こんにちは。税理士法人松野茂税理士事務所です。
今回は、実務でよくあるご相談「学生の子供が住んでいる家を親が売却する場合」や「親から贈与された家に学生が住んでいる場合」の居住用財産3,000万円特別控除について、スタッフとの会話形式で詳しく解説します。
問題の所在:「自己の居住用」とは?
スタッフ: 先生、お客様から「大学生の息子が住んでいるマンションを売却したいのですが、3,000万円控除は使えますか?」という相談がありました。
税理士: それは実務でとても多い相談ですね。ポイントは「自己の居住の用に供している家屋」という要件です。つまり、売却する本人が住んでいるかどうかが問題になります。
スタッフ: では、親が所有していても、親が住んでいなければ使えないということですか?
税理士: 原則としてはその通りです。ただし、いくつかのパターンがあるので、順を追って説明しましょう。
ケース1:親が所有、学生の子が居住
基本的な考え方
税理士: まず、最もよくあるパターンから見ていきましょう。
【状況】
- 親が所有するマンションを購入
- 大学生の子供が一人暮らしで居住
- 親は別の場所(実家)に居住
- 親がマンションを売却したい
スタッフ: この場合、親は3,000万円控除を使えますか?
税理士: 原則として使えません。理由を説明しましょう。
適用できない理由
1. 「自己の居住用」の要件を満たさない
- 親自身がそのマンションに居住していない
- 子供が住んでいても、親の居住用にはならない
2. 賃貸用または貸付用資産に該当
- 子供に無償で貸している場合:使用貸借による貸付
- 家賃をもらっている場合:賃貸借による貸付
- いずれにしても親の居住用ではない
スタッフ: でも、親子だから特別に認められるケースはないのでしょうか?
税理士: 残念ながら、親子であっても、親自身が居住していなければ居住用財産とは認められません。これは税法の明確な取り扱いです。
税務上の取り扱い
【親の立場】
- 居住用財産の特例:適用不可
- 税率:通常の譲渡所得税(長期20.315%、短期39.63%)
- 売却益全額に対して課税
【具体例】
売却価格:3,500万円
取得費:2,000万円
譲渡費用:100万円
所有期間:6年
譲渡所得 = 3,500万円 - 2,000万円 - 100万円 = 1,400万円
税額 = 1,400万円 × 20.315% = 約284万円
スタッフ: けっこうな税額になりますね…
税理士: そうですね。だからこそ、購入時の計画が重要なんです。
ケース2:親から子へ贈与した後、子が居住・売却
スタッフ: では、親から子供にマンションを贈与してから、子供が売却する場合はどうなりますか?
税理士: これは重要なポイントです。詳しく見ていきましょう。
パターンA:贈与後、子が居住して売却
【状況】
- 親が子供にマンションを贈与
- 贈与時に贈与税を支払い(または特例適用)
- 子供が実際に居住
- その後、子供が売却
判断:
- 子供は3,000万円控除を適用できる可能性あり
- ただし、重要な注意点がある
適用の要件と注意点
税理士: 子供が3,000万円控除を適用するには、以下の要件を満たす必要があります。
1. 実際の居住実態
- 子供自身が「居住の用に供している」こと
- 単に住民票があるだけでは不十分
- 生活の本拠として実際に居住していること
2. 居住期間
- 「居住の用に供している家屋」であること
- 居住期間の長短は特例適用の可否には直接影響しない
- ただし、短期間の居住は実態を疑われる可能性
スタッフ: 学生の場合、長期休暇は実家に帰ることが多いですよね。それでも「居住の用に供している」と言えるのでしょうか?
税理士: 良い質問です。この点が実務上、とても重要になります。
学生の居住実態の判断
判断のポイント:
○ 居住用と認められやすいケース
- 大学の授業期間中は継続的に居住
- 家具・家財を置いて生活の拠点としている
- 公共料金を継続的に使用
- 郵便物の配達先としている
- アルバイト先への届出住所としている
- 長期休暇中も定期的に戻ってくる
× 居住用と認められにくいケース
- 実質的に週末だけの利用
- 長期休暇中は全く使用していない
- 生活必需品が置かれていない
- 公共料金の使用量が極端に少ない
- 実家が主たる生活の場となっている
スタッフ: 実態をしっかり確認する必要があるんですね。
税理士: その通りです。形式だけでなく、実質的に生活の本拠となっているかどうかが重要です。
ケース3:親子が共有で所有、親だけが居住
スタッフ: 親子で共有している場合はどうなりますか?
税理士: これも複雑なケースですね。
【状況】
- 親と子供が各2分の1ずつ共有
- 親だけが居住
- 子供は別の場所に居住(学生で下宿など)
- 共有不動産を売却
判断
親の持分(2分の1)
- 3,000万円控除を適用可能
- 親自身が居住しているため
子の持分(2分の1)
- 3,000万円控除は適用不可
- 子自身が居住していないため
- 親が住んでいても、子の持分には適用できない
【具体例】
売却価格:6,000万円(全体)
取得費:2,000万円(全体)
所有期間:6年
譲渡所得(全体)= 6,000万円 - 2,000万円 = 4,000万円
【親の持分】
譲渡所得:2,000万円
3,000万円控除後:0円(控除しきれる)
税額:0円
【子の持分】
譲渡所得:2,000万円
3,000万円控除:適用不可
税額:2,000万円 × 20.315% = 約406万円
スタッフ: 同じ家なのに、親と子で取り扱いが違うんですね。
税理士: はい。それぞれの持分について、それぞれの居住実態に基づいて判断されます。
ケース4:親が所有、親子が同居後、親が売却
税理士: 次は、親子が同居しているケースを見てみましょう。
【状況】
- 親が所有する家に親子が同居
- 子供は大学生で、親と一緒に居住
- 親が家を売却
判断
適用可能:
- 親は3,000万円控除を適用できる
- 親自身が居住しているため
- 子供も同居しているが、所有者である親の居住用財産
スタッフ: これは問題なく使えるんですね。
税理士: はい。所有者が実際に居住していれば、同居家族がいても問題ありません。
ケース5:子に贈与したが、親が引き続き居住
スタッフ: 逆に、子供に贈与したけど、親が住み続けている場合はどうなりますか?
税理士: これは非常に注意が必要なケースです。
【状況】
- 親が所有していた家を子供に贈与
- 贈与後も親が引き続き居住
- 子供は別の場所に居住
- 子供が家を売却
判断
子の立場:
- 原則として3,000万円控除は適用不可
- 子供自身が居住していないため
ただし例外あり:
- 贈与後、子供が実際に転居して居住した場合は適用可能
- 親から使用貸借で借りているだけでは、子の居住用財産にはならない
スタッフ: 名義を変えただけでは、特例は使えないということですね。
税理士: その通りです。実際の居住実態が伴わなければ、居住用財産とは認められません。
贈与を使った対策の注意点
スタッフ: では、親から子への贈与で税金を節税する方法はないのでしょうか?
税理士: 贈与を活用する場合、以下の点に注意が必要です。
贈与税の検討
1. 住宅取得等資金の贈与の特例
- 子が住宅を取得するための資金贈与
- 一定額まで非課税(年度により異なる)
- 子が実際に居住することが要件
2. 暦年贈与
- 年間110万円まで非課税
- 複数年かけて持分を移転
3. 相続時精算課税制度
- 2,500万円まで贈与税非課税
- 相続時に持ち戻して計算
贈与と売却のタイミング
【NG例:租税回避と判断されるケース】
親が所有 → 子に贈与 → すぐに子が売却
- 明らかな租税回避行為
- 「居住の用に供している」とは認められない
- 税務調査で否認されるリスク大
【適切なケース】
親が所有 → 子に贈与 → 子が実際に居住 →
相当期間経過後 → 子が売却
- 実際の居住実態がある
- 合理的な理由がある
- 特例適用の可能性あり
スタッフ: 実態が伴っていることが、やはり一番重要なんですね。
税理士: その通りです。形式だけ整えても、実態が伴わなければ特例は使えません。
実務上の対応とアドバイス
税理士: では、お客様から相談があった場合の対応をまとめましょう。
相談を受けた時の確認事項
1. 所有関係の確認
- 誰の名義か(単独所有・共有)
- 登記の内容
- 取得時期と取得方法
2. 居住実態の確認
- 誰が実際に居住しているか
- 居住期間はどのくらいか
- 住民票の位置
- 生活の実態(公共料金等)
3. 売却予定者の確認
- 誰が売却するのか
- 売却時期
- 売却理由
4. 家族関係の確認
- 親子の居住状況
- 学生の場合の居住実態
- 同居の有無
お客様へのアドバイスポイント
【購入時のアドバイス】
学生の子供のためにマンション等を購入する場合:
パターンA:将来売却を考えている場合
- 親名義で購入しても、親の居住用にはならないことを説明
- 将来の譲渡益に対して通常の税率がかかることを伝える
- 子供名義で購入する場合の贈与税も検討
パターンB:将来子供に引き継ぐ場合
- 相続を見据えた対策が有効な場合もある
- 子供が実際に居住し続けるかどうかを確認
- 長期的な視点での検討が必要
【売却時のアドバイス】
パターンA:親名義で親が居住していない場合
- 3,000万円控除は使えないことを明確に伝える
- 譲渡益がある場合の税額試算
- 売却時期の検討(他の所得との兼ね合い)
パターンB:子供に贈与してから売却を検討
- 贈与税の試算
- 贈与後の居住実態の必要性
- 贈与から売却までの期間
- トータルでの税負担を比較
スタッフ: お客様の状況によって、ベストな方法が違うんですね。
税理士: はい。だからこそ、早めの相談が重要です。購入前、贈与前、売却前、それぞれの段階で適切なアドバイスができるよう、しっかりヒアリングしましょう。
よくある質問まとめ
Q1: 親が所有するマンションに学生の子が住んでいます。親は3,000万円控除を使えますか?
A: **使えません。**親自身が居住していないため、親の居住用財産とは認められません。
Q2: 親から贈与されたマンションに学生の子が住んでいます。子は3,000万円控除を使えますか?
A: **実際の居住実態があれば使える可能性があります。**ただし、生活の本拠として実際に居住していることを証明する必要があります。長期休暇だけ実家に帰る程度であれば認められる可能性が高いですが、実態を詳しく確認する必要があります。
Q3: 親子で共有している家に親だけが住んでいます。売却時はどうなりますか?
A: **親の持分については3,000万円控除を使えますが、子の持分については使えません。**それぞれの持分について、それぞれの居住実態に基づいて判断されます。
Q4: 子供名義に変更すれば節税できますか?
A: **名義を変更するだけでは節税になりません。**実際に子供が居住し、相当期間経過後に売却する場合のみ、子供が3,000万円控除を適用できる可能性があります。形式的な名義変更は租税回避と判断されるリスクがあります。
Q5: 購入時にどのような点を検討すべきですか?
A: 将来売却する可能性がある場合は、誰が所有し、誰が居住するかを十分に検討してください。親名義で購入して子供だけが住む場合、将来の売却時に3,000万円控除が使えないことを理解した上で購入を検討すべきです。
まとめ:重要ポイント
【絶対に覚えておくべきこと】
1. 「自己の居住用」が大前提
- 売却する本人が居住していることが必要
- 親族が住んでいても、本人が住んでいなければ適用不可
2. 贈与だけでは解決しない
- 名義変更しても、実際の居住実態が必要
- 贈与のタイミングと売却のタイミングに注意
3. 学生の居住実態は慎重に判断
- 形式的な居住では不十分
- 生活の本拠としての実態が必要
- 証拠書類の準備が重要
4. 購入時の検討が重要
- 将来の売却を見据えた名義の検討
- 贈与税と譲渡所得税のバランス
- 長期的な視点での判断
5. 早めの相談が鍵
- 購入前、贈与前、売却前
- それぞれの段階で専門家に相談
- 総合的な税務戦略の検討
スタッフ: 先生、よく理解できました。お客様には、特に「自己の居住用」という要件をしっかり説明して、実態が伴っているかを確認するようにします。
税理士: そうですね。親心で子供のためにマンションを買ってあげることは素晴らしいことですが、税務上の取り扱いも含めて、総合的にアドバイスすることが私たちの役割です。お客様の利益を第一に考えて、適切なサポートをしていきましょう。
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