💬【解説内容】
「別居でも…」で始まる所得税通達が、生計一親族の判断を混乱させています。
通達は覚えても使えない。その理由を、判例・裁決がどう補っているか。
税法上の“家族”を財布と生活の実態から読み解く。
🏡【はじめに】
「別居していても、生活費の送金があれば生計を一にしている」
――この所得税通達の一文が、税務現場を長年混乱させてきました。
依頼者に説明すると「家族なのに別生計なのか」と驚かれる。
通達を読んでも基準がない。
そして、判決文を読んでも難解。
けれど、通達ではなく判例を読むと“税法が本当に見ているもの”が見えてきます。
それは「同居かどうか」ではなく、「生活費の流れ」「生活の本拠」「相互扶助の実態」です。
❓Q1.なぜ所得税通達が誤解を生んだのか?
📘所得税基本通達2-47
「別居していても、生活費、学資金、療養費等の送金が行われていれば、生計を一にしているものとする。」
この“別居していても”の書き出しが、問題の始まりでした。
本来「生計一」は、**生活費・医療費などの支弁関係(=財布の結びつき)**で判断されるべきです。
しかし、通達の書きぶりが「住所」や「同居・別居」を主語にしているため、誤解を招きました。
その結果――
| よくある誤解 | 実際の税務判断 |
| 同居していれば自動的に生計一 | ✅ 原則として生計一と認められる(ただし家計が完全に独立している場合は例外) |
| 別居していれば送金すればOK | ⚠️ 継続性・金額・依存度が不十分だと認められない |
| 老人ホームに入っていても同居扱い | ❌ 経済的結合がなければ別生計(本人が年金で自弁していれば別) |
❓Q2.判例は通達の“あいまいさ”をどう補っているか?
⚖️ 最判 昭和51年3月18日
「生計を一にするとは、有無相扶けて日常生活の資を共通にする関係をいう。」
つまり、「同居か別居か」ではなく、
①経済的一体性 ②生活の共通性 ③意思の継続性
という3要素で判断すべきと明言しています。
この最高裁判決は、後の不服審判や相続税・譲渡所得特例でも繰り返し引用される“基準判例”です。
⚖️ 国税不服審判所 平成5年12月17日裁決(No.46)
生計一か否かの判断にあたり、
「家計が実質的に独立しているか」「生活費の負担関係」を基準にすべきである。
通達に書かれていない「支弁関係の継続性・実態」を明確に要件化しています。
まさに、“通達を現実に引き戻した”内容です。
⚖️ 裁決例:老人ホーム入居中の親(国税不服審判所 非公開要旨)
被相続人が老人ホームに入居していたが、費用は年金で自弁していたため、
相続人との経済的関係が途絶しており、「生計を一にしていた」とは認められない。
この事例は、現場でよくある誤解の典型です。
「心情的な同居」ではなく、「経済的な支弁関係」が途絶えた時点で“別生計”とされます。
❓Q3.なぜ通達だけでは使えないのか?
A. 通達は行政運用の“方向”を示すだけで、事実を評価する基準ではないからです。
通達を覚えていても、実務では「使えない」ことが多い。
その理由は――
- 通達は想定事例が狭い。
→ 現代的な家族形態(老人ホーム、二拠点居住、扶養分離)に対応していない。 - 制度横断的に流用されている。
→ 所得税用の定義を、相続税・措置法・譲渡特例で“使い回している”。 - “支弁の中身”が定義されていない。
→ 金額・頻度・継続性・依存度が不明。
結局、通達は覚えても「現場で判断基準としては使えない」。
だからこそ、**「通達は覚えている。でも使えない」**という実務家の言葉が現場の実感です。
❓Q4.実務で本当に見るべきポイントは?
判例・裁決を通じて見えてくるのは、「財布の流れと生活の現実」です。
| 判断軸 | チェックポイント |
| 経済的一体性 | 誰が生活費を負担していたか/仕送りの有無と頻度 |
| 居住の一体性 | 同居・帰省・部屋の共有・郵便物の送付先 |
| 意思の一体性 | 扶養意思・生活維持の関与・介護実態 |
この3つの軸で見ると、通達に書かれていない「生活の現実」が整理できます。
💬【先生のまとめコメント】
通達を覚えている。でも使えない。
あの「別居でも…」という一文が、生計一の本質を見えなくしてしまった。
税法が見ているのは“住所”ではなく“財布”。
家族の絆を信じていても、税務署は“領収書の絆”でしか判断しない。
判例はそれを静かに教えてくれます。
税務の世界では、気持ちよりも証拠。
生計一とは、心の関係ではなく、お金の関係なのです。
📚【参考法令・通達・裁決】
- 所得税法 第2条 第1項 第34号
- 所得税基本通達 2-47(生計を一にする)
- 措置法通達31-3-6(生計を一にする親族)
- 最判 昭和51年3月18日(民集30巻2号223頁)
- 国税不服審判所 平成5年12月17日裁決(裁決例 No.46)
- 国税不服審判所 平成13年6月28日裁決(裁決例 No.61)
- 老人ホーム入居事例(国税不服審判所 非公開裁決要旨)
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