この記事でわかること
- 個人から法人への株式譲渡でみなし譲渡課税が適用されるケース
- 所得税法基本通達59-6の制度趣旨の重要性
- 第三者間取引で合意した価格が時価として認められる理由
- 低額譲渡による二重課税を避ける方法
はじめに
「個人から法人へ株式を譲渡する際、必ずみなし譲渡課税が適用される」と思い込んでいる方が少なくありません。しかし、実は所得税法基本通達59-6には制度趣旨の説明があります。今回は、創業者である社長が取引先法人に自社株を譲渡するケースを例に、この通達の正しい理解について解説します。
【事例】創業社長が取引先法人に株式を譲渡するケース
背景
創業者である社長は、会社の事業拡大のために、自身が保有する株式の一部を取引先の会社に保有してもらうことにしました。
株式の評価額
- 原則法(所得税法基本通達59-6): 1株50万円
- 配当還元法: 1株5万円
取引先法人の考え
取引先の会社は、配当を毎年受け取ること以外に株式を保有する必要がないため、配当還元法での取得を提案しました。
譲渡価格の決定
社長と取引先経営者が誠実な話し合いを行い、1株15万円で売買することに合意しました。
所得税法基本通達59-6の原則的な取扱い
評価方法の基本ルール
所得税法基本通達59-6では、取引相場のない株式の評価について、財産評価基本通達178〜189-7の例によることとされています。
重要なポイント
- 同族株主の判定時期
- 譲渡の場合:譲渡前
- 贈与の場合:贈与後
- 相続の場合:取得後
- 中心的な同族株主の評価
- 常に小会社 :類似0.5+純資産0.5(L=0.5)
- 判定時期は譲渡前
- 土地・有価証券
- 時価で評価
- 純資産価額の計算
- 法人税相当額は控除しない
低額譲渡に該当した場合の課税関係
もし、この通達を形式的に適用すると、以下のような課税関係になります。
社長(売主)側の課税
譲渡前に中心的な同族株主に該当するため、常に小会社L=0.5で評価されます。
みなし譲渡課税
- 時価:50万円 × 1/2 = 25万円 ≧ 15万円(実際の譲渡価格)
- 課税対象:(50万円 – 取得費5万円)× 20%(株式譲渡所得税率)
取引先法人(買主)側の課税
受贈益課税
- 株式取得価格:50万円(時価)
- 実際の支払額:15万円(現金)
- 受贈益:35万円(法人税30%)
問題点
このような形式的な適用では、二重課税が生じることになります。
所得税法基本通達59-6の制度趣旨(重要!)
通達の制度趣旨
「なお、当然のことながら、純然たる第三者間において種々の経済性を考慮して決定された価額(時価)により取引されたと認められる場合など、この取扱いを形式的にあてはめて判定することが相当でない場合もあることから、この取扱いは原則的なものとしたものである。」
実務上の結論
通常、社長と取引先の会社で誠実な話し合いのもとで合意された売買金額は時価と認められます。
つまり、今回の事例では15万円が時価として扱われ、みなし譲渡課税も受贈益課税も適用されないことになります。
法人税の取扱いも同様
法人税基本通達9-1-13及び9-1-14
内容は所得税法基本通達59-6とほぼ同じです。
逐条解説での説明
「本通達は(省略)適正取引価格として準用されることになる。ただし、純然たる第三者間において種々の経済性を考慮して決定された価額は、たとえ上記としたところと異なる価額であっても、一般に合理性のあるものとして是認されることになろう。」
結論
法人側においても受贈益の課税はありません。
【参考】個人から個人へ譲渡する場合
売主側
譲渡前に持株割合が1/2未満でも所得税は対価課税なので、損失は税務上はなかったものとする。
みなし贈与の課税はありません。
買主側
低額譲渡の場合は 差額は贈与税の課税となりますが
贈与後に少数株主であれば、配当還元法で評価されるため、贈与税の課税もありません。
まとめ
ポイント整理
- 所得税法基本通達59-6は原則的な取扱いを示したものであり、形式的に適用されるものではありません。
- 純然たる第三者間で誠実に決定された価格は、たとえ通達の評価額と異なっていても、時価として認められます。
- 実務では、合理的な理由に基づく価格交渉の経緯が重要です。
- 二重課税を避けるための合理的な制度趣旨を理解することが大切です。
実務上の注意点
- 価格決定の経緯を記録しておくこと
- 双方が納得できる合理的な理由があること
- 恣意的な価格操作ではないこと
おわりに
取引相場のない株式の譲渡については、通達の原則的な取扱いだけでなく、その制度趣旨や但し書きを正しく理解することが重要です。個別の案件については、必ず税理士にご相談ください。
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