財産評価基本通達(以下「財基通」)第178条において「原則的評価方式の対象者」と判定された株主については、次に財基通179によって会社の規模に応じた具体的な評価方式が決定されます。
財基通179は、非上場株式の原則的評価方式における中心的な規定であり、「どの評価方式を使うか」を会社規模という客観的な基準で定める役割を果たします。
会社規模と評価方式の対応
財基通179は、評価会社を大会社・中会社・小会社の3つに区分し、それぞれに適用される評価方式を定めています。
| 会社規模 | 原則的な評価方式 | 選択できる評価方式 |
|---|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準方式 | 純資産価額方式も選択可 |
| 中会社(大・中・小) | 類似業種比準方式と純資産価額方式の折衷 | 小会社方式(純資産価額方式)も選択可 |
| 小会社 | 純資産価額方式 | 折衷方式(L=0.50)も選択可 |
いずれの区分においても、納税者に有利な方を選択できる設計となっています。類似業種比準価額が純資産価額を下回る局面が多いため、会社規模が大きいほど(類似業種比準のウェイトが高いほど)評価額が低くなる傾向があります。
会社規模の判定方法
評価会社がどの規模区分に該当するかは、業種・従業員数・総資産価額・取引金額(売上高)の組み合わせで判定します。
判定の手順
ステップ1:従業員数の確認
課税時期の直前期末において従業員数が70人以上の会社は、他の基準にかかわらず無条件で大会社となります。
ステップ2:業種区分の確認(70人未満の場合)
評価会社の主たる事業が次のいずれに該当するかを確認します。
- 卸売業
- 小売・サービス業
- その他(製造業・建設業・不動産業等)
複数の業種を営む場合は、直前期末の売上高の最も大きい業種で判定します。
ステップ3:規模基準の確認
業種区分ごとに定められた「総資産価額(帳簿価額)基準」と「取引金額(売上高)基準」のいずれか大きい方(納税者有利の方)の区分を採用します。
| 会社規模 | 卸売業(目安) | 小売・サービス業(目安) | その他(目安) |
|---|---|---|---|
| 大会社 | 総資産20億円以上または売上30億円以上 | 総資産15億円以上または売上20億円以上 | 総資産15億円以上または売上15億円以上 |
| 中会社の大 | 総資産7億円以上または売上7億円以上 | 総資産4億円以上または売上5億円以上 | 総資産5億円以上または売上5億円以上 |
| 中会社の中 | 総資産3.5億円以上または売上3.5億円以上 | 総資産2億円以上または売上2.5億円以上 | 総資産2.5億円以上または売上2.5億円以上 |
| 中会社の小 | 総資産2億円以上または売上2億円以上 | 総資産4000万円以上または売上6000万円以上 | 総資産4000万円以上または売上8000万円以上 |
| 小会社 | 上記未満 | 上記未満 | 上記未満 |
※詳細な数値基準は財基通別表1をご参照ください。上記はあくまで目安です。
類似業種比準方式(財基通180)
類似業種比準方式は、評価会社と事業内容が類似する上場会社の株価を基準として、配当・利益・純資産の3要素を比較することで評価額を算定する方式です。
計算式
類似業種比準価額は次の算式で計算します。
類似業種比準価額 = 類似業種の株価(A)× {(b/B + c/C + d/D)÷ 3} × 斟酌率
| 記号 | 内容 |
|---|---|
| A | 類似業種の株価 |
| b / B | 評価会社 / 類似業種の1株当たり配当金額 |
| c / C | 評価会社 / 類似業種の1株当たり利益金額 |
| d / D | 評価会社 / 類似業種の1株当たり純資産価額(帳簿価額) |
斟酌率
| 会社規模 | 斟酌率 |
|---|---|
| 大会社 | 0.7 |
| 中会社 | 0.6 |
| 小会社 | 0.5 |
類似業種の株価(A)の選択
株価(A)は、次のうち最も低いものを選択することができます(納税者有利の選択)。
- 課税時期の属する月の月平均株価
- 課税時期の属する月の前月の月平均株価
- 課税時期の属する月の前々月の月平均株価
- 課税時期の属する年の前年の年平均株価
- 課税時期の属する年の前年の課税時期に対応する月の月平均株価
純資産価額方式(財基通185)
純資産価額方式は、評価会社の資産・負債を相続税評価額(時価)で評価し直し、その純資産額を発行済株式数で除して1株当たりの評価額を算定する方式です。
計算式
純資産価額 =(相続税評価額による純資産額 ― 評価差額に対する法人税等相当額)÷ 発行済株式数
評価差額に対する法人税等相当額(財基通186-2)
控除額 =(相続税評価額による純資産 ― 帳簿価額による純資産)× 37%
この37%控除は、評価会社が保有する含み益資産を仮に売却した場合に負担すべき法人税等を控除することで、実態に即した評価を行うための規定です。含み損超過(評価差額がマイナス)の場合は控除を行いません。
課税時期前3年以内に取得した土地・建物
課税時期前3年以内に取得した土地・建物等については、通常の相続税評価額(路線価等)ではなく、課税時期における通常の取引価額(時価)で評価します。これは、相続直前に不動産を取得することによる評価額の圧縮を防止するための規定です。
中会社の折衷計算(L値)
中会社は類似業種比準方式と純資産価額方式を一定の割合で組み合わせた折衷方式で評価します。そのウェイトを示す数値がL値(類似業種比準価額のウェイト)です。
| 区分 | L値 | 計算式 |
|---|---|---|
| 中会社の大 | 0.90 | 類似業種比準価額 × 0.90 + 純資産価額 × 0.10 |
| 中会社の中 | 0.75 | 類似業種比準価額 × 0.75 + 純資産価額 × 0.25 |
| 中会社の小 | 0.60 | 類似業種比準価額 × 0.60 + 純資産価額 × 0.40 |
中会社では、上記の折衷方式のほかに、小会社と同様の方式(純資産価額方式、またはL=0.50の折衷方式)を選択することもできます。いずれか低い方を選択します。
小会社の評価方式
小会社の原則的な評価方式は純資産価額方式ですが、次の折衷方式を選択することもできます。
評価額 = 類似業種比準価額 × 0.50 + 純資産価額 × 0.50
類似業種比準価額が低い局面では、折衷方式の選択が有利になります。
特定評価会社との関係
財基通179は通常の評価会社に適用される規定です。評価会社が特定評価会社(財基通189)に該当する場合は、財基通179によらず以下の特別規定が適用されます。
| 特定評価会社の類型 | 適用規定 |
|---|---|
| 比準要素数1の会社 | 財基通189-2 |
| 株式等保有特定会社 | 財基通189-3(S1+S2方式または純資産価額方式) |
| 土地保有特定会社 | 財基通189-4(純資産価額方式のみ) |
| 開業後3年未満の会社・比準要素数0の会社 | 財基通189-5(純資産価額方式のみ) |
| 開業前・休業中の会社 | 財基通189-6(純資産価額方式のみ) |
| 清算中の会社 | 財基通189-7(清算分配見込額の現価) |
特定評価会社の判定は、財基通179による規模区分の判定と並行して行う必要があります。実務では、まず特定評価会社に該当しないかどうかを確認したうえで、179の評価方式を適用するという手順が重要です。
実務上の留意点
会社規模の判定は納税者有利の選択
総資産価額基準と取引金額基準のいずれか大きい方を採用できることは、実務上重要な選択肢です。どちらの基準を使えばより大きな規模区分になるかを確認し、納税者に有利な方を選択します。
類似業種の業種区分の判定
複数の事業を営む会社では、主たる事業の業種区分が評価額に大きく影響します。業種区分によって類似業種の株価(A)および比準要素(B・C・D)が変わるため、業種判定は慎重に行う必要があります。
比準要素のチェック
類似業種比準方式を適用する前に、比準要素数1の会社・比準要素数0の会社に該当しないかを確認します。繰越欠損がある場合や無配会社では該当するリスクがあり、該当すると類似業種比準方式の適用が制限されます。
まとめ
財基通179は、原則的評価方式の対象者について会社規模に応じた評価方式を定める規定です。
- 大会社は類似業種比準方式が原則(純資産価額方式も選択可)
- 中会社は折衷方式(L値によるウェイト付け)が原則
- 小会社は純資産価額方式が原則(折衷方式も選択可)
評価方式の選択と会社規模の判定は評価額に直結するため、相続・贈与が発生する前の段階から、評価会社の規模区分・比準要素・特定評価会社への該当可能性をモニタリングしておくことが事業承継対策上重要です。
非上場株式の評価・相続対策・事業承継に関するご相談は、当事務所までお気軽にお問い合わせください。








