🔍 はじめに
「空き家特例」「居住用3,000万円控除」「小規模宅地特例」──
いずれも“自宅”に関する税制ですが、
条文上はまったく別体系の制度です。
特に老人ホーム入居が絡む場合、
「どの特例が生きるのか?」を条文レベルで正確に判断できることが、
税理士・実務家に求められます。
🟩 第1章 居住用財産の3,000万円特別控除
(租税特別措置法 第31条の3)
📜【条文抜粋】
(居住用財産を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除)
第31条の3第1項
居住の用に供していた家屋又はその敷地を譲渡した場合において、
その居住をやめた日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡したときは、
その譲渡による譲渡所得の金額から3,000万円を控除することができる。
📘【措法通達31の3-5(老人ホーム入居者の取扱い)】
納税者がその居住の用に供していた家屋を所有していた者が、
身体上又は精神上の理由により自宅での生活が困難となり、老人ホームに入居した場合であっても、
次の要件を満たすときは、
入居期間中においても「居住の用に供していた家屋」として取り扱って差し支えない。
① 入居が生活上の必要によるものであること。
② 入居後も家財道具等が残され、帰宅が可能な状態であること。
🟢 → 平成18年(2006年)7月の通達改正で新設。
高齢化社会を背景に、「やむを得ない施設入居」を救済。
💬 実務上の論点
- 通達上の「居住の用継続」扱いにより、入居中でも譲渡可
- 「家財残存」「帰宅可能」が実質的判定要素
- 「貸付」「取り壊し」は居住喪失(通達31-3-4, 31-3-6参照)
🟦 第2章 空き家特例(被相続人居住家屋の譲渡所得控除)
(租税特別措置法 第35条の3)
📜【条文抜粋】
(被相続人の居住用家屋に係る譲渡所得の特別控除の特例)
第35条の3第1項
相続又は遺贈により取得した家屋又はその敷地等を譲渡した場合において、
被相続人がその死亡の直前において居住の用に供していたものであるときは、
その譲渡による譲渡所得の金額から3,000万円を控除することができる。
📘【同条第2項(老人ホーム入居者に関する特例)】
被相続人が死亡の直前において老人ホームに入居していた場合であっても、
当該入居が身体上又は精神上の理由によるものであり、
当該家屋が当該被相続人以外の者の居住の用に供されていなかったときは、
被相続人がその居住の用に供していた家屋とみなす。
🟩 → 平成30年度改正(2018年)で老人ホーム入居中被相続人を明文化。
💬 実務上の論点
- 老人ホーム入居による「居住喪失」を救済
- 相続後に相続人が譲渡する場合に適用
- 「他人の居住の用に供されていないこと」が明確要件
🟥 第3章 小規模宅地等の特例
(相続税法 第69条の4)
📜【条文抜粋】
(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
第69条の4第1項
被相続人等の居住又は事業の用に供されていた宅地等で、
一定の親族が相続又は遺贈により取得したものについては、
当該宅地等の課税価格の計算において、
当該宅地等の価額のうち一定の面積までの部分の価額を、
80%相当額を減額して評価することができる。
💬 老人ホーム入居との関係(国税庁FAQ)
- 被相続人が老人ホームに入居していた場合、
「居住用宅地」としての取扱いは、相続開始時に“居住の用”がなかったため原則対象外。 - ただし、介護目的であり、自宅が引き続き空き家として維持されていた場合には、
「居住の用に供していた」と認められるケースも。
(相続税基本通達21-2-2、21-2-3参照)
🗓 第4章 改正年表と政策背景
| 年度 | 制度 | 改正内容 | 趣旨 |
| 昭和63年(1988) | 居住用3,000万円控除創設 | 自宅売却時の課税軽減 | 住宅取得促進 |
| 平成18年(2006) | 通達31の3-5新設 | 老人ホーム入居中も居住継続扱い可 | 高齢化対応 |
| 平成27年(2015) | 空き家特例創設 | 相続空き家の流通促進 | 空き家対策 |
| 平成30年(2018) | 空き家特例拡大(老人ホーム入居被相続人を追加) | 高齢化による居住喪失救済 | 政策連携 |
| 令和期 | 小規模宅地等の特例厳格化 | 節税スキーム防止 | 適正課税 |
🧩 第5章 3制度の実務比較(条文対応表)
| 規定 | 条文番号 | 税目 | 主体 | 老人ホーム入居時の扱い | 控除・減額内容 |
| 居住用3,000万円特別控除 | 措法31条の3(通達31の3-5) | 所得税 | 本人 | ✅ 居住継続扱い(平成18年通達新設) | 譲渡所得3,000万円控除 |
| 空き家特例 | 措法35条の3第2項 | 所得税 | 相続人 | ✅ 居住継続扱い(平成30年明文化) | 譲渡所得3,000万円控除 |
| 小規模宅地特例 | 相続税法69条の4 | 相続税 | 相続人 | ⚠ 原則対象外(通達で限定認定) | 評価額最大80%減額 |
💬 専門家コメント
老人ホーム入居に関しては、
所得税では「本人」と「被相続人」で救済条文がそれぞれ存在します(31条の3-5、35条の3第2項)。
一方、相続税の小規模宅地特例(69条の4)には明文がなく、
通達やFAQレベルの判断に委ねられています。
この違いを条文レベルで整理しておくことが、
複数税目をまたぐ高齢者資産税務における最重要ポイントです。
🏁 まとめ
| ケース | 条文・通達 | 税目 | 対象者 | 老人ホーム入居時の扱い |
| 本人が入居中にマイホームを売却 | 措法31条の3・通達31-3-5 | 所得税 | 本人 | ✅ 居住継続扱い |
| 被相続人が入居中に死亡後、相続人が売却 | 措法35条の3第2項 | 所得税 | 相続人 | ✅ 居住継続扱い |
| 相続人が宅地を相続 | 相続税法69条の4 | 相続税 | 相続人 | ⚠ 原則対象外(限定救済) |
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