100%完全子会社の清算における貸付金の税務処理【寄付金vs貸倒損失】1回目

税理士法人松野茂税理士事務所 100%完全子会社の清算における貸付金の税務処理【寄付金vs貸倒損失】
目次

はじめに

親会社が完全子会社を清算する際、子会社への貸付金をどのように処理するかは、税務上非常に重要な判断となります。処理方法によって親会社の税負担が変わる可能性があるため、適切な知識と準備が必要です。

今回は、100%完全支配関係にある子会社の清算における貸付金の処理方法について、具体的な事例を用いて解説します。税務上難解な論点です。会社を解散・清算する場合は 寄付金として処理あるいは貸倒損失処理するか又は適格合併をするか判断の難しいところです。第2会社を利用して整理するなど選択肢は豊富にあります。ベストな解決策の参考にしてください。


【前提条件】

親会社A社の状況

  • 子会社B社を10年前に設立(100%出資)
  • B社株式の簿価:10,000,000円
  • 貸付金:100,000,000円
    • (B社の銀行借入金返済のために最終A社が貸付ることになります)

子会社B社の状況

  • 借入金:100,000,000円  
  • 資産:0円(すでにA社に売却済み)
  • 債務超過の状態
  • 青色欠損金:70,000,000円
  • 青色欠損期の他期限切欠損金 30,000,000円

処理方法① 債務免除として処理する場合

A社(親会社)の処理

会計処理

(借方)寄付金 100,000,000円 / (貸方)貸付金 100,000,000円

税務調整

  • 寄付金の損金不算入(加算・社外流失)
  • グループ法人税制により、寄付金は利益積立金額でB社株式に修正
  • B社株式の帳簿価額:100,000,000円増加

B社(子会社)の処理

会計処理

(借方)借入金 100,000,000円 / (貸方)債務免除益 100,000,000円

税務処理

  • 債務免除益否認:100,000,000円(減算・社外流失)
  • グループ法人税制により、受贈益は益金不算入

この方法のポイント

B社の繰越欠損金がA社にそのまま引き継がれる

  子会社清算損失は別の投稿で説明してる通り 加算・留保 別表5の利益積立金額となり
 同額を 資本等の金額を減少させます。

  • 適格合併と同様の税務効果 繰越欠損金は引継がれる。(設問では親会社が設立なので使用制限はない。)
    合併の場合は 貸付金 と借入金は 混同により消滅する。
  • ただし、法律的には解散・清算と合併は異なるため、慎重な判断が必要

処理方法② 貸倒損失として処理する場合

重要な注意点

⚠️ 子会社への貸付金を貸倒損失として処理するには大きなハードルが存在します

事前準備:資本金の減資

資本金1億円以上の場合

  • 繰越欠損金の使用制限50%が適用を避ける
  • 外形標準課税を避ける
  • 住民税均等割りを下げる効果
  • 交際費などの取り扱いなど
  • 解散登記前に資本金を減資しておく必要がある
    (所得の50%しか繰越控除できない場合を想定しておく)

貸倒損失として認められる要件(通達上のハードル)

1. 法的整理による場合(法人税基本通達9-6-1)

以下の事実が生じた場合、貸倒損失として損金算入が認められます:

✓ 会社更生法、民事再生法等による切捨て

  • 更生計画認可の決定
  • 再生計画認可の決定により切り捨てられた部分

✓ 債権者集会の協議決定等による切捨て

  • 債権者集会の協議により合理的な基準で債権の切捨てが決定

✓ 債務超過継続による債務免除

  • 書面による債務免除(債務免除通知書等)

2. 事実上の貸倒れ(法人税基本通達9-6-2)

以下の状況が認められる場合:

  • 債務者の資産状況、支払能力等からみて全額回収不能が明らか
  • 継続的な事業の不振で債務超過の状態が相当期間継続
  • 好転の見通しがない

法人税基本通達9-4-1の適用

子会社等を整理する場合の損失負担等

法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い、債権放棄等をした場合において、相当な理由があると認められるときは、その供与に要した金額は寄附金の額に該当しないものとする。

「相当な理由」の要件

1. 整理の必要性

  • 子会社等が債務超過等の状態にある
  • 今後自力再建が困難である

2. 損失の回避・最小化

  • 支援しなければ、今後より大きな損失を被ることが明らか
  • 親会社の信用維持、取引先への影響回避等

3. 合理的な再建計画

  • 事業・資金計画が合理的
  • 支援額が必要最小限

4. 整理の方法

  • 解散・清算
  • 事業譲渡
  • 経営権の譲渡等

実務上のポイント

寄附金認定を避けるための証拠資料

必ず以下の書類を準備してください:

  1. 子会社の財務諸表(債務超過の状態を示す)
  2. 事業計画、再建計画書
  3. 取締役会議事録
  4. 支援の必要性を示す資料
  5. 外部専門家の意見書

国税庁への事前相談制度

重要な手続き

完全支配関係のある場合の法人税法基本通達9-6-1及び9-6-2については、各国税庁において事前相談を受け付けています

注意点

⚠️ 特別清算の場合でも貸倒を認めないケースが最近ではあるようです

⚠️ 事前相談で得られた回答が100%保障されているわけではありません

  • 顧客には十分な説明を行っておく必要があります

貸倒損失として処理した場合の税務処理

前提

100%完全支配関係のあるA社が法人税法基本通達9-6-1及び9-6-2に基づいて貸倒処理した場合、グループ法人税制の寄付金の取り扱いはありません

A社(親会社)の処理

会計処理

(借方)貸倒損失 100,000,000円 / (貸方)貸付金 100,000,000円

税務処理

  • なし(そのまま損金算入)

B社(子会社)の処理

会計処理

(借方)借入金 100,000,000円 / (貸方)債務免除益 100,000,000円

税務処理(所得金額の計算)

債務免除益          100,000,000円
青色欠損金          △70,000,000円
─────────────────────────
残額                 30,000,000円
期限切れ欠損金      △30,000,000円(※救済措置)
─────────────────────────
所得金額                    0円

※期限切れ欠損金の救済措置

B社が債務超過であることを前提として、会社を清算している場合の救済措置として期限切れ欠損金が使えます。


この処理方法のメリット

税務上の効果

  1. B社の課税所得:0円
    • 期限切れ欠損金により課税なし
  2. A社において貸倒損失:100,000,000円
    • 全額損金算入
  3. 繰越欠損金の効果的な活用
    • 繰越欠損金の損失が解消
    • 新しい損失(貸倒損失)が親会社で計上される

2つの処理方法の比較まとめ

項目債務免除処理貸倒損失処理
A社の損金算入なし(寄付金として不算入)あり(100,000,000円)
B社株式の簿価増加(100,000,000円)変化なし
B社の繰越欠損金A社に引継ぎB社で消滅又は減額
手続きの複雑さ比較的簡単要件厳格・事前相談必要
税務リスク低いやや高い

繰越欠損金 ≧ 貸付金の場合

A社貸付金が30,000,000円 B社 借入金が30,000,000円 で債務免除益が30,000,000円 
繰越欠損金が70,000,000円の場合は 貸倒損失30,000,000円 と繰越欠損金40,000,000円となり
損失が新しくなるだけなので寄付金処理して繰越欠損金70,000,000円を引継いだ場合と比較して
効果の出ないケースもあります。

次回予告

次回は、100%完全支配関係でない場合のスキームを検討したいと思います。


参考通達:法人税基本通達9-4-2

子会社等に対する寄附金

法人がその子会社等に対して金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率での貸付け又は債権放棄等をした場合には、原則として寄附金の額に該当する

ただし、以下の場合には寄附金に該当しない:

寄附金に該当しない場合

1. 9-4-1の「相当な理由」がある場合

2. 合理的な再建計画に基づく場合

以下の要件を満たす場合:

  • 子会社等が債務超過等の状態
  • 再建計画が合理的で、支援が必要最小限
  • 支援後、おおむね5年以内に黒字転換する見込み
  • 関係金融機関等の支援も受けている

まとめ

完全子会社の清算における貸付金処理は、ケースによって大きく異なります。

実務上の推奨手順

  1. 早期の専門家への相談
    • 税理士、弁護士等への相談
  2. 証拠書類の完璧な準備
    • 財務諸表、議事録、計画書等
  3. 国税庁への事前相談
    • 貸倒損失処理を選択する場合は必須
  4. 資本金の確認と減資検討
    • 1億円以上の場合は事前減資
  5. 顧客への十分な説明
    • リスクとメリットの明確な説明

【免責事項】

本記事は、完全子会社の清算における貸付金処理に関する一般的な税務知識を解説する目的で作成されたものです。

以下の点にご注意ください:

  • 本記事の内容は、執筆時点の税法・通達に基づいており、法改正等により変更される可能性があります
  • 個別の案件については、事実関係や状況により税務上の取扱いが異なる場合があります
  • 本記事の内容を参考にして行った判断・行動について、当事務所は一切の責任を負いません
  • 具体的な案件については、必ず所轄の国税局・税務署への事前相談、または税理士等の専門家にご相談ください
  • 特に貸倒損失処理を選択される場合は、国税庁への事前相談を強く推奨します
  • 本記事は税務アドバイスや税務申告のための資料として利用することはできません

個別のご相談については、当事務所までお問い合わせください。お客様の状況に応じた適切なアドバイスを提供させていただきます。


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この記事は税理士法人松野茂税理士事務所が作成したものです。個別の案件については、必ず専門家にご相談ください。

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