24回【尼崎の税理士が解説】貸付事業用宅地等の「3年縛り」を完全理解! Q&Aで学ぶ小規模宅地等の特例

税理士法人松野茂税理士事務所 23回【尼崎の税理士が解説】貸付事業用宅地等の「3年縛り」を完全理解! Q&Aで学ぶ小規模宅地等の特例
目次

はじめに

相続税の節税対策として注目される「小規模宅地等の特例」。中でも貸付事業用宅地等については、平成30年度税制改正により「3年縛り」と呼ばれる規制が導入されました。この規制により、相続直前の駆け込み的な節税対策が制限されることになりました。

今回は、実務でよく問題となる貸付事業用宅地等の「3年縛り」について、Q&A形式で分かりやすく解説いたします。


貸付事業用宅地等の特例とは

小規模宅地等の特例のうち、貸付事業用宅地等については、一定の要件を満たすことで、相続税の課税価格に算入すべき価額を200㎡まで50%減額できる制度です。

基本的な適用要件

この特例を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。

【租税特別措置法第69条の4第3項第3号】

  1. 取得した宅地等を相続税の申告期限まで保有し続けること
  2. 貸付事業を相続税の申告期限まで継続していること
  3. 原則として、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等ではないこと

この3番目の要件が、いわゆる「3年縛り」です。

重要な注意点:「相当の対価」について

貸付事業と認められるためには、相当の対価を得て行われていることが前提となります。親族間での著しく低額な賃料による賃貸など、相当の対価を得ていない場合には、貸付事業として認められない可能性がありますので、注意が必要です。


「3年縛り」の例外:特定貸付事業とは

特定貸付事業の定義

平成30年度税制改正により、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、原則として特例の対象外となりました。ただし、以下の場合には例外が認められています。

【租税特別措置法第69条の4第3項第3号イ】 【租税特別措置法施行令第40条の2第12項】

被相続人が相続開始前3年を超えて「事業的規模」で不動産貸付業を行っていた場合、その事業を**「特定貸付事業」**と呼びます。特定貸付事業を行っている場合、相続開始前3年以内にその事業のために新たに取得した土地であっても、特例の適用が可能です。

事業的規模の判定(5棟10室基準)

特定貸付事業に該当するかどうかの「事業的規模」は、所得税の取扱いに準じて判定します。

【租税特別措置法通達69の4-24の2】

一般的には「5棟10室基準」で判定されます。

  • 独立家屋:おおむね5棟以上
  • マンション・アパート:おおむね10室以上
  • 駐車場:おおむね50台以上(※実務上の目安であり、個別の状況により判断されます)

Q&Aで理解を深める

Q1:特定貸付事業を行っている場合の新規取得物件

【質問】 被相続人甲は、3年を超えて5棟10室以上の賃貸マンションAを経営していました。相続開始前2年前に、相続対策のために賃貸アパートBを取得しました。マンションAとアパートBは、いずれも特例の対象となりますか?

【回答】 マンションA及びアパートB、両方とも特例の対象となります。

【解説】 被相続人は3年を超えて事業的規模(5棟10室以上)で貸付事業を行っていたため、「特定貸付事業」に該当します。したがって、相続開始前2年前に新たに取得したアパートBについても、特定貸付事業の用に供されている宅地等として、3年縛りの例外が適用されます。

【根拠条文】

  • 租税特別措置法第69条の4第3項第3号イ
  • 租税特別措置法施行令第40条の2第12項

Q2:事業的規模に満たない場合の新規取得物件

【質問】 3年を超えて経営していたのは10室以下のアパートCでした。相続開始前2年前に、新たにアパートDを取得して経営を始めました。いずれも特例の対象となりますか?

【回答】 アパートCのみ特例の対象となり、アパートDは対象外です。

【解説】 被相続人の貸付事業は事業的規模(5棟10室以上)に達していないため、「特定貸付事業」には該当しません。したがって、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供されたアパートDには、3年縛りの規制が適用され、特例の対象外となります。

一方、アパートCは相続開始前3年を超えて貸付事業の用に供されていたため、特例の対象となります。

【根拠条文】

  • 租税特別措置法第69条の4第3項第3号

Q3:共有持分の場合の事業的規模判定

【質問】 Q1の場合において、マンションAとアパートBを被相続人が共有持分1/2で所有していた場合、事業的規模の判定はどうなりますか?

【回答】 共有持分は考慮せず、全体で判定します。特例の適用が可能です。

【解説】 事業的規模の判定(5棟10室基準)においては、共有持分は考慮しません。宅地等の全体で判定を行います。したがって、持分が1/2であっても、マンションA全体とアパートB全体で5棟10室以上であれば、特定貸付事業に該当します。

なお、特定貸付事業に該当するかどうかは、被相続人が行う貸付事業全体で判断します。したがって、マンションAとアパートBの室数を合計して10室以上であれば、事業的規模と判定されます。

【根拠通達】

  • 租税特別措置法通達69の4-24の2

Q4:特定貸付事業を開始したが3年未満で相続が発生した場合

【質問】 被相続人甲は、相続対策として5棟10室以上のマンション経営を開始しましたが、3年を経過する前に亡くなりました。特例の適用は可能ですか?

【回答】 特例の適用はできません。

【解説】 特定貸付事業の要件は、「相続開始前3年を超えて」事業的規模で貸付事業を行っていたことです。被相続人が事業的規模で貸付事業を開始してから3年を経過する前に相続が発生した場合、特定貸付事業には該当せず、3年縛りの例外は適用されません。

【根拠条文】

  • 租税特別措置法第69条の4第3項第3号イ
  • 租税特別措置法施行令第40条の2第12項

Q5:被相続人の前の所有者の保有期間を通算できるか

【質問】 被相続人は、特定貸付事業として貸付事業を行っています。その貸付事業は被相続人の父から相続したもので、父は10年間経営していました。被相続人は父の相続開始から2年間しか経営していません。3年超の判定はどうなりますか?

【回答】 父の保有期間を通算して3年超と判定します。特例の適用が可能です。

【解説】 被相続人が相続等により貸付事業を承継した場合、特定貸付事業の期間判定(3年超)において、先代の被相続人(この場合は父)がその事業を行っていた期間を通算することができます。したがって、父の10年間と被相続人の2年間を合わせて、3年超の要件を満たします。

これは、宅地等の単なる所有期間ではなく、「事業」の承継と期間の通算であることがポイントです。

【根拠通達】

  • 租税特別措置法通達69の4-24の4

Q6:特定貸付事業を売却し、新たに事業的規模でない貸付事業を開始した場合

【質問】 被相続人は、特定貸付事業を10年間行っていましたが、相続開始前2年前にこれを売却し、新たに特定貸付事業に該当しないアパートを取得しました。特例の適用は可能ですか?

【回答】 特例の適用はできません。

【解説】 相続開始前3年以内に、それまで行っていた特定貸付事業(事業的規模の貸付事業)を廃止又は譲渡し、その後に新たに事業的規模に該当しない貸付事業を開始した場合、その宅地等は特例の対象外となります。

【根拠通達】

  • 租税特別措置法通達69の4-24の5

「措置法第69条の4第3項第3号イに規定する特定貸付事業を相続開始の日前3年以内において廃止し、又は譲渡している場合には、当該特定貸付事業の用に供されていた宅地等(譲渡をした場合における当該譲渡に係る宅地等を除く。)は、措置法第69条の4第3項第3号に規定する宅地等に該当しないことに留意する。」


Q7:被相続人と生計を一にする親族が新たに取得した場合

【質問】 被相続人甲は、相続開始の日の10年前から特定貸付事業Aを行っていました。相続開始の日の2年前に、被相続人の所有する宅地Bの上で、被相続人と生計を一にする相続人がアパートを建築・取得しました。宅地Aと宅地Bは、いずれも特例の対象となりますか?

【回答】 宅地Bは特例の対象外、宅地Aは特例の対象となります。

【解説】 被相続人と生計を一にする親族が相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供した宅地等については、被相続人が特定貸付事業を行っていたとしても、特例の対象外となります。

一方、被相続人自身が10年前から貸付事業の用に供していた宅地Aは、特例の対象となります。

【根拠通達】

  • 租税特別措置法通達69の4-24の6

「措置法第69条の4第3項第3号イの規定は、被相続人等が特定貸付事業を行っていた場合において、その被相続人等と生計を一にしていた親族が相続開始の日前3年以内に新たに貸付事業の用に供した宅地等については、適用がないことに留意する。」


Q8:建て替えの場合の取扱い

【質問】 被相続人甲は、相続開始の日の10年以上前にアパートを取得し経営していました。相続開始の日の1年前に、建物が古くなったため建て替えを行いました。特例の適用は可能ですか?

【回答】 特例の適用が可能です。

【解説】 貸付事業の用に供されていた宅地等の上に存する建物等を建て替えた場合において、その宅地等を引き続き貸付事業の用に供しているときは、その建て替えた建物等の敷地の用に供されている宅地等は、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等には該当しません。

つまり、建て替えは「新たに貸付事業の用に供した」ことにはならず、継続して貸付事業を行っているものとして取り扱われます。

【根拠通達】

  • 租税特別措置法通達69の4-24の3

「貸付事業の用に供されていた宅地等の上に存する建物等(以下「建物等」という。)を建て替えた場合において、その宅地等を引き続き貸付事業の用に供しているときは、その建て替えた建物等の敷地の用に供されている宅地等は、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等には該当しないことに留意する。」

ただし、建て替え期間中に貸付事業を完全に廃止していた場合などは、取扱いが異なる可能性がありますので、注意が必要です。


まとめ:実務上の注意点

貸付事業用宅地等の「3年縛り」について、以下のポイントを押さえておきましょう。

✓ チェックポイント

  1. 相続開始前3年超の保有が原則
    • 相続開始前3年以内に新たに貸付事業を開始した宅地等は、原則として特例の対象外
  2. 特定貸付事業(事業的規模)の重要性
    • 5棟10室基準を満たす事業的規模で、3年超貸付事業を行っていれば例外が適用される
    • 共有持分は考慮せず、全体で判定
  3. 期間の通算
    • 相続や遺贈により取得した場合、前所有者の保有期間を通算できる
    • 建て替えの場合、継続して貸付事業を行っているものとして取り扱われる
  4. 適用除外に注意
    • 相続開始前3年以内に特定貸付事業を廃止・譲渡した場合は対象外
    • 生計を一にする親族が新たに貸付事業を開始した場合も対象外

実務での対応

相続対策として不動産の購入を検討される場合は、以下の点を事前に確認することが重要です。

  • 現在の貸付事業が事業的規模(5棟10室以上)に該当しているか
  • 新たに取得する物件を含めて事業的規模となるか
  • 相続開始までの期間(少なくとも3年超の保有が望ましい)
  • 既存の特定貸付事業を維持できるか

おわりに

貸付事業用宅地等の特例は、適用要件が複雑であり、特に平成30年度税制改正以降の「3年縛り」については、実務上の判断が難しいケースが多く見られます。

相続対策を検討される際は、早めに専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。税理士法人松野茂税理士事務所では、相続税や事業承継に関する豊富な実績と専門知識を活かし、お客様一人ひとりに最適なアドバイスを提供させていただきます。


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【免責事項】 本記事は、令和7年10月時点の法令等に基づいて作成しております。実際の税務判断については、個別の事情により取扱いが異なる場合がございますので、必ず税理士等の専門家にご相談ください。

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