Q1. 決算で役員報酬の端数処理はしても良いですか?
A1. 原則として役員報酬の端数処理はできません。ただし、翌月払いの場合の未払い計上は可能です。
委任契約の性質による制約
役員報酬は委任契約に基づく報酬です。委任契約では、委任者(会社)が受任者(役員)に対して事務処理を委託し、その対価として報酬を支払います。この契約関係において、報酬は事前に確定した額を定期的に支払うことが前提となっています。
定期同額給与の要件
法人税法第34条第1項第1号では「定期同額給与」として以下の要件を定めています:
- 支給時期の要件:支給時期が1月以下の一定期間ごとであること
- 同額性の要件:各支給時期における支給額が同額であること
- 継続性の要件:事業年度を通じて継続していること
端数処理により支給額に差が生じると、この「同額」要件に抵触し、損金不算入となるリスクがあります。
翌月払いの未払い計上について
役員報酬を翌月払いとしている場合の未払い計上は認められます:
- 支給時期が確定している場合:毎月末締切翌月○日払いなど、支給時期と金額が明確に定められている
- 継続適用している場合:同一の支給方法を継続して適用している
- 実際に翌月支払われる場合:未払い計上した翌月に確実に支払いが行われる
端数処理がNGな理由
端数処理が認められない理由は以下の通りです:
税務上の安定性:確定した金額での継続支給が前提
委任契約の性質:役員報酬は委任契約であり、年間の報酬を12回に分けて支払うことが前提
同額性の原則:毎月の支給額が完全に同額でなければならない
恣意性の排除:会社の都合による金額調整を防ぐため
Q2. 役員報酬が翌月払いの場合の未払金の計上はOKですか?
A2. はい、翌月払いの場合の未払金計上は問題ありません。
役員報酬を翌月払いとしている場合、以下の要件を満たせば未払金として計上することができます。
未払金計上が認められる要件
- 支給時期が明確に定められている
- 毎月末締切翌月○日払いなど、支給日が具体的に決まっている
- 支給方法が取締役会決議等で正式に決定されている
- 継続適用している
- 同一の支給方法を事業年度を通じて継続適用している
- 恣意的な変更は認められない
- 実際に翌月支払われる
- 未払金として計上した翌月に確実に支払いが実行される
- 支払いの確実性が担保されている
会計処理
決算時の仕訳例:
(借方)役員報酬 ××× / (貸方)未払金 ×××
翌月支払時の仕訳例:
(借方)未払金 ××× / (貸方)現金預金 ×××
注意点
支給額は定期同額給与の要件(毎月同額)を満たす必要があります
未払金の計上は税務上も損金算入が認められます
Q3.長期間の未払金を放置するとどうなりますか?
A3. 税務調査での否認リスクがあり、適切な処理が必要です。
役員報酬の未払金を長期間放置すると、以下のような問題が生じる可能性があります。
税務上のリスク
- 税務調査での否認対象
- 実質的に支払う意思がないと判断される可能性
- 過年度の損金算入が否認され、追徴税額が発生
- 仮装隠蔽による重加算税の対象となるリスク
- 支払予定が不明確な場合
- 未払金としての計上自体が認められない
- 架空経費として扱われる可能性
適切な処理方法
長期間未払いとなっている役員報酬については、以下の処理を検討する必要があります。
1. 源泉所得税の納付
- 未払いであっても源泉徴収義務は発生している
- 支払期日までに源泉所得税を納付する必要
- 延滞税等のペナルティが課される可能性
2. 借入金科目への振り替え
実際に支払う予定がない場合や長期間経過した場合:
(借方)未払金 ××× / (貸方)借入金 ×××
この処理により、役員への貸付として整理することができます。
注意点
- 継続的な見直し:未払金の状況を定期的に確認し、適切な処理を行う
- 税務署への説明:調査時には支払予定や経緯を明確に説明できるよう準備
- 社会保険料:厚生年金保険料等についても適切な処理が必要
推奨される対応
今後は確実に支払える範囲での役員報酬設定
速やかな支払いの実行
支払えない場合は借入金への振り替え
まとめ
決算時の役員報酬処理において重要なポイントは以下の通りです:
長期放置は危険:税務調査での否認リスクがあるため、適切な処理が必要です
端数処理は原則NG:定期同額給与の要件により、毎月同額である必要があります
翌月払いの未払金計上はOK:適切な要件を満たせば問題ありません
ブログの内容は私見であり、税務署とは見解が異なる場合があります。