※本記事は令和7年12月26日に閣議決定された令和8年度税制改正大綱に基づいて作成しています。
※大綱は政府の方針であり、正式な法律ではありません。
※今後の国会審議、法案成立により内容が変更される可能性があります。
1. はじめに
令和7年12月26日に閣議決定された令和8年度税制改正大綱において、賃上げ促進税制(所得拡大促進税制)の大幅な見直しが示されました。
この制度は、企業の賃上げを税制面から支援する重要な政策として活用されてきましたが、大企業向けは令和8年3月31日をもって廃止、中堅企業向けは要件を厳格化した上で令和9年3月31日をもって廃止されることとなりました。
本記事では、企業規模別の改正内容と今後の対応について解説いたします。
2. 賃上げ促進税制とは
賃上げ促進税制は、企業が従業員の給与等を増加させた場合に、法人税額から一定額を控除できる制度です。
制度の区分
本税制は、大綱資料上、大企業向け措置・中堅企業向け措置・中小企業向け措置に区分して整理されています。
- 大企業向け措置:大企業を対象とする措置
- 中堅企業向け措置:大綱資料では中堅企業向け措置として整理され、従業員規模(2,000人)に言及した説明がみられますが、対象範囲・判定(資本金やグループ判定等を含む)は今後の法令・通達等で確認が必要です
- 中小企業向け措置:中小企業者等を対象とする措置
※詳細な定義・適用関係は、今後公表される法令・通達等で確認する必要があります。
3. 改正の概要
(1)大企業向け措置:令和8年3月31日で廃止
大企業向けの賃上げ促進税制は、令和8年3月31日をもって完全に廃止されます。
つまり、令和8年3月31日までに開始する事業年度が、大企業が本制度を利用できる最後の事業年度となります。
適用できる最後の事業年度(例)
- 3月決算法人:令和8年3月期(令和7年4月1日~令和8年3月31日)
- 12月決算法人:令和7年12月期(令和7年1月1日~令和7年12月31日)
(2)中堅企業向け措置:要件厳格化の上、令和9年3月31日で廃止
中堅企業向け措置については、令和8年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度は、以下のとおり要件を厳格化した上で適用され、その後廃止されます。
改正前(令和8年3月31日までに開始する事業年度)
大綱資料によれば、現行制度では継続雇用者給与等の増加率に応じて税額控除が適用されています。
※具体的な控除率等の詳細は、現行の租税特別措置法および関連通達をご確認ください。
上乗せ措置
- 教育訓練費が前年度比20%以上増加した場合の上乗せ措置
- くるみん認定・えるぼし認定等を取得した場合の上乗せ措置
改正後(令和8年4月1日から令和9年3月31日までに開始する事業年度)
大綱資料によれば、以下のとおり要件が見直される方針です。
| 継続雇用者給与等の増加率 | 控除率 |
|---|---|
| 4%以上 | 給与等増加額の10% |
| 5%以上 | 給与等増加額の15% |
| 6%以上 | 給与等増加額の25% |
※上記の控除率は大綱資料に基づく整理です。詳細は今後公表される法令・通達等で確認が必要です。
上乗せ措置の変更
- 教育訓練費の上乗せ措置:廃止
- くるみん・えるぼし認定等の上乗せ措置:継続の見込み(大綱概要図に記載あり)
※くるみん・えるぼし認定等の上乗せ措置の詳細(要件・上乗せ率等)は、今後公表される法令・通達等で確認が必要です。
ポイント
- 基本要件が「3%以上」から「4%以上」に引き上げられた
- 従来の「4%以上で25%」が「6%以上で25%」に変更され、段階的な控除率体系となった
- 教育訓練費の上乗せ措置(10%)は廃止
- くるみん・えるぼし認定等の上乗せ措置は継続される見込み
適用できる期間(例)
- 3月決算法人:令和9年3月期(令和8年4月1日~令和9年3月31日)が最後
- 12月決算法人:令和8年12月期(令和8年1月1日~令和8年12月31日)が最後
(3)中小企業等向け措置:基本的枠組みは維持(教育訓練費上乗せは廃止)
中小企業等向け措置については、令和8年度は基本的枠組みは維持される一方、教育訓練費に係る上乗せ措置は廃止される方針です。
令和8年度の方針
大綱資料によれば、中小企業向け措置は令和8年度は基本的枠組みが維持されます。
※具体的な要件・控除率等の詳細は、今後公表される法令・通達等をご確認ください。
上乗せ措置の変更
- 教育訓練費に係る上乗せ措置(教育訓練費要件):廃止
- くるみん認定・えるぼし認定等に係る上乗せ措置:継続の見込み(大綱概要図に記載あり)
※くるみん・えるぼし認定等の上乗せ措置の詳細(要件・上乗せ率等)は、今後公表される法令・通達等で確認が必要です。
ポイント
- 基本的な要件(1.5%以上、2.5%以上)と控除率(15%、30%)は維持
- 教育訓練費の上乗せ措置(10%)は廃止
- くるみん・えるぼし認定等の上乗せ措置は継続される見込み
- 適用期限到来時(今後)に必要な見直しが検討される旨が大綱に明記されている
4. 改正内容の比較表(企業区分別)
※以下の表は、令和8年度税制改正大綱に基づく整理です。詳細は今後公表される法令・通達等で確認する必要があります。
| 区分 | 令和8年度改正大綱での方向性 | いつまで使える?(期首基準の考え方) | 教育訓練費上乗せ | くるみん等上乗せ |
|---|---|---|---|---|
| 大企業向け | 廃止 | 令和8年3月31日までに開始する事業年度まで | 廃止(経過の整理は法令確認) | 制度自体が廃止 |
| 中堅企業向け | 要件強化の上で継続→適用期限で廃止 | 令和8年4月1日以後開始は要件強化、適用期限(令和9年3月31日)で廃止 | 廃止 | 継続(+5%)の整理 |
| 中小企業向け | 令和8年度は現行維持、期限到来時に見直し検討 | (令和8年度は継続) | 廃止 | 継続(+5%)の整理 |
5. 企業規模別の対応ポイント
(1)大企業の場合
令和8年3月31日までに開始する事業年度が最後のチャンスです。
今すぐ検討すべきこと
- 令和8年3月期(3月決算法人の場合)で制度を最大限活用
- 現行制度における基本要件を満たした上で、教育訓練費の上乗せ措置およびくるみん・えるぼし認定による上乗せ措置の適用を検討
- 具体的な控除率・要件等は、現行の租税特別措置法および関連通達をご確認ください
令和8年4月以降
- 制度廃止後の賃上げ方針の見直し
- 他の税制優遇措置(設備投資促進税制、研究開発税制等)の活用検討
(2)中堅企業の場合
令和9年3月31日までに開始する事業年度が最後です。ただし要件が厳格化されます。
令和8年3月期(令和8年3月31日までに開始する事業年度)
- 現行制度を最大限活用
- 教育訓練費の上乗せ措置およびくるみん・えるぼし認定の上乗せ措置の適用を検討
- 具体的な控除率・要件等は、現行の租税特別措置法および関連通達をご確認ください
令和9年3月期(令和8年4月1日~令和9年3月31日に開始する事業年度)
- 基本要件が継続雇用者給与等の増加率4%以上に引き上げ
- 大綱資料によれば、増加率に応じた段階的な控除率体系となる見込み
- 教育訓練費の上乗せ措置は廃止
- くるみん・えるぼし認定の上乗せ措置は継続見込み
- 詳細な控除率等は、今後公表される法令・通達等で確認が必要
令和9年4月以降
- 制度廃止後の賃上げ方針の見直し
(3)中小企業等の場合
令和8年度は基本的枠組みは維持されますが、教育訓練費の上乗せ措置は廃止されます。
令和8年度以降
- 基本的な枠組みは維持される見込み
- 教育訓練費に係る上乗せ措置は廃止
- くるみん・えるぼし認定等に係る上乗せ措置は継続見込み
- 具体的な要件・控除率等は、今後公表される法令・通達等で確認が必要
今後の見通し
- 大綱には「適用期限到来時に必要な見直しが検討される」旨が明記
- 制度の継続・廃止・要件変更等の可能性があり、今後の動向に注意が必要
6. 教育訓練費の上乗せ措置廃止の背景
大綱資料によれば、教育訓練費の増加額を税額控除額が上回る場合があるとの指摘を踏まえ、企業規模にかかわらず全区分で廃止されることとなりました。
廃止される上乗せ措置
- 大企業向け措置:教育訓練費に係る上乗せ措置(教育訓練費要件) → 廃止
- 中堅企業向け措置:教育訓練費に係る上乗せ措置(教育訓練費要件) → 廃止
- 中小企業向け措置:教育訓練費に係る上乗せ措置(教育訓練費要件) → 廃止
※具体的な控除率等の詳細は、現行の租税特別措置法および今後公表される法令・通達等をご確認ください。
実務への影響
- 令和8年3月31日までに開始する事業年度は従来どおり適用可能
- 令和8年4月1日以降に開始する事業年度からは適用不可
7. くるみん・えるぼし認定等の上乗せ措置
大綱概要図では、改正後もくるみん・えるぼし認定等に係る上乗せ措置が記載されており、継続される見込みです。
対象となる認定
- くるみん認定:子育てサポート企業としての認定
- えるぼし認定:女性活躍推進企業としての認定
- その他両立支援・女性活躍に係る認定等
上乗せ率
- 従来どおり5%の加算が適用される見込み
注意事項
詳細は今後公表される政令・通達等で明確化される見込みです。認定取得を検討される場合は、最新情報をご確認ください。
8. 具体的な計算例
※以下の計算例は、大綱資料に基づく例示です。具体的な控除率・計算方法等は、今後公表される法令・通達等で確認する必要があります。実際の適用にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。
【例1】大企業(3月決算法人)
前提条件
- 令和8年3月期(令和7年4月1日~令和8年3月31日)
- 継続雇用者給与等の増加率:4.5%
- 給与等増加額:5,000万円
- 教育訓練費を前年度比25%増加
- くるみん認定を取得
税額控除のイメージ(例示)
現行制度における基本的な税額控除に加え、教育訓練費の上乗せ措置およびくるみん認定による上乗せ措置が適用できる可能性があります。
令和8年4月以降
- 大企業向け措置は廃止されるため、適用不可
【例2】中堅企業(3月決算法人)
ケース①:令和8年3月期
前提条件
- 令和8年3月期(令和7年4月1日~令和8年3月31日)
- 継続雇用者給与等の増加率:4.2%
- 給与等増加額:3,000万円
- 教育訓練費を前年度比22%増加
- えるぼし認定を取得
税額控除のイメージ(例示)
現行制度における基本的な税額控除に加え、教育訓練費の上乗せ措置およびえるぼし認定による上乗せ措置が適用できる可能性があります。
ケース②:令和9年3月期(改正後)
前提条件
- 令和9年3月期(令和8年4月1日~令和9年3月31日)
- 継続雇用者給与等の増加率:5.5%
- 給与等増加額:3,000万円
- えるぼし認定を保持
税額控除のイメージ(例示)
改正後の要件(継続雇用者給与等の増加率5%以上)に基づく基本的な税額控除に加え、えるぼし認定による上乗せ措置(継続見込み)が適用できる可能性があります。
比較のポイント
改正により、教育訓練費の上乗せ措置が廃止されるため、従来と比べて税額控除額が減少する見込みです。
【例3】中小企業等(3月決算法人)
前提条件
- 令和9年3月期(令和8年4月1日~令和9年3月31日)
- 雇用者給与等の増加率:3.0%
- 給与等増加額:1,500万円
- くるみん認定を取得
税額控除のイメージ(令和8年度改正後・例示)
大綱資料によれば、中小企業向け措置は令和8年度は現行制度が維持されます。基本的な税額控除に加え、くるみん認定による上乗せ措置(継続見込み)が適用できる可能性があります。
改正による影響
教育訓練費の上乗せ措置は廃止されるため、従来、教育訓練費を増加させて上乗せ措置を受けていた場合と比べて、税額控除額が減少する見込みです。
9. よくある質問(Q&A)
Q1. 大企業ですが、令和8年4月以降も賃上げ促進税制を利用する方法はありますか?
A. 大企業向け措置は令和8年3月31日をもって廃止されるため、令和8年4月1日以降に開始する事業年度では利用できません。
Q2. 中堅企業ですが、令和9年3月期の要件厳格化の具体的な内容を教えてください。
A. 基本要件が「継続雇用者給与等の増加率3%以上」から「4%以上」に引き上げられます。また、従来の「4%以上で25%控除」が「6%以上で25%控除」に変更され、5%以上で15%、4%以上で10%の段階的な控除率体系となります。教育訓練費の上乗せ措置は廃止されますが、くるみん・えるぼし認定等の上乗せ措置は継続される見込みです。
Q3. 中小企業等の賃上げ促進税制は今後も継続されますか?
A. 令和8年度は現行制度が維持されますが、大綱には「適用期限到来時に必要な見直しが検討される」旨が明記されています。継続・廃止・要件変更等の可能性があるため、今後の税制改正動向に注意が必要です。
Q4. 教育訓練費の上乗せ措置はいつまで利用できますか?
A. 令和8年3月31日までに開始する事業年度が最後です。令和8年4月1日以降に開始する事業年度からは、企業規模にかかわらず全区分で廃止されます。
Q5. くるみん・えるぼし認定の上乗せ措置は継続されますか?
A. 大綱概要図では改正後も記載されており、継続される見込みです。ただし、詳細は今後公表される政令・通達等で明確化される見込みですので、最新情報をご確認ください。
10. まとめ
令和8年度税制改正大綱における賃上げ促進税制の見直しは、企業規模によって大きく異なる対応が求められます。
ポイント整理
✓ 大企業:令和8年3月31日で廃止。令和8年3月期が最後のチャンス。
✓ 中堅企業:令和8年4月1日から要件厳格化(4%以上に引き上げ)。令和9年3月31日で廃止。
✓ 中小企業等:令和8年度は基本的枠組み維持。教育訓練費上乗せは廃止。今後の動向に注意。
✓ 教育訓練費の上乗せ措置:令和8年3月31日で全区分廃止。
✓ くるみん・えるぼし認定等の上乗せ措置:継続見込み。
今すぐ取るべきアクション
大企業
- 令和8年3月期で制度を最大限活用
- 現行制度における各種要件の充足と上乗せ措置の適用を検討
- 令和8年4月以降の賃上げ方針の見直し
中堅企業
- 令和8年3月期で現行制度を最大限活用
- 令和9年3月期は4%以上(さらに高い控除率を狙う場合は6%以上)の賃上げを検討
- くるみん・えるぼし認定の取得・維持を検討
中小企業等
- 基本的枠組みは維持される見込み(具体的な要件・控除率は法令等で確認)
- くるみん・えるぼし認定等の上乗せ措置の取得・維持を検討
- 今後の税制改正動向に注意
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