はじめに
前回のブログで、完全支配関係にある親子会社の適格合併において、抱合株式の帳簿価額が資本金等の額から控除される理由を「投資資金の回収」という観点から解説しました。
今回は、その続きとして、会計上計上される「抱合株式消滅益」が税務上どのように処理されるのか、特に別表調整で減算され利益積立金額となる仕組みについて解説します。
前提:抱合株式消滅益とは
事例の再確認
P社(親会社・存続会社)
- 資本金等の額:1億円
- 子会社株式の帳簿価額:3,000万円
S社(子会社・消滅会社)
- 資本金等の額:2,000万円
- 純資産の時価:5,000万円
- P社が100%保有(完全支配関係)
会計上の処理
P社が適格合併を行った場合、会計上は次のような処理が行われます。
受入純資産 5,000万円(時価)
/子会社株式 3,000万円(帳簿価額)
/抱合株式消滅益 2,000万円
この差額2,000万円が「抱合株式消滅益」として会計上の利益に計上されます。
税務上の取扱い:益金不算入
法人税法第62条の8
適格合併において親会社が保有する子会社株式(抱合株式)が消滅することにより生じる利益については、法人税法第62条の8により益金不算入とされています。
なぜ益金不算入なのか
抱合株式消滅益は、グループ内部での資産の付替えに過ぎず、外部からの経済的利益の流入ではありません。完全支配関係にある企業グループを一体として見れば、実質的な損益は発生していないため、課税所得の計算上は益金に算入しないこととされています。
別表調整の実務
別表四(所得の金額の計算に関する明細書)での処理
会計上計上された抱合株式消滅益2,000万円は、税務上は益金不算入となるため、別表四で次のように調整されます。
減算項目
「抱合株式消滅益(法62の8)」 2,000万円 △留保
この「△留保」という処理が重要なポイントです。
別表五(一)(利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書)での処理
別表四で「△留保」とされた金額は、別表五(一)で利益積立金額として加算されます。
利益積立金額の増加
「抱合株式消滅益否認」 2,000万円の増加
なぜ利益積立金額になるのか:その本質的理由
投資の清算と含み益の顕在化
抱合株式消滅益が利益積立金額となる理由を、投資の観点から理解しましょう。
P社の投資の経緯
- P社は過去に3,000万円でS社株式を取得
- S社は事業活動を通じて価値が増加し、純資産の時価が5,000万円に
- P社の投資には2,000万円の含み益が存在
合併による含み益の実現
合併により、P社は以下を獲得します。
- S社の純資産5,000万円を受入
- 投資額3,000万円に対して2,000万円の利益
この2,000万円は、P社にとって内部留保された利益の性質を持ちます。ただし、課税はされていません。
将来の課税所得の源泉
利益積立金額として計上されることで、以下のような意味を持ちます。
配当可能利益の把握
この2,000万円は、P社の社内に留保された利益として、将来の配当の原資となり得ます。別表五(一)で管理することで、会社の内部留保の実態を正確に把握できます。
将来の資本等取引との関係
例えば、将来P社が減資や自己株式の取得を行う場合、この利益積立金額の有無によって、資本の払戻しなのか利益の分配なのかの判定が変わってきます。
具体的な別表記載例
別表四の記載
| 項目 | 総額 | 処分欄 |
|---|---|---|
| 当期利益又は当期欠損の額 | ××× | |
| 加算 | ||
| (中略) | ||
| 減算 | ||
| 抱合株式消滅益(法62の8) | 2,000万円 | 留保△ |
| 所得金額又は欠損金額 | ××× |
別表五(一)の記載
| 区分 | 期首利益積立金額 | 当期の増減 | 差引翌期首利益積立金額 |
|---|---|---|---|
| (中略) | |||
| 抱合株式消滅益否認 | 0 | 2,000万円 | 2,000万円 |
| 利益積立金額合計 | ××× | ××× | ××× |
資本金等の額との関係
二つの調整の整合性
前回のブログで解説した「資本金等の額からの抱合株式控除」と、今回の「利益積立金額への加算」は、表裏一体の関係にあります。
別表五(一)全体での整合性
- 資本金等の額:S社の2,000万円を加算後、抱合株式3,000万円を控除
- 利益積立金額:抱合株式消滅益2,000万円を加算
純資産全体での確認
受け入れた純資産5,000万円が、資本金等の額と利益積立金額に適切に配分されることになります。
実務上の留意点
適格合併の要件確認
この処理が適用されるのは適格合併の場合のみです。非適格合併の場合は、抱合株式消滅益が課税されることになります。
帳簿価額と時価の差額管理
抱合株式の帳簿価額と受入純資産の時価の差額を正確に計算し、会計上の抱合株式消滅益と税務上の調整額を一致させる必要があります。
他の組織再編成との相違
株式交換や株式移転では、抱合株式が発生しても消滅しないため、この処理は生じません。合併特有の処理である点に注意が必要です。
将来の税務調整への影響
利益積立金額として管理された金額は、将来の様々な税務計算に影響を与えます。例えば、みなし配当の計算や特定同族会社の留保金課税の判定などで考慮される可能性があります。
まとめ
抱合株式消滅益が別表で減算され利益積立金額となる処理は、以下の意義を持ちます。
- グループ内取引の中立性:企業グループ内部での資産の付替えに課税しない
- 内部留保の適正管理:会社に留保された利益を正確に把握する
- 将来の税務処理の基礎:配当や資本取引の税務判定の基礎となる
組織再編税制では、このように会計上の処理と税務上の処理が異なる場合が多く、別表調整を通じて適切な課税所得と利益積立金額を計算することが重要です。
特に適格合併では、資本金等の額と利益積立金額の両面から正確な処理を行うことで、組織再編後の税務リスクを最小化することができます。
税理士法人松野茂税理士事務所
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