取引相場のない株式の評価見直し|国税庁有識者会議の影響を税理士が解説(2026年)

取引相場のない株式の評価見直し|国税庁有識者会議の影響を税理士が解説(2026年)
目次

はじめに

令和8(2026)年4月20日、国税庁は「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第1回会合を開催しました。この会議は、中小企業オーナーの相続・事業承継に直結する非常に重要な動きです。
今後、自社株の評価額は“上がる可能性が高い”ため、早めの対策が重要です。
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現在の評価制度は昭和39(1964)年に設けられたもので、60年以上が経過しています。このたびの見直しが実現すれば、1964年の通達制定以来初めての抜本的改革となります。

本記事では、有識者会議の開催背景・検討内容・今後のスケジュールを詳しく解説します。


1.そもそも「取引相場のない株式」の評価とは

取引相場のない株式(非上場株式)とは、証券取引所に上場されていない会社の株式です。中小企業の経営者が保有する自社株がこれに当たります。

相続税・贈与税の申告においては、財産評価基本通達に基づき、以下の評価方式によって株価を算定します。

原則的評価方式(同族株主等が取得する場合)

評価方式対象会社規模概要
類似業種比準方式大会社上場会社の株価を基準に、配当・利益・純資産の3要素で比準
併用方式中会社類似業種比準方式と純資産価額方式を一定割合で組み合わせ
純資産価額方式小会社会社の正味財産(相続税評価額ベース)で評価

特例的評価方式(少数株主等が取得する場合)

評価方式対象概要
配当還元方式同族株主以外の少数株主年配当金額を還元率10%で割り戻して評価

2.なぜ今、見直しが必要なのか?──会計検査院の指摘

令和5年度決算検査報告(令和6年11月)による問題提起

令和6(2024)年11月6日、会計検査院は「令和5年度決算検査報告」において、取引相場のない株式の評価について重大な問題点を指摘しました。

問題点①:類似業種比準価額と純資産価額の大幅なかい離

会計検査院が令和2・3年分の申告データを分析した結果、以下の実態が明らかになりました。

  • 類似業種比準価額の中央値:11,622円
  • 純資産価額の中央値:42,648円
  • 乖離率:類似業種比準価額は純資産価額の わずか27.2%

さらに、純資産価額に対する申告評価額の割合(中央値)を会社規模別に見ると、次のとおりです。

会社規模申告評価額 ÷ 純資産価額(中央値)
大会社0.32倍
中会社0.50倍
小会社0.61倍

会社規模が大きいほど申告評価額が純資産価額から大きく乖離しており、「異なる規模区分の評価会社間で評価の公平性が確保されていない」と指摘されました。

この背景には、1966年から2017年にかけて累次の通達改正で類似業種比準価額が低く算定される方向に改正が重ねられてきたことがあります。また、評価対象会社の80%超が直前期末において全く配当を支払っていないため、配当・利益・純資産の3要素の比準において実質的に2要素しか機能しない構造的な問題もあります。

問題点②:配当還元方式の還元率(10%)が時代遅れ

配当還元方式で用いる還元率10%は昭和39(1964)年の通達制定時に設定されたもので、制定以来一度も見直されていません。ところが、日本の長期国債の流通利回りは1998年以降おおむね2%以下で推移しており、60年前に設定された10%という還元率は現在の金利環境とかけ離れた水準となっています。

この結果、配当還元価額が相対的に低く算定されすぎており、特例的評価方式としての適切な機能を果たしていないおそれがあると指摘されました。

問題点③:評価格差を利用した租税回避スキームの横行

国税庁自身も、評価方式によって生じる格差を利用して意図的に会社規模区分を変えたり、特定評価会社の要件を外したりするスキームが現に存在することを認識しています。こうしたスキームに対しては評価通達6項(総則6項)による個別対応で対処してきましたが、近年その適用に関する訴訟が増加しており、納税者の予見可能性という観点からの批判も高まっています。


3.「有識者会議」の概要

正式名称・開催日

「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」第1回会合 令和8(2026)年4月20日(月)開催

座長・委員構成(全13名)

座長:佐藤英明教授(慶應義塾大学大学院法務研究科・租税法)

委員は学者7名のほか、日本税理士会連合会、日本商工会議所、日本M&Aセンター、野村資産承継研究所(元国税庁長官)など、学術・実務・事業者の各界を代表するメンバーで構成されています。


4.第1回会合で示された「4つの基本的観点」と主な検討論点

国税庁は今回の見直しにあたり、以下の4つを基本的な観点として提示しました。

観点①:評価の公平性の確保

異なる規模区分の会社間で評価額に大きな格差が生じている問題を解消し、納税者間の公平性を確保します。

観点②:社会経済の変化への対応

昭和39年の通達制定以来の金利環境・経済環境の大幅な変化を踏まえ、時代に即した評価方式・比準要素・還元率への見直しを行います。

観点③:中小企業の円滑な事業承継への配慮

できる限り広い企業に統一的に適用でき、かつ中小企業の円滑な事業承継を阻害しない評価方法を検討します。

観点④:租税回避スキームへの対応

恣意的に評価額を圧縮する手法についても、評価制度のルールの中で対応できる仕組みを構築し、総則6項に依存しない明確なルールを確立します。


5.具体的な検討論点

① 会社規模区分の見直し(「崖」問題の解消)

現行制度では会社規模の境目で評価額が急激に変動する「崖」が存在します。例えば、大会社と中会社の境界付近では、わずかな規模の違いで評価額が大きく変わってしまいます。この問題を解消するための規模区分の見直しが検討されます。

② 類似業種比準方式の抜本的見直し

  • 比準要素(配当・利益・純資産)のウェイト変更:実態に合わない配当要素の取り扱いを見直し
  • 各要素の算定方法の見直し:評価会社の業績・収益力をより正確に反映する算式への改定
  • 類似業種株価の選択範囲の見直し:現行の選択肢の適切性の検証

③ 配当還元方式の還元率の見直し

昭和39年以来据え置かれてきた10%の還元率を、現在の金利環境を踏まえた水準に引き下げる方向での見直しが検討されます。還元率が引き下げられると、配当還元価額は上昇します(評価額が高くなる方向)。

④ 企業価値評価の学術研究・実務手法の反映

税務以外の企業価値評価手法(DCF法等のインカムアプローチ)も参考にしつつ、継続企業の前提のもとで個々の企業の収益力等を反映できる評価方法の検討が行われます。

⑤ 評価制度の法定化の検討

現在、評価方法は財産評価基本通達(行政通達)に定められていますが、税務大学校の研究論文等では評価方式の算式等を法令に定める「法定化」も選択肢の一つとして議論されています。


6.今後のスケジュール(予定)

時期予定内容
令和8年4月20日第1回有識者会議開催(実施済み)
令和8年(2026年)内有識者会議による論点取りまとめ
令和8年12月令和9年度(2027年度)税制改正大綱の決定
令和9年度(2027年度)税制改正で評価方法の改正が実現
令和10年(2028年)1月以降改正後の通達適用開始

7.実務への影響と注意点

現行の相続・事業承継対策への影響

今回の有識者会議で示された検討方向からは、以下のような実務的影響が考えられます。

(1)類似業種比準価額の上昇可能性 比準要素のウェイト変更や算式の見直しにより、これまで類似業種比準方式で低く評価されていた株価が上昇する可能性があります。特に大会社・中会社では評価額が大幅に増加するケースが出てくるかもしれません。

(2)会社規模区分の操作スキームの封じ込め 大会社区分を外すために資産を圧縮したり、従業員数を調整したりするスキームが通達改正で明示的に封じられる可能性があります。

(3)配当還元方式による評価額の上昇 還元率が引き下げられると、少数株主が相続・贈与で取得する株式の評価額が現行より高くなります。

(4)特定評価会社スキームへの影響 株式等保有特定会社・土地保有特定会社の判定基準や、S1+S2方式等の簡易評価方法も見直しの対象となりうるため、現行スキームの有効性を再検討する必要が生じる可能性があります。

実務上の対応方針

  • 改正通達の施行前に相続・贈与が発生するケースでは、現行制度を前提とした対策が引き続き有効です。
  • ただし、今後の会議の議論状況を注視し、改正の方向性が明確になった時点で速やかに対策の見直しを行うことが重要です。
  • 改正後の通達適用は令和10年(2028年)1月以降と見込まれており、令和9年(2027年)末までは現行制度での対策が可能と考えられます。
  • なお、通達改正に先行して組織再編等の「対策スキーム」に対して総則6項を適用した課税処分が行われるリスクは今後も残ります。最高裁令和4年4月19日判決(総則6項適用事案)の射程には十分ご注意ください。

8.まとめ

今回の有識者会議の開催は、1964年の財産評価基本通達制定以来60年以上にわたって維持されてきた取引相場のない株式の評価制度が、いよいよ抜本的に見直される歴史的な転換点を意味します。

中小企業オーナーや経営者の方にとって、この改正は相続税・事業承継対策に直接的かつ重大な影響を及ぼすものです。

当事務所は今後の有識者会議の動向を継続的にフォローし、最新情報をお届けしてまいります。自社株評価や事業承継対策についてご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。


【参考】国税庁公表資料

  • 「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)配布資料」(国税庁、令和8年4月20日)
  • 「令和5年度決算検査報告」(会計検査院、令和6年11月6日)

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事務所概要

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