―「支給日」ではなく「支給額の確定日」で決まる、3年基準の実務―
はじめに:経営者の皆様へ
同族会社の経営者が在職中に亡くなられた場合、会社から遺族に支払われる死亡退職金は、**「いつ支払ったか」ではなく「いつ支給額が確定したか」**によって、相続税か所得税かの課税関係が大きく変わります。
この判断を誤ると、ご遺族の税負担が数百万円、場合によっては数千万円も変わることがあります。さらに、税務調査では「確定時期を意図的に操作したのではないか」という観点で、議事録・規程・合意書の整合性まで厳しく確認されます。
税理士法人松野茂税理士事務所では、30年以上にわたり同族会社の事業承継・相続対策を支援してきた経験から、税務調査に耐えうる死亡退職金の実務をお伝えします。
第1章:根拠となる通達の原文
まず、死亡退職金の課税関係を定める重要な通達を確認しましょう。
相続税法基本通達3-30(退職手当金等の範囲)【原文】
(退職手当金等の範囲)
3-30 法第3条第1項第2号に規定する退職手当金等とは、被相続人の死亡により相続人その他の者が当該被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与(これらを「退職手当金等」という。)で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものをいうのであるが、当該退職手当金等の名称、その支給の基準、支給をする者、支給を受ける者の範囲等は問わないものとする。
ポイント:
- 死亡により支給される退職手当金等が対象
- 死亡後「3年以内に支給が確定」したかが分岐点
- 「支給が確定」とは、退職手当金等の「額」が確定したことを意味する
- 名称は問わない(退職金、功労金など名目は関係ない)
相続税法基本通達3-31(生前退職による退職手当金等)【原文】
(生前退職による退職手当金等)
3-31 被相続人の生前退職により支給されることとなった退職手当金等で、被相続人の死亡当時まだ具体的にその支給額が確定していなかったものについては、その支給額が被相続人の死亡後3年以内に確定したものに限り、法第3条第1項第2号に規定する退職手当金等に該当するものとして取り扱う。
ポイント:
- 生前退職の場合でも、死亡時に支給額が未確定なら相続税の対象となり得る
- 死亡後3年以内に支給額が確定したものが「みなし相続財産」となる
- 3-30と3-31をセットで理解することで、「3年基準」の適用範囲が明確になる
実務上の重要性:
通達3-30と3-31を組み合わせると、以下の整理ができます:
【パターン1:在職中の死亡】
通達3-30が適用
→ 死亡後3年以内に支給額が確定 → みなし相続財産
【パターン2:生前退職後の死亡】
通達3-31が適用
→ 死亡時に支給額が未確定で、死亡後3年以内に確定 → みなし相続財産
→ 死亡時に既に支給額が確定 → 本来の相続財産(債権)
相続税法基本通達3-20(弔慰金等の範囲)【原文】
(弔慰金等の取扱い)
3-20 相続税法第3条第1項第2号の退職手当金等に該当するかどうかの判定に当たっては、実質的に退職手当金等であると認められるものは、たとえその名称が弔慰金、香典又は見舞金等であっても退職手当金等として取り扱うものとする。ただし、弔慰金等の名義で支給された金額のうち、次に掲げる金額に相当する部分については、退職手当金等に該当しないものとして取り扱うものとする。
(1) 被相続人の死亡が業務上の死亡であるときは、被相続人の死亡当時における普通給与の3年分に相当する額
(2) 被相続人の死亡が業務上の死亡でないときは、被相続人の死亡当時における普通給与の半年分に相当する額
(注)普通給与とは、俸給、給料、賃金、扶養手当、勤務地手当、特殊勤務地手当等の合計額をいい、賞与は含まない。
ポイント:
- 名称が「弔慰金」でも、実質的に退職金なら退職手当金等として課税
- 業務上死亡:普通給与の36ヶ月分まで非課税
- 業務外死亡:普通給与の6ヶ月分まで非課税
- 「普通給与」は賞与を含まない点に注意
法人税基本通達9-2-28(功績倍率法による妥当額の判定)【原文】
(退職給与の適正額の判定)
9-2-28 法人が役員に対して支給した退職給与の額が、当該役員のその法人の業務に従事した期間、退職の事情、その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職給与として相当であると認められる金額を超える場合には、その超える部分の金額は、法第34条第2項に規定する不相当に高額な部分の金額に該当するものとする。
(注)退職給与の適正額の判定に当たっては、次の算式により計算した金額を参考とする。
退職時の報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率
ポイント:
- 功績倍率法が適正額判定の「参考」とされる
- 過大部分は損金不算入
- 同業他社との比較、個別事情の総合考慮が必要
第2章:最重要ポイント「支給額の確定時期」の判断
3年基準による課税区分(通達3-30・3-31)
【死亡日】
↓
┌─────────── 3年 ───────────┐
│ │
│ この期間内に「支給額が確定」 │ この期間経過後に「支給額が確定」
│ ↓ │ ↓
│ みなし相続財産 │ 一時所得
│ (相続税課税) │ (所得税・住民税課税)
│ │
│ 根拠:通達3-30、3-31 │ 相続税の対象外
│ 非課税枠:500万円×法定相続人数 │ 非課税枠:50万円のみ
│ 税率:10%~55%(累進) │ 税率:最大で約55%程度
└────────────────────────┘
「支給額が確定」とは何か?(税務調査の核心)
経営者の皆様が最も誤解しやすいのが、この「支給額が確定」の意味です。
❌ よくある誤解:
- 「実際に支払った日」が基準
- 「遺族の口座に振り込んだ日」が基準
- 「源泉徴収した日」が基準
✅ 正しい理解:
通達3-30・3-31にいう「支給が確定」とは、退職手当金等の「額」が確定したことを意味します。
確定時期の判定要素:
税務調査では、以下の要素を総合的に勘案して「いつ支給額が確定したか」を判定します。
- 会社の意思決定(取締役会・株主総会の決議)
- 退職金の金額を決議した日
- 決議内容の具体性(金額が明確か)
- 遺族との合意
- 会社と遺族が支給額を合意した日
- 合意書の締結日
- 退職金規程の内容
- 規程により金額が自動的に算定される場合
- 規程の適用により金額が客観的に定まる時期
- 実質的な判断
- 上記の資料を総合し、実質的に支給額が確定したと認められる時期
重要:単一の資料で判定されるわけではない
「確定時期」は、取締役会議事録、株主総会議事録、退職金規程、遺族との合意書などを総合的に検討して判定されます。したがって、これらの資料間で整合性が取れていることが極めて重要です。
第3章:課税関係の詳細比較
ケース1:3年以内に支給額が確定(相続税課税)
課税の仕組み:
死亡退職金は「みなし相続財産」として、他の相続財産(不動産、預貯金、有価証券等)と合算して相続税が計算されます。
非課税限度額:
退職手当金等の非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数
計算例(法定相続人3名の場合):
死亡退職金:5,000万円
非課税限度額:500万円 × 3名 = 1,500万円
課税対象額:5,000万円 – 1,500万円 = 3,500万円
この3,500万円が他の相続財産と合算されて相続税が計算される
弔慰金の非課税枠(通達3-20):
支給総額を「弔慰金部分」と「退職金部分」に区分します。
重要:「普通給与」の把握
通達3-20における「普通給与」とは、俸給、給料、賃金、扶養手当、勤務地手当、特殊勤務地手当等の合計額をいい、賞与は含みません。
役員の場合は、会社の実態・支給形態に応じて、役員報酬等を基礎に「普通給与に相当する月額」を把握する必要があります。
一般的には:
- 毎月定額で支給される役員報酬(月額)
- 役員としての各種手当(ある場合)
- 含まれないもの:役員賞与、業績連動報酬の一時金部分等
【業務外死亡の場合】
普通給与に相当する月額100万円 × 6ヶ月 = 600万円まで弔慰金として非課税
【業務上死亡の場合】
普通給与に相当する月額100万円 × 36ヶ月 = 3,600万円まで弔慰金として非課税
総合例(支給総額5,000万円、業務外死亡、普通給与相当月額100万円の場合):
支給総額:5,000万円
【区分】
┌─────────────────┐
│ 弔慰金部分(通達3-20適用) │
│ 600万円 → 相続税非課税 │
└─────────────────┘
↓
┌─────────────────┐
│ 退職金部分(通達3-30適用) │
│ 4,400万円 → 相続税課税対象 │
│ (非課税枠500万円×3名適用可)│
└─────────────────┘
相続税の税率(参考):
- 課税価格1,000万円以下:10%
- 課税価格3,000万円以下:15%
- 課税価格5,000万円以下:20%
- 課税価格1億円以下:30%
- 課税価格2億円以下:40%
- 課税価格3億円以下:45%
- 課税価格6億円以下:50%
- 課税価格6億円超:55%
ケース2:3年経過後に支給額が確定(所得税課税)
課税の仕組み:
死亡退職金は遺族の「一時所得」として、その年の他の所得(給与、事業、年金等)と合算して所得税・住民税が計算されます。
一時所得の計算:
一時所得 = 総収入金額 – 収入を得るために支出した金額 – 特別控除額(最高50万円)
課税される一時所得 = 一時所得 × 1/2
計算例(死亡退職金5,000万円の場合):
一時所得 = 5,000万円 – 0円 – 50万円 = 4,950万円
課税所得算入額 = 4,950万円 × 1/2 = 2,475万円
この2,475万円が給与所得等と合算されて所得税・住民税が計算される
所得税・住民税の税率:
所得税(国税)の税率:
- 課税所得195万円以下:5%
- 課税所得330万円以下:10%
- 課税所得695万円以下:20%
- 課税所得900万円以下:23%
- 課税所得1,800万円以下:33%
- 課税所得4,000万円以下:40%
- 課税所得4,000万円超:45%
住民税(地方税):
- 所得割:約10%
税負担のイメージ:
所得税は最高45%ですが、別途、住民税(所得割)約10%が加わるため、負担感としては最大で約55%程度となり得ます。ただし、復興特別所得税や各種控除の関係もあるため、実際の負担は個別の状況により異なります。
注意点:
遺族に給与所得や事業所得がある場合、それと合算されるため、想定以上に高い税率が適用される可能性があります。
具体例:
遺族の給与所得:600万円
死亡退職金の課税所得算入額:2,475万円
合計課税所得:約3,075万円
→ 所得税率40%、住民税10%が適用される可能性
→ 実質的な税負担は約50%程度となり得る
第4章:税務調査で最も重要な「支給額の確定時期の立証」
税務調査では、「いつ支給額が確定したのか」を客観的資料で説明できるかが勝負です。
必要な資料の整合性(三点セット)
┌─────────────┐
│ ① 会社側の意思決定 │
│ ・取締役会議事録 │
│ ・株主総会議事録 │
│ ・退職金規程 │
└─────────────┘
↓ 整合性
┌─────────────┐
│ ② 遺族との合意 │
│ ・合意書 │
│ ・覚書 │
└─────────────┘
↓ 整合性
┌─────────────┐
│ ③ 支払証憑 │
│ ・振込記録 │
│ ・会計処理 │
└─────────────┘
確定時期の判定は総合判断
重要な注意点:
支給額の確定時期は、単一の資料(例えば「合意書締結日」)で機械的に決まるわけではありません。税務調査では、以下を総合的に検討して確定時期を判定します:
- 取締役会・株主総会での決議内容
- 金額が具体的に決議されているか
- 「○○万円を支給する」と明記されているか
- 退職金規程の内容と運用実態
- 規程により金額が自動計算されるか
- 規程適用により金額が客観的に定まるか
- 遺族との合意の内容と時期
- 合意書で金額が確定しているか
- 合意日はいつか
- 実質的な判断
- 上記の資料から、実質的にいつ支給額が確定したと認められるか
- 各資料間の整合性は取れているか
実務上の対応:
これらの資料を総合して「支給額が確定した時期」を合理的に説明できるよう、取締役会議事録、規程、合意書等を整合的に整備することが極めて重要です。
(1) 会社側の意思決定資料
❌ 税務調査でリスクとなる記載例
退職金規程での危険な記載:
「役員が死亡した場合、退職金として
最終月額報酬×勤続年数×3.0倍を支給する」
→ これでは死亡日に支給額が自動的に確定したと判断されるリスク
取締役会議事録での危険な記載:
「故○○氏の退職金として、規程に基づき
計算された金額○○万円を支給する」
→ 規程により既に支給額が確定していたと判断されるリスク
✅ 税務調査に耐える記載例
退職金規程での推奨記載:
第○条(役員退職金)
役員が死亡により退職した場合、退職金を支給することができる。
2 退職金の額は、次の要素を総合的に勘案し、
取締役会において決定する。
(1) 最終月額報酬
(2) 勤続年数
(3) 功績の程度
(4) 会社の業績及び財務状況
(5) 同業他社の支給状況
3 退職金の支給時期及び方法は、取締役会において定める。
4 前項の決定には、株主総会の承認を要する。
取締役会議事録での推奨記載:
議案:故○○○○氏に対する死亡退職金支給の件
議長より、令和○年○月○日に逝去された当社代表取締役
○○○○氏(以下「故人」という)に対する死亡退職金支給に
ついて、以下のとおり提案があった。
【故人の功績】
1. 昭和○年○月、当社創業時より代表取締役として経営に従事
2. ○○事業の立ち上げにより、売上を○億円から○億円に拡大
3. △△社との提携により、新規顧客を○○社獲得
4. (具体的な功績を詳細に列挙)
【退職金の算定根拠】
1. 普通給与に相当する月額(通達3-20を参考)
役員報酬(月額):○○万円
(令和○年○月~○月の平均額、賞与を含まない)
2. 勤続年数:○○年○ヶ月
(昭和○年○月~令和○年○月)
※1年未満切り上げで○○年
3. 功績倍率:3.0倍
(通達9-2-28の参考算式に基づき、実務上の目安の範囲内で、
創業者としての顕著な功績、同業他社の支給状況等を
総合的に勘案して決定)
4. 算定額:○○万円 × ○○年 × 3.0 = ○○万円
【弔慰金との区分(通達3-20に基づく)】
・支給総額:○○万円
・弔慰金部分(業務外死亡):
普通給与に相当する月額○○万円 × 6ヶ月 = ○○万円
※普通給与に相当する月額は、役員報酬等を基礎に算定
・退職金部分:○○万円 – ○○万円 = ○○万円
【同業他社との比較】
・A社(同規模):功績倍率2.8倍
・B社(同規模):功績倍率3.2倍
・業界平均:功績倍率2.5~3.0倍
(別紙資料参照)
【会社の支払能力】
・当社純資産:○億○○万円
・当期利益:○○万円
・支給による影響は許容範囲内
【支給額の決定】
上記を総合的に勘案し、故人に対し以下を支給することを決議する。
・弔慰金:○○万円
・死亡退職金:○○万円
・合計:○○万円
審議の結果、全員一致で承認可決された。
※次回株主総会に付議し、承認を求めることとする。
(2) 遺族との合意書
❌ 税務調査でリスクとなる記載例
死亡退職金支給に関する合意書
株式会社○○(以下「甲」という)と故○○○○氏の
相続人代表○○○○(以下「乙」という)は、
故人に対する死亡退職金について、以下のとおり合意する。
第1条 甲は乙に対し、退職金として総額5,000万円を
支給する。
第2条 前条の支給は、以下の通り分割して行う。
第1回:令和○年○月○日 2,000万円
第2回:令和○年○月○日 3,000万円
→ 「総額が当初から確定していた」と認定されるリスク → 通達3-30により、全額が初回決議時点で確定したと判断される可能性
✅ 税務調査に耐える記載例
死亡退職金支給に関する合意書(第1回)
株式会社○○(以下「甲」という)と故○○○○氏の
相続人代表○○○○(以下「乙」という)は、
令和○年○月○日開催の取締役会決議及び
令和○年○月○日開催の株主総会決議に基づき、
故人に対する死亡退職金の支給について、
以下のとおり合意する。
第1条(弔慰金)
甲は乙に対し、相続税法基本通達3-20に基づき、
弔慰金として金○○万円を支給する。
第2条(退職金)
甲は乙に対し、取締役会決議に基づき、
死亡退職金として金○○万円を支給する。
第3条(支給時期)
甲は乙に対し、令和○年○月○日までに、
前2条の合計金額を乙の指定する銀行口座に振り込む
方法により支給する。
第4条(今後の取扱い)
甲は、会社の業績及び財務状況、故人の功績の再評価等を勘案し、
追加の退職金支給の要否を検討する。
追加支給を行う場合は、改めて取締役会の決議を経て、
乙と協議の上、別途合意書を締結する。
令和○年○月○日
甲:株式会社○○
代表取締役 ○○○○ 印
乙:○○○○ 印
(3) 支払証憑と会計処理
日付の整合性チェック:
死亡日:令和○年○月○日
↓
取締役会決議日:令和○年○月1日
↓
株主総会承認日:令和○年○月15日
↓
合意書締結日:令和○年○月20日
↓
会計上の計上日:令和○年○月20日
↓
実際の支払日:令和○年○月25日
支給額の確定時期の判定:
上記の例では、取締役会決議・株主総会承認・合意書締結という一連のプロセス、および会計処理のタイミング等を総合的に勘案して、支給額が確定した時期を判定します。
会計処理の例:
【令和○年○月20日(合意日)】
(借方)退職金 20,000,000 (貸方)未払金 20,000,000
(借方)弔慰金 6,000,000 (貸方)未払金 6,000,000
【令和○年○月25日(支払日)】
(借方)未払金 26,000,000 (貸方)普通預金 26,000,000
第5章:適正額の判定(通達9-2-28に基づく実務)
功績倍率法による算定
法人税基本通達9-2-28では、退職給与の適正額判定の「参考」として、以下の算式が示されています。
退職金の適正額 = 最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率
重要な注意点:
この算式は、あくまで「参考」であり、実際の適正額は、以下を総合的に勘案して判定されます:
- 当該役員の業務従事期間
- 退職の事情
- 同種・同規模法人の支給状況
- その他個別事情
功績倍率の実務上の目安
重要:通達に明記された数字ではありません
以下の数字は、実務上の目安であり、通達9-2-28に明記されているものではありません。実際の功績倍率は、同業他社比較、個別の功績内容等により変動します。
実務上の目安(あくまで参考値):
- 代表取締役(創業者):2.5~3.5倍程度
- 代表取締役(二代目以降):2.0~3.0倍程度
- 専務取締役:2.0~2.5倍程度
- 常務取締役:1.5~2.0倍程度
- 平取締役:1.0~1.5倍程度
これらの数字の位置づけ:
- 過去の税務調査事例や裁判例から導き出された経験値
- 個別の功績の程度、会社の状況、同業他社の実態により大きく変動し得る
- あくまで検討の「出発点」として参考にする数字
功績評価のポイント
高い倍率が認められやすいケース:
- 創業者
- ゼロから会社を立ち上げた
- 個人保証により会社の資金調達を支えた
- 創業期の困難を乗り越えた
- 業績拡大への貢献
- 売上・利益を大幅に伸ばした
- 新規事業を成功させた
- 大型取引先を獲得した
- 危機からの立て直し
- 経営危機を乗り越えた
- 不祥事からの信用回復を実現した
- リストラを断行し、会社を再生させた
倍率を抑えるべきケース:
- 短期在任
- 勤続年数が短い(5年未満など)
- 実質的な貢献期間が限定的
- 業績不振
- 在任中に業績が悪化した
- 赤字が続いた
- 名目的な地位
- 実際の経営には関与していなかった
- 親族というだけで役員になっていた
同業他社比較の重要性
調査対応で必要な資料:
【同業他社比較表(例)】
会社名 | 業種 | 売上高 | 在任期間 | 最終報酬 | 退職金 | 倍率
——-|——|——–|———-|———-|——–|——
A社 | 製造 | 15億円 | 28年 | 80万円 | 6,700万| 2.98
B社 | 製造 | 18億円 | 32年 | 90万円 | 9,200万| 3.19
C社 | 製造 | 12億円 | 25年 | 70万円 | 5,200万| 2.97
当社 | 製造 | 16億円 | 30年 | 100万円 | 9,000万| 3.00
データ入手方法:
- 税理士会の統計資料
- 同業者団体の調査
- 上場企業の有価証券報告書
- 過去の税務調査事例
第6章:実務上の重要論点
論点1:分割支給の取扱い(通達3-30との関係)
分割支給自体は否定されませんが、「当初から支給総額が確定していた」と認定されるリスクがあります。
否認される分割支給の例
【令和5年5月10日:死亡】
↓
【令和5年6月15日:取締役会】
「退職金総額5,000万円を、資金繰りの都合上、
以下の通り分割して支給する。
第1回:令和5年7月末 2,000万円
第2回:令和8年8月末 3,000万円」
↓
【税務調査での認定】
「支給総額5,000万円は令和5年6月15日に確定している。
通達3-30により、全額が3年以内確定として相続税課税」
認められやすい分割支給の例
【令和5年5月10日:死亡】
↓
【令和5年6月15日:取締役会】
「当面の生活資金として、退職金の一部2,000万円を支給する。
金額は、故人の功績の一部(創業期の貢献)を評価して算定。
残余については、会社の財務状況、業績、遺族の状況等を勘案し、
改めて検討する。」
↓
【令和8年7月20日:取締役会】
「故人の功績を再評価し、追加の退職金3,000万円を支給する。
金額は、故人の中期経営計画による業績拡大への貢献を
改めて評価して算定。」
↓
【税務調査での評価】
「各回ごとに独立した意思決定があり、
第1回:令和5年6月15日確定(3年以内)→ 相続税
第2回:令和8年7月20日確定(3年経過後)→ 所得税
と認定される可能性がある」
重要なポイント:
- 各回で独立した功績評価がある
- 各回で独立した取締役会決議がある(通達3-30の「確定」を各回で判定)
- 「総額」「合計」という言葉を使わない
- 合理的な分割理由がある(資金繰り、段階的評価等)
論点2:生前退職後の死亡(通達3-31の適用場面)
ケース:
- 令和5年3月末:代表取締役を退任(生前退職)
- 令和5年5月:死亡
- 退職金は退任時に支給額未確定
通達3-31の適用:
【令和5年6月:取締役会で退職金額を決定】
→ 死亡後3年以内に支給額が確定
→ 通達3-31により「みなし相続財産」として相続税課税
【令和8年6月:取締役会で退職金額を決定】
→ 死亡後3年経過後に支給額が確定
→ 相続税の対象外、遺族の一時所得
実務上の注意点:
生前退職の場合でも、退職金が死亡時に支給額未確定なら、通達3-31により「3年基準」が適用されます。したがって、生前退職時に退職金額を早期に確定させておくことで、相続税の課税対象から外れる可能性があります。
第7章:税負担の比較シミュレーション
前提条件
- 死亡退職金:8,000万円
- 他の相続財産:2億円
- 法定相続人:3名(配偶者、子2名)
- 遺族(配偶者)の他の所得:年金収入200万円
- 普通給与に相当する月額:100万円
- 業務外死亡
シミュレーション1:3年以内に支給額確定(相続税課税)
弔慰金と退職金の区分(通達3-20):
支給総額:8,000万円
弔慰金(通達3-20):普通給与相当月額100万円 × 6ヶ月 = 600万円(非課税)
退職金(通達3-30):8,000万円 – 600万円 = 7,400万円
相続税の計算:
【課税価格の計算】
相続財産:2億円
退職金:7,400万円
退職金非課税枠:500万円 × 3名 = 1,500万円
弔慰金:600万円(非課税)
課税価格合計:2億円 + 7,400万円 – 1,500万円 = 2億5,900万円
【相続税額の計算】
基礎控除:3,000万円 + 600万円 × 3名 = 4,800万円
課税遺産総額:2億5,900万円 – 4,800万円 = 2億1,100万円
法定相続分で按分:
配偶者:1億550万円 → 税額2,465万円
子1:5,275万円 → 税額855万円
子2:5,275万円 → 税額855万円
相続税総額:4,175万円
配偶者の税額軽減適用後の実際の納税額:約2,100万円
シミュレーション2:3年経過後に支給額確定(所得税課税)
所得税・住民税の計算(配偶者が受給):
【一時所得の計算】
収入:8,000万円
特別控除:50万円
一時所得:7,950万円
課税所得算入:3,975万円
【総合課税所得】
年金所得:約90万円
一時所得:3,975万円
合計:4,065万円
【所得税・住民税】
所得税(税率40%):約1,420万円
住民税(税率10%):約400万円
合計:約1,820万円
【相続税の計算】
課税価格:2億円のみ
課税遺産総額:1億5,200万円
相続税額:約1,500万円
【合計税額】
1,820万円 + 1,500万円 = 3,320万円
結論: このケースでは、3年経過後に支給額確定(所得税課税)の方が約780万円有利
第8章:当事務所の支援内容
税理士法人松野茂税理士事務所では、同族会社の経営者とそのご遺族に対し、死亡退職金の**「支給額の確定時期の立証」**まで見据えた総合的な支援を提供しております。
事前対策(経営者が元気なうちに)
1. 退職金規程の整備
支援内容:
- 通達3-30・3-31を踏まえた税務調査に耐える規程文言の作成
- 支給額の確定時期をコントロールできる条項の設計
- 功績倍率の基準設定(通達9-2-28を参考にした実務上の基準策定)
- 弔慰金との区分規定(通達3-20対応、普通給与の把握方法の明確化)
2. 功績の記録化
支援内容:
- 在任中の功績を定期的に記録
- 会社の発展への貢献を数値化
- 税務調査で使える功績評価資料の作成
3. 生命保険の活用設計
支援内容:
- 必要保障額の試算
- 税務上有利な契約形態の選択
- 保険金と退職金の関係整理
緊急対応(死亡発生時)
初動対応(死亡後1週間以内)
支援内容:
- 基礎情報の確定
- 相続財産の概況把握
- 通達3-30・3-31の適用判定
- 3年以内/3年経過後の税負担シミュレーション
意思決定支援(死亡後1ヶ月以内)
支援内容:
- 功績評価書の作成(通達9-2-28を参考に、実務上の目安と個別功績を総合評価)
- 弔慰金と退職金の区分(通達3-20対応、普通給与相当月額の算定)
- 取締役会議事録の作成支援
- 遺族との合意書作成支援(確定時期の総合判断を意識した整備)
税務申告・調査対応
申告書作成
相続税申告:
- 第9表(生命保険金等の明細書)の作成
- 通達3-30・3-31に基づく支給額の確定時期の説明
- 通達3-20に基づく弔慰金区分の根拠資料
所得税確定申告:
- 一時所得の計算
- 支給額確定時期の説明資料
法人税申告:
- 退職金の損金算入
- 通達9-2-28を参考にした適正額の説明(同業他社比較、個別功績の評価)
税務調査立会い
想定される質問と回答準備:
質問1:「いつ退職金の支給額が確定しましたか?」 → 取締役会議事録、株主総会議事録、合意書、会計処理等を総合的に提示し、通達3-30・3-31に基づく確定時期を説明
質問2:「功績倍率3.0倍は高すぎませんか?」 → 通達9-2-28の趣旨(参考算式)を説明し、功績評価書、同業他社比較表を提示。実務上の目安の範囲内であり、個別功績を総合評価した結果であることを説明
質問3:「弔慰金と退職金をどう区分しましたか?」 → 通達3-20に基づく計算根拠、普通給与相当月額の算定方法を提示
質問4:「分割支給は最初から決まっていたのでは?」 → 各回の独立した意思決定プロセスを議事録で証明
おわりに:経営者の皆様へ
死亡退職金は、支給額の確定時期の判断一つで、数百万円から数千万円の税負担の差が生じる、非常に重要な論点です。
本稿で解説した通達:
- 通達3-30:在職中の死亡による退職金の3年基準(支給額の確定)
- 通達3-31:生前退職で未確定だった退職金の3年基準(支給額の確定)
- 通達3-20:弔慰金の非課税限度(普通給与の定義)
- 通達9-2-28:功績倍率法による適正額判定(参考算式)
これらの通達を正しく理解し、適切に適用することが、税務調査に耐える死亡退職金実務の基本です。
特に重要なポイント:
「支給額が確定」とは、金額が確定したこと
- 確定時期は総合判断(単一資料で決まらない)
- 普通給与相当月額の把握(役員の場合は支給実態に応じて判断)
- 功績倍率は実務上の目安(通達に明記された数字ではない、個別事情で変動)
- 税負担のイメージ(所得税・住民税は最大で約55%程度となり得る)
税理士法人松野茂税理士事務所では、30年以上の経験と専門知識を活かし、同族会社の経営者とそのご遺族を全力でサポートいたします。
どうぞお気軽にご相談ください。
事務所概要
税理士法人松野茂税理士事務所
代表税理士:松野 茂
社員税理士:山本 由佳
所属税理士:近畿税理士会 尼崎支部
法人登録番号:第6283号
法人番号:4140005027558
適格請求書発行事業者登録番号(インボイス番号):T4140005027558
所在地:〒660-0861 兵庫県尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F
TEL:06-6419-5140
営業時間:平日 9:00〜18:00
得意分野:
- 相続税・事業承継
- 組織再編・M&A
- 法人税・所得税
- 税務調査対応
お気軽にお問い合わせください。








