M&Aで会社の事業部門を売却する場合は非適格分社型分割により行うことが多くあります。
①最も一般的な方法は買い手の会社に受け皿会社を設立させて非適格吸収分社型分割により事業を移転します。
②非適格分社型分割により株式譲渡をするスキームもあります。
今回は②のケースの失敗事例を紹介します。

失敗事例として売り手の会社が事業を譲渡する際にM&Aの準備段階で分社型分割していた場合
会社分割の失敗事例
P社は、A部門の事業をM&Aで売却しようと思い、A部門の会社A社を分社型分割で設立しました。経理担当者は組織再編を調べ、株式継続保有要件を満たさないと考え、株主総会を開いてA事業を売却すべく株主総会を開き分社型分割でA社を設立する決議を取りました。 A事業の簿価は3千万円で売却予定価格は3億円でした。資産調整勘定は2億3千万円です。(資産調整勘定以外に含み益はないものとします。)→失敗事例です。
支配関係継続保有要件を満たしてしまう失敗事例
組織再編の時点では株式を譲渡する予定はなかったが後発事象として株式を譲渡することとなった場合には株式継続保有要件に抵触しないと解されている。
【組織再編をめぐる包括否認と税務蘇張】P369 朝長英樹(清文社)の書籍では【予定されている】という状態は、具体的には【売却計画が決定された】場合に限り株式継続保有要件に抵触すると説明されています。
分割の準備としての分社型分割はM&Aの相手先も決まっていません。 売却価格の売り手の売却希望価格です。
M&Aがいつ成立するのは何も決定していない段階での会社分割は適格要件を満たしてしまうリスクがあることを書籍で確認することができます。この点は先生方や税務署の担当者によって考え方があると思いますがM&Aの相手方が決まっていない売却価格の交渉が進んでいない段階で売りやすいからという単純な理由で会社分割すると適格要件を満たしてしまっていたリスクがあります。(株式譲渡によるM&Aとなる。)
適格要件を満たしてしまう場合は 売り手に側は税負担の時期が異なるだけで影響はすくない。
買い手側は資産調整勘定を認識できないので上の事例のケースでは2億7千万円の損金が取れなくなってしまします。
参考書籍 【組織再編税制の失敗事例】佐藤信祐(日本法令)支配関係継続要件を満たしてしまう事例 P74
売り手及び買い手の仕訳での確認
適格要件を満たしてしまう場合
売り手
分割承継株式 3千万円 資産・負債 3千万円 会社分割
現金預金 3億円 分割承継株式 3千万円
株式譲渡益 2億7千万円
買い手
M&A株式 3億円 現金預金 3億円
分割承継会社のB/S
資産・負債 3千万円 資本等の額 3千万円
非適格の場合
売り手
分割承継株式 3億円 資産・負債 3千万円
会社分割益 2億7千万円
買い手
M&A株式 3億円 現金預金 3億円
分割省益会社のB/S
資産・負債 3千万円 資本等の額 3億円
資産調整勘定 2億7千万円
買い手側は資産調整勘定を毎期損金に計上することで大きな節税効果があります.
会社分割方式のM&Aは 売り手の売却益=買い手の損金の公式
言い換えれば 会社分割方式のM&Aは 売り手の売却益=買い手の損金 と
いう式が成り立ちます。 資産調整勘定の認識により法人税の実効税率分だけ
節税効果が得られますので売り手側もM&Aでの価格交渉の上乗せが可能となります。
売り手にとっては大きな失敗ではありませんが組織再編スキームとしては失敗事例となります。
株式譲渡で購入した会社がM&A直前に組織再編をしていたことが分かり資産調整勘定が未計上であったことが発覚することもあるようです。
事務所概要
税理士法人松野茂税理士事務所
代表税理士:松野 茂
社員税理士:山本 由佳
所属税理士:近畿税理士会 尼崎支部
法人登録番号:第6283号
法人番号:4140005027558
適格請求書発行事業者登録番号(インボイス番号):T4140005027558
所在地:〒660-0861 兵庫県尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F
TEL:06-6419-5140
営業時間:平日 9:00〜18:00
