相続後の納税資金は自己株式で準備 | 尼崎の税理士法人が解説

相続後の納税資金は自己株式で準備 | 尼崎の税理士法人が解説

事業承継対策として生前に後継者へ株式を移転済みでも、創業者やオーナー一族が一定の株式を保有したまま相続が発生するケースは少なくありません。そうした場合、相続人が会社へ株式を売却して納税資金を確保する選択肢が有効です。ただし、相続税の申告期限(10か月)と、みなし配当課税の特例の期限、さらに会社法の自己株取得手続を同時進行で管理しなければ、税務上の特例を適用できなくなったり、納付期限に間に合わなくなったりするリスクがあります。

本記事では、相続発生後に相続人が会社へ自己株式を譲渡して納税資金を作る場合のタイムスケジュール実務で事故が多いポイントを整理します。

目次

全体の期限(絶対に外せない3つの柱)


1. 相続税の申告・納付期限

相続開始を知った日の翌日から10か月以内に、相続税の申告と納付を完了する必要があります。この期限を過ぎると延滞税や無申告加算税が課されるため、納税資金の確保は10か月以内に完結させなければなりません。

2. みなし配当課税の特例(措法9の7)

相続で取得した非上場株式を発行会社へ譲渡する場合、通常は譲渡対価のうち資本金等対応額を超える部分が「みなし配当」として総合課税の対象となりますが、一定の要件を満たせばみなし配当課税を行わず、全額を譲渡所得の収入金額として申告分離課税を選択できる特例があります。

この特例の適用を受けるには、相続税の課税の対象となった非上場株式を、相続開始の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの間に発行会社へ譲渡する必要があります。実務上の目安としては「相続開始から約3年10か月以内」と表現されることもありますが、正確には相続税申告期限の翌日を起算日として3年を経過する日までという点に注意が必要です。

(参考:国税庁タックスアンサーNo.1477 非上場株式等についてのみなし配当課税の特例

3. 届出書の提出期限(様式A2-31)

特例を適用するには、相続人が譲渡する日までに届出書を発行会社へ提出し、発行会社は株式を譲り受けた日の属する年の翌年1月31日までに所轄税務署へ提出する必要があります。この届出を失念すると適用要件を満たさず、特例を受けられなくなるため、会社側のToDo管理が極めて重要です。

また、発行会社は届出書の写しを作成し、5年間保存する義務があります。

(参考:国税庁 非上場株式等についてのみなし配当課税の特例に係る届出手続


円滑な相続のために──遺言の活用が鍵

自己株式を活用した納税資金対策を実行するには、相続発生後すぐに株式の帰属が確定していることが前提となります。遺産分割協議が長引くと、会社法上の自己株取得手続や税務上の期限に間に合わなくなるリスクが高まります。

遺言書の作成で遺産分割を円滑化

被相続人が生前に公正証書遺言などで株式の承継先を明確に指定しておけば、相続開始と同時に株式の帰属が確定し、遺産分割協議を経ずにスムーズに自己株取得の手続に入ることができます。

特に以下のような指定が有効です。

  • 後継者以外の相続人に、会社へ売却する株式を遺贈する
    • 例:「長男(後継者)には事業用株式の70%を相続させ、次男には残り30%を相続させる。次男は相続後、この株式を会社に譲渡して納税資金に充てることができる」
  • 遺言執行者の指定
    • 株式の名義変更や会社との売買契約を迅速に進められるよう、税理士や弁護士を遺言執行者に指定しておくと、手続がスムーズになります
  • 遺留分への配慮
    • 株式を特定の相続人に集中させる場合、他の相続人の遺留分を侵害しないよう、生命保険金や現預金などで調整する設計が必要です

遺言がない場合のリスク

遺言がなく遺産分割協議が必要になると、相続人間で株式の配分について合意形成が必要となり、以下のような問題が生じます。

  • 相続人の一部が遠方に居住している、連絡が取れない
  • 相続人間で意見が対立し、協議が長期化する
  • 協議が整わず、10か月の申告期限や会社法手続の期限に間に合わない

特に非上場株式は換金性が低く、相続人間で「誰が株式を取得し、誰が会社に売却するか」について利害が対立しやすいため、生前に遺言で明確に定めておくことが、納税資金対策を確実に実行する上で不可欠です。

見出しその他の生前対策

遺言に加えて、以下のような対策も併せて検討しましょう。

  • 家族信託の活用: 被相続人の判断能力低下に備え、信託契約で株式の管理・処分権限を後継者に移しておく
  • 生命保険の活用: 死亡保険金を納税資金に充てることで、株式売却の必要性を減らす、または売却株数を抑える
  • 相続人への事前説明: 納税資金対策の必要性と自己株取得の仕組みを相続人に説明し、理解を得ておく

タイムスケジュール(相続開始日=T日)

T~1か月目:設計を確定

  • 納税額の概算を行い、必要な現金額を把握します
  • 会社の分配可能額と資金繰りを確認します(会社法上、自己株式の取得には分配可能額の確認が必須です)
  • 誰が株式を相続し、誰が会社へ売却するかを遺産分割の設計に組み込みます(ここがズレると資金化が進みません)
  • 遺言書の有無を確認し、遺言執行者が指定されている場合は速やかに連絡を取ります

1~4か月目:遺産分割と会社法の準備

  • 遺産分割協議を進め、株式の帰属(相続人間の配分)を確定します(遺言がある場合はこの手続が不要または簡略化されます)
  • 会社側は、自己株式の有償取得手続(会社法156条以下)の段取りを整えます
    • 株主総会での取得枠決議(156条)
    • 取得条件の決定(157条)
    • 相続人への通知・公告(158条)等
    • ※会社の機関設計(取締役会設置会社等)や取得方法(特定株主からの取得か等)により手続が異なるため、個別の設計が必要です

4~8か月目:自己株取得の実行準備(税務手続を先に差し込む)

  • 株価算定と売買条件(株数・単価・決済日)を確定し、売買契約を整えます
  • みなし配当課税の特例を使う場合、相続人→発行会社へのA2-31届出書提出を”譲渡日まで”に完了する段取りを、契約・決済フローに組み込みます

8~10か月目:現金化→相続税納付

  • 会社が自己株式を取得し、相続人が対価を受領して納税資金に充当します
  • 相続税の申告・納付期限(10か月)までに現金化を完了させます
  • 同時に、譲渡が「相続税の課税の対象となった株式」「期限内の譲渡」「届出書提出」等の要件を満たしているか最終確認します

譲渡後(翌年1月末まで):会社側の税務期限

  • 発行会社は、株式を譲り受けた日の属する年の翌年1月31日までに、A2-31届出書を所轄税務署へ提出します
  • 届出書の写しは5年間保存が必要です

実務で事故が多いポイント

届出書の二段階提出を見落とす

届出書は「相続人→会社:譲渡日まで」と「会社→税務署:翌年1/31まで」の両方が必要です。どちらか一方でも漏れると適用要件を満たさず、特例を受けられなくなる可能性が高いため、会社側にもToDo管理を置くことが不可欠です。

会社法手続の前倒しができず、10か月期限に間に合わない

自己株取得には株主総会決議や通知・公告といった会社法上の手続が必要で、これらは一定の期間を要します。遺産分割と並行して「取得枠の決議準備」まで進めておかないと、相続税納付期限に現金化が間に合わなくなります。

会社の分配可能額の確認を怠る

会社法上、自己株式の取得には財源規制があり、分配可能額の範囲内でしか行えません。納税に必要な金額を買い取る資金力があるか、事前に財務諸表を確認し、必要に応じて利益剰余金の積み増しや資本政策の見直しを検討しましょう。

譲渡価格の設定ミス

時価より著しく低い価格で譲渡すると、相続人にみなし贈与課税が発生する可能性があります。逆に時価より高いと、会社側に寄附金認定や役員賞与認定のリスクが生じます。適正な株価算定が必須です。

【重要】生前贈与で取得した株式は特例の対象外

みなし配当課税の特例(措法9の7)の対象となるのは、「相続税の課税の対象となった非上場株式」、すなわち相続税の課税価格の計算の基礎に算入された株式に限られます。したがって、被相続人から生前に贈与を受けた株式は、相続税の課税対象に算入されない限り、この特例の対象にはなりません。

事業承継対策として生前贈与を進めている場合、贈与で取得した株式と相続で取得した株式を明確に区別して管理する必要があります。特に、納税資金確保のために会社へ売却する予定の株式については、生前贈与せずに相続財産として残しておくことが、特例適用の前提条件となります。

贈与で取得した株式を相続発生後に会社へ売却すると、通常のみなし配当課税(総合課税)が適用され、税負担が大幅に増加する可能性があるため、生前贈与と納税資金対策のバランスを慎重に設計することが求められます。

遺産分割協議の長期化で期限に間に合わない

遺言書がない場合、遺産分割協議が難航すると株式の帰属が確定せず、会社法手続も税務手続も進められません。生前に遺言書で株式の承継先を明確にしておくことが、最も確実な対策です。


まとめ

相続人が会社へ自己株式を譲渡して納税資金を確保する手法は、みなし配当課税の特例を活用すれば税負担を抑えられる有効な選択肢です。ただし、相続税申告期限10か月みなし配当特例の期限(相続開始の翌日から、相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日まで)届出書の二段階提出会社法手続という複数の期限と要件が重なること、さらに相続税の課税対象となった株式でなければ特例が使えないという制限があるため、相続発生前から全体の設計を行うことが不可欠です。

特に、遺言書による株式承継先の明確化は、遺産分割の円滑化と期限内の手続完了を実現する上で最も重要な対策となります。公正証書遺言の作成、遺言執行者の指定、遺留分への配慮など、生前にしっかりと準備を整えることで、相続発生後の混乱を最小限に抑え、確実に納税資金を確保することができます。

当事務所では、相続税の納税資金対策から自己株式の取得手続、株価算定、届出書の作成・提出管理、生前贈与と納税対策のバランス設計、遺言書作成のサポートまで、ワンストップでサポートしております。お気軽にご相談ください。


事務所概要

税理士法人松野茂税理士事務所
代表税理士:松野 茂
社員税理士:山本 由佳
所属税理士:近畿税理士会 尼崎支部
法人登録番号:第6283号
法人番号:4140005027558
適格請求書発行事業者登録番号(インボイス番号):T4140005027558
所在地:〒660-0861 兵庫県尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F
TEL:06-6419-5140
営業時間:平日 9:00〜18:00

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