はじめに
グループ企業の整理統合を進める際、完全支配関係の有無によって税務処理が大きく変わってきます。
グループ内での整理統合を成功させる鍵は、組織再編を実行する前に完全支配関係を構築することです。 この手順を踏むことで、繰越欠損金の引き継ぎやグループ法人税制の適用が可能となり、税務上有利な形で整理統合を進めることができます。
今回は、親会社が子会社株式の90%を保有しているケース(完全支配関係がない場合)における清算時の貸付金処理について、具体的な事例をもとに解説いたします。本事例は、完全支配関係を作ってから組織再編をするとうまくいく実例の1つとなります。
前提条件
株式保有関係
- A社(親会社):B社株式の90%を保有
- A社社長(個人):B社株式の10%を保有
- B社はA社とその社長により10年前に設立
財務状況
- A社からB社への貸付金:1億円
- B社の資産:0円(すでにA社へ売却済み)
- B社の債務:A社からの借入金1億円
- B社の青色欠損金:7,000万円
- その他期限切れ欠損金あり

ケース1:A社が寄付金で処理した場合
A社の会計処理と税務処理
会計処理
(借方)寄付金 100,000,000円 / (貸方)貸付金 100,000,000円
税務上の取扱い
- 寄付金の損金算入限度額を超える金額は損金不算入となります
- 完全支配関係がないため、全額を損金算入することはできません
B社の会計処理と税務処理
会計処理
(借方)借入金 100,000,000円 / (貸方)債務免除益 100,000,000円
税務上の取扱い
- 法人間に完全支配関係がないため、グループ法人税制の適用はありません
- 債務免除益 1億円が課税所得となります
- 青色欠損金 7,000万円で相殺
- 残額 3,000万円
- 期限切れ欠損金 3,000万円で相殺可能
重要なポイント
- A社は寄付金の損金限度額を超える部分を損金算入できません
- A社はB社の繰越欠損金を引き継ぐことができません
完全支配関係がある場合との比較
前回の投稿(完全支配関係がある場合)では、以下のようになります。完全支配関係がある場合の解説
グループ法人税制の適用あり
- A社の寄付金1億円とB社の債務免除益1億円がグループ法人税制により全額別表調整される
- A社はB社の繰越欠損金7,000万円を引き継ぐことが可能
このように、完全支配関係の有無で税務上の取扱いが大きく異なります。
ケース2:合併による整理を検討する場合
適格合併の課題
B社が債務超過の状態では、以下の問題が生じます。
株式交付の困難性
- B社の資産価値が0円
- B社の個人株主(A社社長)に対してA社株式を交付できない
- 適格要件を満たせない可能性が高い
非適格合併となった場合
- 資産・負債を時価で引き継ぐ
- 繰越欠損金は一切引き継げない
実務上の有効な解決策
完全支配関係の構築
具体的な手順
- B社を清算または合併する前に、A社とB社の完全支配関係を作る
- B社の個人株主(A社社長)からB社株式をA社が取得する
- 取得価額は1円以上であればよい
この方法のメリット
- 清算でも合併でもB社の繰越欠損金の引き継ぎが可能になる
- グループ法人税制の適用が受けられる
貸倒処理について
A社が貸倒処理を選択した場合は、論点が少ないため今回は割愛させていただきます。実務上は、寄付金処理よりも貸倒損失として処理する方が、損金算入の面で有利になるケースが多いでしょう。
注意すべき点:欠損等法人の規定
完全支配関係を構築してから清算・合併する方法は、グループ内の整理統合の場合に有効な手法です。
ただし、グループ外から繰越欠損金のある会社を取得した場合は、以下の点に注意が必要です。
- 欠損等法人の規定が適用される
- 一定の要件を満たさない場合、繰越欠損金の引き継ぎに制限がかかる
- 租税回避行為とみなされる可能性がある
まとめ
完全支配関係の有無は、グループ企業の整理統合における税務処理に大きな影響を与えます。
実務上の重要ポイント
- 完全支配関係がない場合、グループ法人税制の適用は受けられない
- 繰越欠損金を活用したい場合は、事前に完全支配関係を構築する
- 少数株主からの株式取得は1円以上で可能
- 欠損等法人の規定には十分な注意が必要
グループ企業の整理統合をご検討の際は、タイミングや手順によって税務上の取扱いが大きく変わります。早めの段階でご相談いただくことで、より有利な方法をご提案することが可能です。
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