【税理士解説】分割型吸収分割で不動産を無税移転|M&A前の組織再編で4.6億円節税した実例 | 税理士法人松野茂税理士事務所

税理士法人松野【税理士解説】分割型吸収分割で不動産を無税移転|M&A前の組織再編で4.2億円節税した実例 | 税理士法人松野茂税理士事務所茂税理士事務所 
目次

はじめに

当事務所では、組織再編・M&Aの高度な専門知識を活かし、お客様の事業承継や資産承継を最適な形でサポートしています。今回は、完全子会社が保有する不動産を、親会社に移転するにあたり、分割型吸収分割を活用したスキームの実績をご紹介します。

このスキームにより、約4.2億円の法人税登録免許税の軽減不動産取得税の非課税という大きな節税効果を実現することができました。

【実際の案件について】

本記事では、理解しやすくするためA社(親会社)とB社(子会社)の2社で説明していますが、実際の案件は、子会社がB社とC社の2社あり、各社がそれぞれ不動産を保有しているという、より複雑な組織再編でした。

このような複数の子会社が関与する複雑なケースでも、当事務所の組織再編の専門知識により、スムーズに実行することができました。


案件の背景

クライアントの状況

【本記事での説明用の簡略化した構造】

  • A社(親会社): 1人の個人株主が100%保有する持株会社
  • B社(完全子会社): A社が100%保有する事業会社
  • B社が保有する不動産
    • 簿価: 3億円
    • 時価: 15億円
    • 含み益: 12億円

【実際の案件の組織構造】

実際には、A社の下にB社とC社の2つの完全子会社があり、各社がそれぞれ不動産を保有していました。つまり、2回の分割型吸収分割を実行する必要がある、より複雑な組織再編案件でした。

本記事では理解しやすさを優先し、B社のみで説明を進めます。

クライアントの課題と要望

個人株主であるオーナー様は、将来10年以内にB社の事業を第三者にM&A売却する可能性が高いとお考えでした。

しかし、このまま売却すると大きな問題がありました:

B社には簿価3億円、時価15億円の不動産があり、含み益が12億円も存在しています。B社を売却した後、買い手が不動産を売却したり、B社を清算したりすると、この含み益12億円に対して約4.2億円もの法人税が課税されてしまいます。

買い手にとってこの税負担は大きなマイナス要因となり、M&Aの売却価格が下がる、あるいは買い手が見つかりにくくなるという問題が生じます。

そこで、オーナー様からいただいたご相談が:

「M&Aの前に、B社の不動産をA社(親会社)に移転させたい。その後、A社が不動産を所有し、B社に賃貸する形にする。そうすれば、B社の事業だけを売却でき、不動産は手元に残って賃貸収入も得られる。ただし、移転時に多額の税金が発生するのは避けたい」

というものでした。


検討した移転方法

1. 通常の資産譲渡による移転

メリット

  • 通常の売買取引で手続きが簡単

デメリット

  • グループ法人税制による課税繰延は一時的なもの
  • 簿価での移転はできず、時価15億円相当の資金が必要
  • 将来的に課税は避けられない

2. 組織再編による移転(現物配当 vs 分割型吸収分割)

現物配当と分割型吸収分割を比較検討した結果、実務上の事例が最も多く、税務上の取扱いも確立されている分割型吸収分割を採用することにしました。


採用したスキーム:分割型吸収分割

スキームの全体像

【M&A前の準備段階】

  1. B社(完全子会社)が所有する不動産を会社分割により切り出す
  2. A社(親会社)がこの不動産を吸収分割により承継し、A社の資産とする
  3. A社はB社に対して不動産を賃貸し、B社は事業を継続
  4. 対価について:
    • A社の株式をB社に交付する方法(有対価)
    • または株式を交付しない方法(無対価)も可能
    • 完全支配関係にある親子会社間では、無対価での分割が例外的に認められる

結果:不動産はA社所有、B社は賃借人として事業のみを行う会社に

【その後のM&A】

  1. 数年後、B社の株式(事業のみ)を第三者に売却
  2. 不動産はA社(オーナー保有)に残り、新オーナーとなった買い手のB社に継続して賃貸
  3. オーナーは安定的な賃貸収入を得られ、不動産の値上がり益も享受
  4. B社には含み益のある資産がないため、買い手の税務リスクが少なく、高値で売却可能

このスキームの最大のメリット

適格分割の要件を満たすことで、以下の税務メリットを享受できる:

【適格分割の要件(完全支配関係)】

本件はA社(親会社)とB社(完全子会社)の完全支配関係にあるため、以下の要件で適格分割となります:

1. 金銭不交付要件

  • 分割の対価が株式のみであること(現金等の交付がないこと)
  • 完全支配関係があるため、この要件さえ満たせば適格分割に該当
  • 親子会社間の分割型吸収分割では、無対価(株式も交付しない)での分割も認められる
  • (これは、親会社と完全子会社は経済的に一体であり、対価を交付する実質的な意味がないためです。)
  • これは例外的な取扱いで、手続きを簡素化できるメリットがある

2. 継続保有要件(重要な税制改正あり)

分割型分割の場合、継続保有要件は以下のようになります:

【原則:有対価分割の場合】

  • 分割承継法人(A社)が、分割法人(B社)の株式を継続保有すること

【本件:無対価吸収分割の場合】

  • 分割承継法人(A社)が、分割により承継した資産(不動産)を継続保有すること
  • 本件では、A社が分割により取得した不動産を継続保有し、賃貸事業を継続するため、この要件を満たす
  • 不動産をすぐに売却すると、適格要件を満たさなくなる可能性がある

【平成29年度税制改正で要件が緩和されました】

改正前は「分割法人(B社)の株主(A社)が、分割親法人(分割後のB社)の株式を継続保有すること」という要件がありました。

しかし、この要件が撤廃されたため:

  • A社(B社の株主)が、分割後のB社株式を継続保有する必要がなくなった
  • 将来B社をM&Aで売却しても、適格要件に影響なし
  • オーナー個人が親会社A社の株式を売却する場合も問題なし
  • まさに将来のM&Aを見据えた、都合の良い改正

つまり、この税制改正により「不動産を親会社に移転した後、子会社をM&A売却する」というスキームが、より実行しやすくなったのです。

【適格分割による税務メリット】

1. 法人税の課税繰延

  • 含み益12億円に対する法人税 約4.2億円(実効税率35%)の課税を繰延
  • 適格分割により、B社は簿価3億円で資産を譲渡したとみなされる
  • 時価15億円と簿価3億円の差額12億円に対する課税が発生しない

2. 登録免許税の軽減

産業競争力強化法に基づき認定された事業再編計画では、再編に伴う不動産の所有権移転登記について、登録免許税の軽減措置が受けられます 。

  • 通常の不動産移転: 固定資産税評価額の2%
  • 会社分割による移転: 固定資産税評価額の0.4%(5分の1に軽減

3. 不動産取得税の非課税

適格分割の要件を満たすことで、不動産取得税が非課税となります。


不動産取得税が非課税となる主な要件

分割型吸収分割で不動産取得税を非課税とするためには、主に以下の4つの要件を満たす必要があります(分割の種類によっては追加の要件があります)。

1. 分割対価要件

分割の対価が株式のみであること。現金等の交付がある場合は課税対象となります。

2. 主要資産・負債移転要件

分割する事業に関連する主要な資産と負債が承継会社に移転されること。資産のみを選択的に移転させる「いいとこ取り」は認められません。

3. 移転事業継続要件

移転した事業が、承継会社で引き続き営まれること。分割後すぐに事業を廃止する場合は該当しません。

4. 従業者引継要件

分割事業に従事していた従業員の概ね80%以上が、分割後も承継会社で働き続ける見込みがあること。

【重要】不動産賃貸業における実務対応

原則として従業員の引継ぎが必要ですが、不動産賃貸業の場合は特別な事情があります

不動産賃貸業では、物件の管理や賃貸業務を役員(取締役等)が行っているケースが多く、専任の従業員がいない、または極めて少ないことが一般的です。

このような場合、都道府県税事務所と事前協議を行い、以下の点を説明することで、従業員引継要件を満たすことができます:

  • 不動産賃貸業の管理者は役員であること
  • 役員が引き続き承継会社で業務を継続すること
  • 従業員がいない、または少数であることが業態上合理的であること
  • 事業の実態が継続されていること

本件では、事前に所轄の都道府県税事務所と交渉を行い、「不動産賃貸業の管理は役員が行っており、従業員の引継ぎは不要」という取扱いについて承諾を得ることができました。

このような実務対応が、当事務所の組織再編における専門性と交渉力の一例です。

5. 按分型要件(分割型分割のみ)

分割会社の株主が保有していた株式比率に応じて、承継会社の株式を交付すること。

【重要】本件は分割型吸収分割のため、按分型要件は不要

本件のような親子会社間の分割型吸収分割では、按分型要件は適用されません。

さらに、完全支配関係にある親子会社間の分割型吸収分割では、無対価(株式を交付しない)での分割が可能です。これは例外的な取扱いとなります。

無対価分割の実務上のメリット:

  • 株式交付の手続きが不要
  • 資本関係がシンプルに保たれる
  • 登記手続きが簡素化される

本件では、この無対価分割の方法を採用することも検討できます。


スキーム実行の流れ

1. 事前準備

  • 税務リスクの検証
  • 適格分割要件の充足確認
  • 都道府県税事務所との事前協議(従業員引継要件の確認)
  • 分割計画書・分割契約書の作成

2. 会社分割の実行

  • 取締役会・株主総会での承認
  • 債権者保護手続き
  • 分割登記の実施

3. 税務申請

  • 不動産取得税非課税申告書の提出
  • 登録免許税軽減措置の適用申請
  • 適格分割の要件を満たす証憑書類の準備

スキームによる節税効果のまとめ

項目通常の譲渡分割型吸収分割節税効果
法人税約4.2億円課税繰延約4.2億円
登録免許税固定資産税評価額×2%固定資産税評価額×0.4%約80%軽減
不動産取得税固定資産税評価額×4%非課税全額非課税
資金負担時価15億円必要不要15億円

総合的な節税効果は、4億6千万円規模に達しました。


M&A前の組織再編の重要性

このスキームは、子会社の事業のみをM&A売却し、不動産は親会社に残す戦略的な組織再編の好例です。

平成29年度税制改正がM&Aスキームを後押し

改正のポイント: 分割型分割の適格要件から「分割法人の株主(親会社)が分割親法人(分割後の分割法人)の株式を継続保有する要件」が撤廃されました。

この改正により:

  • 不動産を親会社に移転した後、親会社(A社)が子会社(B社)株式を継続保有する必要がなくなった
  • 子会社株式をM&A売却しても適格要件に影響なし
  • オーナーが親会社株式を売却する場合も問題なし
  • まさに「事業売却、不動産は手元に残す」スキームに最適な改正

この税制改正により、M&A前の組織再編がより実行しやすくなりました。

なぜM&A前に不動産を親会社に移転するのか?

1. M&Aの売却価格を最大化できる

  • 含み益のある不動産が残っていると、買い手は将来の税負担を懸念
  • 不動産のない「事業のみの会社」は、買い手にとって魅力的
  • 結果として、より高い価格での売却が可能に

2. 買い手が見つかりやすくなる

  • シンプルな事業会社の方が、デューデリジェンス(買収監査)がスムーズ
  • 買い手の税務リスクが減少
  • M&Aの成約確率が高まる

3. オーナーの手元に不動産を残し、継続的な収益を確保

  • 事業は売却しても、収益不動産は親会社(オーナー保有)に残る
  • M&A後も、買い手の会社に不動産を賃貸し続けることで安定収入
  • 不動産の値上がり益もオーナーのものに
  • 事業と不動産を分離することで、リスクも分散

4. 買い手にとってもメリットがある

  • 不動産を購入する初期投資が不要
  • 賃貸借契約により、柔軟な事業運営が可能
  • 将来的に事業を移転する選択肢も残る

このスキームが有効なケース

  • 子会社の事業のみをM&Aで売却し、不動産は手元に残したい
  • M&A後も不動産賃貸収入を得たい
  • 子会社に含み益のある資産(不動産、有価証券等)がある
  • 事業と不動産を分離して、リスクを分散したい
  • グループ内で資産を効率的に配置したい
  • 税負担を最小化しながら組織再編を行いたい

注意すべきポイント

本スキームを成功させるには、法人税と不動産取得税、それぞれの税法が定める要件を正確に満たす必要があります。

1. 法人税の課税繰延(適格分割)のための要件

金銭不交付要件

  • 分割の対価は株式のみでなければなりません
  • 本件のような完全支配関係にある親子会社間では、株式すら交付しない「無対価分割」も認められ、手続きを簡素化できます

資産の継続保有要件

  • 分割によって不動産を承継した親会社(A社)は、その不動産を継続して保有する必要があります
  • 本件では、A社が不動産を継続保有し、B社に賃貸して賃貸事業を継続
  • 分割後すぐに不動産を売却すると、この要件を満たさなくなり、遡って法人税が課税されるリスクがあります

(補足)子会社株式の継続保有要件は不要

  • 平成29年度税制改正により、親会社(A社)が分割後の子会社(B社)の株式を継続して保有する要件は撤廃されました
  • これにより、子会社のM&A売却が実行しやすくなっています

2. 不動産取得税の非課税のための要件

地方税である不動産取得税を非課税にするためには、法人税の適格要件とは別に、以下の要件を満たす必要があります。

主要資産・負債の移転要件

  • 不動産賃貸事業に関する主要な資産と負債を、一体として親会社に移転させる必要があります
  • 不動産だけを移転するような「いいとこ取り」は認められません

事業継続要件

  • 移転した不動産賃貸事業を、親会社において継続して営むことが求められます
  • 分割後すぐに不動産を売却すると、不動産取得税が課税される可能性があります

従業者引継要件

  • 原則として、分割事業の従業員の概ね80%以上を引き継ぐ必要があります
  • ただし、不動産賃貸業のように役員が管理を行っており専任の従業員がいない場合、都道府県税事務所との事前協議により、この要件が実質的に免除されるケースがあります
  • 本件でも事前交渉により承諾を得ました

3. その他の留意点

事業実態の継続

  • 全ての要件において、形式だけでなく「事業の実態が継続していること」が重要です
  • 税務当局から租税回避行為とみなされないよう、M&Aの実行までには一定期間(明確な基準はありませんが、一般的に数年程度)を空けることが望ましいとされています

まとめ

今回ご紹介した分割型吸収分割スキームは、事業のみをM&A売却し、不動産は親会社で保有し続けるという、戦略的な組織再編の実例です。

このスキームにより:

  • 約4.2億円の法人税課税を繰延
  • 登録免許税・不動産取得税の大幅軽減
  • M&A後も安定的な不動産賃貸収入を確保
  • 事業と不動産の分離によるリスク分散

を実現することができました。

実際の案件は、複数の子会社(B社・C社)がそれぞれ不動産を保有しているという複雑な組織構造でしたが、当事務所の組織再編に関する高度な専門知識と実務経験により、スムーズに実行することができました。

当事務所では、30年以上の実績をもとに、お客様の事業承継・M&A・組織再編を、税務・法務の両面からトータルにサポートいたします。


こんなお悩みはありませんか?

  • 子会社をM&Aで売却したいが、不動産の含み益が大きく買い手が敬遠する
  • M&A前に不動産を親会社に移転したいが、税金が心配
  • 子会社の含み益が大きく、売却後の税負担が心配
  • グループ内で不動産や事業を効率的に再配置したい
  • 組織再編を検討しているが、税務リスクが不安
  • 事業承継に向けて最適な組織体制を構築したい
  • 事業は売却したいが、不動産は手元に残したい

ぜひ一度、当事務所にご相談ください。


税理士法人松野茂税理士事務所のご案内

得意分野

  • 所得税・法人税・相続税
  • 組織再編・M&A(専門分野)
  • 事業承継対策
  • グループ法人税制

サービス内容

  • 弥生会計・クラウド会計の記帳代行・導入支援
  • 税務相談・税務申告
  • 組織再編・M&Aのコンサルティング
  • 相続対策・事業承継プランニング

アクセス

  • 所在地: 〒660-0861 兵庫県尼崎市御園町24 尼崎第一ビル7F
  • 最寄駅: 阪神尼崎駅 徒歩1分
  • 電話: 06-6419-5140
  • FAX: 06-6423-7500
  • メール: info@tax-ms.jp

営業時間: 平日 9:00〜17:00(土日祝休)


初回相談は無料です

組織再編・M&A・事業承継に関するご相談は、初回無料で承っております。 お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ方法

  • お電話: 06-6419-5140
  • メール: info@tax-ms.jp
  • お問い合わせフォーム: (ホームページに設置予定)

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別具体的な税務判断については、必ず税理士にご相談ください。

執筆: 税理士法人松野茂税理士事務所 公開日: 2025年11月

目次