令和8年度税制改正大綱|相続開始前5年以内に取得した貸付用不動産の評価改正について | 尼崎の税理士による速報

令和8年度税制改正大綱|相続開始前5年以内に取得した貸付用不動産の評価改正について | 尼崎の税理士による速報

本記事は令和6年12月に公表された令和8年度税制改正大綱に基づいて作成しています。

大綱は政府の方針であり、正式な法律ではありません。

今後の国会審議、法案成立、政令・通達の公表により内容が変更される可能性があります。

目次

1. はじめに

令和6年12月に公表された令和8年度税制改正大綱において、相続税・贈与税の評価方法に関する重要な改正が盛り込まれました。特に注目すべきは、被相続人等が相続開始前5年以内に取得または新築した貸付用不動産の評価方法の見直しです。

この改正は、相続税の節税を目的とした駆け込み的な貸付用不動産の取得に対する抑止策として位置づけられており、相続税対策を検討されている方々にとって、今後の資産運用や相続対策に大きな影響を与える可能性があります。

2. 改正の背景

近年、相続税の節税を目的として、相続開始直前に貸付用不動産を取得するケースが増加していました。貸付用不動産は、相続税評価額が市場価格(時価)よりも大幅に低くなる傾向があるため、現金や有価証券を貸付用不動産に転換することで、相続税の課税価格を圧縮できるという節税効果がありました。

現行制度での評価方法の問題点

現行制度では、貸付用不動産の相続税評価額は以下のように算出されます。

  • 土地:路線価または倍率方式による評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
  • 建物:固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)

この方法により、例えば2億円で購入した賃貸マンションが、相続税評価額では1億円程度になることも珍しくありませんでした。そのため、相続開始直前に現金を貸付用不動産に転換する「駆け込み対策」が横行していたのです。

3. 改正の内容

今回の改正では、被相続人等が相続開始前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築した一定の貸付用不動産については、原則として課税時期における通常の取引価額(時価)に相当する金額で評価することとされました。

改正の主なポイント

  1. 対象となる資産

被相続人等が相続開始前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築した貸付用不動産が対象となります。「対価を伴う取引」には売買のほか、代物弁済、負担付贈与なども含まれると考えられます。

  • 評価方法(原則)

課税時期における通常の取引価額(時価)に相当する金額で評価します。時価の算定には、不動産鑑定士による鑑定評価額などが参考になると考えられます。

  • 評価方法(実務上の簡便法)

実務的には、取得価額を基に地価の変動等を考慮した価額の80%に相当する金額で評価することが可能とされています。

この簡便法により、納税者の実務負担を軽減しつつ、適正な評価が可能となります。

  • 適用時期

令和9年1月1日以後の相続または贈与により取得する財産の評価から適用されます。つまり、令和8年中に取得した貸付用不動産であっても、相続開始が令和9年1月1日以後であれば、本改正の対象となります。

4. 改正前後の評価方法の比較

項目改正前改正後
対象資産全ての貸付用不動産相続開始前5年以内に対価を伴う取引により取得・新築した貸付用不動産
評価方法通常の評価方法(路線価・固定資産税評価額)による評価減原則:課税時期の通常の取引価額(時価) 実務上:取得価額ベース×80%
適用開始令和9年1月1日以後の相続・贈与から適用

5. 具体的な計算例

以下のケースで、改正前後の評価額を比較してみましょう。

【前提条件】

  • 令和8年2月に貸付用マンションを2億円(土地1億円、建物1億円)で購入
  • 令和10年5月に相続が発生(購入から2年3か月後、令和9年1月1日以後の相続のため改正適用)
  • 相続時の時価(不動産鑑定評価):1億9,500万円
  • 土地の路線価評価額:7,000万円
  • 建物の固定資産税評価額:6,000万円
  • 借地権割合:60%、借家権割合:30%、賃貸割合:100%

【改正前の評価額】

土地(貸家建付地)

7,000万円 × (1 – 0.6 × 0.3) = 5,740万円

建物(貸家)

6,000万円 × (1 – 0.3) = 4,200万円

合計:9,940万円

【改正後の評価額】

相続開始前5年以内(2年3か月前)に取得した貸付用不動産のため、時価評価または実務上の簡便法による評価となります。

方法①:時価による評価

相続時の時価(不動産鑑定評価):1億9,500万円

方法②:実務上の簡便法

取得価額2億円を基に地価変動を考慮

評価額 = 2億円 × 地価変動率 × 80%

(地価がほぼ横ばいと仮定)= 2億円 × 1.0 × 80% = 1億6,000万円

採用する評価額

実務上は簡便法を採用し、1億6,000万円で評価することが考えられます。ただし、個別の事案によっては時価評価が必要となる場合もあります。

【評価額の比較】

改正後の評価額(1億6,000万円)- 改正前の評価額(9,940万円)= 6,060万円の増加

相続税率を20%と仮定すると、約1,200万円の税負担増となります。

6. 実務上の注意点

(1)「対価を伴う取引」の範囲

売買のほか、代物弁済、負担付贈与などが含まれると考えられます。一方、通常の贈与や相続による取得は対象外と考えられますが、詳細は今後の政令・通達等で明確化される見込みです。

(2)5年のカウント方法

「5年以内」の起算点は取得日または新築日であり、相続開始日から遡って5年以内に取得・新築した不動産が対象となります。取得日の判定には、登記日ではなく、実際の売買契約日や引渡日が基準となると考えられますが、詳細は今後の通達等で明確化される見込みです。

(3)贈与により取得した財産の取扱い

【重要な未確定事項】

今回の改正は「対価を伴う取引」により取得した貸付用不動産を対象としています。しかし、通常の贈与により取得した貸付用不動産が従来どおりの評価方法で評価できるのか、それとも何らかの制限が設けられるのか、大綱では明示されていません。

この点は実務上非常に重要な論点であり、今後の政令・通達等での明確化が必要不可欠です。相続開始前に贈与により貸付用不動産を移転する相続対策を検討されている場合は、法令等の公表を待って慎重に判断する必要があります。

(4)貸家建付地評価等の適用可否

【重要な未確定事項】

時価評価または実務上の簡便法により評価する場合、貸家建付地としての評価減(借地権割合×借家権割合×賃貸割合)や、貸家としての評価減(借家権割合×賃貸割合)が適用されるのか、大綱では明示されていません。

この点は評価額に大きな影響を与えるため、実務上最も重要な論点の一つです。例えば、2億円で取得した貸付用不動産について、簡便法で1億6,000万円(2億円×80%)と評価する際、さらに貸家建付地評価減が適用できるのかどうかにより、最終的な評価額が大きく変わります。今後の法令等での取扱いを注視する必要があります。

(5)地価変動の考慮方法

実務上の簡便法において「地価の変動等を考慮した価額」をどのように算定するかは、今後の通達等で具体的な方法が示されると思われます。公示地価や路線価の変動率などを参考にすることが想定されます。

(6)80%評価の根拠

実務上の簡便法で80%とされる根拠は、一般的な不動産の評価において、路線価が公示価格の約80%水準とされていることとの整合性を図ったものと考えられます。

(7)既に所有している貸付用不動産への影響

改正は令和9年1月1日以後の相続・贈与により取得する財産の評価から適用されます。したがって、現在すでに所有している貸付用不動産については、相続開始時期が令和9年1月1日以後であっても、その不動産を取得してから5年以上経過していれば、従来どおりの評価方法が適用されます。

(8)通常の評価額との比較

実務上の簡便法による評価額が、通常の評価方法(路線価・固定資産税評価額)による評価額を下回る場合、通常の評価方法による評価額を採用することになると考えられます。この点も今後の法令等で明確化される見込みです。

7. クライアント対応のポイント

(1)駆け込み対策の再検討

改正は令和9年1月1日以後の相続・贈与から適用されるため、令和8年中に貸付用不動産を取得しても、相続開始が令和9年1月1日以後で取得から5年以内であれば、本改正の対象となります。短期的な相続税対策よりも、長期的な資産運用や事業承継の観点から判断することが重要です。特に、被相続人の健康状態等を考慮し、5年以上の保有が見込めるかを慎重に検討する必要があります。

(2)既存の相続税対策の見直し

令和9年1月1日以後の相続・贈与においては、取得から5年以内の貸付用不動産による相続税対策の効果は大幅に減少します。そのため、他の相続税対策(暦年贈与、生命保険の活用、事業承継税制の利用など)を組み合わせた総合的な対策を検討することが望ましいでしょう。

(3)貸付用不動産投資の判断基準の変更

今後は、相続税対策としての効果よりも、賃貸収益や資産価値の維持・向上といった本来の不動産投資としての視点が重要になります。収益性、立地、将来性、流動性などを総合的に判断し、投資判断を行うことが求められます。

(4)5年超の長期保有の重要性

改正後は、貸付用不動産を取得してから5年を経過すれば、通常の評価方法が適用されます。したがって、長期的な資産運用・相続対策として貸付用不動産を活用する場合は、少なくとも5年以上の保有を前提とした計画を立てることが重要です。

(5)評価方法の選択肢の検討

時価評価と実務上の簡便法(取得価額ベース×80%)のいずれを選択するかは、相続時の不動産市況や地価動向によって判断することになります。専門家のアドバイスを受けながら、最適な評価方法を選択することが重要です。

8. まとめ

令和8年度税制改正大綱における貸付用不動産の評価改正は、相続税対策の在り方に大きな影響を与えるものです。ただし、現時点では大綱段階であり、今後の国会審議、法案成立、政令・通達の公表により、詳細な内容が確定します。

本改正により、相続開始前5年以内に取得した貸付用不動産による短期的な相続税節税は、大幅に制限されることになります。一方で、5年以上前に取得した貸付用不動産は従来どおりの評価方法が適用されるため、長期的な視点での相続対策・資産運用の重要性が改めて認識されることになります。

今後、令和8年の通常国会で法案が審議され、成立後に政令や通達が公表されることで、詳細な取扱いが明らかになります。特に、贈与により取得した貸付用不動産の取扱い、貸家建付地評価等の適用可否は実務上最も重要な論点であり、これらの取扱い次第で相続税対策への影響が大きく変わります。その他、対価を伴う取引の範囲、地価変動の考慮方法、80%評価の具体的算定方法なども、法令等の公表を待って確認する必要があります。

相続税対策をご検討の際は、税制改正大綱の内容および今後公表される法令等の動向を踏まえた上で、お客様の資産状況や事業承継の方針に応じた最適な対策をご提案させていただきます。お気軽にご相談ください。

税理士法人松野茂税理士事務所

〒660-0861 兵庫県尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F

(阪神尼崎駅徒歩1分)

TEL: 06-6419-5140 FAX: 06-6423-7500

【専門分野】

相続税・贈与税対策|事業承継|組織再編|M&A税務

法人税・所得税・消費税申告|記帳代行(弥生会計・クラウド会計対応)

目次