1回 定期同額給与の基本【尼崎の税理士法人がスタッフ向けに解説】

税理士法人松野茂税理士事務所 1回 定期同額給与の基本【尼崎の税理士法人が解説】
目次

1. 定期同額給与の基本要件

定期同額給与として損金算入が認められるためには、以下の2要件を満たす必要があります。

(1)支給時期が1月以下の一定期間ごとであること

原則: 毎月同じ日に支給

例外が認められる場合:

  • 支給日が休日のため前後する場合
  • 資金繰り等により数日ずれる場合(おおむね1週間程度)

(2)各支給時期における支給額が同額であること

通勤手当等を含めた総額で判定します。


2. 改定が認められる3つのケース

原則として期中の給与変更は認められませんが、以下の事由に該当する場合のみ改定可能です。

① 定時改定(期首3月以内の改定)

要件: 事業年度開始の日から3月以内に行われる改定

例: 3月決算法人の場合、6月末日までに行う改定

重要ポイント:

  • 定時改定は事業年度に1回限り
  • 株主総会の決議日ではなく、実際の支給日で判断
  • 当月改定でも翌月改定でも可能

具体例:

6月25日株主総会で決議
・6月分から60万円に増額 → OK
・7月分から60万円に増額 → OK(支給日20日の場合等)

×NG事例:定時改定後の再改定

6月:50万→60万円に増額(定時改定)
9月:60万→70万円に増額(臨時改定)
→ 9月以降の増額分10万円×7月=70万円が損金不算入

② 臨時改定事由による改定

該当する事由:

  • 役員の職制上の地位の変更(代表取締役→取締役等)
  • 役員の職務内容の重大な変更(海外子会社出向等)
  • その他やむを得ない事情

実務判断が必要なケース:

  • 病気療養による職務制限
  • 合併に伴う職務の大幅変更

注意: 単なる業績改善は該当しません

③ 業績悪化改定

要件:

  • 経営状況が著しく悪化
  • 第三者(株主、債権者、取引先)との関係上、減額せざるを得ない事情

該当例:

  • 2期連続経常赤字
  • 銀行融資の条件として減額要請
  • 取引継続の条件として減額

×該当しない例:

  • 一時的な資金繰りの悪化
  • 単に業績目標未達成

3. 役員の範囲(重要)

法人税法上の役員

法律上の役員:

  • 取締役、執行役、会計参与、監査役

みなし役員:

以下の要件をすべて満たす者

  1. 使用人以外の者
  2. 経営に従事している
  3. 持株割合5%超(株主グループで判定)

株主グループの範囲:

  • 本人
  • 配偶者
  • 直系血族
  • 生計一親族
  • これらの者が支配する法人

実務上の注意点:

  • 部長、支店長等の肩書でも、実質判断が必要
  • 親族関係の確認が重要

4. その他の役員給与制度との関係

事前確定届出給与

  • 定期同額給与と併用可能
  • 届出期限:株主総会決議日から1月以内、または事業年度開始日から4月以内のいずれか早い日

利益連動給与

  • 有価証券報告書提出会社のみ適用可能
  • 同族会社は適用不可
  • 中小企業の大半は選択肢にならない

5. 実務上の留意事項

(1)議事録の整備

必須事項:

  • 株主総会議事録
  • 取締役会議事録
  • 改定理由の明確な記載

(2)源泉徴収との関係

定期同額給与に該当しない場合:

  • 事後的に役員賞与扱い
  • 源泉徴収漏れのリスク

(3)期中の役員就任・退任

  • 就任時: 就任日以降、毎月同額であればOK
  • 退任時: 退任日まで、毎月同額であればOK
  • 就任後の改定: 臨時改定事由に該当する場合のみ可能

6. よくある否認事例

ケース1:定時改定後の期中増額(最多パターン)

状況: 業績好転により、定時改定後に追加増額

結果: 増額分は全額損金不算入

ケース2:みなし役員該当の見落とし

状況: 株主グループ判定の誤り、経営従事の実態判断ミス

結果: 遡って役員給与として否認

ケース3:臨時改定事由の判断誤り

状況: 職務内容変更の実質性がない

結果: 臨時改定として認められず否認


7. 実務チェックポイント

項目チェック内容
支給日毎月同じ日か(休日の前後ずれは許容)
支給額毎月同額か(通勤手当等含む総額)
改定時期期首3月以内か
改定回数定時改定は1回のみか
議事録株主総会・取締役会議事録があるか
みなし役員株主グループで5%超判定したか
臨時改定実質的な職務変更があるか

まとめ(5つの重要ポイント)

  1. 毎月同額が絶対原則 – これが定期同額給与の根本
  2. 定時改定は期首3月以内、1回限り – 当月・翌月改定ともに可
  3. 定時改定後の追加改定は原則NG – 増額分は全額損金不算入
  4. みなし役員判定を慎重に – 株主グループで5%超判定
  5. 同族会社は利益連動給与不可 – 中小企業は選択肢なし

次回予告:連載で実務を深堀り

本記事では定期同額給与の基本をご説明しましたが、実務ではさらに深い論点があります。

今後の連載テーマ:

  • 事前確定届出給与の実務と届出期限
  • 臨時改定事由の該当性判断
  • みなし役員の実務判定
  • 業績悪化改定の実務対応
  • 役員給与の税務調査対策

次回以降、実務で即使える詳細な解説を連載していきます。


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