配当還元法は使えるか? 同族株主の判定で見落としがちな親等の数え方

配当還元法は使えるか? 同族株主の判定で見落としがちな親等の数え方
目次

~取引相場のない株式の贈与、同族株主の判定は誰から親等を数えるのか~


松野先生、最近こんなご相談がありました。


田中: 先生、老舗企業の分家筋のお客様からご相談がありました。本家筋にあたるめい・おいが筆頭株主として会社を取り仕切っており、分家にあたる贈与者も株式を保有されています。今回、その分家の贈与者が孫に取引相場のない株式を贈与したいというご相談です。お客様は「孫は筆頭株主から数えると7親等だから同族株主以外に該当し、配当還元法が使える」と確信されているのですが、本当にそうでしょうか?

松野: 歴史のある同族会社ではよくあるケースですね。ただ結論から言うと、その判断は誤りです。同族株主の判定における親等の数え方に根本的な誤解があります。

田中: どこが間違っているんですか?

松野: 問題は「誰を起点にして親等を数えるか」です。お客様は筆頭株主を起点に数えていますが、それは財産評価基本通達の考え方とは違います。また、納税義務者から数えるのでもありません。


事例の概要

まず、今回の株主構成と親族関係を整理してみましょう。

【株主構成】

株主持株割合備考
贈与者15%分家・相談者本人
子(贈与者の)4%
従甥・従姪(いとこおい・いとこめい)60%本家筋・筆頭株主
0%今回贈与を受ける予定

【親族関係】
祖父 → 父(贈与者の父)・父の兄弟
→ 贈与者・従兄弟(父の兄弟の子)
→ 子
→ 孫(今回の受贈者)
※ 従甥・従姪(いとこおい・いとこめい)は父の兄弟の子(従兄弟)の子にあたります

配当還元法は使えるか? 同族株主の判定で見落としがちな親等の数え方

なぜ「従甥・従姪(いとこおい・いとこめい)から7親等」は正しくないのか

田中: お客様の計算では、めい → 父の兄弟の子 → 父の兄弟 → 祖父 → 父 → 贈与者 → 子 → 孫 で7親等と数えていました。計算自体は合っていますよね?

松野: 親等の数え方の計算は合っています。めいを起点に数えれば確かに孫は7親等です。しかし、財産評価基本通達188における同族関係者の判定は、**各株主それぞれを起点として」**親等を数えるのが正しい考え方です。贈与者及び贈与者の父の兄弟の子からも判定する必要があります。

田中: つまり、贈与者を起点にして数え直すということですか?

松野: そのとおりです。贈与者を起点に数えると、孫は直系卑属の2親等です。6親等以内の血族は同族関係者に該当しますから、孫は明らかに会社の同族株主となります。


「全株主を起点」の条文上の根拠

財産評価基本通達188の該当箇所

「課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が…」


「株主の1人」の解釈

この**「株主の1人」**という表現が根拠です。

読み方意味
「株主の1人特定の誰かではなく不定の任意の1人
条文の構造「株主のうちのいずれの1人についても」と読む
結果として全株主を順番に起点として判定せよという意味になる

まとめ

「株主の1人」
  ↓
特定株主ではなく「任意の1人」
  ↓
全株主それぞれを起点として判定
  ↓
いずれかの起点で該当すれば同族株主

「株主の1人」という不定表現こそが、全株主を起点とする根拠です。

国税局 同族株主の判定 リンク
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/05/01.htm
国税局 株式及び出資188 リンク
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/04.htm

同族株主グループの議決権を合計する

田中: 贈与者のグループでまとめると、どうなりますか?

松野: 贈与者を起点として各株主の親等を整理すると次のとおりです。

株主贈与者からの親等同族関係者への該当
1親等(直系卑属)✅ 該当
2親等(直系卑属)✅ 該当
父の兄弟(おじ)3親等(傍系血族)✅ 該当
従兄弟4親等(傍系血族)✅ 該当
従甥・従姪(いとこおい・いとこめい)5親等(傍系血族)✅ 該当

そうすると、グループ全体の議決権合計は

贈与者15% + 子4% + めい・おい60% = 79%

50%超ですから、このグループは同族株主グループに該当します。孫はこのグループのメンバーですので、同族株主です。「同族株主以外の株主」には該当しません。

田中: なるほど。お客様の勘違いは、本家筋の筆頭株主であるめいを起点にして親等を数えてしまったことだったんですね。

松野: そういうことです。「一番株を持っているめいから数える」という発想は一見もっともらしく聞こえますが、通達の仕組みとは全く異なります。すべての株主を個別に起点として同族関係者の範囲を確認する、これが正しい考え方です。歴史ある同族会社では本家・分家という意識が強いだけに、こうした誤解が生じやすいといえます。


では配当還元法は一切使えないのか?

同族株主のいる会社 原則法 配当還元法 フローチャート

田中: 孫が同族株主なら、配当還元法は完全に諦めるしかないんでしょうか?

松野: いいえ、あきらめる必要はありません。財産評価基本通達188(3)に別のルートがあります。

田中: どういう要件ですか?

松野: 次の要件をすべて満たせば、同族株主であっても配当還元法が適用できます。

要件内容
取得後の議決権割合が5%未満であること
②-a会社に中心的な同族株主が存在すること
②-b評価対象者(孫)が中心的な同族株主にあたらないこと
評価会社の役員でないこと

田中: ①の「取得後5%未満」という要件ですが、具体的にどう設計すればよいですか?

松野: 方法は2つあります。

ひとつは贈与する株数を5%未満に収まるよう計算して贈与する方法です。

もうひとつは、贈与者の保有株式を無議決権株式に転換する方法です。贈与者の株式に議決権がなくなると分母の議決権総数が減りますので、孫の取得後の議決権割合が下がり、5%未満の要件を満たしやすくなります。あるいは孫が取得する株式そのものを無議決権株式とする方法もあり、この場合は株数にかかわらず議決権割合は0%となります。なお、種類株式の活用には定款変更が必要ですので、事前に専門家にご相談ください。

田中: ②の中心的な同族株主の確認はどうなりますか?

松野: 「中心的な同族株主」とは、その株主1人と配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等姻族の議決権合計が25%以上の株主をいいます。今回は本家筋の従甥・従姪(いとこおい・いとこめい)が単独で60%を保有していますから、めい・おいが中心的な同族株主に該当します。②-aは明らかに満たします。

②-bについては、孫の取得後の持株はわずかですから、孫の配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等姻族を合計しても25%には到底届きません。よって孫は中心的な同族株主にあたらないことが確認できます。

については、孫が役員でなければ満たします。

田中: 要件をすべて満たせれば、同族株主であっても配当還元法が使えるということですね。

松野: そのとおりです。特に①の「取得後5%未満」は贈与株数の設計そのものですから、何株贈与するかを事前に精緻に計算しておくことが非常に重要です。


まとめ

田中: 今日のポイントを整理していただけますか?

松野: 今回の事例のポイントは3点です。

① 同族関係者の親等は「各株主を起点」として数える
本家筋の筆頭株主や特定の株主を起点にするのではなく、判定したい株主(今回は贈与者)を起点に6親等以内の血族かどうかを確認します。孫は贈与者の2親等であり、同族関係者です。従甥・従姪(いとこおい・いとこめい)から数えた7親等という発想は通達の考え方とは異なります。

② グループ全体の議決権で同族株主グループを判定する
贈与者グループ全体で79%の議決権を持ち、50%超のため同族株主グループに該当します。分家の孫もこのグループのメンバーとして同族株主となります。

③ 配当還元法の適用には通達188(3)のルートを活用する
同族株主であっても、①取得後議決権が5%未満、②会社に中心的な同族株主(めい・おい)が存在しかつ評価対象者(孫)が中心的な同族株主にあたらない、③役員でない、の要件をすべて満たせば配当還元法の適用が可能です。贈与株数の精緻な設計、あるいは無議決権株式の活用が重要なポイントになります。


取引相場のない株式の贈与は、財産評価基本通達の精緻な理解と丁寧なスキーム設計が不可欠です。本家・分家が入り組んだ同族会社ほど判定が複雑になりますので、「配当還元法が使えるかどうか」を贈与実行前に必ず専門家にご確認ください。
【ご注意】

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。実際の判定は株主構成・親族関係により異なりますので、個別案件については専門家にご相談ください。


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