はじめに
スタッフ:先生、最近お客様から「不動産を買うときから売るときまで、どんな税金がかかるのか全体像を教えてほしい」というご相談が増えています。
松野先生:いい質問やね。不動産の税金は「取得・保有・売却(出口)」の3つのステージで考えるのが基本です。それぞれのステージで違う税目が登場するから、全体像を押さえておかないと意外なところで税負担が発生してしまう。今日はそれを網羅的に整理しましょう。賃貸用不動産で特に重要な消費税の論点も含めて解説します。
第1章 不動産を取得するときにかかる税金・費用
1-1 仲介手数料
スタッフ:まず仲介手数料ですね。これは税金ではないですが、取得時の主要な費用です。
松野先生:そうです。宅地建物取引業法46条で上限が定められていて、速算式は次のとおりです。
| 売買価格 | 上限額(税抜) |
|---|---|
| 200万円以下 | 売買価格 × 5% |
| 200万円超〜400万円以下 | 売買価格 × 4% + 2万円 |
| 400万円超 | 売買価格 × 3% + 6万円 |
| 800万円以下の低廉物件 (令和6年7月〜) | 売主・買主それぞれ最大30万円(税抜) |
スタッフ:2024年7月から空き家対策で改正があったと聞きました。
松野先生:よく覚えていますね。令和6年7月1日施行の「低廉な空家等の媒介特例」で、売買価格800万円以下の物件は、売主・買主それぞれ最大30万円(税抜)=33万円(税込)が上限となりました。空き家流通を促進するための改正です。
1-2 印紙税
松野先生:不動産売買契約書には印紙税がかかります。令和9年3月31日まで軽減税率が適用されています。
| 契約金額 | 本則 | 軽減税率 |
|---|---|---|
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 2万円 | 1万円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
| 1億円超〜5億円以下 | 10万円 | 6万円 |
1-3 登録免許税
スタッフ:所有権移転登記のときの税金ですね。
松野先生:はい。固定資産税評価額を課税標準として、税率を乗じます。
| 登記の種類 | 本則税率 | 軽減税率 |
|---|---|---|
| 土地の売買による所有権移転 | 2.0% | 1.5%(令和11年3月31日まで) |
| 住宅用家屋の売買 | 2.0% | 0.3%(令和9年3月31日まで、自己居住用要件あり) |
| 抵当権設定 | 借入額 × 0.4% | 住宅取得資金は0.1% |
住宅用家屋の軽減は床面積50㎡以上、自己居住用、新築または取得後1年以内の登記などの要件があります。
1-4 不動産取得税
松野先生:ここは多くの方が見落としがちなポイントです。取得後6か月〜1年半後に都道府県から納税通知書が突然届きます。
標準税率と特例(令和9年3月31日まで)
| 区分 | 本則 | 特例税率 |
|---|---|---|
| 土地・住宅 | 4% | 3% |
| 住宅以外の家屋 (事務所・店舗等) | 4% | 4%(軽減なし) |
宅地評価土地の課税標準1/2特例もあり、土地は固定資産税評価額の1/2が課税標準となります。
新築住宅の軽減:評価額から1,200万円控除(認定長期優良住宅は1,300万円、令和8年度改正で5年延長され令和13年3月31日まで)
スタッフ:ワンルームマンション投資の相談を受けたことがあるんですが、軽減が受けられないと聞きました。
松野先生:重要な論点です。戸建以外の貸家住宅は、1戸あたり40㎡以上240㎡以下でないと軽減対象になりません。一般的なワンルームマンション(20〜25㎡程度)はこの要件を満たさないため、建物に1,200万円控除が適用されず、土地軽減も受けられません。投資判断に影響する重要情報です。
【参考:自己居住用住宅の床面積要件】
・令和8年3月31日までの取得:50㎡以上240㎡以下
・令和8年4月1日以降の取得:40㎡以上240㎡以下に緩和
※戸建以外の貸家住宅は従前から40㎡基準で変更ありません。
中古住宅は自己居住用のみ軽減対象で、賃貸用中古マンションを購入しても建物・土地ともに軽減なしです。
1-5 消費税
松野先生:取得時の消費税について整理しましょう。
| 取得対象 | 消費税 |
|---|---|
| 土地の購入 | 非課税(消法6条、別表第二1号) |
| 建物の購入(売主が課税事業者) | 課税(10%) |
| 仲介手数料 | 課税(10%) |
| 司法書士報酬 | 課税(10%) |
| 登録免許税・印紙税・不動産取得税 | 不課税 |
スタッフ:売主が個人の場合は建物も非課税ですか?
松野先生:そのとおりです。売主が事業者でない個人の場合は建物も非課税となります。事業者が売主の場合のみ建物部分に消費税が課されます。マイホーム購入で個人売主から買う中古住宅は建物分の消費税がかからない、ということです。
1-6 取得時費用は「取得価額」か「経費」か
松野先生:ここは法人クライアントには必ずお伝えする論点です。
| 費用項目 | 法人 | 個人(業務用) | 個人(自宅等) |
|---|---|---|---|
| 仲介手数料 | 取得価額 | 取得価額 | 取得費 |
| 登録免許税 | 選択可 | 必要経費 | 取得費 |
| 不動産取得税 | 選択可 | 必要経費 | 取得費 |
| 司法書士報酬 | 選択可 | 必要経費 | 取得費 |
| 印紙税 | 選択可 | 必要経費 | 取得費 |
| 固定資産税精算金 | 取得価額 | 取得価額 | 取得費 |
法人の場合は損金算入か取得価額算入かを選択できるため、初年度の利益状況に応じて有利選択が可能です。
第2章 不動産を保有するときにかかる税金
2-1 固定資産税・都市計画税
スタッフ:毎年4〜5月に納税通知書が届く税金ですね。
松野先生:はい。1月1日現在の所有者に対して、市町村が課税します。
| 項目 | 固定資産税 | 都市計画税 |
|---|---|---|
| 標準税率 | 1.4% | 0.3%(上限) |
| 課税標準 | 固定資産税評価額 | 固定資産税評価額 |
住宅用地の課税標準特例は重要です。
| 区分 | 固定資産税 | 都市計画税 |
|---|---|---|
| 小規模住宅用地(200㎡以下部分) | 評価額×1/6 | 評価額×1/3 |
| 一般住宅用地(200㎡超部分) | 評価額×1/3 | 評価額×2/3 |
スタッフ:空き家を解体すると固定資産税が高くなると聞いたことがあります。
松野先生:重要な論点です。住宅用地特例は「住宅が建っているか否か」で適用されるので、更地化すると翌年から最大6倍になります。さらに令和5年改正で、「特定空家等」「管理不全空家等」に指定されると住宅用地特例から除外されることになりました。相続後の空き家放置はリスクが大きくなっています。
新築住宅の固定資産税減額もあります。
| 区分 | 期間 | 減額 |
|---|---|---|
| 一般新築住宅 | 3年間 | 120㎡まで1/2 |
| 3階建以上の中高層耐火住宅 | 5年間 | 120㎡まで1/2 |
| 認定長期優良住宅 | 5年(中高層7年) | 120㎡まで1/2 |
2-2 所得税(不動産所得)
松野先生:賃貸不動産の所得は、原則として不動産所得として総合課税の対象となります(所法26条)。
不動産所得 = 総収入金額 − 必要経費
総収入金額に含めるもの
- 賃料、共益費、礼金、更新料
- 敷金・保証金のうち返還を要しない部分
- 名義書換料、駐車場使用料
主な必要経費
- 減価償却費(建物・建物附属設備)※土地は非減価償却
- 固定資産税・都市計画税
- 修繕費(資本的支出との区分判定が重要)
- 借入金利子(土地等取得分は損益通算制限あり)
- 損害保険料、管理委託料
2-3 事業的規模の判定 ― 原則は実質基準、補助として5棟10室基準
スタッフ:「事業的規模」かどうかで何が変わるんでしょうか。
松野先生:大きく変わります。所得税法上の事業的規模の判定は、所得税基本通達26-9で示されています。原則と例外を正確に押さえる必要があります。
【原則:実質基準】
不動産の貸付けが事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかにより、実質的に判断します。
具体的には、貸付資産の規模、賃貸料の収入状況、管理に係る特別の人的・物的施設の設置等の状況などを総合勘案して判定します。
【形式基準:5棟10室基準】
ただし、実質基準のみでは判定の恣意性が排除できないため、建物の貸付けについては次のいずれかの基準に当てはまれば、原則として事業として行われているものとして取り扱われます(所基通26-9)。
・貸間、アパート等:独立した室数がおおむね10室以上
・独立家屋の貸付け:おおむね5棟以上
スタッフ:形式基準を満たしていなければ、絶対に事業的規模にならないんですか?
松野先生:そうではありません。形式基準を満たさない場合でも、収入規模、管理状況、継続性などから実質的に事業的規模と認められるケースがあります。一方で、形式基準はあくまで目安であるため、特殊な事情がある場合には、貸付けの実態を踏まえた検討が必要です。
事業的規模で認められる主な特典:
| 項目 | 事業的規模 | 業務的規模 |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除 | 最大65万円 (令和9年分以後は最大75万円) | 最大10万円 |
| 青色事業専従者給与 | ○ | × |
| 資産損失(取壊し等) | 全額経費 | 不動産所得を限度 |
| 貸倒損失 | 発生年に全額 | 計上年遡及修正 |
2-3-2 青色申告特別控除の制度推移(令和2年改正&令和8年度改正)
松野先生:青色申告特別控除は、令和2年分から3段階構造(10万・55万・65万)になっていましたが、令和8年度税制改正大綱(令和7年12月19日公表)で大きく見直され、令和9年分以後の所得税から新制度に移行します。実務上、令和9年分(令和10年3月申告)に向けて顧問先の電子化対応を進める必要があります。
【現行制度:令和2年〜令和8年分】
| 控除額 | 要件 |
|---|---|
| 65万円 | 事業的規模 + 複式簿記 + e-Taxによる電子申告または電子帳簿保存 |
| 55万円 | 事業的規模 + 複式簿記(電子化要件を満たさない場合) |
| 10万円 | 上記以外の青色申告者(業務的規模や簡易簿記) |
【改正後:令和9年分以後】令和8年度税制改正大綱(要件は大綱段階のため法令確定情報を要確認)
| 控除額 | 要件 |
|---|---|
| 75万円 (新設) | 複式簿記 + 期限内e-Tax提出 + 仕訳帳・総勘定元帳について電子帳簿保存法に基づく電磁的記録の保存等(優良な電子帳簿) |
| 65万円 | 複式簿記 + 期限内にe-Taxで申告書・貸借対照表・損益計算書等を提出 |
| 55万円 | 廃止(65万円控除に統合) |
| 10万円 | 複式簿記でない場合(書面申告等) ※前々年の収入1,000万円超で簡易簿記の場合は10万円控除も対象外となる方向 |
【改正のポイント】
・「55万円控除」は廃止され、65万円控除に統合
・書面申告(紙申告)は10万円控除のみに縮小
・75万円控除が新設(優良な電子帳簿保存が要件)
・適用は令和9年分以後の所得税から
・住民税への波及は令和10年度から
スタッフ:従来は「電子申告か電子帳簿保存」のどちらか1つで65万円控除でしたが、改正後は両方そろえないと75万円にならないんですね。
松野先生:そのとおりです。「複式簿記+e-Tax」が65万円のスタートラインとなり、書面申告者は10万円控除に大幅減額されます。デジタル化への移行を強く促す改正です。当事務所では弥生会計はじめクラウド会計(freee、マネーフォワード等)への移行サポートも行っておりますので、令和9年分申告に向けて早めのご相談をお勧めいたします。
※令和8年度税制改正は大綱段階であり、法令確定後に内容が変わる可能性があります。最新情報は当事務所までお問い合わせください。
2-4 土地等取得の借入金利子の損益通算制限
松野先生:これは多くの方が知らない重要な論点です。
不動産所得の計算上、損失が生じた場合、その損失のうち土地等を取得するための借入金利子に相当する金額は、他の所得と損益通算できません(措法41条の4)。
スタッフ:つまり、給与所得と相殺できないということですね。
松野先生:そのとおり。借入金利子のうち土地分と建物分を按分計算し、土地分利子は当年の経費にはなりますが、赤字になった場合の損益通算には使えません。減価償却費が大きい初年度や大規模修繕年で赤字になった時に効いてきます。
2-5 個人住民税
松野先生:住民税は所得割10%(市町村6%+道府県4%)が一律で課されます。確定申告をすれば住民税の申告は不要です。均等割は令和6年度から森林環境税1,000円が加わり、合計5,000円となりました。
2-6 個人事業税
スタッフ:不動産貸付業も事業税の対象になりますか?
松野先生:はい、第1種事業として税率5%が課されます。ただし、個人事業税は地方税であり、認定基準は各都道府県の条例・事務提要で定められています。所得税の「5棟10室基準」とは別物で、各都道府県で基準が異なる点に注意が必要です。
当事務所のクライアントが多い兵庫県の認定基準を中心に整理し、近隣の大阪府、参考として東京都の基準と比較します。
【兵庫県の不動産貸付業認定基準】(令和6年3月時点)
| 貸付けの態様 | 認定基準 |
|---|---|
| マンション・アパート・貸間等の部屋貸し | 10室以上 |
| 一戸建住宅 | 10棟以上 |
| 独立家屋以外の建物(事務所・店舗等) | 10室以上 |
| 独立家屋(倉庫等) | 5棟以上 |
| 住宅用土地 | 貸付契約件数10件以上または貸付面積2,000㎡以上 |
| 住宅用以外の土地 | 貸付契約件数10件以上 |
| 建物・土地の併用 | 室数・棟数・土地の貸付契約件数の合計10以上 |
| 補完基準 | 建物の貸付総面積600㎡以上かつ年間賃貸料収入1,000万円以上 |
近隣府県・東京都との比較
兵庫県の基準は近隣の大阪府・京都府とほぼ同一で、東京都もほぼ同じ構造です。ただし、都道府県によっては基準の細部が異なる場合があります(例:神奈川県は補完基準が「600㎡を超え、個人帰属の賃料収入1,200万円超」とより厳しい設定)。
| 項目 | 兵庫県 | 大阪府 | 京都府 | 東京都 | 参考:神奈川県 |
|---|---|---|---|---|---|
| アパート等 | 10室 | 10室 | 10室 | 10室 | 10室 |
| 一戸建住宅 | 10棟 | 10棟 | 10棟 | 10棟 | 10棟 |
| 補完基準(面積) | 600㎡以上 | 600㎡以上 | 600㎡以上 | 600㎡以上 | 600㎡超 |
| 補完基準(収入) | 年1,000万円以上 | 年1,000万円以上 | 年1,000万円以上 | 年1,000万円以上 | 年1,200万円超 |
【重要】関西3府県(兵庫・大阪・京都)と東京都はほぼ統一された基準ですが、都道府県によっては基準の詳細が異なります。実際の判定は、貸付不動産の所在地・事業所所在地等を管轄する都道府県の最新の事務提要・条例を確認するか、所管の都道府県税事務所にお問い合わせください。当事務所では、兵庫県・大阪府の両府県にまたがる賃貸不動産をお持ちのクライアントの個人事業税判定にも対応しております。
スタッフ:所得税の「5棟10室」と違って、住宅も10棟基準なんですね。
松野先生:そのとおり。戸建住宅は10棟必要というのが所得税基準(おおむね5棟)との大きな違いです。所得税で5棟10室基準により青色申告65万円控除を受けていても、個人事業税では「戸建が5棟だけ」だと課税対象外となるケースがあります。所得税と個人事業税は別々の判定が必要です。
【重要】所得税の「事業的規模」と個人事業税の「認定基準」は別物
所得税で青色申告65万円控除を狙って5棟10室を満たしていても、個人事業税で課税対象になるとは限りませんし、その逆もあります。所得税と個人事業税の二重の判定が必要です。
【駐車場業の認定基準】(兵庫県の例。大阪府・京都府・東京都も概ね同様)
| 区分 | 基準 |
|---|---|
| 建築物でない駐車場(青空駐車場・月極等) | 収容可能台数10台以上で課税対象 |
| 建築物である駐車場(屋根付き・立体式・地下式・ガレージ等) | 収容台数を問わず課税対象 |
| 寄託を受けて保管を行うタイプ(預かり駐車場) | 収容台数を問わず課税対象 |
【ポイント】青空月極駐車場で9台以下なら原則非課税
青空(更地)の月極駐車場で収容台数が9台以下の場合は、「駐車場業」としての個人事業税は原則として非課税です。
ただし、同一人が他の不動産貸付と合算して「不動産貸付業」の認定基準(棟数・室数・契約件数の合計10以上)を満たす場合は、課税対象となる点に注意が必要です。
スタッフ:先生がお持ちの月極駐車場も、台数によって変わるんですね。
松野先生:そうです。青空の月極駐車場であれば10台が一つの分岐点になります。一方で、屋根付き・立体式・機械式といった「建築物である駐車場」や、時間貸しで自動車の保管責任を負うタイプ(寄託・預かり駐車場)は、台数に関係なく駐車場業として課税対象です。
コインパーキング会社等への一括貸付の取扱い(令和3年改正)
松野先生:近年の重要論点として、駐車場用地をコインパーキング会社等に一括貸付しているケースがあります。令和3年8月26日の東京高裁判決を受けて、取扱いが整理されました。
【令和3年の取扱い変更】
土地の貸主自身が機械式駐車設備等を設置しておらず、借主であるコインパーキング会社等が第三者に駐車させている場合は、「駐車場業」ではなく「住宅用以外の土地の貸付け(不動産貸付業)」として個人事業税の課税の有無を判断することとされました。
この場合、契約件数が10件未満であれば、原則として個人事業税は課税されません。
青空駐車場で「貸土地」として賃貸契約をしている場合も同様に、駐車場業ではなく「住宅用以外の土地を貸し付けている場合」として認定される点に注意が必要です(兵庫県・大阪府で同様の取扱い)。
【判定の流れ】
①そもそも「駐車場業」か「土地の貸付(不動産貸付業)」か
②駐車場業なら → 青空10台以上/建築物・寄託は台数問わず
③土地の貸付なら → 契約件数10件以上(住宅用以外の土地)
この2段階の判定を経る必要があり、近年は判例も踏まえた慎重な検討が求められます。
事業税 = (不動産所得 − 290万円) × 5%
事業主控除290万円があるため、所得が290万円以下なら税負担はありません。
2-7 法人の場合
法人で不動産を保有する場合の保有時税金は次のとおりです。
| 税目 | 内容 |
|---|---|
| 法人税 | 中小法人:所得800万円以下15%、超部分23.2% |
| 地方法人税 | 法人税額×10.3% |
| 法人住民税 | 法人税割(標準7.0%)+均等割(資本金等により2万円〜) |
| 法人事業税 | 所得800万円以下3.5%、超部分7.0%(標準) |
| 特別法人事業税 | 法人事業税額×37% |
法人実効税率は約33%で、課税所得900万円超なら個人の最高税率(55%)より有利になる目安です。
第3章 賃貸用不動産の消費税【重要論点】
松野先生:ここは特に重要なので、章を独立させて詳しく解説します。賃貸不動産を扱う以上、消費税の基本構造は必ず押さえておく必要があります。
3-1 居住用と事業用で扱いが180度違う
スタッフ:賃貸の家賃には消費税がかかるんですか?
松野先生:これが用途によって全く違うんです。これが賃貸不動産の消費税の出発点です。
| 賃貸の種類 | 消費税 | 根拠 |
|---|---|---|
| 居住用建物の賃貸(1か月以上) | 非課税 | 消法6条、別表第二13号 |
| 事業用建物の賃貸(事務所・店舗・倉庫) | 課税 | 標準10% |
| 土地の貸付け(1か月以上) | 非課税 | 消法6条、別表第二1号 |
| 1か月未満の貸付け | 課税 | ホテル・民泊等 |
スタッフ:区分のポイントは何ですか?
松野先生:賃貸借契約書の用途で判定します。契約書で「居住の用」と明記されていれば非課税、「事務所」「店舗」と明記されていれば課税です。
ただし、契約上は居住用であっても、建物の状況や利用実態が事業用であることが客観的に明らかな場合には、課税取引と判断される可能性があります。判断に迷うケースでは、契約内容と利用実態を踏まえた個別の検討が必要です。
3-2 居住用と事業用の併用住宅
松野先生:1階店舗・2階以上住居のような併用住宅の場合は、床面積按分で課税・非課税を区分します。
店舗部分(30㎡)→ 課税
住居部分(60㎡)→ 非課税
合計床面積90㎡
家賃20万円 × 30/90 = 約6.7万円 → 課税対象
家賃20万円 × 60/90 = 約13.3万円 → 非課税
3-3 駐車場の消費税 ― 先生方が悩む論点
スタッフ:月極駐車場の消費税はどうなりますか?
松野先生:これは判定が分かれる論点です。
| 駐車場の形態 | 消費税 |
|---|---|
| アスファルト舗装・区画線・フェンス等の設備あり | 課税 |
| 機械式駐車場・立体駐車場・コインパーキング | 課税 |
| 単なる更地の貸付け(設備なし、自動車を置いてよいだけ) | 非課税(土地の貸付け) |
| 住宅用建物に付随する駐車場(家賃と一体) | 非課税(住宅家賃に含む) |
判定の決め手:「土地の使用」を貸しているか、「駐車場という役務提供」をしているかという点です。区画線、舗装、フェンス、ロープ等の設備の有無で判断されます。
スタッフ:マンションの駐車場はどうですか?
松野先生:マンション居住者専用で家賃と一体となっている場合は住宅家賃と一体で非課税ですが、外部に貸す場合や別契約で駐車場使用料を徴収する場合は課税となります。
3-4 居住用賃貸建物の仕入税額控除制限(令和2年改正)
松野先生:これは令和2年度税制改正で導入された重要な規制です。
【消法30条10項】
居住用賃貸建物(高額特定資産=税抜1,000万円以上)の課税仕入れについては、仕入税額控除を認めないこととされました(令和2年10月1日以後の取得から適用)。
スタッフ:どういう問題があって導入されたんですか?
松野先生:いわゆる「自販機スキーム」「金地金スキーム」を封じる改正です。居住用賃貸マンションを建てると、家賃収入は非課税なので本来仕入税額控除ができない。しかし、わずかな課税売上(自販機収入や金地金売買)を作って課税売上割合を高め、建物建築費の消費税還付を受けるスキームが横行していました。
これを防ぐため、そもそも居住用賃貸建物の仕入税額控除自体を認めないという強力な規制になったわけです。
【調整計算の救済】
ただし、取得後3年以内に下記の事由が発生した場合は調整計算により仕入税額控除が認められます(消法35条の2)。
- 課税賃貸用途への転用(事務所等への用途変更)
- 譲渡
つまり、当初居住用として建てたが3年以内に事務所用に変更した、または譲渡した場合は、その時点で仕入税額控除を取り戻せます。
3-5 簡易課税の事業区分
松野先生:不動産業を簡易課税で申告する場合の事業区分も整理しておきましょう。
| 業務内容 | 事業区分 | みなし仕入率 |
|---|---|---|
| 不動産業(賃貸、管理、仲介) | 第6種 | 40% |
| 駐車場業(不動産業に分類) | 第6種 | 40% |
| 不動産の清掃・メンテナンス業 | 第5種 | 50% |
| 不動産の販売(仕入れた不動産の販売) | 第1種または第2種 | 90%/80% |
【沿革】
平成27年3月31日以前は、不動産業は第5種事業(みなし仕入率50%)でしたが、平成27年4月1日以後に開始する課税期間から第6種事業(みなし仕入率40%)に変更されました。経過措置として、平成26年9月30日までに簡易課税選択届出書を提出した事業者には、一定期間50%が適用されました。
スタッフ:不動産業は、平成27年の改正でみなし仕入率が下がったんですね。
松野先生:そのとおり。50%から40%への引下げは事業者にとっては不利な改正でした。簡易課税を選択している顧問先には、原則課税との有利不利の再検証が必要だった改正です。
3-6 インボイス制度との関係
松野先生:令和5年10月1日からインボイス制度が始まりました。賃貸不動産での影響を整理します。
| 賃貸の種類 | インボイスとの関係 |
|---|---|
| 居住用建物賃貸 | 非課税のためインボイス発行義務なし |
| 事業用建物賃貸 | 借主が課税事業者ならインボイス発行が必要 |
| 駐車場(課税) | 借主が課税事業者ならインボイス発行が必要 |
【免税事業者の貸主の対応】
事業用テナントを免税事業者の貸主が貸している場合、借主は仕入税額控除ができず実質的に2割程度の負担増となります。賃料の値下げ交渉や、貸主側の課税事業者選択(インボイス登録)の検討が必要です。
【経過措置:令和8年度税制改正で見直し・延長】
免税事業者等からの課税仕入れについては、激変緩和の観点から段階的な仕入税額控除の経過措置が設けられています。令和8年度税制改正大綱で従来の3段階から5段階に多段階化され、最終期限が2年延長されました。
| 期間 | 控除割合 |
|---|---|
| 令和5年10月1日~令和8年9月30日(現行) | 80% |
| 令和8年10月1日~令和10年9月30日(改正で新設) | 70% |
| 令和10年10月1日~令和12年9月30日 | 50% |
| 令和12年10月1日~令和13年9月30日(改正で新設) | 30% |
| 令和13年10月1日以降 | 0%(完全終了) |
【改正のポイント】
・従来は「80%(3年)→50%(3年)→0%」の3段階6年でしたが、「80%→70%→50%→30%→0%」の5段階8年へと激変緩和
・最終的な経過措置の終了時期は令和13年(2031年)9月30日まで2年延長
・免税事業者と取引する課税事業者にとっては、控除できる期間も金額も増える方向の改正
【租税回避防止措置:上限額の引下げ】
一方で、租税回避防止のため、一の免税事業者等からの仕入れの上限額が現行の10億円から1億円に引き下げられます。
従前は「年間10億円超の部分は経過措置対象外」でしたが、「年間1億円超の部分は経過措置対象外」に厳格化。大手企業が免税事業者を介在させた節税スキームを封じる改正です。
【賃貸経営での実務影響】
賃貸用ビル・テナントの修繕・管理委託先に免税事業者がいる場合、令和8年10月以降の控除割合の動きを織り込んだコスト試算が必要です。賃料の値下げ交渉やインボイス登録の検討といった対応の判断材料となります。
【賃貸借契約書とインボイス】
家賃のように毎月固定額が口座振込される取引については、契約書・通帳・請求書を組み合わせてインボイスの記載事項を満たせばよいとされています。毎月の領収書発行は必須ではありません。ただし、契約書にインボイス記載事項(登録番号、税率、税額等)を盛り込む必要があるため、令和5年10月以降の新規契約・更新契約では契約書の見直しが必要です。
第4章 不動産を売却するときにかかる税金
4-1 売却時にかかる費用
スタッフ:売却時にも仲介手数料がかかりますね。
松野先生:はい、取得時と同じ速算式です。その他の費用も整理します。
| 費用項目 | 内容 |
|---|---|
| 仲介手数料 | 取得時と同じ速算式 |
| 印紙税 | 売買契約書(軽減税率) |
| 抵当権抹消費用 | 不動産1個につき1,000円+司法書士報酬 |
| 測量費 | 境界確定が必要な場合30〜80万円 |
| 解体費 | 木造200〜400万円程度 |
| 立退料 | 借家人がいる場合 |
【譲渡費用に該当する/しないの判定】
- ○ 譲渡費用にあたる:仲介手数料、印紙税、測量費、立退料、解体費
- × 譲渡費用にあたらない:抵当権抹消費用、引越費用、町内会費等
4-2 譲渡所得の計算構造
松野先生:個人の場合、譲渡所得は他の所得と分離課税となります。
課税譲渡所得 = 譲渡収入 −(取得費 + 譲渡費用) − 特別控除
税額 = 課税譲渡所得 × 税率
【長期譲渡所得と短期譲渡所得】
| 区分 | 所有期間(譲渡年1月1日で判定) | 税率(合計) |
|---|---|---|
| 長期 | 5年超 | 20.315% (所得15% + 復興0.315% + 住民5%) |
| 短期 | 5年以下 | 39.63% (所得30% + 復興0.63% + 住民9%) |
スタッフ:1月1日で判定するんですね。年末の譲渡には注意ですね。
松野先生:そのとおり。譲渡日ではなく譲渡年の1月1日で5年を判定します。令和8年中に譲渡するなら、令和3年1月1日以前に取得していれば長期譲渡となります。
4-3 取得費の計算 ― 概算取得費5%の選択
【取得費の実額】
取得費 = 取得時の購入代金等 − 減価償却累計額(建物部分)
【概算取得費(措法31条の4)】
概算取得費 = 譲渡収入 × 5%
スタッフ:先祖代々の土地で取得時の領収書がない場合は5%しかないんですね。
松野先生:そうです。ただし、契約書が見つかった場合や、購入時の融資資料・建築確認申請書類等から推定取得費を主張できる場合もあります。安易に5%に飛びつかず、取得経緯の調査をすることが税理士の腕の見せ所です。
4-4 居住用財産の3つの特例
松野先生:マイホーム売却には主に3つの特例があります。
①居住用財産の3,000万円特別控除(措法35条1項)
- 所有期間要件なし(短期でも適用可)
- 自己居住用財産が対象
- 居住しなくなって3年経過日の属する年12月31日まで譲渡
②10年超所有軽減税率(措法31条の3)
3,000万円控除後の課税譲渡所得について、
| 課税譲渡所得 | 税率 |
|---|---|
| 6,000万円以下部分 | 14.21% (所10% + 復0.21% + 住4%) |
| 6,000万円超部分 | 20.315% |
③特定居住用財産の買換え特例(措法36条の2)
- 所有期間10年超かつ居住期間10年以上
- 譲渡対価1億円以下
- 課税の繰延べ(非課税ではない)
- 令和8年度改正で令和9年12月31日まで延長
スタッフ:どれを選ぶか難しいですね。
松野先生:②と③は重複適用不可。①と②は併用可。一般的には①+②が有利なケースが多いですが、買換えで取得する物件の規模や将来計画によって最適解は変わります。シミュレーションが必須です。
4-5 相続不動産の売却 ― 取得費加算と空き家特例
松野先生:相続専門の当事務所として、ここは特に詳しく解説します。
①取得費加算の特例(措法39条)
取得費加算額 = 相続税額 × 譲渡資産の相続税評価額 ÷ 相続税課税価格
要件
- 相続・遺贈により取得した資産
- 相続税の申告期限から3年以内の譲渡
- 相続税が課税されていること
「相続後3年10か月」というデッドラインは資産管理の重要論点です。
②空き家の3,000万円特別控除(措法35条3項)
要件
- 被相続人が相続開始直前まで一人で居住(同居者なし)※老人ホーム入所も一定要件で可
- 昭和56年5月31日以前建築(旧耐震)
- 区分所有建築物ではない(マンション不可)
- 相続開始から3年経過日の属する年12月31日まで、かつ令和9年12月31日までの譲渡
- 譲渡対価1億円以下
- 相続から譲渡まで事業・貸付・居住の用に供されていないこと
【令和6年改正の重要ポイント】
・家屋・土地を取得した相続人が3人以上の場合は特別控除額が2,000万円に縮減
・売買契約に基づき買主が翌年2月15日までに耐震改修または取壊しを行った場合も対象に(売主が事前解体不要に)
【取得費加算と空き家特例は併用不可】
ケースごとに有利な方を選択する必要があります。
| ケース | 有利な特例 |
|---|---|
| 相続税負担大、譲渡益小 | 取得費加算(措法39条) |
| 相続税負担小、譲渡益大 | 空き家特例(3,000万円控除) |
4-6 事業用資産の買換え特例(措法37条)
松野先生:事業用不動産の売却で最も活用される特例です。令和8年度税制改正で適用期限が3年延長され、令和11年3月31日まで適用可能となりました。ただし、要件の見直しも併せて行われており、活用にあたっては最新の取扱いの確認が不可欠です。
主な買換えパターン(9号買換え)
- 国内10年超所有の事業用土地建物等
- 国内事業用土地建物等(土地は300㎡以上)
課税繰延の仕組み
譲渡対価 ≦ 買換取得価額 → 譲渡益の80%(または70%)を繰延
譲渡対価 > 買換取得価額 → 差額に対応する譲渡益部分のみ課税
【繰延割合】
| 買換えパターン | 繰延割合 |
|---|---|
| 原則 | 80% |
| 東京23区→集中地域 | 70% |
| 地方→東京23区 | 60% |
【最近の主な改正】
・令和5年度改正:事前届出(譲渡または取得を含む3月期間の末日の翌日以後2か月以内)が必要に。確定申告に「届出書の写し」添付が要件化(令和6年4月1日以後の譲渡・取得から適用)
・令和8年度改正:適用期限が3年延長され令和11年3月31日まで。あわせて要件の見直しが行われているため、最新の制度内容を確認のうえご活用ください
4-7 売却時の消費税
松野先生:法人または個人事業者が売却する場合の消費税にも注意が必要です。
| 売却対象 | 消費税 |
|---|---|
| 土地 | 非課税 |
| 建物(売主が課税事業者) | 課税(10%) |
| 仲介手数料 | 課税 |
【按分計算の論点】
土地建物一括売却の場合、譲渡対価を土地と建物に按分する必要があります。
按分方法
- 固定資産税評価額の比率
- 鑑定評価
- 契約書で明示
按分方法によって消費税額が大きく変わるため、契約書での明示が望ましいです。
【高額特定資産の取扱い】
税抜1,000万円以上の建物を譲渡した場合、その後3年間は簡易課税選択や免税事業者への変更ができないという制限があります(消法12条の4)。
4-8 法人の場合の売却税務
法人の場合、譲渡損益は他の所得と通算して法人税の課税対象となります。個人のような分離課税ではありません。
法人版買換え特例(措法65条の7)
- 個人の措法37条と類似
- 圧縮記帳方式または特別勘定方式
- グループ法人税制との関係で譲渡損益繰延の論点あり
第5章 不動産の相続と小規模宅地等の特例 ― 評価額を最大80%減額
スタッフ:先生、不動産の出口として「売却」のお話を伺いましたが、もう一つの大きな出口は「相続」ですよね。
松野先生:そのとおり。不動産は売らずに次世代へ引き継ぐ「相続」も重要な出口戦略です。当事務所は相続税対策・事業承継を専門としており、特に小規模宅地等の特例は相続税負担を大きく左右する重要な制度です。この章で網羅的に整理します。
5-1 小規模宅地等の特例とは ― 4つの宅地区分
松野先生:小規模宅地等の特例(措法69条の4)は、被相続人等が一定の用途で使用していた宅地について、相続税の課税価格を計算する際に最大80%減額できる制度です。一定面積を限度として、宅地の種類により減額割合が決まっています。
| 宅地の区分 | 限度面積 | 減額割合 |
|---|---|---|
| ①特定居住用宅地等 (自宅の敷地) | 330㎡ | 80% |
| ②特定事業用宅地等 (個人事業の敷地) | 400㎡ | 80% |
| ③特定同族会社事業用宅地等 (同族会社の事業用敷地) | 400㎡ | 80% |
| ④貸付事業用宅地等 (賃貸不動産・駐車場の敷地) | 200㎡ | 50% |
スタッフ:例えば自宅の土地が330㎡で1億円の評価額だった場合、どれくらい減額されますか?
松野先生:1億円×80%=8,000万円が減額されて、相続税の課税価格は2,000万円となります。仮に相続税率が30%なら、節税額は約2,400万円。極めて大きなインパクトがあります。
5-2 特定居住用宅地等 ― 自宅敷地(330㎡まで80%減)
松野先生:自宅の敷地が対象です。取得者によって要件が異なります。
| 取得者 | 主な要件 |
|---|---|
| 配偶者 | 無条件で適用可(居住・保有要件なし) |
| 同居親族 | 申告期限まで居住+宅地を保有 |
| 家なき子 (別居親族) | 後述の家なき子要件をすべて満たす+申告期限まで宅地を保有 |
家なき子特例の要件(平成30年改正後)
スタッフ:家なき子特例は改正で要件が厳しくなったと聞きました。
松野先生:はい。租税回避スキームが横行したため、平成30年改正で要件が大幅に厳格化されました。現行の要件はすべて満たす必要があります。
| 家なき子要件(すべて満たす必要) |
|---|
| ①被相続人に配偶者がいないこと |
| ②被相続人の自宅に同居していた相続人がいないこと |
| ③相続開始前3年以内に、取得者または取得者の配偶者・3親等内の親族・特別関係法人が所有する国内の家屋に居住したことがないこと(平成30年改正で追加) |
| ④相続開始時に居住していた家屋を過去に所有していたことがないこと(平成30年改正で追加) |
| ⑤相続開始の時から申告期限まで宅地等を所有していること |
【平成30年改正の趣旨】
改正前は、所有していた持ち家を関係者の会社に名義移転したり、子(被相続人の孫)に贈与したりして「持ち家のない状態」を作り出して特例を適用するスキームが横行していました。これを封じるため、3親等内親族・特別関係法人所有の家屋に住んでいる場合は対象外とされ、過去の所有歴も問われるようになりました。
二世帯住宅の取扱い
松野先生:二世帯住宅は構造を問わず適用可能です。完全分離型の二世帯住宅でも、1棟の建物として登記されていれば「同居」と扱われます。 ただし、区分所有登記されている場合は別棟扱いとなり、被相続人居住部分のみが特定居住用宅地等の対象となります。
【実務上の重要論点】
二世帯住宅をこれから建てる方は、区分所有登記ではなく共有登記を選択することが小規模宅地等の特例適用上は有利になります。建築段階での登記方法の選択が、将来の相続税負担を大きく左右します。
老人ホーム入所中の取扱い
被相続人が老人ホーム等に入所中に相続が発生した場合でも、次の要件を満たせば自宅敷地について特定居住用宅地等の特例を適用できます。
- 被相続人が要支援・要介護認定等を受けて入所していたこと
- 自宅を事業用または賃貸用に供していないこと
- 自宅を新たに別の生計を一にしない親族の居住の用に供していないこと
5-3 特定事業用宅地等 ― 個人事業の敷地(400㎡まで80%減)
松野先生:被相続人等が個人事業(不動産貸付業以外)の用に供していた宅地が対象です。
主な要件
- 被相続人等の事業の用に供されていた宅地
- 相続人等が申告期限まで事業継続+宅地を保有
【平成31年改正:3年縛り規制】
相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等は対象外(措法69条の4第3項1号)。 ただし、当該宅地等上で被相続人等が事業の用に供していた減価償却資産の価額が宅地等の価額の15%以上である場合は、3年以内事業宅地等に該当せず、特例が適用可能です。
5-4 特定同族会社事業用宅地等 ― 同族会社事業用敷地(400㎡まで80%減)
松野先生:被相続人等が経営する同族会社の事業の用に供されていた宅地が対象です。これは法人成りした事業承継案件で重要となります。
主な要件
- 同族会社(被相続人および特別関係者の持株比率が50%超)の事業の用に供されている宅地
- 当該同族会社の事業が不動産貸付業以外であること(不動産貸付業は対象外)
- 取得者が申告期限において当該同族会社の役員であること
- 取得者が申告期限まで宅地等を保有していること
- 賃貸借契約に基づき相当の対価で同族会社に賃貸していること
スタッフ:同族会社が不動産貸付業の場合は対象外なんですね。
松野先生:そのとおり。その場合は貸付事業用宅地等(200㎡まで50%減)として検討することになります。法人と個人の関係、賃貸借契約の有無により適用区分が変わる重要な論点です。
5-5 貸付事業用宅地等 ― 賃貸不動産敷地(200㎡まで50%減)
松野先生:賃貸アパート、貸家、貸駐車場、貸店舗、底地などの敷地が対象です。減額割合は50%と低めですが、賃貸不動産オーナーにとっては重要な特例です。
主な要件
- 被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地
- 建物または構築物の敷地であること(更地は対象外)
- 相当の対価による貸付であること(無償・低額貸付は対象外)
- 取得者が申告期限まで貸付事業継続+宅地を保有
- 空室がある場合は一時的な空室であること
【平成30年改正:3年縛り規制】
相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は対象外(措法69条の4第3項4号)。
ただし、被相続人等が相続開始の日まで3年を超えて事業的規模で特定貸付事業(準事業以外の貸付事業)を営んでいた場合は、3年以内に新たに貸付けた宅地等であっても特例適用可能です。
※経過措置は令和3年3月31日で終了しています。
「特定貸付事業」と「準事業」の区別
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 特定貸付事業 | 事業的規模(5棟10室基準)で行う貸付事業 → 3年縛りの例外あり(3年超事業的規模なら3年内の新規貸付も適用可) |
| 準事業 | 事業と称するに至らない貸付(相当の対価を得て継続的に行うもの) → 3年縛りの例外なし(亡くなる直前の駆け込み賃貸は対象外) |
【実務上の重要論点】
3年以上前から5棟10室以上の事業的規模で賃貸経営をしている方が、相続直前に新規物件を取得しても貸付事業用宅地等として適用可能です。
一方、相続税対策として直前に賃貸物件を取得しても、それまで事業的規模でなければ「準事業」扱いとなり3年縛りで対象外となります。計画的な事業的規模の維持が相続税対策の前提です。
5-6 限度面積の調整計算 ― 完全併用と限定併用
松野先生:複数の区分の宅地がある場合、どのように限度面積を計算するかが重要です。
パターン1:完全併用(特定居住用+特定事業用・特定同族会社事業用)
特定居住用宅地等(330㎡まで)+ 特定事業用宅地等または特定同族会社事業用宅地等(400㎡まで)
= 最大730㎡まで80%減額可能(完全併用)
パターン2:限定併用(貸付事業用を含む場合)
貸付事業用宅地等が含まれる場合は、下記の調整計算が必要です。
①特定居住用宅地等 × 200/330 + ②特定事業用宅地等 × 200/400 + ③貸付事業用宅地等 ≦ 200㎡
スタッフ:具体例で見せていただけますか?
松野先生:例えば、自宅敷地200㎡(特定居住用)と貸付アパート敷地100㎡(貸付事業用)がある場合:
200㎡ × 200/330 + 100㎡ = 121.21㎡ + 100㎡ = 221.21㎡
→ 200㎡を超えるためすべて適用は不可
有利選択として、貸付事業用を先に100㎡使うと:
特定居住用の限度面積 = (200-100) × 330/200 = 165㎡
→ 自宅敷地のうち165㎡部分のみ80%減額可能(35㎡は減額不可)
【有利選択のポイント】
減額割合は特定居住用80%>貸付事業用50%なので、原則として単位面積あたりの評価額が高い特定居住用を優先します。ただし、貸付事業用の土地が極端に高額(例:東京都心の駅前一等地)の場合は、貸付事業用を優先したほうが有利になるケースもあります。シミュレーションが必須です。
5-7 売却特例との連携 ― 取得費加算・空き家特例
スタッフ:小規模宅地等の特例で評価を下げた後で売却する場合、取得費加算(措法39条)はどうなりますか?
松野先生:重要な論点です。取得費加算は「相続税評価額」ベースで計算されるため、小規模宅地等の特例で評価が下がるとそれに応じて取得費加算額も小さくなります。
取得費加算額 = 相続税額 × 譲渡資産の相続税評価額(特例適用後) ÷ 相続税課税価格
【ジレンマ】
- 相続時:小規模宅地等の特例で評価を下げる → 相続税が下がる
- 売却時:相続税が下がる分、取得費加算額も下がる → 譲渡所得税負担が増える
そのため、「相続後に売却する予定がある」場合は、相続税と譲渡所得税のトータルでシミュレーションすることが不可欠です。
| 出口戦略 | 関連特例 |
|---|---|
| 相続後に保有継続 | 小規模宅地等の特例(評価減) |
| 相続後3年10か月以内に売却 | 小規模宅地等の特例+取得費加算(措法39条) |
| 相続後に空き家として売却 | 空き家3,000万円特別控除(措法35条3項) ※小規模宅地等の特例とは原則別物 |
5-8 申告要件と添付書類
松野先生:小規模宅地等の特例は相続税申告書の提出が要件です(措法69条の4第7項)。基礎控除以下で本来申告不要のケースでも、特例適用には申告が必要です。
必要な主な添付書類
- 遺産分割協議書または遺言書の写し
- 相続人全員の印鑑証明書
- 戸籍謄本または法定相続情報一覧図
- 家なき子の場合:取得者の戸籍の附票、家屋の登記事項証明書または賃貸借契約書
- 老人ホーム入所中の場合:要介護認定等の証明書
【遺産分割未了の場合】
申告期限までに遺産分割が成立していない場合、特例は適用できません。ただし「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、3年以内に分割が成立すれば、更正の請求により特例適用を受けることが可能です。
5-9 年数要件早見表 ― 不動産税務のタイムライン
松野先生:不動産の税務では、「3年」「5年」「10年」という年数要件が制度ごとに異なる意味で出てきます。混同すると致命的な判断ミスにつながるため、横断的に整理しておきましょう。
【3年】 ― 最も多くの制度に登場する重要期間
| 制度 | 3年の意味 |
|---|---|
| 小宅・家なき子 | 相続開始前3年以内に取得者・配偶者・3親等内親族・特別関係法人が所有する家屋に居住していないこと |
| 小宅・特定事業用 (3年縛り) | 相続開始前3年以内に新たに事業供用した宅地は対象外(減価償却資産15%以上の例外あり) |
| 小宅・貸付事業用 (3年縛り) | 相続開始前3年以内に新たに貸付供用した宅地は対象外(特定貸付事業3年超の例外あり) |
| 取得費加算 (措法39条) | 相続税申告期限の翌日以後3年以内の譲渡(相続開始から数えると「3年10か月以内」) |
| 3,000万円控除 (居住用・措法35条1項) | 居住しなくなって3年経過日の属する年12月31日までの譲渡 |
| 空き家3,000万円控除 (措法35条3項) | 相続開始から3年経過日の属する年12月31日までの譲渡 |
| 居住用買換え損失 (措法41条の5) | 譲渡損失を3年間繰越控除 |
| 不動産取得税 住宅用土地軽減 | 土地取得後3年以内に住宅を新築 |
| 居住用賃貸建物 仕入税額控除 | 取得後3年以内に課税転用・譲渡で調整計算 |
| 未分割の特例適用 | 「申告期限後3年以内の分割見込書」添付で更正の請求可 |
【5年】 ― 譲渡所得の長短判定が中心
| 制度 | 5年の意味 |
|---|---|
| 長期・短期譲渡区分 | 譲渡年1月1日で所有期間5年超→長期20.315%、5年以下→短期39.63% |
| 5棟10室基準(所得税) | 独立家屋おおむね5棟以上または独立室数おおむね10室以上で事業的規模 |
| 中高層耐火住宅 新築固定資産税減額 | 3階建以上の中高層耐火住宅は5年間1/2減額(通常は3年) |
| 認定長期優良住宅 固定資産税減額 | 5年間1/2減額(中高層耐火建築物は7年) |
| 地方税の還付請求権 | 5年で時効(不動産取得税の軽減申告漏れの還付期限) |
| 独立家屋(非住宅) 事業税認定基準 | 倉庫など独立家屋は5棟以上で事業税対象(大阪府基準) |
【10年】 ― 居住用・事業用ともに重要な節目
| 制度 | 10年の意味 |
|---|---|
| 10年超軽減税率 (措法31条の3) | 所有期間10年超の居住用財産売却で6,000万円以下部分が14.21%(3,000万円控除と併用可) |
| 特定居住用買換え (措法36条の2) | 所有期間10年超かつ居住期間10年以上+譲渡対価1億円以下 |
| 事業用買換え (措法37条9号) | 国内10年超所有の事業用土地建物等→国内事業用土地建物等(土地は300㎡以上) |
| 事業税認定基準(10棟10室) | 住宅は10棟または10室以上で個人事業税の対象(兵庫県・大阪府・東京都ほぼ共通/詳細は所管都道府県へ) |
| 事業税・駐車場業 | 青空駐車場は10台以上で事業税対象(建築物・寄託型は台数問わず課税) |
【その他重要な期限】(令和8年度税制改正反映)
| 制度 | 期限 |
|---|---|
| 空き家特例の建築年 | 昭和56年5月31日以前建築(旧耐震) |
| 空き家3,000万円特別控除 | 令和9年12月31日までの譲渡 |
| 買主による解体・耐震改修 | 譲渡日翌年2月15日まで(令和6年改正) |
| 特定居住用財産買換え(措法36条の2) | 令和9年12月31日まで(令和8年度改正で延長) |
| 居住用財産買換え譲渡損失(措法41条の5) | 令和9年12月31日まで(令和8年度改正で延長) |
| 特定居住用財産譲渡損失(措法41条の5の2) | 令和9年12月31日まで(令和8年度改正で延長) |
| 措法37条事業用買換え期限 | 令和11年3月31日まで(令和8年度改正で3年延長) |
| 措法37条事前届出 | 譲渡または取得を含む3月期間の末日の翌日以後2か月以内 |
| 土地登免税1.5%軽減 | 令和11年3月31日まで(令和8年度改正で3年延長) |
| 住宅家屋登免税0.3%軽減 | 令和9年3月31日まで |
| 不動産取得税3%軽減税率(土地・住宅) | 令和9年3月31日まで |
| 宅地評価1/2特例 | 令和9年3月31日までの取得 |
| 認定長期優良住宅の不動産取得税1,300万円控除 | 令和13年3月31日まで(令和8年度改正で5年延長) |
| 不動産取得税の住宅床面積要件 | 令和8年4月1日以降40㎡以上に緩和(戸建以外貸家は従前から40㎡/東京23区特定都市再生緊急整備地域は50㎡据置き) |
| 居住用財産3,000万円控除(措法35条1項) | 恒久措置(適用期限なし) |
| 10年超軽減税率(措法31条の3) | 恒久措置(適用期限なし) |
| 取得費加算(措法39条) | 恒久措置(適用期限なし) |
| インボイス経過措置(免税事業者からの仕入れ) | 令和13年9月30日まで(5段階で段階的縮減:80%→70%→50%→30%→0%) |
| インボイス経過措置の上限額 | 一の免税事業者からの仕入れ年間1億円まで(令和8年度改正で10億円→1億円に引下げ) |
主要特例の併用可否マトリックス
| 組合せ | 可否 | 備考 |
|---|---|---|
| 3,000万円控除+10年超軽減税率 | ○ | マイホーム売却の典型パターン |
| 10年超軽減税率+特定居住用買換え | × | 選択適用(重複不可) |
| 取得費加算+空き家3,000万円控除 | × | 選択適用(有利選択が必要) |
| 取得費加算+3,000万円控除(居住用) | ○ | 併用可 |
| 小規模宅地等+取得費加算 | ○ | ただし小宅で評価減→取得費加算額も減少(ジレンマあり) |
| 空き家特例+措法39条取得費加算 | × | 選択適用 |
| 措法37条買換え+3,000万円控除 | × | 措法37条は事業用、3,000万円控除は居住用で原則排他 |
【実務上の心得】
これらの年数要件・期限は判定時点が制度ごとに微妙に異なる点に最大限の注意が必要です。
・「相続開始日」から数える制度(小宅3年縛り、家なき子)
・「相続税申告期限」から数える制度(取得費加算)
・「譲渡年の1月1日」で数える制度(長短判定、10年超軽減税率)
・「居住しなくなった日」から数える制度(3,000万円控除)
1日の差が制度適用の可否を決めることもあるため、税理士との早期相談が不可欠です。
まとめ ― 不動産の税金は「ライフサイクル」で考える
スタッフ:取得・保有・売却・相続まで、本当にたくさんの税金があるんですね。
松野先生:整理すると次のようになります。
| ステージ | 主な税金・費用 |
|---|---|
| 取得時 | 不動産取得税、登録免許税、印紙税、仲介手数料、消費税(建物部分) |
| 保有時 | 固定資産税、都市計画税、所得税・住民税・個人事業税(個人)、法人税(法人)、消費税(事業用賃料) |
| 売却時 | 譲渡所得税・住民税(個人)、法人税(法人)、印紙税、仲介手数料、消費税(建物部分) |
| 相続時 | 相続税(小規模宅地等の特例で最大80%減額の可能性)、登録免許税(相続登記0.4%) ※不動産取得税は非課税 |
賃貸用不動産の消費税の鉄則
- 居住用は非課税、事業用は課税
- 駐車場は設備の有無で判定
- 居住用賃貸建物の仕入税額控除は不可(令和2年改正)
- インボイス制度で事業用テナント賃料の取扱いに注意
相続時の小規模宅地等の特例の鉄則
- 4つの区分を正確に判定(特定居住用80%、特定事業用80%、特定同族会社事業用80%、貸付事業用50%)
- 家なき子要件は平成30年改正で厳格化(3親等内親族・特別関係法人所有家屋は対象外)
- 3年縛り規制に注意(事業用・貸付事業用ともに)
- 二世帯住宅は区分所有登記を避ける(共有登記が有利)
- 限度面積の調整計算と有利選択シミュレーションが必須
- 申告期限までの遺産分割が原則(未分割の場合は分割見込書を添付)
- 売却予定がある場合は取得費加算とのトータル試算が必要
不動産の税金は、取得から売却までの全期間で見ないと最適化できません。特に相続→賃貸→売却といった長期にわたる資産管理では、各段階で適用できる特例の組み合わせが税負担を大きく左右します。
当事務所では、相続税対策、組織再編成、M&Aを通じた事業承継に長年取り組んでまいりました。不動産の取得から出口戦略まで、トータルでのタックスプランニングが可能です。書面添付制度を活用した高品質な申告書作成にも力を入れています。
不動産に関する税務でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
税理士法人松野茂税理士事務所
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※本記事は令和8年5月時点の税制に基づいて執筆しています。税制は改正されることがありますので、実際の適用にあたっては最新の情報をご確認いただくか、当事務所までお問い合わせください。







