相続が発生すると、悲しみの中でも多くの手続きを期限内に進めなければなりません。尼崎で30年以上相続案件を扱ってきた経験から、実務で特に注意が必要なポイントを時系列でご説明します。
【タイムスケジュール別チェックリスト】
📅 相続発生直後~7日以内
✅ 必須手続き
- [ ] 死亡届の提出(7日以内・市区町村役場)
- [ ] 死亡診断書(または死体検案書)の取得(複数枚コピーを取っておく)
- [ ] 火葬許可申請書の提出
- [ ] 埋葬許可証の受領
✅ 葬儀関連
- [ ] 葬儀社の選定・契約
- [ ] 葬儀形態の決定(家族葬・一般葬・社葬など)
- [ ] 菩提寺への連絡(戒名・読経の依頼)
- [ ] 葬儀日程の確定(通夜・告別式・火葬)
- [ ] 参列者への連絡
- [ ] 供花・供物・弔電の手配
- [ ] 会食(通夜振る舞い・精進落とし)の手配
- [ ] 喪主挨拶の準備
✅ 財務関連
- [ ] 遺言書の有無を確認(見つけたら開封せず保管)
- [ ] 葬儀費用の支払記録(領収書を必ず保管)
- [ ] 立替払いの記録(誰が何を支払ったかメモ)
- [ ] 生命保険会社への連絡(即日払い・概算払いの確認)
✅ 空き家特例の準備(該当する場合)
- [ ] 被相続人が一人暮らしだったか確認
- [ ] 自宅不動産の状況確認(登記簿・固定資産税納税通知書)
- [ ] 電気・ガス・水道のメーター記録(一人暮らしの証明に使える場合あり)
- [ ] 介護施設等への入所状況確認(入所直前まで居住していたか)
📅 8日~14日以内
✅ 公的手続き
- [ ] 世帯主変更届(14日以内・該当する場合)
- [ ] 国民健康保険の資格喪失届・保険証返却(14日以内)
- [ ] 介護保険被保険者証の返却(14日以内)
- [ ] 年金受給停止手続き(国民年金:14日以内、厚生年金:10日以内)
- [ ] 未支給年金の請求(該当する場合)
✅ 給付金の申請
- [ ] 葬祭費の申請(国保の場合・2年以内だが早めに)
- [ ] 埋葬料(埋葬費)の申請(健保の場合・2年以内だが早めに)
- [ ] 高額療養費の確認(該当する場合)
✅ 初期調査開始
- [ ] 金融機関の口座確認(通帳・キャッシュカード・取引明細の確認)
- [ ] 不動産の有無確認(権利証・固定資産税納税通知書の確認)
- [ ] 有価証券の有無確認(証券会社からの郵便物など)
- [ ] 借入金・保証債務の有無確認(契約書・督促状など)
- [ ] クレジットカードの利用明細確認
✅ 空き家特例関連(該当する場合)
- [ ] 被相続人の住民票の除票取得(居住実態の証明)
- [ ] 要介護認定・要支援認定の有無確認
- [ ] 老人ホーム等の入所契約書の確認(あれば)
- [ ] 電気・ガス等の使用状況資料の保管
📅 15日~1か月(初七日前後)
✅ 法要関連
- [ ] 初七日法要の実施(最近は葬儀当日に繰上げることも多い)
- [ ] 香典帳の整理
- [ ] 香典返しの手配(即日返しでない場合)
✅ 相続人・財産調査
- [ ] 戸籍謄本の収集開始(被相続人の出生~死亡まで)
- [ ] 相続人全員の戸籍謄本取得
- [ ] 法定相続情報一覧図の作成・申請準備
- [ ] 財産目録の作成開始
- [ ] 負債リストの作成
- [ ] 預貯金残高証明書の請求
- [ ] 不動産の評価(固定資産評価証明書の取得)
✅ 生命保険関連
- [ ] 生命保険金の本請求手続き
- [ ] 必要書類の準備(保険証券、死亡診断書、戸籍謄本など)
✅ 空き家特例関連(該当する場合)
- [ ] 建物の建築年月日確認(1981年5月31日以前か)
- [ ] 建物の構造確認(区分所有建物でないか)
- [ ] 相続人の居住状況確認(相続開始直前に同居していなかったか)
📅 1か月~3か月(相続放棄判断期限)
✅ 相続方法の決定
- [ ] 財産・債務の全容把握
- [ ] プラス財産とマイナス財産の比較
- [ ] 相続放棄・限定承認の要否判断
- [ ] 相続人全員での方針協議
✅ 相続放棄する場合(3か月以内)
- [ ] 家庭裁判所への申述書作成
- [ ] 必要書類の準備(戸籍謄本、住民票除票など)
- [ ] 収入印紙・郵便切手の準備
- [ ] 家庭裁判所へ申述
- [ ] 次順位相続人への連絡
- [ ] 相続放棄申述受理証明書の取得
✅ 期間伸長が必要な場合
- [ ] 家庭裁判所への期間伸長申立て(3か月以内)
- [ ] 財産調査継続
✅ 遺言書がある場合
- [ ] 自筆証書遺言の場合:家庭裁判所で検認手続き
- [ ] 公正証書遺言の場合:原本が公証役場に保管されているか確認
- [ ] 遺言執行者の確認
✅ 四十九日法要(49日目前後)
- [ ] 四十九日法要の日程調整
- [ ] 僧侶への依頼
- [ ] 参列者への案内
- [ ] 会食・引き出物の手配
- [ ] 納骨の準備(埋葬許可証、墓地使用許可証)
- [ ] 忌明け後の香典返し手配
✅ 空き家特例関連(該当する場合)
- [ ] 耐震基準適合証明書の取得可否確認(建築士等に相談)
- [ ] 家屋の現況写真撮影(相続開始時点の状態記録)
- [ ] 売却の方針決定(特例適用は売却が前提)
- [ ] 不動産業者への相談開始
📅 3か月~4か月(準確定申告期限)
✅ 準確定申告(4か月以内)
- [ ] 準確定申告の要否判断
- [ ] 1/1~死亡日までの所得資料収集
- [ ] 医療費控除の集計(死亡日までに支払った分)
- [ ] 社会保険料・生命保険料控除の確認
- [ ] 準確定申告書・付表の作成
- [ ] 相続人全員の確認(連署または個別提出)
- [ ] 税務署へ申告・納税
- [ ] 還付金がある場合:受取代表者の届出
✅ 消費税の準確定申告(該当者のみ・4か月以内)
- [ ] 課税事業者だったか確認
- [ ] 1/1~死亡日までの課税売上・仕入の集計
- [ ] 消費税の準確定申告書作成
- [ ] 税務署へ申告・納税
📅 4か月~10か月(遺産分割・相続税申告期限)
✅ 遺産分割協議
- [ ] 相続人全員での協議開始
- [ ] 各財産の評価確定
- [ ] 分割案の検討(現物分割・代償分割・換価分割)
- [ ] 遺産分割協議書の作成
- [ ] 相続人全員の署名・実印押印
- [ ] 印鑑証明書の添付
- [ ] 相続人全員分の協議書作成(原本を各自保管)
✅ 協議がまとまらない場合
- [ ] 家庭裁判所への調停申立て準備
- [ ] 弁護士への相談
✅ 相続税申告準備(10か月以内)
- [ ] 相続税の課税対象か判定(基礎控除額の確認)
- [ ] 財産評価(不動産・株式・その他)
- [ ] 不動産評価:路線価・固定資産税評価額
- [ ] 非上場株式評価(該当する場合)
- [ ] 債務・葬儀費用の集計
- [ ] 生前贈与の確認(3年以内・相続時精算課税)
- [ ] 小規模宅地等の特例の適用検討
- [ ] 配偶者の税額軽減の適用検討
- [ ] 相続税申告書の作成
- [ ] 税務署へ申告・納付(または延納・物納の申請)
✅ 遺産分割が間に合わない場合
- [ ] 未分割での申告準備
- [ ] 「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出
- [ ] 法定相続分での仮計算
- [ ] 税務署へ申告・納付
✅ 空き家特例関連(該当する場合)
- [ ] 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却期限確認
- [ ] 売却価格1億円以下の確認(特例要件)
- [ ] 建物取り壊しまたは耐震リフォームの検討
- [ ] 取り壊す場合:取り壊し時期の計画(売却前に)
- [ ] 耐震リフォームする場合:工事業者の選定
📅 10か月~3年(空き家売却期限)
✅ 各種名義変更・解約手続き
不動産関連(3年以内だが早めに)
- [ ] 相続登記の申請(法務局)
- [ ] 登録免許税の納付
- [ ] 固定資産税の納税義務者変更届
- [ ] 不動産取得税の申告(該当する場合)
金融機関関連
- [ ] 預貯金の解約または名義変更
- [ ] 各金融機関への必要書類提出
- [ ] 証券口座の名義変更または売却
- [ ] 貸金庫の解約
その他の名義変更・解約
- [ ] 公共料金(電気・ガス・水道)の名義変更または解約
- [ ] 電話・インターネットの名義変更または解約
- [ ] NHK受信料の名義変更または解約
- [ ] クレジットカードの解約
- [ ] 携帯電話の名義変更または解約
- [ ] 運転免許証の返納
- [ ] パスポートの返納
- [ ] 自動車の名義変更または廃車
- [ ] 自動車保険の名義変更
- [ ] 賃貸借契約の承継または解約
✅ その他
- [ ] 一周忌法要の準備
- [ ] 墓石・仏壇の購入(必要な場合)
- [ ] 遺品整理
✅ 空き家特例適用の場合(相続開始から3年以内)
- [ ] 空き家の売却実行
- [ ] 売買契約書の作成・締結
- [ ] 取り壊した場合:取り壊し証明書の取得
- [ ] 耐震リフォームした場合:耐震基準適合証明書の取得
- [ ] 被相続人居住用家屋等確認書の申請(市区町村)
- [ ] 譲渡所得の確定申告(売却した年の翌年2月16日~3月15日)
📅 1年以降(長期的な手続き)
✅ 定期的な手続き
- [ ] 三回忌法要(2年後)
- [ ] 七回忌法要(6年後)
- [ ] 相続税の税務調査対応(申告後1~2年以内に来ることが多い)
✅ 遺産分割が未了だった場合
- [ ] 分割確定後の更正の請求または修正申告(分割確定から4か月以内)
- [ ] 小規模宅地等の特例の再計算
- [ ] 配偶者の税額軽減の再計算
【重要期限の一覧表】
| 期限 | 手続き内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 7日以内 | 死亡届の提出 | 市区町村役場 |
| 10日以内 | 厚生年金受給停止手続き | 年金事務所 |
| 14日以内 | 国民年金受給停止手続き | 年金事務所・市区町村 |
| 14日以内 | 国民健康保険資格喪失届 | 市区町村役場 |
| 14日以内 | 介護保険証の返却 | 市区町村役場 |
| 14日以内 | 世帯主変更届(該当者) | 市区町村役場 |
| 3か月以内 | 相続放棄・限定承認の申述 | 家庭裁判所(知った時から) |
| 4か月以内 | 準確定申告(所得税) | 税務署(知った日の翌日から) |
| 4か月以内 | 準確定申告(消費税) | 税務署(該当者のみ) |
| 10か月以内 | 相続税の申告・納付 | 税務署(知った日の翌日から) |
| 3年以内 | 相続登記 | 法務局(義務化・2024年4月~) |
| 3年を経過する日の属する年の12月31日 | 空き家特例適用の売却期限 | 譲渡所得税の特例 |
| 2年以内 | 葬祭費・埋葬料の請求 | 保険者・市区町村 |
| 2年以内 | 高額療養費の請求 | 保険者 |
| 5年以内 | 未支給年金の請求 | 年金事務所 |
| 5年以内 | 遺留分侵害額請求 | 相手方(知った時から1年・相続開始から10年) |
【手続き別:必要書類チェックリスト】
相続放棄の申述(家庭裁判所)
- [ ] 相続放棄申述書
- [ ] 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- [ ] 申述人の戸籍謄本
- [ ] 続柄に応じた追加戸籍(子・直系尊属・兄弟姉妹で異なる)
- [ ] 収入印紙800円
- [ ] 郵便切手(裁判所指定額)
準確定申告(税務署)
- [ ] 確定申告書(「準」確定申告書)
- [ ] 付表(死亡した者の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表)
- [ ] 源泉徴収票(給与・年金)
- [ ] 医療費の領収書・明細
- [ ] 社会保険料・生命保険料の控除証明書
- [ ] その他所得に関する資料
- [ ] 還付金受取の委任状(代表者受領の場合)
相続税申告(税務署)
- [ ] 相続税申告書(第1表~第15表)
- [ ] 被相続人の出生~死亡までの連続戸籍
- [ ] 相続人全員の戸籍謄本
- [ ] 相続人全員の印鑑証明書
- [ ] 遺産分割協議書(または遺言書)
- [ ] 法定相続情報一覧図(あれば)
- [ ] 不動産の登記事項証明書
- [ ] 固定資産評価証明書
- [ ] 預貯金残高証明書
- [ ] 有価証券の評価明細
- [ ] 生命保険金の支払通知書
- [ ] 債務の証明書類
- [ ] 葬儀費用の領収書・明細
- [ ] 小規模宅地等の特例の添付書類(該当する場合)
- [ ] マイナンバー関連書類
相続登記(法務局)
- [ ] 登記申請書
- [ ] 被相続人の出生~死亡までの連続戸籍(または法定相続情報一覧図)
- [ ] 相続人全員の戸籍謄本
- [ ] 相続人全員の印鑑証明書
- [ ] 遺産分割協議書(または遺言書)
- [ ] 不動産を取得する相続人の住民票
- [ ] 固定資産評価証明書
- [ ] 登録免許税(評価額の0.4%)
預貯金の相続手続き(金融機関)
- [ ] 金融機関所定の相続手続依頼書
- [ ] 被相続人の出生~死亡までの連続戸籍(または法定相続情報一覧図)
- [ ] 相続人全員の戸籍謄本
- [ ] 相続人全員の印鑑証明書
- [ ] 遺産分割協議書(または遺言書)
- [ ] 通帳・キャッシュカード
- [ ] 届出印
空き家特例の確定申告(税務署)
- [ ] 確定申告書(譲渡所得の内訳書含む)
- [ ] 売買契約書のコピー
- [ ] 被相続人居住用家屋等確認書(市区町村発行)
- [ ] 耐震基準適合証明書または建設住宅性能評価書のコピー(耐震リフォームの場合)
- [ ] 取り壊し証明書(取り壊しの場合)
- [ ] 相続開始日以降の電気・ガス・水道の閉栓証明(使用していないことの証明)
- [ ] 登記事項証明書
相続発生直後から14日以内:最初にやるべきこと
死亡届の提出(7日以内)
ご家族が亡くなられた際、まず行うのが死亡届の提出です。これは死亡の事実を知った日から7日以内に、市区町村役場に提出する必要があります。通常は葬儀社が代行してくれますが、この届出がないと火葬許可証が発行されず、葬儀を進めることができません。
死亡届と同時に、火葬許可申請書も提出します。自治体によっては埋葬許可証も必要になる場合があります。これらの書類は葬儀社が案内してくれることが多いですが、ご自身で手続きされる場合は、死亡診断書(または死体検案書)の原本が必要です。
世帯主変更届(14日以内)
亡くなられた方が世帯主だった場合、世帯主変更届を14日以内に提出する必要があります。ただし、残された世帯員が1人だけの場合や、15歳以上の世帯員が1人しかいない場合は不要です。
提出先は住所地の市区町村役場で、届出人の本人確認書類と印鑑が必要です。
健康保険関連の手続き
国民健康保険の場合
国民健康保険に加入されていた方が亡くなった場合、14日以内に資格喪失届と保険証の返却が必要です。同時に、葬祭費の申請も忘れずに行いましょう。
葬祭費の金額は自治体によって異なりますが、大阪市では5万円が支給されます。申請期限は葬祭を行った日の翌日から2年以内ですが、早めに手続きすることをお勧めします。
必要書類は以下の通りです:
- 葬祭費支給申請書
- 国民健康保険証(故人のもの)
- 葬儀の領収書または会葬礼状
- 申請者(喪主)の本人確認書類
- 振込先口座がわかるもの
社会保険(健康保険)の場合
会社員や公務員だった方の場合は、埋葬料(または埋葬費)が支給されます。埋葬料は標準報酬月額に関わらず一律5万円です。
申請は、故人が加入していた健康保険組合または協会けんぽに対して行います。期限は亡くなった日の翌日から2年以内ですが、こちらも早めの手続きが望ましいです。
年金の手続き
年金受給者が亡くなった場合、年金受給停止の手続きが必要です。
- 国民年金:14日以内
- 厚生年金:10日以内
ただし、日本年金機構にマイナンバーが収録されている方は、届出が不要な場合もあります。不明な場合は年金事務所に確認しましょう。
また、未支給年金がある場合は、生計を同じくしていた遺族が請求できます。年金は後払いのため、亡くなった月の分まで受給権があります。請求期限は死亡日の翌日から5年以内です。
介護保険の手続き
介護保険の被保険者証の返却も必要です。65歳以上の方(第1号被保険者)および40歳以上65歳未満で要介護認定を受けていた方(第2号被保険者)が対象となります。
葬儀の実務ポイント
葬儀形態の選択
近年は家族葬が増えていますが、故人の社会的地位や会社関係によっては社葬や合同葬を検討する必要があります。
- 家族葬:親族や親しい友人のみで行う小規模な葬儀
- 一般葬:広く参列者を受け入れる従来型の葬儀
- 社葬:会社が主催する葬儀(役員クラスなど)
- 密葬+お別れの会:まず身内だけで火葬を済ませ、後日改めて広く参列者を招く形式
葬儀費用の管理
相続税の計算において、葬儀費用は相続財産から控除できる重要な項目です。ただし、認められる範囲が限定されているため、領収書の保管と支払の記録が重要になります。
控除できる葬儀費用:
- 通夜・告別式の費用
- 火葬・埋葬・納骨の費用
- 遺体の運搬費用
- お布施・戒名料・読経料
- 葬儀社への支払い全般
- 会葬者への飲食接待費用(通夜振る舞い、精進落としなど)
控除できない費用:
- 香典返し(これは香典という収入に対する支出のため)
- 墓石・墓地の購入費用(相続財産の計算外)
- 初七日、四十九日など法要の費用(葬儀ではないため)
- 遺体解剖費用(相続開始前の費用として扱われる)
実務上のポイントとして、誰が立替払いしたかを明確にしておくことが大切です。後日の遺産分割や相続税申告でトラブルになるケースがあります。相続税申告の際には「誰が負担したか」も問われますので、メモを残しておきましょう。
生命保険金の請求
生命保険金は、受取人固有の財産として扱われるため、遺産分割の対象外です(ただし相続税の課税対象にはなります)。
多くの保険会社では「即日払い」や「概算払い」の制度があり、葬儀費用など当面の資金需要に対応できます。通常は100万円程度まで、死亡診断書のコピー等で迅速に支払いを受けられる場合があります。
本請求には以下の書類が一般的に必要です:
- 保険金請求書
- 保険証券
- 死亡診断書または死体検案書
- 受取人の本人確認書類
- 受取人の印鑑証明書
- 被保険者の住民票(除票)
預貯金の仮払い制度
2019年7月の法改正により、遺産分割前でも一定額の預貯金を引き出せる制度が創設されました。
引き出せる金額は、以下のいずれか少ない方です:
- 相続開始時の預貯金額 × 1/3 × その相続人の法定相続分
- 同一金融機関から150万円まで
例えば、預貯金が900万円あり、相続人が配偶者と子2人の場合:
- 配偶者:900万円 × 1/3 × 1/2 = 150万円まで
- 子1人につき:900万円 × 1/3 × 1/4 = 75万円まで
この制度は葬儀費用や当面の生活費に充てることができますが、後の遺産分割でこの金額を考慮する必要がある点に注意が必要です。
相続放棄・限定承認の判断(3か月以内)
相続放棄とは
相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないという選択です。「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に家庭裁判所に申述する必要があります。
この「知った時」という起算点が実務上重要です。例えば:
- 疎遠だった父が亡くなり、3か月後に初めて訃報を知った場合 → 知った時から3か月
- 相続後に予期せぬ多額の債務が判明した場合 → 判明時から3か月として認められる可能性
期間の伸長
3か月では財産調査が終わらない場合、家庭裁判所に「承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てることができます。
申立先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。伸長期間は通常1〜3か月程度ですが、事情によってはさらに伸長できる場合もあります。
必要書類:
- 期間伸長の申立書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人の戸籍謄本
- 収入印紙800円(申述人1人につき)
- 郵便切手(裁判所により異なる、概ね500円程度)
単純承認とみなされる行為(法定単純承認)
以下の行為をすると、単純承認したものとみなされ、その後の相続放棄ができなくなります:
危険度が高い行為:
- 預貯金の解約・払戻し(葬儀費用名目でも危険)
- 不動産の売却
- 株式の売却
- 自動車の名義変更・売却
- 賃貸物件の賃料の受取り
- 高額な形見分け(数十万円以上の価値がある物)
- 借金の返済(債権者への弁済)
比較的安全な行為:
- 遺体の引き取り、葬儀の実施
- 仏壇・位牌など宗教的な物の取得
- 相続財産の管理・保存行為
- 家庭裁判所に選任された相続財産管理人への引継ぎ
実務でよくあるのが、「葬儀費用を故人の預金から支払ってしまった」というケースです。これは単純承認とみなされるリスクが高いため、自己資金で立替え、後で遺産から清算するという方法が安全です。
どうしても預金から支払う必要がある場合は、金額・使途・領収書を全て記録し、後日説明できるようにしておくことが重要です。
相続放棄の手続き
申述先
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
必要書類(一般的なケース)
共通:
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人の戸籍謄本
続柄による追加書類:
申述人が配偶者の場合:
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
申述人が子または代襲相続人(孫等)の場合:
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
- (代襲相続の場合)本来の相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
申述人が直系尊属(父母・祖父母等)の場合:
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 被相続人の直系尊属で既に死亡している方がいる場合、その方の死亡の記載のある戸籍謄本
申述人が兄弟姉妹または甥姪の場合:
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本
- (甥姪の場合)本来の相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
費用
- 収入印紙:申述人1人につき800円
- 郵便切手:裁判所により異なる(概ね500円前後)
相続放棄の効果と注意点
相続放棄が受理されると、その人は初めから相続人でなかったものとして扱われます。これにより:
- 次順位の相続人へ権利が移動する
- 子全員が放棄 → 直系尊属(父母・祖父母)へ
- 直系尊属も放棄 → 兄弟姉妹へ
- 兄弟姉妹も放棄 → 甥姪へ(代襲相続)
- 撤回は原則不可
- 詐欺・脅迫による申述の場合のみ取消可能
- 「財産が見つかったから撤回したい」は認められない
- 親族への連絡が重要
- 自分が放棄すると次順位者に債務が及ぶため、事前の説明が望ましい
実務で問題になるのは、「子が全員放棄したが、高齢の両親に連絡していなかった」というケースです。突然債権者から督促が来て初めて相続を知り、既に3か月が経過していた、という事態も起こりえます。
限定承認という選択肢
相続放棄の他に、限定承認という制度もあります。これは「相続財産の範囲内でのみ債務を引き受ける」という選択で、以下のような場合に有効です:
- 財産と債務のどちらが多いか不明確
- 事業を引き継ぎたいが債務の全容が不明
- 特定の財産(思い出の品など)を残したい
ただし限定承認には実務上のハードルがあります:
- 相続人全員で共同して申述する必要がある(1人でも反対すると不可)
- 財産目録の作成が必要
- 裁判所の監督下で財産を換価・配当する手続きが必要
- みなし譲渡所得課税の問題(不動産等に含み益がある場合、相続人に譲渡所得税が課される)
このため、実務では限定承認よりも相続放棄を選択するケースが多いのが現状です。
法定相続情報証明制度の活用
相続手続きでは、金融機関や法務局など複数の窓口で戸籍謄本一式の提出を求められます。毎回原本を提出すると費用と手間がかかるため、法定相続情報証明制度の利用をお勧めします。
この制度を利用すると:
- 法務局に戸籍謄本一式と相続関係図を提出
- 法務局が内容を確認し、「法定相続情報一覧図」を作成
- この一覧図の写し(認証文付き)を無料で何通でも発行してもらえる
- 各種相続手続きで戸籍謄本の束の代わりに使える
申請先は以下のいずれかの地を管轄する法務局:
- 被相続人の本籍地
- 被相続人の最後の住所地
- 申出人の住所地
- 被相続人名義の不動産の所在地
準確定申告(4か月以内)
準確定申告とは
被相続人の1月1日から死亡日までの所得について、相続人が代わりに確定申告を行うことを準確定申告といいます。
申告期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内」です。
準確定申告が必要なケース
以下のような方が亡くなった場合、準確定申告が必要です:
- 個人事業主だった方
- 不動産収入があった方
- 年金収入が400万円を超えていた方
- 2か所以上から給与を受けていた方
- 給与収入が2,000万円を超えていた方
- 医療費控除等で還付を受けられる方
準確定申告の特徴
通常の確定申告との違い:
- 申告書の様式
- 表題が「準」確定申告書
- 付表「死亡した者の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表」を添付
- 提出方法
- 原則:相続人全員が連署して1通を提出
- 別々に提出も可能:ただし他の相続人への通知が必要
- 所得計算期間
- 1月1日から死亡日まで
- 控除の適用範囲
- 医療費控除:死亡日までに被相続人が支払った分のみ
- 社会保険料控除:死亡日までに被相続人が支払った分のみ
- 生命保険料控除:死亡日までに被相続人が支払った分のみ(年間上限は月割計算しない)
- 配偶者控除等:死亡日の現況で判定
- 還付金の受取
- 還付金は相続財産となる
- 代表者が受領する場合、委任状が必要(付表とは別)
実務上の注意点
医療費の取扱い
「死亡後に相続人が支払った医療費」の扱いに注意が必要です:
- 死亡日前に確定していた医療費を死亡後に支払った場合 → 準確定申告では控除不可(債務控除として相続税で控除可能)
- 死亡日前に支払った医療費 → 準確定申告で控除可能
事業所得がある場合の専従者給与
青色事業専従者給与は、死亡日までの期間で月割計算します。 例:6月15日死亡、給与月額20万円の場合 → 1月~5月分100万円 + 6月分(15日/30日)10万円 = 110万円
年途中で亡くなった場合の消費税
個人事業主で消費税の課税事業者だった場合、消費税の準確定申告も必要です。
- 原則課税:死亡日までの課税期間で計算
- 簡易課税:前年の課税売上高で判定
- 申告期限:相続開始を知った日の翌日から4か月以内
相続税申告(10か月以内)
相続税の基礎控除
相続税には基礎控除があり、遺産総額がこれを超えない場合は申告不要です。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
例:
- 相続人が配偶者と子2人の場合:3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
- 相続人が子1人の場合:3,000万円 + 600万円 × 1人 = 3,600万円
法定相続人の数え方の注意点
- 相続放棄した人も含める
- 放棄がなかったものとして計算
- 養子の制限
- 実子がいる場合:養子は1人まで
- 実子がいない場合:養子は2人まで
- 特別養子、配偶者の連れ子の養子は制限外
相続税の計算の基本的な流れ
- 遺産総額の計算
- プラスの財産を評価
- マイナスの財産(債務・葬儀費用)を控除
- 3年以内の生前贈与を加算
- 課税遺産総額の計算
- 遺産総額 – 基礎控除額
- 相続税の総額の計算
- 法定相続分で按分
- 各人の税額を計算
- 合計して相続税の総額を算出
- 各相続人の税額の計算
- 相続税の総額を実際の取得割合で按分
- 各種控除を適用
主な控除・特例
配偶者の税額軽減
配偶者が取得した財産のうち、以下のいずれか多い金額まで相続税が課税されません:
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分相当額
適用要件:
- 法律上の配偶者であること(内縁は不可)
- 相続税の申告期限までに遺産分割が確定していること
- 相続税の申告書を提出すること
小規模宅地等の特例
居住用や事業用の宅地について、一定の要件を満たせば評価額を大幅に減額できます。
特定居住用宅地等(自宅):
- 限度面積:330㎡
- 減額割合:80%
特定事業用宅地等(事業用):
- 限度面積:400㎡
- 減額割合:80%
貸付事業用宅地等(賃貸用):
- 限度面積:200㎡
- 減額割合:50%
例えば、5,000万円の自宅敷地(200㎡)に特定居住用宅地等の特例を適用すると: 5,000万円 × 80% = 4,000万円の減額 → 評価額は1,000万円になります
適用要件(特定居住用・配偶者または同居親族の場合):
- 配偶者が取得:無条件で適用可
- 同居親族が取得:相続税の申告期限まで居住継続・所有継続が必要
- 別居親族(家なき子):一定の要件を満たせば適用可
遺産分割が確定しない場合
10か月の期限までに遺産分割が確定しない場合でも、未分割申告を行う必要があります。
未分割申告では:
- 配偶者の税額軽減が使えない
- 小規模宅地等の特例が使えない
- 法定相続分で取得したものとして仮計算
後日、遺産分割が確定したら「更正の請求」または「修正申告」で税額を是正します。
申告期限に遅れた場合のペナルティ
無申告加算税:
- 自主的に申告:5%
- 税務署の指摘後:15%~20%
延滞税:
- 年利2.4%~8.7%程度(年によって変動)
重加算税:
- 意図的な隠蔽があった場合:35%~40%
遺産分割協議の実務
遺産分割協議とは
相続人全員で「誰が何を取得するか」を話し合って決めることです。
遺言がある場合:
- 原則として遺言に従う
- 相続人全員の合意があれば遺言と異なる分割も可能
遺言がない場合:
- 相続人全員での協議が必須
- 1人でも欠けた協議は無効
遺産分割協議書の作成
協議が成立したら、遺産分割協議書を作成します。
必須記載事項:
- 被相続人の情報(氏名、本籍、最後の住所、死亡年月日)
- 相続人全員の氏名
- 各財産の取得者と内容
- 不動産:登記事項証明書の記載通りに正確に
- 預貯金:金融機関名、支店名、口座番号
- 株式:銘柄、株数
- その他の財産
- 相続人全員の署名・実印による押印
- 印鑑証明書の添付
実務上のポイント:
- 財産の記載は正確に(不動産は登記簿通り、預金は口座番号まで)
- 「その他一切の財産は○○が取得する」という包括条項を入れる
- 後日発見された財産の扱いを明記する
- 相続人全員が原本を1通ずつ保管できるよう、必要部数作成
遺産分割の方法
- 現物分割
- 不動産はA、預金はB、という形で財産そのものを分ける
- 最もシンプルだが、均等に分けにくい
- 代償分割
- 1人が多くの財産を取得し、他の相続人に金銭を支払う
- 事業や自宅を分けたくない場合に有効
- 代償金の支払能力が必要
- 換価分割
- 財産を売却して現金化し、分配する
- 均等に分けやすいが、売却費用・税金がかかる
- 共有
- 財産を相続人全員で共有する
- 後々の処分に全員の同意が必要になるため、お勧めしない
遺産分割調停・審判
協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の手続きを利用します。
調停:
- 調停委員が間に入り、話し合いを進める
- 合意すれば調停調書が作成される
審判:
- 調停でもまとまらない場合、裁判官が分割方法を決定する
- 法定相続分を基本としつつ、寄与分や特別受益を考慮
不動産の相続登記(3年以内)
相続登記の義務化
2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。
義務の内容:
- 不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記
- 正当な理由なく怠ると10万円以下の過料
過去の相続も対象:
- 義務化前に発生した相続も対象
- 2027年3月31日までに登記すれば過料は課されない
相続登記の流れ
- 登記事項証明書の取得
- 法務局で取得(オンライン請求も可)
- 戸籍等の収集
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍
- 相続人全員の戸籍
- 相続人全員の住民票
- 遺産分割協議書等の作成
- 法定相続分通りなら協議書不要
- 遺言書がある場合は遺言書を添付
- 登記申請
- 不動産の所在地を管轄する法務局に申請
- 登録免許税:固定資産税評価額の0.4%
相続人申告登記
遺産分割が確定していない場合でも、相続人申告登記をすることで、3年の義務を履行したことになります。
これは「自分が相続人である」ことを申し出る簡易な手続きで:
- 戸籍等で相続人であることを証明
- 登録免許税が不要
- 後日遺産分割が確定したら本登記を行う
預貯金・証券の名義変更
金融機関の相続手続き
各金融機関で手続きが必要です。一般的な流れは:
- 金融機関への連絡
- 被相続人が亡くなった旨を連絡
- 口座が凍結される
- 必要書類の準備
- 金融機関所定の相続手続依頼書
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 遺産分割協議書(または遺言書)
- 手続きの実行
- 解約して払戻し
- または名義変更
実務上の注意点:
- 金融機関ごとに手続きが必要(A銀行、B銀行、C証券会社…)
- 書類一式の原本が必要な場合が多い(法定相続情報証明制度の活用を)
- 手続きには1~2か月かかることもある
証券会社の手続き
株式や投資信託も相続手続きが必要です。
特有の注意点:
- 相続人が同じ証券会社に口座を持っている必要がある
- 持っていない場合、新規に口座開設が必要
- 上場株式は相続税評価と時価が異なる可能性
- 非上場株式は評価が複雑(専門家への相談を推奨)
相続した空き家を売却する際の特例(空き家特例)
親が一人暮らしをしていた自宅を相続し、使う予定がないため売却を考えている方は多くいらっしゃいます。このような場合に利用できるのが被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例、通称「空き家特例」です。
この特例を使うと、譲渡所得から最大3,000万円を控除できるため、大幅な節税が可能になります。
空き家特例の概要
相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋または被相続人居住用家屋の敷地等を、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に売却し、一定の要件を満たす場合、譲渡所得の金額から最大3,000万円を控除できます。
節税効果の例:
- 取得費500万円の土地建物を5,000万円で売却した場合
- 通常の譲渡所得:5,000万円 – 500万円 = 4,500万円
- 所得税・住民税(長期譲渡所得20.315%):約914万円
空き家特例を適用すると:
- 4,500万円 – 3,000万円 = 1,500万円
- 所得税・住民税:約305万円
- 約609万円の節税
適用要件(全て満たす必要あり)
1. 被相続人の要件
相続開始直前の居住状況:
- 被相続人が一人で居住していたこと
- または、要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所していたこと(ただし、入所直前まで一人で居住していた必要あり)
「一人で居住」の判定ポイント:
- 配偶者や他の親族と同居していた場合は適用不可
- 例外的に、被相続人が要介護・要支援認定を受けて老人ホーム等に入所し、その間に空き家となっていた場合は適用可能
実務でよくあるケースとして:
- ○:母が一人暮らしをしていた実家を相続
- ×:父母が二人で暮らしていた実家を、父の死後に母が相続し、その後母が亡くなって子が相続
- ○:一人暮らしの母が老人ホームに入所、空き家となった実家を相続
- ×:母と同居していたが、母の死後に相続
2. 家屋の要件
建築時期:
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
- つまり、旧耐震基準の建物が対象
構造:
- 区分所有建物登記がされていないこと
- つまり、マンションは対象外(一戸建てが対象)
用途:
- 被相続人の居住の用に供されていた家屋であること
3. 相続人の要件
同居していないこと:
- 相続開始直前に、被相続人と同居していなかったこと
相続した人が売却すること:
- 相続または遺贈により取得した人が売却すること
4. 売却時の要件
売却期限:
- 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
例:2024年6月15日に相続開始の場合 → 2027年12月31日までに売却する必要あり
売却価格:
- 売却代金が1億円以下であること
- 複数の相続人で共有している場合、全員の売却代金の合計で判定
家屋の状態(以下のいずれか):
A. 耐震リフォームをして売却
- 売却時点で、新耐震基準に適合していること
- 耐震基準適合証明書または建設住宅性能評価書(耐震等級1以上)が必要
B. 家屋を取り壊して売却
- 相続開始から売却までの間に取り壊すこと
- 取り壊し後、敷地を他の用途に使用していないこと(駐車場等にすると不可)
C. 家屋と敷地を一括で売却し、買主が取り壊す
- 売買契約において、買主が取り壊すことが明記されていること
5. その他の要件
相続開始から売却までの管理状況:
- 相続開始時から売却時まで、事業用・貸付用・居住用に使用していないこと
- つまり、空き家のままであることが必要
他の特例との関係:
- 相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例と併用不可(選択適用)
- 住宅ローン控除等との併用も制限あり
実務上の注意点
老人ホーム入所のケース
被相続人が要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所していた場合でも、以下の要件を全て満たせば特例を適用できます:
要件:
- 要介護認定または要支援認定を受けていたこと
- 老人福祉法に規定する老人ホーム等に入所していたこと
- 入所時から相続開始時まで、その家屋が事業用・貸付用・他の者の居住用に使用されていないこと
- 入所直前まで、被相続人が一人で居住していたこと
必要書類:
- 介護保険の被保険者証のコピー(要介護・要支援認定の証明)
- 老人ホーム等の入所時契約書のコピー
- 入所していた施設が老人福祉法等の規定する施設であることの証明
取り壊しのタイミング
家屋を取り壊す場合、タイミングが重要です:
適切なタイミング:
- 相続開始後、売却前に取り壊す
- 取り壊し後は更地のまま保管し、他の用途に使用しない
NG例:
- 取り壊し後、駐車場として貸し出した → 特例適用不可
- 取り壊し後、資材置き場として使用した → 特例適用不可
複数の相続人がいる場合
相続人が複数いる場合:
- 各相続人が自分の持分について3,000万円控除を受けられる
- ただし、売却代金の合計が1億円以下であることが必要
例:相続人が子2人で、それぞれ1/2ずつ相続した場合
- 6,000万円で売却 → 各自3,000万円の売却、それぞれ3,000万円控除可能
- 1億2,000万円で売却 → 売却価格が1億円超のため、特例適用不可
耐震リフォームのコスト
耐震リフォームをする場合、費用対効果の検討が必要です:
一般的な耐震リフォーム費用:
- 木造住宅:100万円~300万円程度
- 鉄骨造・RC造:さらに高額になる可能性
判断のポイント:
- 譲渡益が3,000万円以下なら、取り壊しの方が経済的な場合が多い
- 建物に価値があり、耐震リフォーム後に高く売れる見込みがあれば、リフォームを検討
- 取り壊し費用と耐震リフォーム費用を比較
売却価格1億円の判定
「1億円以下」の判定は、以下のように行います:
判定対象:
- 同一の被相続人から相続した全ての居住用財産の譲渡代金の合計
- 複数の相続人がいる場合、全員の譲渡代金の合計
複数回に分けて売却した場合:
- 全ての売却代金の合計で判定
- 最初の売却で1億円以下でも、2回目以降の売却で合計が1億円を超えると、2回目以降は特例適用不可
必要書類
空き家特例を適用して確定申告する際の必要書類:
共通書類:
- 確定申告書(譲渡所得の内訳書含む)
- 売買契約書のコピー
- 被相続人居住用家屋等確認書(市区町村に申請して取得)
- 登記事項証明書(家屋・土地)
家屋を取り壊した場合: 5. 取り壊し証明書または滅失登記の証明書 6. 相続開始時から譲渡時まで、家屋および敷地が事業用・貸付用・居住用に使用されていなかったことを証する書類
耐震リフォームした場合: 5. 耐震基準適合証明書または建設住宅性能評価書のコピー 6. 耐震リフォーム工事の契約書・領収書のコピー
老人ホーム入所のケース: 7. 介護保険の被保険者証のコピー 8. 施設への入所時契約書のコピー 9. 老人ホーム等の施設が法令に規定する施設であることの証明書
被相続人居住用家屋等確認書の取得
この確認書は、被相続人の最後の住所地の市区町村に申請します。
申請に必要な書類(一般的な例):
- 申請書(市区町村所定の様式)
- 被相続人の除票住民票
- 相続人全員の住民票
- 電気・ガス・水道の閉栓証明(使用していないことの証明)
- 売買契約書のコピー
- 登記事項証明書
- (老人ホーム入所の場合)施設の入所契約書、介護保険被保険者証等
申請時期:
- 売却後、確定申告前に取得
注意点:
- 自治体により必要書類が異なる場合があるため、事前に確認が必要
- 発行まで2週間~1か月程度かかる場合もあるため、余裕を持って申請
尼崎市での実務
尼崎市では、被相続人居住用家屋等確認書の申請は市民課で受け付けています。
必要書類や手続きの詳細は、尼崎市のホームページまたは窓口で確認することをお勧めします。当事務所でも、確認書取得のサポートを行っております。
空き家特例と相続税申告の関係
空き家特例は譲渡所得税の特例であり、相続税とは別の税金です。
タイムライン:
- 相続発生
- 相続税申告(10か月以内)
- 空き家を売却(3年を経過する日の属する年の12月31日まで)
- 譲渡所得の確定申告(売却した年の翌年2月16日~3月15日)
両方の税金がかかる可能性:
- 相続税:相続時の不動産評価額に対して課税
- 譲渡所得税:売却時の譲渡益に対して課税(空き家特例で3,000万円控除可能)
取得費加算の特例との選択: 相続税を支払った人が相続財産を売却する場合、「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例」も適用できる可能性があります。
ただし、空き家特例と取得費加算の特例は併用できないため、有利な方を選択します。
一般的には:
- 譲渡益が3,000万円以下 → 空き家特例の方が有利
- 譲渡益が大きく、相続税も多額 → 取得費加算が有利な場合もある
空き家特例を使うための早期準備
空き家特例を最大限活用するには、相続発生直後からの準備が重要です:
相続発生直後:
- 被相続人が一人暮らしだったかの確認
- 電気・ガス・水道のメーター記録の保管
- 老人ホーム入所の場合、契約書等の確認
相続開始後早期:
- 建物の建築年月日確認(昭和56年5月31日以前か)
- 耐震診断の実施検討
- 不動産業者への査定依頼
売却準備:
- 取り壊しか耐震リフォームかの判断
- 売却時期の計画(3年以内の期限管理)
- 必要書類の準備開始
注意すべき期限:
- 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
- この期限を過ぎると、特例は一切適用できません
空き家特例が使えない場合の対策
以下のケースでは空き家特例が使えません:
1. 被相続人と同居していた場合 → 通常の居住用財産の3,000万円控除を検討(要件が異なる)
2. 昭和56年6月1日以降に建築された建物 → 取得費加算の特例を検討
3. マンション → 取得費加算の特例を検討
4. 売却価格が1億円超 → 価格を下げられないか交渉、または持分を分けて複数年で売却する方法も検討
5. 3年の期限を過ぎた → 残念ながら特例は使えないが、取得費加算等は検討可能
その他の名義変更・解約手続き
公共料金等
- 電気・ガス・水道:名義変更または解約
- 電話・インターネット:名義変更または解約
- NHK:名義変更または解約
空き家特例を考えている場合の注意:
- 電気・ガス・水道は、相続開始後すぐに閉栓し、閉栓証明書を取得しておく
- これが「空き家として管理していた」証明になる
運転免許証・パスポート
- 運転免許証:公安委員会へ返納
- パスポート:都道府県の旅券課へ返納
クレジットカード
- カード会社へ連絡し、解約手続き
- 未払金がある場合は相続財産から支払う
携帯電話
- 名義変更または解約
- 最近は家族割引等の関係で名義変更するケースも
賃貸借契約
- 賃貸住宅:大家・管理会社へ連絡
- 継続するか解約するか決定
- 敷金・保証金の精算
自動車
- 相続人への名義変更(運輸支局)
- または廃車手続き
- 自動車保険の名義変更も忘れずに
四十九日・納骨
四十九日(七七日)は、仏教における忌明けの重要な節目です。
一般的な流れ:
- 僧侶への依頼(菩提寺または葬儀社紹介)
- 日時・場所の決定(自宅、寺院、ホテル等)
- 参列者への案内
- 引き出物(香典返し)の手配
- 会食の手配
納骨のタイミング:
- 四十九日に合わせて行うことが多い
- 一周忌に行う場合もある
- 法的な期限はない
納骨に必要な書類:
- 埋葬許可証(火葬時に発行)
- 墓地使用許可証
- 印鑑
尼崎での相続手続きサポート
当事務所では、30年以上の実績をもとに、相続手続き全般をサポートしています。
主なサービス内容:
- 相続税申告
- 遺産分割協議のアドバイス
- 準確定申告
- 相続登記(司法書士と連携)
- 相続放棄のアドバイス
- 空き家特例の適用判定・確定申告サポート
- 事業承継・M&Aのサポート
特に空き家特例については、適用要件の判定から、必要書類の収集サポート、市区町村への確認書申請、譲渡所得の確定申告まで、トータルでサポートいたします。
阪神尼崎駅から徒歩1分の好立地で、初回相談は無料です。相続でお困りの際は、お気軽にご相談ください。
税理士法人松野茂税理士事務所 〒660-0861 尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F TEL: 06-6419-5140 営業時間: 平日9:00~17:00
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別具体的な税務アドバイスではありません。実際の手続きにあたっては、専門家にご相談ください。
事務所概要
税理士法人松野茂税理士事務所
代表税理士:松野 茂
社員税理士:山本 由佳
所属税理士:近畿税理士会 尼崎支部
法人登録番号:第6283号
法人番号:4140005027558
適格請求書発行事業者登録番号(インボイス番号):T4140005027558
所在地:〒660-0861 兵庫県尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F
TEL:06-6419-5140
営業時間:平日 9:00〜18:00








