4回【尼崎の税理士が解説】老人ホーム入居と居住用財産の3,000万円控除|措置法通達31の3-5の適用要件と「空き家特例・小規模宅地」との違い

税理士法人松野茂税理士事務所 4回【尼崎の税理士が解説】老人ホーム入居と居住用財産の3,000万円控除

高齢の親が老人ホームへ入居した後に、自宅を売却するケースは少なくありません。

このとき問題になるのが、「すでに自宅に住んでいないのに、居住用財産の3,000万円特別控除が使えるのか」という点です。

結論として、老人ホームへの入居が介護・療養・身体上または精神上の理由など、生活上やむを得ない事情によるものであり、入居後も家財道具が残され、いつでも自宅へ戻れる状態が維持されている場合には、老人ホーム入居後でも「居住の用に供していた家屋」として3,000万円控除を検討できる場合があります。

一方で、老人ホーム入居後に自宅を第三者へ貸した場合、家財をすべて撤去した場合、売却前に建物を取り壊した場合などは、居住用財産としての要件を満たさなくなる可能性があります。

また、本人が生前に自宅を売却する場合の「居住用財産の3,000万円控除」と、相続後に相続人が売却する場合の「空き家特例」、相続税の「小規模宅地等の特例」は、それぞれ制度が異なります。

この記事では、老人ホーム入居後に自宅を売却する場合の3,000万円控除について、措置法通達31の3-5の考え方を中心に、空き家特例・小規模宅地等の特例との違いも含めて税理士実務の視点から解説します。


🔍 はじめに

高齢者の生活環境の変化により、本人が自宅を離れて老人ホームへ入居するケースが増えています。
そのような場合に、マイホーム売却時の「居住用財産の3,000万円特別控除(措置法31条の3)」が使えるのか?
これは実務で頻繁に相談を受ける論点です。

結論から言うと、一定の条件を満たす場合には、
老人ホーム入居後でも「居住の用に供していた」とみなすことが可能です。
その判断基準を定めたのが「措置法通達31の3-5(老人ホーム入居者の取扱い)」です。 

目次

老人ホーム入居後でも3,000万円控除は使えるのか


結論として、老人ホームへ入居したからといって、直ちに居住用財産の3,000万円特別控除が使えなくなるわけではありません。

介護や療養など生活上の必要性による入居であり、入居後も自宅に家財が残され、生活の本拠として維持されている場合には、居住用財産として取り扱える可能性があります。

ただし、老人ホーム入居後に自宅を貸した場合、家財を撤去した場合、建物を取り壊した場合には、居住用性が失われる可能性があるため注意が必要です。

🟩 租税特別措置法第31条の3第1項

居住の用に供していた家屋又はその敷地を譲渡した場合において、
その居住をやめた日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡したときは、
3,000万円の特別控除の適用がある。


⚖️ 【措置法通達31の3-5】(老人ホーム入居者の取扱い)

納税者がその居住の用に供していた家屋を所有していた者が、
身体上又は精神上の理由により、自宅での生活が困難となり、老人ホームに入居した場合であっても、
次のいずれの要件も満たすときは、
その入居期間中においても「居住の用に供していた家屋」として取り扱って差し支えない。

① 入居が生活上の必要性によるものであること。

② 入居後も家財道具などが残され、いつでも帰宅できる状態が維持されていること。

🟢 → この通達により、「やむを得ない事情による入居」であれば、
形式的には住んでいなくても“居住の用が継続している”と認められます。


🧩 第2章 要件の解説

要件内容実務上のポイント
生活上の必要による入居介護・療養・身体機能の低下など、日常生活の維持が困難なための入居転勤・別居など自発的な移転は対象外
家財の残存と帰宅可能性家具・寝具・衣類などが残り、生活の本拠として維持されている家財全撤去・賃貸・改装済はNG

👉 ポイントは「生活の本拠がまだ自宅にある」といえるかどうかです。
家財の残存はその判断の客観的根拠になります。


⚠️ 第3章 適用されないケース

状況判定理由
家財をすべて撤去し、老人ホームで生活❌ 居住の用をやめたと判断される
老人ホーム入居後に自宅を貸した❌ 他人の居住用に供されたため
老人ホーム入居後に自宅を取り壊した❌ 居住の用が喪失(通達31-3-4も対象外)
家財を残したまま入居し、定期的に帰宅✅ 居住継続扱い(通達31-3-5の趣旨)

🏠 第4章 空き家特例(措置法35条の3)との関係

この「31条の3-5」は、本人が生前に売却する場合の規定です。
一方、老人ホーム入居中に亡くなった後に、
相続人がその家を売却するケースでは「空き家特例(措置法35条の3)」が適用されます。


🟦 措置法35条の3第2項(被相続人が老人ホームに入居していた場合)

被相続人が死亡の直前において老人ホームに入居していた場合であっても、
当該入居が身体上又は精神上の理由によるものであり、
当該家屋が他人の居住の用に供されていなかったときは、
被相続人がその居住の用に供していた家屋とみなす。

✅ → 被相続人が施設入居中でも、
「介護や療養のための入居」であり「他人が住んでいなければ」、
相続人による売却時に**空き家特例(3,000万円控除)**を適用できます。


💡 第5章 小規模宅地の特例との違い(税目が異なる)

「小規模宅地等の特例(相続税法69条の4)」は、
相続税における土地評価減の制度であり、
譲渡所得(所得税)の特例とは別制度です。


制度法令根拠税目老人ホーム入居時の取扱い
居住用3,000万円控除措置法31条の3(通達31の3-5)所得税本人入居中の救済
空き家特例措置法35条の3所得税被相続人入居中の救済
小規模宅地等の特例相続税法69条の4相続税税目が異なり別判断

💬 専門家コメント

通達31の3-5は、老人ホーム入居後も居住用財産として扱える唯一の救済規定です。
ただし、その前提は「やむを得ない入居」と「生活の本拠が維持されていること」。
家財の残存・帰宅意思があることが実質判定のポイントとなります。

一方、被相続人の場合は35条の3(空き家特例)で救済され、
相続税の小規模宅地特例(69条の4)とは制度目的も対象税目も異なります。


🏁 まとめ

判定区分法条・通達税目主な要件老人ホーム入居時の扱い
本人が老人ホームに入居して売却措置法通達31の3-5所得税生活上の必要+家財残存✅ 居住用扱い
被相続人が入居中に死亡 → 相続人が売却措置法35条の3第2項所得税入居が療養等の理由+他人未居住✅ 居住用扱い
相続人が土地を相続して保有相続税法69条の4相続税相続人が引き続き居住⚠ 別制度(評価減)

🔸結論:
老人ホーム入居後でも、「生活上の事情による入居」であり、
家財が残っていて生活の本拠が維持されていれば、
居住用財産の3,000万円特別控除(措置法通達31-3-5)の適用が可能です。

ただし、家財撤去・賃貸・取り壊しを行った場合には「居住用性喪失」となり、特例の対象外になります。

老人ホーム入居後の自宅売却では、「入居理由」「家財の残存」「貸付の有無」「取り壊しの有無」によって結論が変わります。売却前に事実関係を整理しておくことが重要です。

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