「スタッフに手伝ってもらいたいが、その人が勤めている会社に副業がばれると困る。できれば給与で払いたいが、事情があって業務委託契約にしたい」――こういったご相談を、バーやスナックを経営されているオーナー様からいただくことがあります。
本記事では、バー・スナックの経営者が手伝いを業務委託契約で採用する場合の税務上の留意点について、実務的な観点から解説します。
1.給与にすると「会社にばれる」理由
副業を本業の会社に知られてしまう最大の原因は、住民税です。
給与を支払う場合、経営者(雇用主)は翌年1月末までに市区町村へ給与支払報告書を提出する義務があります。市区町村はこれをもとに住民税を計算し、副業の収入分も加算した税額を本業の勤務先に通知します。勤務先の経理担当者が税額の増加に気づき、副業が発覚するという流れです。
【給与の場合の情報伝達ルート】
バー・スナックが給与支払報告書を提出
↓
市区町村が住民税を計算・増額
↓
本業の勤務先に特別徴収税額通知書が届く
↓
給与天引き額の増加で副業が発覚
2.業務委託契約にするとばれにくい理由
一方、業務委託契約(外注)に基づく報酬として支払う場合は、給与支払報告書を市区町村へ提出する対象にはなりません。
なお、報酬の内容が所得税法第204条に定める源泉徴収対象の報酬・料金等に該当する場合には、税務署への支払調書の提出対象となることがありますが、単なるカウンター内の給仕業務など、源泉徴収対象に該当しない報酬については、支払調書の提出対象にもならないケースがあります。
【業務委託(給仕業務)の場合の情報伝達ルート】
バー・スナックが報酬を支払う
↓
給与支払報告書の提出対象外
支払調書の提出対象にもならない(源泉徴収対象外のため)
↓
市区町村・本業の勤務先には直接通知されない
↓
受託者が確定申告で住民税を普通徴収に選択
↓
本業の勤務先への通知を回避できる
ただし、受託者(手伝う側)が確定申告の際に住民税の徴収方法を「普通徴収」に選択することが前提です。これを選択しないと、副業分の住民税が本業の給与から天引きされ、結果的に会社に発覚することがあります。
なお、自治体によっては給与所得者の普通徴収を認めない場合もあり、100%確実な方法ではない点もあわせてお伝えしておく必要があります。
【ご注意】
業務委託契約にした場合でも、副業が本業の勤務先に絶対に知られないわけではありません。住民税の普通徴収を選択することで、本業の給与から副業分の住民税が天引きされるリスクを下げることはできますが、自治体の取扱いや申告内容によっては、勤務先に把握される可能性が残ります。
また、就業規則で副業が禁止されている場合、副業を行うこと自体が雇用契約上の問題となる可能性があります。税務上の対応と、勤務先の就業規則への対応は別の問題です。副業の可否については、あらかじめ勤務先の規則をご確認ください。
3.業務委託契約が給与と認定されるリスク
「業務委託契約」と名称をつけていても、実態が雇用と変わらない場合は、税務署や社会保険の調査で給与として認定されるリスクがあります。認定されると、源泉所得税の不納付・社会保険料の未加入として追徴が発生します。
税務当局が「実態は雇用」と判断する主なポイントは以下のとおりです。
| 判断要素 | 給与(雇用)寄り | 業務委託寄り |
|---|---|---|
| 仕事の諾否 | 断れない・シフト強制 | 自由に断れる |
| 指揮命令 | 細部まで指示を受ける | 自己の裁量で遂行 |
| 専属性 | 他店での就労が禁止 | 掛け持ち・兼業が自由 |
| 報酬の決め方 | 会社が一方的に決定 | 双方の合意で決定 |
| 請求手続き | 会社が計算・支払う | 受託者が請求書を発行 |
| 消費税 | 加算なし | 委託料に消費税を加算 |
「契約書の名称」より「業務の実態」が優先されます。契約書の内容と実際の運用を一致させることが最も重要です。
4.ホステス報酬に該当しない業務であれば源泉徴収は不要
バー・スナックへの報酬に関して、よく混同されるのがホステス報酬の取り扱いです。
所得税法第204条第1項第6号では、ホステス・コンパニオンなどへの報酬について、支払側に源泉徴収義務を課しています。その計算式は以下のとおりです。
源泉徴収税額 =(支払金額 ― 5,000円 × 報酬計算期間の日数)× 10.21%
※この日数は、実際の出勤日数ではなく、報酬計算期間の初日から末日までの全日数です。
しかし、バー・スナックのカウンター越しにドリンクを調合・提供したり、注文を受けて商品を運ぶような給仕業務は、「ホステス」には該当しません。
国税庁の取り扱いによれば、ホステスとは「客の接待(話し相手・遊び相手となることを含む)をすることを主たる業務とする者」をいいます。客席に同席し、特定の顧客と談笑・お酌をする行為が主たる業務でなければ、ホステス報酬には該当しません。
| 業務の内容 | ホステス該当 | 源泉徴収 |
|---|---|---|
| カウンター越しのドリンク調合・提供 | × | 不要 |
| 注文受付・商品提供(給仕)のみ | × | 不要 |
| 客席に同席・会話・お酌が主たる業務 | ○ | 必要 |
| カラオケの相手・指名制度あり | ○ | 必要 |
ポイント
バー・スナックであっても、カウンター越しの給仕業務のみを行い、客席への同席・接待を行わない場合は、業務委託契約に基づく報酬はホステス報酬に該当せず、支払側(経営者)に源泉徴収義務は生じません。
ただし、業務の実態として客席に同席し接待行為を行っている場合は、契約書の名称にかかわらずホステス報酬として源泉徴収義務が発生しますので注意が必要です。
5.業務委託契約書のポイント
業務委託の実態を明確にし、税務調査に備えるため、契約書には以下の内容を盛り込むことをお勧めします。
① 業務内容の限定(接待行為の禁止を明記)
カウンター内での調合・給仕・清掃等に限定し、「客席への同席および接待行為は行わない」旨を条文に明記します。これにより、ホステス報酬への該当を否定する根拠となります。
② 業務の諾否・兼業の自由を明記
受託者が業務依頼を自由に断れること、他店での掛け持ち・兼業を制限しないことを条文に入れることで、専属性のない独立した事業者であることを示します。
③ 請求書払い・消費税加算を明記
受託者が請求書を発行し、委託者はこれに基づいて支払う形式にします。また、委託料には消費税を別途加算します。給与には消費税がかかりませんので、この2点は業務委託であることの重要な証拠になります。
④ 指揮命令の排除を明記
委託者は業務遂行の具体的方法について細部にわたる指揮命令を行わない旨を明記し、受託者が自己の裁量で業務を遂行することを確認します。
⑤ 源泉徴収不要の根拠を明記
「本委託料は所得税法第204条第1項に定める源泉徴収の対象となる報酬・料金には該当しない」旨を条文に盛り込むことで、後日の誤解を防ぎます。
6.手伝う側(受託者)の税務対応
業務委託で報酬を受け取る側(手伝う人)も、適切な税務対応が必要です。
確定申告
業務委託の報酬は事業所得または雑所得として申告します。給与所得者が副業として業務委託報酬を受け取る場合、給与所得・退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超えると、原則として所得税の確定申告が必要です。なお、20万円以下で所得税の確定申告が不要な場合でも、住民税の申告が必要となることがあります。
住民税の普通徴収を選択
確定申告書の第二表にある「給与以外の所得に係る住民税の徴収方法」で「普通徴収」を選択します。これにより、副業分の住民税は自分で納付書を使って納付する形となり、本業の勤務先への通知を回避できます(自治体によっては対応していない場合もあります)。
必要経費の計上
業務に要した交通費・服装代・その他経費は必要経費として控除できます。領収書・記録を保存しておきましょう。
インボイス(適格請求書)
受託者がインボイス発行事業者に登録している場合は、適格請求書を発行することで、委託者側で仕入税額控除を受けることができます。一方、受託者が免税事業者でインボイス登録をしていない場合は、委託者側の仕入税額控除に制限が生じるため、委託料の設定や取引条件を事前に確認しておく必要があります。
7.まとめ
バー・スナックの手伝いを業務委託契約にする場合のポイントを整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 給与にしない理由 | 給与支払報告書が市区町村に提出され、本業勤務先に住民税増加が通知されるため |
| 業務委託の効果 | 支払調書は税務署のみへの提出。受託者が普通徴収を選択すれば勤務先への通知を回避しやすい |
| 源泉徴収 | カウンター越しの給仕業務はホステス報酬に非該当のため、源泉徴収不要 |
| 給与認定リスク回避 | 諾否の自由・兼業の自由・請求書払い・消費税加算・指揮命令の排除を契約書と実態の両方で整備 |
| 受託者の義務 | 確定申告(事業所得・雑所得)+住民税の普通徴収選択 |
税理士からひとこと
業務委託契約は、あくまで実態を伴うものでなければ税務上の効果が得られません。「契約書だけ業務委託にすればよい」という考え方は危険です。実態が雇用と変わらない場合は給与認定リスクがあり、源泉徴収の不納付や社会保険料の追徴が生じることがあります。
【参考】業務委託契約書の見本
以下は、バー・スナックにおけるカウンター内給仕業務を業務委託とする場合の契約書の見本です。実際にご利用の際は、個別の事情に応じて内容をご確認・修正のうえ、専門家にご相談ください。
【ご利用にあたっての注意】
本契約書は、バー・スナックにおけるカウンター内の給仕・調合・清掃等を業務委託とする場合の一例です。実際の業務内容が、客席への同席、接待、話し相手、お酌、指名対応などを主たる内容とする場合は、ホステス報酬または給与として取り扱われる可能性があります。契約書の名称ではなく、実際の勤務実態により判断されますので、個別の事情に応じて専門家へご相談ください。
業 務 委 託 契 約 書
(以下「委託者」という。)と (以下「受託者」という。)とは、委託者の営む飲食店における業務委託に関し、以下のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(業務の内容)
委託者は、受託者に対し、次の各号に定める業務を委託し、受託者はこれを受託する。
① カウンター内におけるドリンクの調合・提供業務
② 来店客への注文受付および商品提供業務(給仕業務)
③ グラス・備品等の洗浄・片付け業務
④ 店内清掃・開閉店準備業務
⑤ その他前各号に付随し、双方が事前に合意した業務
2 受託者は、前項の業務遂行にあたり、客席に同席し特定顧客の接待・話し相手となる行為は行わないものとする。
第2条(業務の独立性・指揮命令の排除)
受託者は、独立した事業者として自己の裁量および判断のもとに業務を遂行するものとし、委託者との間に雇用関係は一切生じない。
2 委託者は、店舗運営上必要な範囲で業務内容の確認を行うことができるが、受託者に対し、業務遂行の具体的方法・手順について細部にわたる指揮命令を行わないものとする。
3 受託者は、本業務に関して自己の技術・判断を独立して行使するものとし、業務遂行にあたり委託者の具体的指示に従う義務を負わない。
第3条(業務の諾否および兼業の自由)
受託者は、委託者からの業務依頼を自己の都合により自由に承諾または断ることができるものとし、委託者はこれを強制することはできない。
2 受託者は、本契約期間中においても、他の事業者から業務を受託し、または他店舗において就労・業務提供することができる。委託者は、受託者の兼業・副業を制限しない。
3 業務を実施する日時は、双方が協議のうえ決定するものとし、委託者が一方的にシフトを強制することはできない。
第4条(委託料および請求手続)
委託者は、受託者に対し、本業務の対価として以下のとおり委託料を支払う。
| 基本委託料 | 1時間あたり金 円を目安とし、実際に提供された業務内容・時間数に基づき受託者が請求書により請求する(税抜) |
| 深夜帯加算(22時〜翌5時) | 基本委託料の 割増 |
| 消費税 | 委託料(税抜額)に消費税を別途加算する |
| 支払時期 | 受託者からの請求書受領後 日以内 |
| 支払方法 | 受託者指定口座への銀行振込(振込手数料は委託者負担) |
2 受託者は、業務提供のつど(または任意の期間をまとめて)委託者に対して請求書を発行するものとする。委託者は、当該請求書を受領した日から所定の日数以内に受託者指定口座へ振り込むことにより支払いを行う。
3 本委託料は消費税法上の課税仕入れに該当し、受託者がインボイス発行事業者として適格請求書を交付した場合、委託者は仕入税額控除を適用することができる。
4 本契約に基づく委託料は、第1条に定めるカウンター内での給仕・調合・清掃等の業務に対する対価であり、客席への同席、接待、話し相手となる行為その他ホステス業務の対価ではないことを確認する。ただし、実際の業務内容が所得税法第204条第1項第6号に定めるホステス等の報酬・料金に該当する場合には、委託者は法令に従い源泉徴収を行うものとする。
第5条(業務記録)
受託者は、業務を提供した日時・時間数を記録し、請求書発行の際に当該記録を添付するものとする。
2 委託者および受託者は、請求書・業務記録その他本業務に関する資料を、法令に従い保存するものとし、少なくとも7年間保存するよう努める。
第6条(経費の負担)
業務遂行に必要な材料・道具・設備は委託者が用意する。
2 受託者は、独立した事業者として、本業務の遂行に必要な服装、交通費その他自己に帰属する費用を自己の責任で負担するものとする。
第7条(再委託)
受託者は、委託者の書面による事前承諾を得た場合、本業務の全部または一部を第三者に再委託することができる。
第8条(秘密保持)
受託者は、本契約の遂行により知り得た委託者および来店客に関する一切の情報を、正当な理由なく第三者に開示・漏洩してはならない。この義務は本契約終了後も3年間存続する。
第9条(損害賠償)
受託者は、自己の責に帰すべき事由により委託者に損害を与えた場合、これを賠償する責任を負う。
第10条(契約期間)
本契約の有効期間は、 年 月 日から 年 月 日までとする。
2 契約期間満了の1ヶ月前までに、双方いずれからも書面による更新拒絶の申し出がない場合は、同一条件で1年間自動更新するものとし、以後同様とする。
第11条(中途解約)
委託者および受託者は、相手方に対して1ヶ月前に書面で予告することにより、本契約を解約することができる。
2 相手方が本契約に違反し、相当期間を定めて催告してもなお是正されない場合は、直ちに本契約を解除することができる。
第12条(準拠法および管轄)
本契約は日本法に準拠するものとし、紛争については委託者の所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第13条(協議解決)
本契約に定めのない事項または解釈に疑義が生じた場合は、双方誠意をもって協議し解決するものとする。
本契約の成立を証するため、本書を2通作成し、委託者および受託者それぞれ署名捺印のうえ、各1通を保持する。
年 月 日
| 【委 託 者】 住 所 〒 屋号・商号 代表者氏名 ㊞ | 【受 託 者】 住 所 〒 氏 名 ㊞ 生年月日 年 月 日 |
税理士法人松野茂税理士事務所
〒660-0861 兵庫県尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F
(阪神尼崎駅西口南側 徒歩1分)
TEL:06-6419-5140 / FAX:06-6423-7500








