相続で共有になった不動産をどうするか【第4回】売却・分割・放置のリスクと対処法 尼崎の税理士が解説

相続で共有になった不動産をどうするか【第4回】

親が亡くなり、遺産分割協議をしたところ「実家は兄弟3人の共有にしよう」となった——こうした決着は一見スムーズに見えますが、実は後々深刻な問題を引き起こす原因になります。

共有不動産は「全員のもの」のようでいて、実際には「誰も自由に動かせないもの」になりがちです。固定資産税の通知書が毎年届き、修繕の必要が出てきても話し合いがまとまらず、売りたくても売れない状態が何年も続く——税理士の実務でも、こうした相談は後を絶ちません。

この記事では、相続で不動産が共有になった場合に起きる問題と、その解消方法について実務的な観点から解説します。

相続で不動産の共有や分割方法でお悩みの方は、
尼崎の税理士法人松野茂税理士事務所までご相談ください。


目次

相続で不動産が共有になるケース

遺産分割協議で「とりあえず共有」にしてしまう

相続で不動産が共有になる最も多いパターンは、遺産分割協議の段階で「結論を先送りにして共有にした」ケースです。

「実家をどうするかまだ決められない」「兄弟間で揉めたくない」「今すぐ売るのは忍びない」——こうした感情的・心理的な理由から、特定の誰かに所有権を集約せず、法定相続分の割合で共有登記するという選択がとられます。たとえば子が3人いれば、それぞれ3分の1ずつを持つ状態です。

遺産分割をしないまま法定相続分で登記するケース

遺産分割協議そのものを行わず、「とりあえず相続登記だけしておこう」として法定相続分で登記するケースもあります。令和6年4月からの相続登記義務化を受け、こうした対応を取る方が増えることも予想されます。

遺産分割前の法定相続分による登記は義務の履行としては有効ですが、共有状態がそのまま固定されるリスクがあります。

二次相続・三次相続が重なって共有者が増えるケース

最も深刻なのは、共有状態が長期間解消されないまま次の相続が発生するケースです。共有者の一人が亡くなれば、その持分がさらにその相続人に引き継がれます。これが繰り返されると、10人・20人といった大人数が共有する状態になることも珍しくありません。

共有不動産は一度設定してしまうと、
後からの解消が非常に困難になるケースが多くあります。

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共有不動産の問題点(意思決定ができない)

共有不動産の本質的な問題は、所有者全員の合意なしには重要な行為ができない点にあります。民法の規定では、行為の種類によって必要な合意の水準が異なります。

単独でできること(各共有者が単独で可能)

  • 自分の持分の第三者への売却・贈与
  • 共有物の保存行為(建物の応急修繕など)
  • 共有状態の確認・帳簿の閲覧請求

持分の過半数の合意が必要なこと

  • 共有物の管理行為(賃貸借契約の締結・解除、通常の修繕など)
  • 短期の賃貸借契約(土地5年以内・建物3年以内)の締結

全員の合意が必要なこと

  • 共有物の売却(全体としての処分)
  • 大規模な変更・改良(大規模リフォームなど)
  • 長期の賃貸借契約の締結

つまり、共有不動産を売却するには共有者全員の合意が必要です。3人の共有なら3人全員、10人なら10人全員。一人でも反対すれば売れません。

固定資産税の負担は連帯

第1回の記事でも触れましたが、共有物件の固定資産税については共有者全員が連帯納付義務を負います。市町村は代表者を定めて通知を送りますが、誰か一人が滞納した場合でも他の共有者が全額を支払う義務が生じます。「自分の持分分しか払わない」という主張は、固定資産税の納税義務上は通りません。


よくあるトラブル事例

トラブル事例① 兄弟間で売却の意見が割れる

「実家を売って現金で分けたい」という兄と「思い出の家を手放したくない」という妹。全員の合意が必要な売却は実現せず、固定資産税の支払いだけが毎年続く。何年も話し合いがまとまらないまま、建物は老朽化していく。

トラブル事例② 持分が第三者に渡る

共有者の一人が多重債務を抱え、自分の持分が債権者に差し押さえられて競売にかけられた。落札したのは見知らぬ不動産業者で、突然「持分を買い取ってほしい」「出ていってほしい」という交渉が始まる。

自分の持分は自由に売却できるため、このような事態は法律上防ぎようがありません。特に、持分の専門買取業者が共有者の一人から持分を購入し、その後他の共有者に高値での買取を迫るケースが実務上問題になっています。

トラブル事例③ 共有者の一人が音信不通・所在不明

共有者の中に連絡の取れない人がいると、売却・賃貸・大規模修繕のいずれも進められません。令和3年の民法改正で「所在不明共有者の持分取得・譲渡」に関する裁判所手続きが新設されましたが、手続きには相当の時間と費用がかかります。

トラブル事例④ 次の相続で共有者が一気に増える

実家を兄弟3人で共有していたところ、兄が亡くなり、その持分が兄の妻・長男・次女に相続された。これにより共有者は「自分・妹・兄の配偶者・兄の長男・兄の次女」の5人になった。もともと仲の良かった兄弟間の話し合いが、「兄の家族」を交えた複雑な交渉になってしまった。

トラブル事例⑤ 相続人の一人が勝手に賃貸に出していた

共有者の一人が、他の共有者の同意なく共有不動産を賃貸に出していた。受け取った家賃について他の共有者への分配もなく、持分に応じた不当利得の返還請求問題に発展。相続人同士の関係が決定的に悪化した。


共有状態を放置するリスク

短期的に「丸く収まった」ように見える共有も、時間が経つほどリスクは拡大します。

リスク① 共有者が増え続ける(数次相続)

共有状態が長く続くほど、次の相続・さらに次の相続と、共有者の数は増え続けます。全員の合意が必要な局面では、関係者の数だけ交渉コストが増加します。疎遠になった親族・面識のない甥姪・海外在住の相続人などが絡んでくると、事実上の解決は極めて困難になります。

リスク② 建物が劣化しても修繕が進まない

修繕費用の負担を誰がどの割合で持つかについて合意が取れず、「必要だとわかっていても誰も動かない」状態が続きます。放置された建物は急速に劣化し、第3回でも解説した空き家の問題と重なっていきます。

リスク③ 売却機会を逃す

不動産市場は常に動いています。「今が売り時」というタイミングがあっても、共有者の合意が取れなければ動けません。特に地方の実家は、時間が経つほど売却が困難になるケースが多く、早期の決断が重要です。

リスク④ 相続税の申告・納付に影響が出る

相続税の申告期限は相続開始から10か月です。遺産分割が確定していない状態でも申告は必要ですが(未分割申告)、不動産に関する特例(小規模宅地等の特例など)の多くは分割が確定していないと適用できません。共有を「とりあえずの解決策」とすることで、本来受けられる特例が受けられなくなるケースがあります。

リスク⑤ 固定資産税の負担がじわじわと続く

共有状態が続く限り、毎年の固定資産税は発生し続けます。誰が払うかの取り決めが明確でなければ、共有者間の不満が積み重なり、人間関係にひびが入ります。

このようなトラブルは事前の設計で回避できるケースもあります。

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共有を解消する方法(売却・分割・買取)

共有状態を解消するための方法は、大きく4つあります。状況に応じて最適な方法を選ぶ必要があります。

方法① 共有不動産全体を売却して現金で分ける(換価分割)

最もシンプルな解消方法です。全員が合意のうえで不動産全体を売却し、売却代金を持分割合に応じて分配します。全員の合意が前提ですが、誰も住んでいない空き家の場合はこの方法が最も現実的です。

税務上は、各共有者がそれぞれの持分に対応する譲渡所得について確定申告が必要です。相続した実家の場合は「空き家の3,000万円特別控除(空き家特例)」の適用も検討できます。

方法② 一人が他の共有者の持分を買い取る(代償分割)

共有者のうちの一人(または一部)が、他の共有者から持分を買い取り、単独所有にする方法です。「実家に住み続けたい相続人」が他の相続人の持分を取得するケースでよく使われます。

買取代金の資金手当てが必要になりますが、住宅ローンや相続時精算課税を活用するケースもあります。

方法③ 現物分割(不動産を物理的に分ける)

土地であれば分筆して各共有者が単独所有の区画を取得する方法です。面積・形状・接道状況によって各区画の価値が異なる場合は、調整金を支払う場合もあります。建物については物理的な分割が困難なため、土地に限られるのが一般的です。

方法④ 共有物分割請求訴訟(裁判による強制解消)

共有者間で合意が取れない場合の最終手段です。共有者の一人が裁判所に「共有物分割請求」を申し立てると、裁判所が分割の方法を決定します。現物分割・換価分割・競売などの方法が命じられますが、競売になると通常の売却より売却価格が下がることが多いため、できる限り協議での解決を目指すべきです。

令和3年の民法改正により、裁判所が競売を命じる前に換価分割(売却して代金分配)を命じることができるようになり、実務上より柔軟な解決が可能になっています。


早期に対応することの重要性

共有不動産の問題は、時間が経てば経つほど解決が難しくなります。早期対応が重要な理由を改めて整理します。

共有者の「今」が最も条件がよい

現在の共有者の顔ぶれがシンプルで、お互いの関係が良好なうちが、最も協議しやすいタイミングです。次の相続が発生すれば関係者が増え、交渉はより複雑になります。

税務上の特例には期限がある

空き家特例(3,000万円特別控除)は令和9年12月31日までの適用期限があります(一定の要件あり)。また、小規模宅地等の特例の適用を受けるには、相続税申告期限(相続開始から10か月以内)までに遺産分割が確定している必要があります。

「決められないから共有にしよう」という先送りが、結果として多額の税負担を生む可能性があります。

不動産市況は変動する

不動産の売却価格は市況によって大きく変わります。「今は少し待とう」と様子を見ているうちに、地方では特に需要が細り、売りたいときに売れない状況になることがあります。


専門家に相談すべきケース

共有不動産の問題はひとつとして同じ事案はなく、法律・税務・不動産の知識を組み合わせた対応が必要です。次のいずれかに当てはまる場合は、早めに専門家への相談をお勧めします。

【税理士への相談が特に重要なケース】

  • 共有不動産を売却する場合(譲渡所得・空き家特例の適用検討)
  • 相続税申告が発生するケースで遺産分割方法を検討している
  • 共有者間での持分売買を検討している(みなし贈与の問題)
  • 小規模宅地等の特例の適用を受けたいが分割がまとまっていない

【司法書士への相談が特に重要なケース】

  • 共有状態の解消に伴う登記手続きが必要
  • 所在不明の共有者への対応が必要
  • 遺産分割協議書の作成に関与してほしい

【弁護士への相談が特に重要なケース】

  • 共有者間で対立が生じており交渉が難航している
  • 共有物分割請求訴訟を検討している
  • 持分を購入した第三者との交渉が必要になった

【不動産会社への相談が特に重要なケース】

  • 売却・賃貸の相場感を把握したい
  • 買取・仲介のどちらが有利か検討したい
  • 古家付きの土地の売却価格を知りたい

弊事務所では、相続税申告・遺産分割対策・共有不動産の売却に伴う税務相談に対応しています。「まず何から手を付ければいいかわからない」という段階からご相談いただけます。また、提携する司法書士・弁護士・不動産会社との連携によるワンストップ対応も可能です。


まとめ

相続で不動産が共有になることは、「とりあえずの解決策」ではなく、「問題の先送り」です。時間が経つほど共有者は増え、合意形成は難しくなり、建物は劣化し、税の特例の適用機会も失われていきます。

早期に対応することが、関係者全員にとって最良の結果をもたらします。「うちはまだ大丈夫」と思っていても、次の相続が発生してからでは手遅れになることが少なくありません。

固定資産税の通知書に複数の名前が並んでいる方、遺産分割がまだ済んでいない方は、まずは現状を整理するところからご相談ください。

尼崎市で相続不動産の分割・売却・対策をご検討の方は、
税理士法人松野茂税理士事務所までご相談ください。

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第1回(通知チェック)

第2回(登記義務化)

第3回(空き家)

第4回(共有)



本記事は、民法・不動産登記法(令和3年改正)、租税特別措置法および実務的な取扱いをもとに解説しています。個別の案件については必ず専門家にご相談ください。

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