解説します。
· 「固定資産売却益は必ず除外できるのか?」
· 「毎期発生している場合はどうなるのか?」
非上場株式の評価(類似業種比準方式)でお悩みの方は、
尼崎の税理士法人松野茂税理士事務所までご相談ください。
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通達の規定と基本的な考え方
財産評価基本通達183(2)の規定
財産評価基本通達183(2)では、「1株当たりの利益金額(○C)」の計算において、非経常的な利益の金額を課税所得金額から除いて算定することとされています。通達が明示する例示は次の2つです。
- 固定資産売却益
- 保険差益
もっとも、これらはあくまで例示であり、どの利益が「非経常的」に該当するかは、個別の事情に応じて実質的に判断する必要があります。
判断の3つのポイント
非経常的な利益かどうかは、以下の3点を総合的に考慮して判断します。
利益発生
↓
事業と関連あり? → YES → 経常
↓NO
反復継続あり? → YES → 経常
↓NO
非経常
| 判断要素 | 内 容 |
| ① 評価会社の事業内容 | その利益が会社の事業活動と本質的に関連するか |
| ② 利益の発生原因 | どのような取引・事象から生じた利益か |
| ③ 反復継続性・臨時偶発性 | 毎期継続的に発生するか、それとも一時的・偶発的か |
ポイント:「固定資産売却益」であっても非経常的な利益に該当しない場合がある一方、「固定資産売却益」以外の利益でも非経常的と判断される場合があります。形式ではなく実質で判断するという点が重要です。
裁判例・裁決例から学ぶ判断基準 非経常的利益に該当しない典型例
判断基準
利益発生
↓
事業と関連あり? → YES → 経常
↓NO
反復継続あり? → YES → 経常
↓NO
非経常
① クレーン車売却益は「非経常的な利益」ではない(令和元年5月14日 東京地裁判決)
【事案の概要】
評価会社はクレーン事業(移動式クレーン車の賃貸・揚重作業)を営んでおり、毎期継続的にクレーン車を売却していました。このクレーン車売却益が「非経常的な利益」として除外すべきかどうかが争点となりました。
【裁判所の判断】
東京地裁は、以下の理由からクレーン車売却益は「経常的な利益」に該当すると判断しました。
- 重要な収益源であること クレーン車の売却益は評価会社の重要な収益源であった。
- 毎期継続して行われていること クレーン車の売却は反復継続的に実施されており、臨時偶発的なものではない。
- 事業の収益源泉となっていること 売却はクレーン事業から収益を生じさせる源泉と一体の活動である。
- 会計処理の整合性 金融機関等に提出する損益計算書において、クレーン車売却益を「特別損益」ではなく「収入高(営業利益)」として計上していた。
実務上のポイント:科目の名称(固定資産売却益)ではなく、実態として会社の経常的収益力を構成するものかどうかで判断する原則を明確に示した事例です。
② 匿名組合からの分配金(平成20年6月26日 裁決・裁決事例集75・594頁)
【事案の概要】
評価会社が匿名組合員として出資した航空機リース事業から毎期利益の分配を受けていました。最終計算期間の分配金には航空機の売却による収益が含まれており、これが非経常的な利益に当たるかが争点となりました。
【裁決の判断】
国税不服審判所は、以下の理由から匿名組合に係る損益は非経常的な利益に該当しないと判断しました。
- 法人税の取扱い上、毎期益金に算入される 法人税法上、匿名組合員の損益は毎期発生が予定されており、臨時偶発的ではない。
- リース事業の一体性 航空機リース事業は所有・賃貸・売却が一体となった事業であり、売却は契約締結時から予定されていた。
- 分配の性格は変わらない 分配金の一部が航空機売却益を含むとしても「出資に対する利益の分配」という性格に変わりはなく、一部のみを非経常的と切り出す理由はない。
実務上のポイント:取引の実態・事業の一体性を重視して実質判断するという原則を貫いた事例です。
国税庁 質疑応答事例による補足
① 継続的に有価証券売却益がある場合
課税時期の直前期以前、相当期間にわたって継続して有価証券売却益がある場合、この売却益は「非経常的な利益」に当たるかという照会に対し、国税庁は「評価会社の事業の内容、利益の発生原因、反復継続性・臨時偶発性等を考慮し個別に判定する」と回答しています。「有価証券売却益=非経常的」という機械的処理は認められません。
② 棚卸資産(土地等)の売却益は非経常的な利益ではない
不動産業者等が事業として販売する土地(棚卸資産)の売却益は、事業年度ごとに金額が大きく変動するとしても、非経常的な利益には該当しないとされています。事業として反復継続的に行われる販売活動から生じる利益だからです。
③ 種類の異なる非経常的な損益がある場合は通算する
同一事業年度に「固定資産売却損(非経常的損失)」と「保険差益(非経常的利益)」の両方がある場合、これらは通算した上で「1株当たりの利益金額」を計算することとされています。
注意:種類が異なるからといって個別に処理するのではなく、非経常的な損益の総体として把握・通算することが必要です。
実務上のチェックポイント
評価実務において、非経常的な利益の該当性を検討する際には以下の点を確認してください。
- その利益は毎期発生しているか? → 複数期にわたって継続している場合、非経常的とは言いにくい。
- 会社の事業目的・主たる収益活動と関連しているか? → 事業と密接に関連する利益は形式上「固定資産売却益」でも経常的と判断されうる。
- 決算書・法人税申告書上の計上科目はどこか? → 営業収益として計上か特別損益として計上かは一つの判断材料となる(ただし決定的ではない)。
- その行為は契約等で事前に予定されていたか? → 事前に予定された売却は臨時偶発的とは言えない。
- 種類の異なる非経常損益がある場合は必ず通算する → 固定資産売却損と保険差益を別々に処理するミスに注意。
まとめ
類似業種比準方式における非経常的な利益の判断は、「固定資産売却益・保険差益」という名称の形式ではなく、その利益が評価会社の経常的収益力を構成するかどうかという実質で行うことが基本です。
裁判例・裁決例が示すとおり、毎期継続的に発生し会社の主要な収益源となっている利益は、固定資産の売却益であっても非経常的とは認められません。
- 株式評価で否認リスクがある方
- 相続・事業承継予定の方
- 類似業種比準で悩んでいる方
「非経常的利益の判断は税務調査で否認リスクが高いポイントです。株式評価でお悩みの方は、当事務所までご相談ください。」
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