不動産や株式などを売却したとき、譲渡所得の計算において「取得日」は非常に重要な意味を持ちます。なぜなら、取得日によって短期譲渡所得か長期譲渡所得かが決まり、税率が大きく変わってくるからです。
今回は、相続や贈与によって取得した資産を売却する場合の「取得日」について、実務でよくある質問をもとに解説します。
なぜ取得日が重要なのか
譲渡所得の計算では、所有期間によって税率が異なります。
土地・建物の場合
- 長期譲渡所得(所有期間5年超):所得税15%、住民税5%
- 短期譲渡所得(所有期間5年以下):所得税30%、住民税9%
このように、税率が約2倍も違うため、取得日の判定は極めて重要です。
原則:自分で購入した場合
通常、資産を購入した場合は、その購入日が取得日となります。所有期間は、譲渡した年の1月1日時点で判定します。
相続で取得した場合の取得日
相続によって取得した資産を売却する場合、被相続人(亡くなった方)が取得した日を引き継ぎます。
具体例
父が平成10年に購入した土地を、令和2年に相続し、令和7年に売却した場合:
- 取得日:平成10年(父が購入した日)
- 所有期間:令和7年1月1日時点で約27年
- 判定:長期譲渡所得
つまり、相続した時点から5年経過していなくても、被相続人の所有期間を通算できるため、長期譲渡所得として有利な税率が適用される可能性が高いのです。
実務上の注意点
- 被相続人の取得時期を証明する書類(売買契約書など)の保管が重要です
- 取得費が不明な場合は、譲渡価額の5%を概算取得費として計算することになりますが、これでは大きな損失となる可能性があります
贈与で取得した場合の取得日
贈与によって取得した資産も、贈与者(あげた人)が取得した日を引き継ぎます。この点は相続と同じ考え方です。
具体例
父が令和2年に購入したマンションを、令和5年に贈与を受け、令和7年に売却した場合:
- 取得日:令和2年(父が購入した日)
- 所有期間:令和7年1月1日時点で5年以下
- 判定:短期譲渡所得
この場合、自分が贈与を受けてから5年経過するのを待ってから売却すれば、長期譲渡所得として有利な税率が適用されます。
取得費も引き継ぐ
取得日だけでなく、取得費も引き継ぎます。
- 相続・贈与:被相続人・贈与者の取得価額をそのまま引き継ぐ
- 建物の場合:被相続人・贈与者の所有期間も含めて減価償却費を計算
よくあるご質問
Q. 相続税を支払った場合、その分を取得費に加算できますか?
A. はい。相続税額のうち一定額を取得費に加算できる特例があります。相続開始から3年10ヶ月以内に譲渡した場合に適用できます。
Q. 贈与税を支払った場合は?
A. 残念ながら、贈与税を取得費に加算する特例はありません。これが贈与と相続の大きな違いです。
まとめ
相続・贈与で取得した資産の譲渡所得を計算する際は、以下のポイントを押さえましょう。
- 取得日は被相続人・贈与者の取得日を引き継ぐ
- 取得費も引き継ぐ
- 相続の場合は「相続税の取得費加算の特例」の活用を検討
- 短期譲渡所得になりそうな場合は、売却時期の調整も検討
譲渡所得の計算は複雑で、特例の適用判断も難しいケースが多くあります。不動産の売却を検討されている方は、事前に税理士にご相談されることをお勧めします。
ブログに追記する形で、10年超所有軽減税率の特例との関係について説明を加えますね。
居住用財産の軽減税率の特例(10年超所有)との関係
マイホームを売却する際、所有期間が10年を超えている場合、さらに有利な軽減税率が適用できる特例があります。相続や贈与で取得した自宅を売却する場合、この特例との関係が問題となります。
10年超所有軽減税率の特例とは
居住用財産を譲渡した場合で、以下の要件を満たすときは、通常の長期譲渡所得よりもさらに低い税率が適用されます。
軽減税率(6,000万円まで)
- 所得税:10%
- 住民税:4%
- 合計14%(通常の長期は20%)
主な要件
- 譲渡した年の1月1日時点で所有期間が10年を超えていること
- 自分が住んでいた家屋または家屋とその敷地であること
- 3,000万円特別控除の特例と併用可能
相続した自宅を売却する場合
重要なポイント:被相続人の所有期間を引き継げます
父が30年前に購入し居住していた自宅を相続し、相続後3年で売却した場合:
- 取得日:父が購入した日(30年前)
- 所有期間:30年 → 10年超の要件を満たす
- ただし:自分自身が居住していたことが必要
実務上の注意点
ケース1:被相続人と同居していた場合
父と同居しており、父の死後も引き続き居住していた自宅を売却 → 10年超所有軽減税率の特例が適用可能
- 所有期間:被相続人の所有期間を引き継ぐ
- 居住要件:自分も居住していたため満たす
ケース2:別居していて相続後に空き家になった場合
父が一人暮らしをしていた自宅を相続し、空き家のまま売却 → 原則として軽減税率は適用できない
ただし、以下の条件を満たせば空き家の3,000万円特別控除の適用を検討できます:
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋
- 相続開始直前まで被相続人が一人暮らし
- 相続から3年以内の売却
- 一定の耐震基準を満たすか、家屋を取り壊して売却
ケース3:相続後に自分が住み始めた場合
相続した実家に自分が住み始め、その後売却 → 所有期間の起算点に注意
- 10年超の判定:被相続人の取得日から起算(有利)
- 居住要件:自分が実際に住んだ期間で判定
贈与で取得した自宅の場合
贈与についても基本的な考え方は同じです。
父から贈与を受けた自宅(父の所有期間15年)を3年後に売却
- 所有期間:父の取得日から起算 → 18年で10年超の要件クリア
- 居住要件:自分が住んでいれば満たす
- 軽減税率の適用可能
所有期間と居住期間の違い
この特例でよく混同されるのが「所有期間」と「居住期間」です。
項目 | 要件 | 相続・贈与の場合 |
---|---|---|
所有期間10年超 | 譲渡年の1月1日時点で10年超 | 被相続人・贈与者の期間を引き継ぐ |
居住要件 | 自分が住んでいたこと | 自分自身が住んでいた期間で判定(引き継がない) |
具体例で確認
【例1】同居していたケース
- 平成20年:父が購入、父と同居開始
- 令和2年:父死亡、相続
- 令和7年:売却
✓ 所有期間:平成20年〜(17年)→ 10年超クリア ✓ 居住要件:平成20年〜令和7年まで居住 → クリア ✓ 軽減税率適用可能
【例2】別居で空き家になったケース
- 平成20年:父が購入
- 令和2年:父死亡、相続(自分は別居)
- 令和7年:空き家のまま売却
✓ 所有期間:平成20年〜(17年)→ 10年超クリア ✗ 居住要件:自分は住んでいない → 軽減税率適用不可 ※ 空き家の3,000万円特別控除を検討
【例3】相続後に住み始めたケース
- 平成20年:父が購入
- 令和2年:父死亡、相続
- 令和3年:自分が住み始める
- 令和7年:売却
✓ 所有期間:平成20年〜(17年)→ 10年超クリア ✓ 居住要件:令和3年〜令和7年居住 → クリア ✓ 軽減税率適用可能
3,000万円特別控除との併用
10年超所有軽減税率の特例は、居住用財産の3,000万円特別控除と併用可能です。
計算例 譲渡価額5,000万円、取得費1,000万円、譲渡費用200万円の場合:
- 譲渡所得:5,000万円 – 1,000万円 – 200万円 = 3,800万円
- 特別控除:3,000万円
- 課税譲渡所得:800万円
- 税額:800万円 × 14.21% = 約114万円
※3,000万円の特別控除のみの場合は約161万円なので、約47万円の節税
実務でのチェックポイント
相続した自宅を売却する際は、以下を確認しましょう:
- ☑ 被相続人の取得時期(登記簿謄本、売買契約書で確認)
- ☑ 譲渡する年の1月1日時点で10年超か
- ☑ 自分が居住していたか(住民票で確認)
- ☑ 居住しなくなってから3年以内の売却か
- ☑ 相続開始から3年10ヶ月以内か(相続税の取得費加算との併用)
まとめ:所有期間は引き継ぐが、居住は別
相続・贈与と10年超所有軽減税率の特例の関係
✓ 所有期間は引き継ぐ → 有利に働く ✗ 居住要件は自分で満たす必要 → 自分が住んでいないと適用不可
相続した実家の売却は、適用できる特例が複数あり、どの特例を使うのが最も有利かは個別の状況によって異なります。特に相続税の取得費加算、空き家の3,000万円特別控除など、併用できない特例もあるため、慎重な判断が必要です。
税理士法人松野茂税理士事務所では、相続した不動産の売却に関する税務相談を数多く承っております。売却前のシミュレーション、各種特例の適用判断、最も有利な売却時期のアドバイスなど、お客様の状況に応じた最適なご提案をいたします。
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