「最終報酬基準」と「平均報酬基準」 ― どちらを使うべきか?
役員退職金は「功績倍率3.0倍以内なら大丈夫」と思っていませんか?
実は、同じ功績倍率でも「どの報酬月額を使うか」によって、
退職金の金額は大きく変わります。
場合によっては、数千万円単位で差が出ることもあります。
特に注意が必要なのは「退任直前の報酬引上げ」です。
税務調査では、
・退職金を増やすための操作ではないか
・合理的な理由があるか
が重点的にチェックされます。
このパターンは、実務上もっとも否認リスクが高い論点の一つです。
実は、同じ功績倍率法でも「最終報酬を使う方法」と「平均報酬を使う方法」の2通りがあり、どちらを採用するかで退職金の金額が大きく変わります。
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目次
◆ 功績倍率法の基本計算式:「報酬月額」の位置づけ
| 職 員 | 功績倍率法の計算式は「月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率」ですよね。月額報酬はどの時点の金額を使うのですか? |
| 先 生 | そこが今日のポイントです。計算式自体はシンプルですが、「月額報酬をどう決めるか」に2通りの考え方があります。 代表的な計算式を並べるとこうなります。 |
| 方法① 最終報酬基準 | 退職金 = 退任直前の月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率 |
| 方法② 平均報酬基準 | 退職金 = 在任中の平均月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率 |
| 先 生 | 平均月額報酬は、「在任期間の報酬総額 ÷ 在任月数」で計算します。 通常の実務では方法①(最終報酬基準)が使われることが多いですが、一定の事情がある場合は方法②(平均報酬基準)の方が合理的・有利になるケースがあります。 |
◆ それぞれの方法のメリット・使いどころ
| 職 員 | 方法①の最終報酬基準は、どのような場合に適しているのですか? |
| 先 生 | 最終報酬基準が適しているのは、退任直前まで報酬が安定して高い水準を維持しており、その金額が在任中の責任と貢献度をよく表しているケースです。 計算式がシンプルで顧客への説明もしやすく、税務当局にとっても一般的な方法として受け入れられやすいという実務上の使いやすさがあります。 |
| 職 員 | では方法②の平均報酬基準は、どのような場合に使うのですか? |
| 先 生 | 最終報酬月額が在任中の貢献度を適正に反映していないケースです。 典型的なのは次の2つです。 一つ目は、創業者が長年低報酬で経営し、退任直前になって初めて報酬を上げた場合や、逆に体調不良などで退任前に報酬を下げていた場合です。最終月額だけを見ると、長年の貢献に見合わない退職金になってしまいます。 二つ目は、在任中に報酬が大きく増減している場合全般です。在任期間全体の平均を取ることで、より実態に近い退職金額を算出できます。 裁判例・審判例でも、最終月額が著しく低い場合などに「平均報酬を用いることが合理的」と判断された事案があります。 |
◆ 数値事例で比較する:差額はいくらになるか
| 職 員 | 実際にどれくらい金額が変わるのか、具体的な数字で教えていただけますか? |
| 先 生 | では、よくある事例を使って比較してみましょう。「30年間代表取締役を務めた創業社長Aさん」のケースです。 |
| 【事例の前提条件】 ● 役職:代表取締役社長 勤続年数:30年 功績倍率:3.0倍 ● 退任前の状況:健康上の理由で退任5年前から報酬を月100万円に引下げ ● 在任30年間の報酬総額(概算):5,400万円(平均月額150万円) |
| 比較項目 | 【方法①】最終報酬基準 | 【方法②】平均報酬基準 |
| 計算式の基礎 | 退任直前の月額報酬 | 在任期間の報酬総額 ÷ 在任月数 |
| 計算式 | 最終月額 × 勤続年数 × 功績倍率 | 平均月額 × 勤続年数 × 功績倍率 |
| 事例の前提 (Aさん:社長30年) | 最終月額:100万円 (退任前に引下げあり) | 平均月額:150万円 (在任30年・総額5,400万円) |
| 功績倍率 | 3.0倍 | 3.0倍 |
| 計算結果 | 100万×30年×3.0 = 9,000万円 | 150万×30年×3.0 = 1億3,500万円 |
| 差 額 | ▲ 4,500万円(少ない) | + 4,500万円(多い) |
| 先 生 | この事例では、最終報酬基準と平均報酬基準で、退職金の額が4,500万円も変わります。 退任前に報酬を下げていた事情が「意図的な操作ではなく、健康上の正当な理由」であることが説明できれば、平均報酬基準を採用する合理的な根拠になります。 逆に、退任直前に報酬を大幅に引き上げて最終報酬基準で退職金を計算した場合は、「退職金の水増し」として否認されるリスクが高まります。 |
| 【税務上の注意】 退任直前の報酬引上げによる退職金の水増しは、税務調査で最も疑われるパターンの一つです。 報酬を変更した時期・理由・経緯を議事録に明確に記録しておくことが、リスク対策として重要です。 |
◆ どちらの方法を選ぶべきか:使い分けの判断フロー
| 職 員 | どちらの方法を選ぶべきか、迷いそうです。整理していただけますか? |
| 先 生 | 状況別にまとめると、次のような考え方になります。 |
| 状況・ケース | 推奨する基準 | 理由・根拠 |
| 退任直前まで高い報酬が継続 (報酬の変動が少ない) | ✅ 最終報酬基準 | 報酬が責任・貢献を反映 シンプルで説明しやすい |
| 退任直前に報酬を大幅に 引き下げていた | ⚠ 平均報酬基準が安全 | 最終月額が実態を反映しない 税務上も平均採用の裁判例あり |
| 長期低報酬で経営してきた 創業者(無報酬期間を含む) | ⚠ 平均報酬基準を検討 | 貢献期間全体を適切に評価 最終月額だけでは過小になる |
| 退任前に報酬を意図的に 引き上げていた | 🔴 最終報酬基準は危険 | 「退職金の水増し」とみなされ 否認リスクが高い |
| 報酬の増減はあるが 期間全体でバランスが取れている | ✅ 最終報酬基準が一般的 | 特段の理由がなければ 通常の功績倍率法を用いる |
| 先 生 | 原則として、特別な事情がなければ「最終報酬基準」を使います。 しかし、最終報酬が実態とかけ離れている場合は「平均報酬基準」を検討します。その際は、なぜ平均を用いるのかを客観的な資料で説明できるように準備しておくことが必須です。 いずれの方法を採用するにしても、退職金を決める前に報酬の推移をきちんと整理しておくことが、後のリスク管理の第一歩です。 |
◆ 顧客への説明のポイント
| 職 員 | 顧客から「退職金はいくらもらえますか?」と聞かれたとき、どのように説明すればよいですか? |
| 先 生 | まずシンプルに功績倍率法の計算式を示し、「最終報酬基準が原則」とお伝えします。 その上で、次のような確認を必ずしてください。 |
- ① 退任前後で報酬に大きな変動はあったか(引上げ・引下げの時期と理由)
- ② 在任中に無報酬期間や極端な低報酬期間はあったか
- ③ 他の役員や後継者の報酬・退職金とのバランスはどうか
- ④ 役員退職給与規程は整備されているか、計算方法は明記されているか
| 先 生 | これらを確認してから「功績倍率法で試算するとこのくらいです」と伝えると、顧客も自分の退職金設計を具体的にイメージしやすくなります。 特に、「3倍だけでなく、どの月額報酬を使うかが論点になる」ことを早い段階でお伝えしておくと、退任前の不用意な報酬操作を防ぐことにもつながります。 |
◆ まとめ
| ● 功績倍率法には「最終報酬基準」と「平均報酬基準」の2通りがある ● 原則は最終報酬基準。ただし最終月額が実態とかけ離れている場合は平均報酬基準を検討 ● 退任直前の報酬引上げ(水増し)は税務上の否認リスクが高い ● 退任直前の引下げは、平均報酬基準が有利・合理的になりうる ● 報酬の変動があった場合は、その時期・理由を議事録等に明記しておくことが重要 ● 退職金を決める前に報酬推移を整理し、事前に専門家に相談することを強くお勧めします |
役員退職金は「功績倍率3.0倍以内なら大丈夫」という単純な話ではありません。計算式の基礎となる「報酬月額をどう設定するか」も、税務調査のチェックポイントになります。
役員退職金は「計算方法の選び方」で数千万円単位の差が出ることがあります。
当事務所では、
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