相続における「空き家特例(被相続人居住用家屋の譲渡所得の3,000万円特別控除)」をうまく使うと、譲渡所得税が大幅に軽減されます。
ただし、条件を正しく理解しないと「特例が使えなかった」という落とし穴に陥ります。
ここでは 尼崎の税理士が、よくある質問をQ&A形式で細かく整理 し、さらに実際の失敗例・成功事例も紹介します。
Ⅰ. 老人ホームに関するQ&A
Q1. 被相続人が老人ホームに入っていた場合でも空き家特例は使えますか?
A. 条件を満たせば使えます。
- 一人暮らしの家屋であること
- 老人ホーム入所後も「帰宅できる状態」で維持されていたこと
- 相続開始時点で他人に貸していないこと
- 建築が昭和56年5月31日以前であること
- 譲渡価格が1億円以下であること
Q2. 老人ホームに入所中に家を誰かに貸していたらどうなりますか?
A. 賃貸や事業用にしてしまうと特例は使えません。
Ⅱ. 遺産分割に関するQ&A
Q3. 相続人が複数いる場合、空き家特例はどうなりますか?
A. 相続人ごとに控除額が分かれます。
- 相続人2人 → 各3,000万円
- 相続人3人以上 → 各2,000万円
Q4. 共有名義で登記すると不利ですか?
A. 手続きが煩雑になるため、実務では「代表相続人が売却し、代金を分配する換価分割」がよく使われます。
Q5. 換価分割の協議書はどう書けばよいですか?
A. 代表相続人が不動産を取得し、売却後の代金を分配する旨を記載します。
例文(簡略版):
相続人Aは不動産を換価分割の目的で取得し、売却後に経費を控除した残額を相続人間で2分の1ずつ分配する。
Ⅲ. 不動産売買に関するQ&A
Q6. 空き家特例を受けるための売却条件は?
A. 次のいずれかが必要です。
- 耐震改修を行う
- 建物を取り壊して譲渡(翌年2月15日までに工事完了)
Q7. 誰が建物を取り壊すのですか?
A. 相続人が取り壊す場合も、買主が取り壊す場合も可能ですが、必ず売買契約書に「取壊しは誰が行うか」を明記しなければなりません。
Q8. 市役所で必要な手続きはありますか?
A. 「被相続人居住用家屋等確認書」を取得する必要があります。
ただし、最終的に特例を認めるのは税務署です。
Ⅳ. 1億円条件に関するQ&A
Q9. 譲渡価格が1億円を超えたらどうなりますか?
A. 一切の空き家特例が使えなくなります。
Q10. 1億円を超えそうな場合の対応策は?
A. 実務では「土地を分筆」して一部だけ譲渡する方法があります。
- 例:土地A+建物(6,000万円) → 特例○
土地B(5,000万円) → 通常課税
※ただし「適用前に分筆するか」「適用後に売却するか」で扱いが変わり、税法上は非常に複雑です。ここでは触りだけにとどめます。
Ⅴ. よくある失敗事例
失敗例1:売却価格が1億円を少し超えてしまった
→ 1億円を超えた時点で特例はゼロ。調整不足の典型。
失敗例2:老人ホーム入所後に家を賃貸に出した
→ 「事業用・貸付用」とみなされ、特例不適用。
失敗例3:遺産分割協議書に換価分割の記載なし
→ 税務署から指摘を受け、手続きが滞った。
失敗例4:取り壊しの期限を過ぎた
→ 翌年2月15日を超えてしまい、特例不適用。
失敗例5:市役所の確認書だけで安心した
→ 市役所は確認書を出すが、最終判断は税務署。結果は不適用。
Ⅵ. 成功事例
成功事例1:老人ホーム入所後の空き家で特例適用
→ 空き家を維持、条件を満たしていたため、譲渡所得税ゼロに。
成功事例2:換価分割を明文化してスムーズに申告
→ 協議書で明記したため、税務署の審査もスムーズ。
成功事例3:期限内に取り壊しを完了
→ 契約書に取り壊し者を明記、期限内に工事を終え、問題なく適用。
まとめ
空き家特例は「失敗すればゼロ、成功すれば大幅節税」という両極端な制度です。
成功のカギは:
- 老人ホーム入所時の条件確認
- 遺産分割での換価分割の明文化
- 不動産売買時の契約・取り壊し・期限確認
- 譲渡価格1億円以下の条件を満たすこと
尼崎で税理士として相続案件を多数扱った経験からも、早めの相談と丁寧な書類づくり が一番の安心につながります。
参考リンク(国税庁・関連機関)
- 国税庁タックスアンサー No.3306:被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm - 国税庁:被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例(手引き)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2021/kakikata/05/tokurei.htm - 国税庁:措置法35条3項による特別控除(空き家特例)
https://www.keisan.nta.go.jp/r1yokuaru/cat2/cat21/cat218/tokurei/jobunjun/cid1108.html - 国税庁:チェックシート(相続した空き家を売却した場合の特例)
https://www.nta.go.jp/about/organization/kumamoto/topics/joto_zoyo/r06/pdf/jotocheck_04.pdf - 国土交通省:空き家の譲渡所得特例/制度概要
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000030.html - 横浜市:被相続人居住用家屋等確認書の交付制度(参考例)
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/jutaku/sien/akiya/zeikoujo.html