非上場株式の評価において、純資産価額方式は特に小会社や特定の評価会社で用いられる重要な評価方法です。本記事では、税理士として30年の実務経験から、純資産価額方式の基本から実務上の注意点まで詳しく解説します。
1. 純資産価額方式の基本
1-1. 純資産価額方式とは
財産評価通達185(純資産価額)
小会社は事業の規模・事業の実態から会社の株式の所有は個人事業主がその財産を保有しているものと何ら変わらないことから純資産価額による評価を基本としています。通達の改正の遍歴から小会社についてもL=0.50の評価となり中会社はさらに細分化されL=0.90・0.75・0.60の併用方式となっています。
1-2. 適用対象会社
財産評価通達178・179(取引相場のない株式の区分及び原則)
同族株主等が取得した株式の評価は
一般的な評価会社については大会社・中会社・小会社に区分され大会社はる類似業種比準価額方式(純資産価額方式を限度)中会社は類似業種比準価額方式と純資産価額方式の併用方式・小会社は純資産価額方式(ただし納税者の選択によりL=0.50の併用方式)により評価します。
中会社については中会社の大・中会社の中・中会社の小の区分によりL=0.90・0.75・0.60の併用方式となります。
特例的な評価会社は
- ①清算中の会社は清算見込金による複利現価による評価方法
- ②開業前又は休業中の会社
- ③開業後3年未満の会社等
- ④土地保有特定会社
- ⑤株式保有特定会社
- ⑥比準要素数1の会社
は純資産価額方式により評価します。ただし納税者の選択により⑤の会社はA1+S2方式⑥の会社はL=0.25による併用方式により評価できます。
同族株主等以外の者が取得した純資産価額の評価は一般の評価会社及び特例的な評価会社のうち④土地保有特定会社⑤株式保有特定会社⑥比準要素数1の会社については80%による評価すなわち20%の減額が認められます。
参考
類似業種比準価額方式で評価する場合には大会社・中会社・小会社の区分により斟酌率0.7・0.6・0.5となっています。
2. 法人税額等相当額の控除
2-1. 原則(37%控除)
純資産価額方式における法人税額等相当額
原則
純資産価額方式とは、評価会社の課税時期における資産及び負債を相続税評価額により評価をすることより、1株当たりの価額を算出する評価方式をいいます。
純資産価額方式は、次の算式により計算することとされています。
このように、評価差額(含み益)に対する法人税額等相当額を控除することができますが、「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」は、法人税(地方法人税を含む。以下、同じ。)、事業税(地方法人特別税を含む。以下、同じ。)、道府県民税及び市町村民税の税率の合計に相当する割合により計算した金額とされています。
平成28年度税制改正を受け、平成28年4月1日以後の相続等から37%が適用されることになりました。
2-2. 例外1:株式等の純資産価額計算
財産評価基本通達186-3(評価会社が有する株式等の純資産価額の計算)
評価会社が取引相場のない株式を保有している場合 その関係会社の純資産価額の計算上は評価差額(含み益)に対する法人税額等相当額を控除するできません。
理由
評価差額に対して法人税相当額を控除するのは個人が直接保有している場合と法人から間接的に保有している場合の相続税法の斟酌であるので会社がさらに間接的に保有している財産の含み益まで斟酌する必要はないとの考えです。平成2年改正
2-3. 例外2:現物出資等受入資産
財産評価基本通達186-2(2)カッコ書き部分
当該 各資産の中に現物出資も若しくは合併により著しく低い価格で受け入れた資産又は株式交換若しくは株式移転により著しく低い価格で受け入れた株式がある場合には受け入れた資産又は受け入れた株式【現物出資等受け入れ資産】がある場合には受け入れ時の時価との差額を帳簿価格に加算します。現物出資・合併・株式交換・株式移転時までの評価差額に対する法人税相当額を控除することはできません。(通達をよく確認してください。)
2-4. 例外3:所得税法・法人税法上の時価評価
所得税法基本通達59-6及び法人税法基本通達9-1-14
個人から法人 法人から法人 法人から個人に非上場株式を譲渡する場合の所得税法及び法人税法の通達では
評価差額に対する法人税相当額の控除はできないことになっています。
3. 資産の評価
3-1. 財産の評価
原則
財産基本通達により定めた相続税評価とされています。
3-2. 例外1:課税時期前3年以内取得資産
課税時期前3年以内に取得又は新築した土地及び借地権などの土地の上に存する権利(土地等)並びに家屋及びその付属設備又は構築物(建物等)の価格は、【通常の取引価格】が明らかであり路線などで洗い替えを行うことは適切でないと考えられています。
その【通常の取引価格】が帳簿価格(原則として取得価格)が課税時期における【通常の取引価格】に相当するものと認められるときは帳簿価格によって評価することができます。
3年以内取得資産を賃貸した場合
課税時期前3年以内に取得した土地等・建物等であっても、その後賃貸に供されていれば、原則として貸家・貸家建付地等としての評価減を行ったうえで、「通常の取引価額」による評価を行う取扱いになります。これは、財産評価基本通達185に基づき純資産価額方式の計算上は3年内取得資産を時価評価する一方、その時価自体は貸付実態を反映した形で求めてよいとされているためです。
根拠通達と基本的考え方
- 評価会社が課税時期前3年以内に取得した土地等・建物等は、路線価・固定資産税評価額ではなく「課税時期における通常の取引価額」により評価します(評基通185ただし書)。
- その資産が課税時期において賃貸されている場合、まず自用地・自用家屋としての「通常の取引価額」を求め、その後、貸家(評基通93)・貸家建付地(評基通26)の評価方法により減額して評価することが認められています。
賃貸している場合の具体的評価
- 「3年以内取得土地を購入後に建物を建築し、賃貸用としているケース」では、土地は自用地としての通常の取引価額を基礎に貸家建付地として、建物は自用家屋としての通常の取引価額を基礎に貸家として評価し、いずれも賃貸減額を反映した時価を用います。
- 課税時期の通常の取引価額が把握困難なときは、取得価額に地価変動率を乗じて時価を推計する方法も認められており、この場合も同様に貸家・貸家建付地の補正を行ったうえで純資産価額に反映させます。
実務上のポイント
- 「3年以内判定」は直前期末ではなく課税時期から遡って判定する点に注意が必要です。
- 賃貸開始時期が課税時期前3年以内であっても、貸家・貸家建付地としての評価減は否定されず、あくまで評基通185の趣旨に沿って”賃貸実態を反映した通常の取引価額”を算定するという整理が有力な実務見解です。
3-3. 例外2:所得税法・法人税法による場合
所得税法59-6 法人税法9-1-14による場合
当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は金融商品取引所に上場されている有価証券を有しているときは、財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については当該事業年度終了の時における価額によること
- 上場有価証券は 事業年度終了時の価額
- 土地等 事業年度終了時の価額 (注意 建物等は相続税評価でよい)
この土地等の時価は判決事例から相続税評価の0.8で割り戻した理論的な時価が認められます。
3-4. 生命保険関連
評価会社が受け取った生命保険金
評価会社が被相続人の死亡を保険事故として生命保険金を受け取った場合、その保険金は「生命保険金請求権」として純資産価額方式の計算上、資産に計上する必要があります。同時に、既計上の保険積立金等との二重計上防止と、死亡退職金・法人税額等の負債計上を整理するのがポイントです。
純資産価額方式での基本取扱い
- 被相続人死亡により支払事由が確定した死亡保険金は、「生命保険金請求権」として評価会社の資産に計上し、第5表の「相続税評価額」「帳簿価額」の両欄に同額を記載します。
- このとき、当該契約に係る保険料(保険積立金・保険掛金など)が資産計上されている場合は、その金額は資産から除外し、生命保険金請求権と重複計上しないようにします。
死亡退職金等を支払う場合
- 受け取った保険金を原資として、役員等の遺族に死亡退職金や弔慰金を支払う場合、その支払額は「未払退職金」等として負債計上し、純資産価額の計算上控除します。
- さらに、保険差益部分に対応する法人税等相当額も「保険差益に対応する法人税額等」として負債計上することが認められており、結果として株価上昇を一定程度抑制できます。
実務上の留意点
- 仮決算方式を取らない直前期末方式の場合でも、質疑応答事例に沿って、保険金請求権・未払退職金・法人税額等を適切に補正計上することが求められます。
- 保険金を資産計上しない、あるいは積立保険資産だけ残すといった処理は、通達・質疑応答に反するため、評価明細書上の記載との整合を意識して仕訳・補正を設計することが重要です。
生命保険金に関する権利
生命保険金に関する権利は、「まだ保険事故が発生していない生命保険契約上の権利」をいい、相続税では解約返戻金等ベースで評価し、本来の相続財産として課税対象とします。評価会社・個人いずれの場合も、「解約するといくら戻るか」が基本軸になります。
評価方法の基本
- 相続開始時点で保険事故が未発生の生命保険契約に関する権利は、その時点で解約したと仮定した場合の解約返戻金額により評価します。
- 解約返戻金以外に前納保険料・配当金などの戻りがある場合は加算し、源泉所得税相当額がある場合は控除した純額で評価する取扱いです。
課税関係と位置付け
- 被相続人が契約者で、他人(配偶者・子など)を被保険者とする契約は、「生命保険契約に関する権利」として、その解約返戻金相当額が本来の相続財産として課税されます。
- これに対し、被相続人の死亡により支払われる死亡保険金は、「生命保険金」そのものとしてみなし相続財産(法3条1項1号)に該当し、500万円×法定相続人の非課税枠など別枠の取扱いになります。
会社・純資産価額方式との関係
- 非上場会社が保有する「生命保険契約に関する権利」(解約返戻金のある保険)は、純資産価額方式の計算上、資産として解約返戻金相当額を計上する必要があります。
- 一方、被相続人死亡により保険事故が発生し会社が死亡保険金を受け取るケースでは、「生命保険金請求権」として資産計上し、該当契約の保険料積立金などを二重計上しないように整理します。
3-5. 有償取得した営業権
有償取得した営業権は、相続税評価・純資産価額方式のいずれにおいても「評価対象の営業権」として扱われ、帳簿にあるなしを問わず、評価通達165・166に基づき算定した額を資産に計上するのが原則です。
相続税評価上の基本
- 営業権は、有償取得か自己創設かを問わず、平均利益金額や標準企業者報酬額等を用いて「超過利益金額」を算定し、それに営業権の持続年数(原則10年)に応ずる基準年利率による複利年金現価率を乗じて評価します。
- 医師・弁護士など、本人の技能に密接に依存し死亡とともに消滅する営業権は評価しないとされる点を除き、有償取得の営業権も同様に通達計算の対象になります。
純資産価額方式での取り扱い
- 純資産価額方式では、営業権について「有償取得か自家創設かを問わず、評価額が算出される場合には資産に計上する」とされており、評価明細書の資産の部に営業権の相続税評価額を記載します。
- 有償取得した営業権で帳簿価額がある場合は、帳簿価額欄には取得原価ベースの残高、相続税評価額欄には通達計算による額を記載し、評価上ゼロと計算された場合は「相続税評価額0・帳簿価額のみ記載」という形になります。
有償取得で特に注意すべき点
- 事業譲渡等で営業権を有償取得している場合、会計上は償却が進んで帳簿残高が小さくても、相続税評価では超過収益力に基づき別途営業権が算定されるため、「帳簿上ののれん」と「評価上の営業権」が乖離しやすい点に注意が必要です。
- 「有償取得だから評価不要」ではなく、「超過利益が出ない(算式上マイナス)」ため結果的にゼロになるのか、「通達計算をしたうえでゼロと判定されたのか」を説明できるよう、直近の利益水準や総資産利益率を踏まえて営業権の有無を検証しておくことが実務上重要とされています。
3-6. 有償取得した借家権
有償取得した借家権は、相続税評価上も純資産価額方式上も「財産性のある権利」として原則評価対象になりますが、その評価方法と計上額は、地域の権利金慣行や契約内容によって変わります。
相続税評価(借家権そのものの評価)
- 財産評価基本通達94により、借家権の価額は「家屋の評価額 × 借家権割合 × 賃借割合」で評価しますが、借家権が権利金等の名称で取引される慣行のない地域にある場合は評価しない(0評価)とされています。
- 有償で取得した借家権であっても、当該地域に権利金慣行がなければ、相続税評価額は0、慣行がある地域であれば上記算式により評価額を算出するのが原則です。
純資産価額方式での取扱い
- 非上場株式の純資産価額方式において、有償取得した借家権を貸借対照表に計上している場合、帳簿価額は取得原価で計上しつつ、相続税評価額は通達94の算式や「権利金慣行の有無」に基づき評価することになります。
- 権利金慣行がなく評価額が0となる場合でも、有償取得している以上は、簿外資産・認定課税の有無や相当地代通達との関係を確認し、必要に応じて評価見直し(減損・償却)や注記で整合性をとることが実務上推奨されています。
実務上の留意点
- 「名目は借家権だが実質は敷金の一部」「更新料的性格が強い」などの場合は、権利金慣行の有無とともに、契約書・地域実務を踏まえて、そもそも借家権として評価すべきかを検討する必要があります。
- 同族間の取引などで有償取得した借家権については、所得税・法人税側での認定課税(無償返還届出書等)との整合を図らないと、純資産価額方式での資産計上や評価額が否認されるリスクがある点に注意が必要です。
4. 負債の計上
4-1. 前払費用の取り扱い
純資産価額方式における前払費用は、「財産的価値の有無」で計上の要否と評価額を判断するのが原則です。財産性がなければ評価対象から除外し、財産性があれば換金価値(解約返戻金等)で評価します。
基本的な取扱い
- 財産性のない前払費用・長期前払費用(役務提供の見返りが返還されないものなど)は、純資産価額の資産に計上せず、相続税評価額・帳簿価額とも「0」として扱います。
- 財産性のある前払費用(解約により返金が見込める保険料など)は、相続税評価額=課税時期の換金価値(解約返戻金等)、帳簿価額=決算書上の前払費用残高として純資産価額計算に反映します。
実務上の判断ポイント
- 科目名が「前払費用」となっていても一律ゼロ評価とせず、契約内容を確認し「返還請求や権利譲渡が可能か」「実質的な資産性があるか」で個別判定する必要があります。
- 評価明細書では、財産性のない前払費用は資産欄から除外し、財産性のあるもののみを資産欄に計上する運用が推奨されており、この点は国税庁の記載要領や解説でも示されています。
4-2. 繰延資産の取り扱い
純資産価額方式における繰延資産は、原則として「財産性がないものはゼロ評価・そもそも資産に含めない」という扱いになります。例外的に財産性(換金価値)がある場合のみ、相続税評価上の資産として考慮します。
純資産価額方式での基本処理
- 国税庁の評価明細書記載要領では、前払費用・繰延資産・繰延税金資産など確定決算上の資産は、原則として「財産性のないものは純資産価額計算上の資産に含めない」とされています。
- 具体的には、創立費・開業費・株式交付費などの繰延資産は、貸借対照表に計上されていても、「相続税評価額」欄・「帳簿価額」欄とも記載せず、純資産価額の計算から除外する扱いが標準的な実務です。
財産性の有無の判断
- 清算を想定した場合に第三者に譲渡・換金できる価値がないもの(広告宣伝費の繰延、創立費など)は、財産性がないとされゼロ評価とします。
- 逆に、繰延資産の名目でも、契約解約により返戻金が発生するタイプのものなど、実質的に換金価値があれば、その部分は別途「資産性あり」として拾い上げて評価する余地があります。
実務上の整理ポイント
- 決算書上は繰延資産計上されていても、「評価明細書上は除外される項目」であることを株主側・顧問先に説明し、帳簿純資産と相続税評価上の純資産の差異として整理することが重要です。
- 特に事業承継スキームの設計時には、繰延資産や繰延税金資産を含む会計ベース純資産と、評価通達ベース純資産(繰延資産は除外)のギャップが株価に与える影響を事前に試算しておくと、後の説明・税務対応がスムーズになります。
4-3. 欠損金の繰戻し還付金
欠損金の繰戻し還付金は、「課税時期に還付を受ける権利が確定しているかどうか」で取扱いが変わります。還付請求が未了で権利が未確定なら純資産価額の資産に含めず、申告・請求済で還付金額が確定していれば資産計上します。
課税時期が法人税申告前の場合
- 欠損金が生じた事業年度の法人税申告前(還付請求前)の課税時期では、「繰戻し還付を行うかどうか」「還付額」が未確定です。
- このケースでは、たとえ後日欠損金の繰戻し還付請求を行って還付金が発生しても、その還付金は課税時期現在の純資産価額計算上の資産には含めないとする取扱いが示されています。
課税時期が申告・還付請求後の場合
- 課税時期が法人税の確定申告書および「欠損金の繰戻しによる還付請求書」の提出後で、還付金額が確定している場合、その還付金は評価会社の資産として計上します。
- 純資産価額方式では、この還付金額を「未収法人税等」「未収還付金」などとして資産の部に加算し、必要に応じて法人税等調整額との整合も確認することになります。
4-4. 未払配当金
純資産価額の計算上、未払配当金は「課税時期(又は採用する直前期末・直後期末)において配当金額が確定していて、なお支払われていないもの」に限り負債に計上します。決議前の予定配当や、権利落ち前の配当期待分は負債にはできず、別途株価修正の問題として扱います。
負債計上できる未払配当金
株主総会や取締役会の決議により配当金額が確定し、課税時期にまだ支払われていないものは、他の未払費用等と同様に「未払配当金」として負債に計上します。
仮決算方式でも直前期末法・直後期末法でも、基準とする時点(課税時点又は採用期末)で配当が決議済かつ未払であれば、その金額を純資産価額の負債として控除できます。
負債計上できないケースと配当期待権
課税時期が「配当基準日の翌日から配当金支払効力発生日まで」の間にある場合、その配当はまだ会社の負債として確定していないため、未払配当金として負債計上することはできません。
この場合、株主側には「配当期待権」が生じているため、株主が保有する株式の評価では、配当落ちを織り込む形で価額修正(配当期待権の評価)を行う必要があると解説されています。
実務上の整理ポイント
- 「決算期末後~課税時期まで」の配当決議・支払状況をタイムラインで確認し、どの時点で配当が確定しているかを押さえたうえで、負債計上の可否と株価修正の要否を判断することが重要です。
- 直前期末ベースで評価する場合でも、期末翌日から課税時期までの間に配当決議が行われていれば、その確定配当金を未払配当金として負債に含める扱いとされており、評価時点と決議日の関係を見落とさないことが求められます。
5. 特殊なケース
5-1. 相当の地代・無償返還の有無と借地権
資産価額方式では、相当の地代・無償返還の有無により、評価会社側で「借地権を資産計上するかどうか」が変わります。結論だけ整理すると、同族会社が地主株主から借りているケースでは、原則として自用地評価額の20%を借地権として資産計上する扱いになります。
前提:相当の地代・無償返還届出と借地権価額
- 権利金なしで「相当の地代」を支払っている場合や、無償返還届出書を提出している場合、相続税評価上は借地権そのものの価額は0とされ、貸宅地は自用地評価額の80%で評価します。
- ただし、地主と借地人(同族会社)が一体となって経済的価値を享受していることから、グループ全体で自用地100%が顕現するよう、同族会社株式の評価では「20%分」を借地権相当額として会社側に持たせるという考え方がとられます。
純資産価額方式での借地権の計上
- 地主=評価対象会社の株主、借地人=評価対象会社(同族会社)の場合、会社側の第5表(純資産価額)では、借地権に相当する価額として「自用地評価額の20%」を資産計上します。
- 一方、地主側の土地は「自用地評価額の80%」で評価されるため、地主80%+会社20%で土地価値100%が税負担の場に現れる構造になります。
ケース別の整理
- 相当の地代のみ(無償返還届出なし):借地権価額は原則0とされますが、同族会社株式の評価上はやはり自用地評価額の20%を借地権として純資産価額に算入するとする実務解説が一般的です。
- 無償返還届出あり:相続税評価上の借地権価額は0、貸宅地は80%評価としつつ、地主株主=借地人会社が同一グループの場合は、自用地評価額の20%を借地権として評価会社の純資産に計上する取扱いが示されています。
例外・注意点
- 地主と評価対象会社の株主が別人の場合(たとえば、土地は第三者所有、評価対象は借地人会社の株式のみ)は、20%を会社側に計上しないとする見解も示されており、利害関係・グループ関係を踏まえて慎重に判断する必要があります。
- 使用貸借(権利金なし・相当の地代もなし)+無償返還届出の場合はそもそも借地権が認定されないため、会社側で借地権20%を純資産に計上する話にはなりません。
5-2. 現物出資等により資産を保有している場合
評価会社が現物出資・合併等により資産を保有している場合、純資産価額方式で「帳簿価格の合計額」を求める際には、通常の帳簿価額合計に加え、現物出資等受入れ差額を特別に加算する必要があります。これは、著しく低い価額で受け入れた資産を通じた株価圧縮を是正する趣旨です。
通達上の基本構造(186-2関連)
- 帳簿価格の合計額は、課税時期における相続税評価額による総資産価額の計算の基とした各資産の帳簿価額の合計額に、現物出資等受入れ差額を加算して求めます。
- 現物出資等受入れ差額とは、「現物出資・合併・株式交換・株式移転・株式交付時に、その受入資産を評価通達で評価した価額」から「その受入資産の帳簿価額」を控除した金額で、課税時期の評価の方が低い場合は、課税時期評価額との差額を用いる等の調整が指示されています。
実際の計算ステップ
- まず、課税時期における各資産の相続税評価額を用いて総資産価額を算出し、その際に対応する「各資産の帳簿価額の合計額」(通常の帳簿BSベース)を把握します。
- 次に、該当する現物出資等受入れ資産ごとに、通達が指示する時点・方法で算出した評価額と帳簿価額の差額(現物出資等受入れ差額)を求め、その合計を前記帳簿価額合計に加算して、「評価差額に対する法人税額等相当額」の計算の基礎とする帳簿価格の合計額を完成させます。
裁決・実務上の留意点
- 裁決でも、現物出資資産については評価通達の方法で「出資時の時価」を把握し、その差額を反映させた帳簿価格合計を用いることが相当と判断されており、備忘価額受入れなど極端に低い帳簿計上をそのまま前提にしない取扱いが確認されています。
- 子会社株式等を純資産価額で評価する場合は、当該子会社株式に係る現物出資等受入れ差額を二重に控除しないようにするなど、通達186-3の注書きや第5表のニ・ホ欄の設計に沿って、差額の加算・控除を重複させない実務処理が重要です。
5-3. 合併後の課税時期
合併後に課税時期がある場合、類似業種比準方式の適用には制限があります。原則として、合併直後の課税時期では類似業種比準方式は適用できず、純資産価額方式による評価が求められます。これは、合併により会社の規模や業種が大きく変化し、過去3年間の業績や配当等の比準要素を適切に把握できないためです。
適用の要件と例外
- 合併直後の翌事業年度までは、類似業種比準方式は適用できないとされています。ただし、合併前後で会社の実態(業種や財務内容)に大きな変化がない場合、国税庁の通達(国税速報第5528号)では合算方式により類似業種比準方式が認められる場合もあります。
- 例外的に、合併後3年間は類似業種比準方式の適用が制限され、その間は純資産価額方式による評価が基本となります。
注意点
- 合併により会社規模が変化し、大会社・中会社・小会社の区分が変わる場合、評価方式の割合も変更になります。
- 合併後に業種が変更されたり、事業構成が大きく変わった場合は、類似業種比準方式の適用は妥当でないとされています。
合併後の課税時期における株式評価は、個別事案によって異なるため、具体的な状況に応じて税務当局の通達や判例を確認することが重要です。
5-4. 自己株式を有する場合
評価会社が自己株式を保有している場合、自己株式は「そもそも発行されていない株式」として扱うのが通達の基本です。そのうえで、議決権総数と1株当たり純資産価額の分母から自己株式分を除外します。
議決権・会社規模判定での取扱い
- 自己株式に係る議決権数は0とし、自己株式を除いた株式数で議決権総数を計算します(評基通188-3)。
- 同族株主等の議決権割合や会社規模判定、株式保有特定会社判定なども、この「自己株式を除いた議決権総数」を基礎として行います。
純資産価額方式での分母(発行済株式数)
- 1株当たりの純資産価額を計算する際の分母は、「自己株式を除いた発行済株式数」とします。
- 自己株式自体は評価会社の資産側では原則ゼロ評価(投資家から見れば自己と自己の持分の相殺)であり、実務上は純資産額の計算にも加算しない前提で、「自己株式を発行していなかったものとして」株主への清算分配額を考えるイメージになります。
類似業種比準方式への影響
- 類似業種比準方式における1株当たり配当・利益・簿価純資産の計算でも、自己株式数を控除した株式数を分母とするのが記載要領で示されています。
- したがって、自己株式の取得や消却がある場合は、直前期末以降の株式数の変動と合わせて、1株当たり指標の分母を正しく補正することが求められます。
6. 実務上の注意点
6-1. 課税時期が決算期末に近い場合
課税時期が決算期末に近い場合、非上場株式の純資産価額方式では「直後期末法」の利用を検討できますが、類似業種比準方式はあくまで直前期末決算を用いる取扱いです。
純資産価額方式の場合
- 原則は課税時期仮決算ですが、課税時期が直前期末または直後期末に近く、その前後で資産・負債に著しい増減がなければ、直前期末または直後期末の貸借対照表で代用することが認められています。
- 「直後期末法」が使えるのは、課税時期が直後期末に非常に近く、課税時期から直後期末までの間に株価に影響するような大きな取引(大型設備投資・不動産売買・大口増資等)がない場合に限られる点に注意が必要です。
類似業種比準方式の場合
- 類似業種比準価額の比準要素(配当・利益・簿価純資産)は、課税時期の直前に終了した事業年度の決算数値を用いるとされており、課税時期が直後期末に近くても直後期末決算には変更できません。
- これは、上場類似業種のデータが「前年決算」を基準としているため、評価会社の比準要素もそれに合わせる趣旨と説明されています。
実務上のポイント
- 課税時期と決算期末の間に、退職金支給・大口保険金受取・M&Aなど株価に与える影響が大きいイベントがある場合、それを含めるべきかどうかで仮決算・直前期末・直後期末のいずれを採用するかの判断が重要になります。
- いずれの方法を採用しても、「課税時期における財産状態を最も適切に反映しているか」という観点から選択することが求められ、選択理由と前提(資産負債に著しい増減がないこと等)を資料で説明できるようにしておくと安全です。
6-2. 直前期末後・課税時期までに増資があった場合
直前期末後から課税時期までに増資がある場合、1株当たりの純資産価額は「直前期末ベースの純資産+増資払込額」を前提に再計算するのが原則です。増資がある以上、資産・負債に著しい増減が生じているため、単純な直前期末法のみでは足りず補正が必要と整理されます。
純資産価額方式での基本的な考え方
- 原則は課税時期仮決算ですが、実務では直前期末法を前提としつつ、直前期末後の増資など「株価に影響する明らかな事象」については、直前期末の純資産額に対して増資払込額を加算(または仮決算で反映)して課税時期の純資産価額を求めます。
- 具体的には、直前期末の相続税評価ベース純資産額に、増資による払込金額(現金出資なら払込額、現物出資なら評価通達ベースの価額)を加算し、その合計を増資後の発行済株式数で除して1株当たり純資産価額を算定する手順が示されています。
類似業種比準方式・株式数の扱い
- 類似業種比準価額自体の比準要素(配当・利益・簿価純資産)は直前期末決算に基づくため、直前期末後の増資によって修正されませんが、評価対象株式数は増資後の発行済株式数で判定します。
- 増資が株式保有特定会社の判定や総資産規模に影響するような場合には、増資後の資産構成・株主構成を前提に会社規模区分や株式保有特定会社該当性を検討する必要があるとされています。
株式の割当てを受ける権利が発生している場合
- 課税時期が株式の割当基準日の翌日から株式割当日までの間にある場合は、新株はまだ発行されていないため、発行済株式数は増加していませんが、既存株主に「株式の割当てを受ける権利」が生じます。
- この場合、既存株主が保有する株式の評価額は、1株当たりの純資産価額や類似業種比準価額から、株式割当て権の価額(プレミアム)を控除する形で価額修正を行う取扱いが示されています。
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