18回 2世帯住宅における小規模宅地等の特例 平成25年度改正の実務ポイント【尼崎の税理士法人が解説】

税理士法人松野茂税理士事務所 18回 2世帯住宅における小規模宅地等の特例 平成25年度改正の実務ポイント【尼崎の税理士法人が解説】

目次

はじめに

本記事は、税理士や相続専門の弁護士など、相続税に関する専門知識をお持ちの方を対象に執筆しています。

平成25年度税制改正により、2世帯住宅に係る小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)の取扱いが大きく変更されました。従来の「内部構造基準」から「区分所有登記の有無」を判定基準とする改正は、実務上極めて重要な意義を持ちます。

本稿では、租税特別措置法施行令の条文を原文で確認しながら、改正前後の取扱いの相違点を専門的見地から解説いたします。


改正の適用時期

平成26年1月1日以降の相続開始から適用


改正後の取扱い(平成26年1月1日以降)

基本的な判定基準

改正後は、区分所有登記の有無によって特例の適用範囲が明確に区分されます。

① 区分所有登記がされていない場合

玄関が別々の完全分離型2世帯住宅であっても、被相続人と親族が同居しているものとみなされ、敷地全体が特例(特定居住用宅地等)の対象となります。

これがいわゆる**「みなし同居」**の規定です。

② 区分所有登記がされている場合(全ての登記が区分されている場合)

従来通り、被相続人が居住していた部分(専有部分)に対応する敷地の一部のみが特例の対象となります。


改正前の取扱い(平成25年12月31日以前)

判定基準:内部構造による判断

改正前は、2世帯住宅が特例の対象となるかどうかは、建物の内部構造によって判断されていました。

① 内部で行き来できる構造の場合

親子が一つの建物に居住しているとみなされ、敷地全体が特例の対象とされていました。

② 内部で行き来できない構造(玄関が別々など)の場合

それぞれが独立した居住とみなされ、被相続人(親)が居住していた部分に対応する敷地の一部のみが特例の対象となりました。

改正前の問題点: 玄関が別々の完全分離型2世帯住宅では、実態として同居していても、内部で行き来できない構造であれば特例の適用が制限されるという不合理が生じていました。


条文による確認

租税特別措置法施行令 第四十条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)

第4項(抜粋)

(…前略…)これらの宅地等のうちに当該被相続人等の第六条の四第一項に規定する事業の用及び居住の用以外の用に供されていた部分があるときは、当該被相続人等の同項に規定する事業の用又は居住の用に供されていた部分(当該居住の用に供されていた部分が被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物(建物の区分所有等に関する法律第一条の規定に該当する建物を除く。)に係るものである場合には、当該一棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうち当該被相続人の親族の居住の用に供されていた部分を含む。)に限るものとする。

条文の重要部分

「一棟の建物(建物の区分所有等に関する法律第一条の規定に該当する建物を除く。)」

この括弧書きが改正のポイントです。

解釈: 小規模宅地等の特例は、一棟の建物のうち区分所有登記された建物を除くものが対象となります。つまり、2世帯住宅は、区分所有登記されているか否かで取扱いが全く異なることになります。


同条第13項

法第六十九条の四第三項第二号イに規定する政令で定める部分は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める部分とする。

一 被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物が建物の区分所有等に関する法律第一条の規定に該当する建物である場合 当該被相続人の居住の用に供されていた部分

二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人又は当該被相続人の親族の居住の用に供されていた部分


条文のポイント解説

第13項第二号の意義

第13項第二号により、区分所有登記されていない建物であれば、被相続人が居住している部分だけでなく、「親族の居住の用に供されていた部分」も特例の対象に含まれることが明確化されました。

これが「みなし同居」の法的根拠です。

第13項第一号との対比

一方、区分所有登記されている建物では、第13項第一号の通り、特例の対象は**「被相続人の居住の用に供されていた部分」に限定**されます。

「みなし同居」の適用範囲

区分所有登記がされていない1棟の建物に居住する親族については、その建物のすべてが被相続人の居住の用に供されていたものとみなされます。

(注)条文上の「親族」の範囲
民法第725条に規定する親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)を指します。

重要な実務ポイント: この条文解釈により、2世帯住宅が区分所有登記されていない1棟の建物である場合、そこに住んでいる被相続人の親族は、被相続人とみなし同居の扱いとなります。

たとえ被相続人と相続人が別生計であっても、みなし同居となるため、1棟の建物全体が特定居住用宅地等に該当します。


改正の実務上の影響

ケーススタディ

【事例】完全分離型2世帯住宅(玄関別・内部行き来不可)

  • 1階:父(被相続人)居住
  • 2階:長男家族居住
  • 敷地面積:300㎡
  • 各階の床面積は均等

改正前の取扱い

内部で行き来できないため、父の居住部分(1階)に対応する敷地のみが特例対象 → 特例適用面積:150㎡(敷地の1/2相当)

改正後の取扱い(区分所有登記なしの場合)

建物全体がみなし同居となる → 特例適用面積:300㎡(敷地全体、ただし330㎡限度)

効果: 特例適用面積が2倍となり、相続税の大幅な軽減が実現されます。


実務上の留意点

1. 登記の確認が必須

相続開始前に、必ず登記事項証明書で区分所有登記の有無を確認してください。

2. 区分所有登記の定義

建物の区分所有等に関する法律第1条に該当する建物とは:

  • 1棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居等として使用できるもの
  • それぞれの部分が所有権の目的となっているもの

3. 別生計でも適用可能

区分所有登記がされていない2世帯住宅では、被相続人と相続人が別生計であっても、みなし同居により特例の適用が受けられます。

4. 「家なき子特例」との関係

極めて重要な実務ポイント

この「みなし同居」規定が適用される親族は、税法上、被相続人と同居していたものと扱われます。そのため、別居親族が満たすべき**「家なき子特例」(租税特別措置法第69条の4第3項第2号ロ)の要件を検討する必要はありません。**

「家なき子特例」では、相続開始前3年以内に、取得者が自己または自己の配偶者の所有する家屋に居住したことがないこと等の厳格な要件が課されています。

しかし、区分所有登記されていない2世帯住宅に居住する親族は、みなし同居として特例が適用されるため、このような厳しい要件を満たす必要がなく、小規模宅地等の特例の適用を受けることが可能となります。

実務上の判断フロー:

  1. まず、区分所有登記の有無を確認
  2. 区分所有登記がない場合 → みなし同居 → 特例適用(家なき子要件は不要)
  3. 区分所有登記がある場合 → 別居扱い → 家なき子特例の要件検討が必要

この判断の順序を誤ると、本来適用できる特例を見落とす、または誤った要件で判定してしまう可能性があるため、十分な注意が必要です。

5. 区分所有登記の変更

既に区分所有登記されている場合、相続開始前に単独所有に登記変更することで、改正後の有利な取扱いを受けることが可能です(ただし、登記変更には費用と時間を要します)。


まとめ

平成25年度改正により、2世帯住宅における小規模宅地等の特例の判定基準が、「内部構造」から「区分所有登記の有無」へと明確化されました。

改正の本質: 実態に即した柔軟な特例適用を可能とし、完全分離型2世帯住宅においても、区分所有登記がなければ敷地全体への特例適用が認められることとなりました。

実務対応: 相続税対策として2世帯住宅を検討する際には、建築段階から区分所有登記の有無を意識した設計・登記を行うことが極めて重要です。


次回予告

次回は、具体的な事例をQ&A形式で紹介し、さらに理解を深めていきます。

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