はじめに
相続税の小規模宅地等の特例、特に「家なき子特例」を適用する際、平成30年度税制改正により新たに追加された要件の一つに「特別の関係がある一定の法人が所有する家屋に住んでいないこと」があります。
この要件は非常に複雑で、実務上も判定に迷うケースが多く見られます。税理士法人松野茂税理士事務所では、30年以上の実務経験から、本要件について正確な判定方法を解説いたします。
家なき子特例とは
家なき子特例とは、被相続人と同居していなかった親族でも、一定の要件を満たせば小規模宅地等の特例を適用でき、土地の評価額を最大80%減額できる制度です。
家なき子特例の主な適用要件
家なき子特例を適用するためには、以下のすべての要件を満たす必要があります。
- 被相続人に配偶者がいないこと
- 被相続人と同居していた法定相続人がいないこと
- 相続開始前3年以内に、取得者本人、その配偶者、その3親等内の親族、または特別の関係がある一定の法人が所有する家屋に住んだことがないこと
- 相続開始時に居住している家屋を過去に一度も所有したことがないこと
- 相続した宅地を相続税の申告期限(10か月)まで所有し続けること
本記事では、特に**3の「特別の関係がある一定の法人」**について詳しく解説します。
平成30年度税制改正による厳格化
平成30年(2018年)4月1日以後に発生した相続から、家なき子特例の要件が大幅に厳格化されました。
改正前の持ち家要件
相続開始前3年以内に、以下の者が所有する家屋に住んでいないこと
- 取得者本人の持ち家
- 取得者の配偶者の持ち家
改正後の持ち家要件(現行)
相続開始前3年以内に、以下の者が所有する家屋に住んでいないこと
- 取得者本人の持ち家
- 取得者の配偶者の持ち家
- 取得者の3親等内の親族の持ち家(新規追加)
- 取得者と特別の関係がある一定の法人の持ち家(新規追加)
改正の背景
この改正は、以下のような租税回避的な行為を封じるために行われました。
実際にあった租税回避のケース例
- 親族経営会社の社宅スキーム:子が親族の経営する会社の社宅に居住し、形式的に「持ち家なし」の状態を作り出していた
- 親族への自宅売却スキーム:相続開始の直前に、親族(例:兄弟)に自宅を売却し、賃貸契約を結んで住み続けることで、形式的に「他人の家に住んでいる」状態を作り出していた
- 同族会社の不動産管理スキーム:同族会社に自宅を売却し、その会社から賃貸で借りる形にしていた
これらのスキームは、実質的には「持ち家」と変わらないにもかかわらず、形式的に家なき子の要件を満たしているように見せかけるものでした。
「特別の関係がある一定の法人」とは
「特別の関係がある一定の法人」とは、租税特別措置法施行令第40条の2第15項に規定される法人を指します。
判定の大原則
重要なポイント:判定は「取得者(相続人本人)単独」で行います
- 相続人が複数いる場合でも、各相続人ごとに個別に判定します
- 他の共同相続人の状況は、その者が取得者の3親等内親族である場合のみ影響します
- **判定時点は「相続開始時点」**です(相続開始の瞬間における親族関係・株式保有状況等で判定)
「特別の関係がある一定の法人」の4つの類型
類型1:直接保有法人(50%超保有)
以下の者(以下「取得者等」といいます)が、その法人の発行済株式または出資の総数・総額の50%超を保有している法人。
取得者等とは
- 取得者本人(相続人本人)
- 取得者の配偶者
- 取得者の3親等内の親族
- 上記1~3の者と特別の関係がある者
判定のポイント
- これら1~4の者の合計保有割合で判定します
- 50%ちょうどは該当しません。50%超(50%を超える)が要件です
- 発行済株式総数には、自己株式は含まれません
- 理由:自己株式は議決権がなく、実質的な支配関係を示さないため
- 計算例:発行済株式総数1,000株、自己株式100株の場合 → 判定の分母は900株
具体例:父親が経営する会社の判定
【事例】
- 取得者:長男
- A社の株式保有状況
- 長男:30%
- 長男の配偶者:15%
- 長男の子(被相続人の孫):10%
- 長男の弟(次男):20%
- 第三者:25%
【判定】
- 取得者本人(長男):30%
- 取得者の配偶者:15%
- 取得者の3親等内の親族:子10% + 弟20% = 30%
- 合計:75%(50%超)
**【結論】**A社は「特別の関係がある一定の法人」に該当
この場合、長男が相続開始前3年以内にA社所有の社宅や賃貸物件に居住していた場合、家なき子特例は適用できません。
類型2:間接保有法人(第2階層)
取得者等および類型1の法人が、他の法人の発行済株式総数等の50%超を保有している場合、その他の法人も該当します。
間接保有の計算方法
間接保有の場合、直接保有分と間接保有分を合算して判定します。
計算式
間接保有割合 = (上位法人の保有割合)×(取得者等の上位法人への出資割合)
※ただし、実務上は「取得者等+該当法人の合計保有割合が50%超か」で判定するため、厳密な掛け算は不要です
具体例:子会社への間接保有
【事例】
- 取得者:長男
- A社:取得者等の合計保有割合60%(類型1に該当)
- B社の株式保有状況
- 長男個人:20%
- A社(法人):35%
- 第三者:45%
【判定】
- 取得者等の直接保有:20%
- 類型1該当法人(A社)の保有:35%
- 合計:55%(50%超)
**【結論】**B社も「特別の関係がある一定の法人」に該当
実務上の注意点
B社に長男が相続開始前3年以内に居住していた場合、たとえB社の株式を長男個人が20%しか保有していなくても、A社経由の間接保有を含めて判定されるため、家なき子特例は適用できません。
類型3:間接保有法人(第3階層以降)
取得者等ならびに類型1および類型2の法人が、他の法人の発行済株式総数等の50%超を保有している場合、その他の法人も該当します。
重要:間接保有の階層に制限はありません
第3階層、第4階層と続く場合でも、各階層で保有割合が50%超であれば「特別の関係がある一定の法人」に該当します。
複雑な事例:3階層の判定
【事例】
- 取得者:長男
- A社:取得者等の合計保有割合70%(類型1に該当)
- B社:取得者等+A社の合計保有割合60%(類型2に該当)
- C社の株式保有状況
- 長男個人:10%
- A社:15%
- B社:30%
- 第三者:45%
【判定】
- 取得者等の直接保有:10%
- 類型1該当法人(A社)の保有:15%
- 類型2該当法人(B社)の保有:30%
- 合計:55%(50%超)
**【結論】**C社も「特別の関係がある一定の法人」に該当(第3階層)
類型4:持分の定めのない法人(一般社団法人等)
取得者等が理事、監事、評議員その他これらに準ずる者となっている持分の定めのない法人。
判定のポイント
- 株式会社などと異なり、一般社団法人には持分(株式)の概念がありません
- 50%超という数値基準ではなく、役員等となっているかどうかで判定します
- 取得者本人だけでなく、取得者の配偶者や3親等内の親族が役員等となっている場合も該当します
- 「これらに準ずる者」とは:実質的に法人の運営に関与している者(例:理事に準ずる権限を持つ幹事、顧問など)
具体例:一般社団法人の判定
【事例】
- 取得者:長男
- C法人(一般社団法人)の役員構成
- 理事長:第三者
- 理事:長男、第三者2名
- 評議員:長男の配偶者、第三者3名
【判定】
取得者本人(長男)がC法人の理事であり、かつ、取得者の配偶者がC法人の評議員である
**【結論】**C法人は「特別の関係がある一定の法人」に該当
実務上の注意点
一般社団法人の場合、役員の人数や持分比率は無関係です。取得者等が1人でも役員等になっていれば該当します。
3親等内の親族の範囲
「取得者の3親等内の親族」には、血族と姻族が含まれますが、ここでいう姻族とは取得者本人の姻族のみで、取得者の配偶者を通じた親族関係(配偶者の血族)は含まれません。
3親等内の血族
| 親等 | 該当者 |
|---|---|
| 1親等 | 父母、子 |
| 2親等 | 祖父母、孫、兄弟姉妹 |
| 3親等 | 曾祖父母、曾孫、叔父・叔母、甥・姪 |
取得者の配偶者の親族は対象外
重要なポイント:取得者の配偶者の親族(義父母など)は「取得者の3親等内の親族」に含まれません
ただし、「取得者の配偶者」自体は判定に含まれるため、配偶者が保有する株式は計算に入ります。
具体例:義父母が経営する会社
【事例】
- 取得者:長男
- D社の株式保有状況
- 長男の配偶者の父(義父):70%
- 長男の配偶者の母(義母):30%
- 長男本人:0%
- 長男の配偶者:0%
【判定】
- 取得者本人:0%
- 取得者の配偶者:0%
- 取得者の3親等内の親族:0%(義父母は対象外)
- 合計:0%(50%超ではない)
**【結論】**D社は「特別の関係がある一定の法人」に該当しない
したがって、長男がD社所有の家屋に居住していても、この要件だけでは家なき子特例の適用は妨げられません。
ただし注意
長男の配偶者自身がD社の株式を保有している場合は、その保有分は判定に含まれます。
「特別の関係がある者」の範囲
「取得者と特別の関係がある者」には、以下の者が含まれます。
1. 事実婚の配偶者
婚姻届を出していないが事実上婚姻関係にある者
判定基準
- 同居の有無
- 生計の同一性
- 社会通念上夫婦と認められる関係にあるか
証明方法(税務調査での確認事項)
- 住民票(同一世帯かどうか)
- 共同生活の実態(家計の管理状況、公共料金の支払名義など)
- 周囲からの認識(近隣、親族、勤務先での扱い)
2. 使用人および使用人以外の者で金銭等の財産によって生計を維持されている者
具体例
- 取得者の会社の従業員
- 取得者から生活費の援助を受けている親戚
- 取得者の扶養に入っている者
実務上の判定ポイント
「生計を維持されている」とは、取得者からの経済的支援がなければ生活できない状態を指します。
3. 上記1または2に該当する者の親族で生計を一にしている者
事実婚の配偶者の子や、使用人の配偶者など
4. 次に掲げる法人の役員または使用人
該当する法人
- 取得者等が役員となっている他の法人
- 取得者等およびその特別な関係者が同族会社に該当する他の法人
実務例
取得者が代表取締役を務めるA社の従業員Bさんも「特別の関係がある者」に該当するため、Bさんが保有する株式も判定に含まれます。
実務上の判定フローチャート
Step 1: 取得者(宅地を取得する相続人)を特定
相続人が複数いる場合、誰が宅地を取得するのかを明確にします。
Step 2: 以下の者を特定
- 取得者本人
- 取得者の配偶者(相続開始時点)
- 取得者の3親等内の親族
- 上記1~3と特別の関係がある者
Step 3: 法人の類型を確認
【株式会社等の場合】
①~④の合計保有割合が50%超か?
- YES → 「特別の関係がある一定の法人」に該当
- 相続開始前3年以内に居住していた場合、家なき子特例適用不可
- NO → 該当しない
- この要件はクリア(他の要件を確認)
【一般社団法人等の場合】
①~④の者が理事・監事・評議員等か?
- YES → 「特別の関係がある一定の法人」に該当
- 相続開始前3年以内に居住していた場合、家なき子特例適用不可
- NO → 該当しない
- この要件はクリア(他の要件を確認)
【間接保有が疑われる場合】
①~④および該当法人の合計保有割合が50%超か?
- YES → 「特別の関係がある一定の法人」に該当
- 相続開始前3年以内に居住していた場合、家なき子特例適用不可
- NO → 該当しない
- この要件はクリア(他の要件を確認)
よくある質問と回答
Q1:兄弟姉妹が経営する会社の社宅に住んでいた場合は?
A:取得者が誰かによって判定が異なります。
兄弟姉妹は2親等の血族です。したがって、取得者本人の兄弟姉妹が50%超の株式を保有する会社は「特別の関係がある一定の法人」に該当します。
具体例
- 長男が経営する会社(長男が60%保有)の社宅に次男が住んでいた場合
- 次男を取得者とすると、長男は次男の2親等親族であるため、その会社は「特別の関係がある一定の法人」に該当
- 結論:次男は家なき子特例を適用できません
逆のケース
- 次男が取得者で、長男が経営する会社に次男が全く株式を保有していない場合でも、長男の保有株式(60%)は次男の判定に含まれます
Q2:50%ちょうどの場合は該当しますか?
A:該当しません。
条文上、**50%超(50%を超える)**が要件です。したがって、50%ちょうどの場合は「特別の関係がある一定の法人」には該当せず、この要件はクリアします。
実務上のアドバイス
50%ちょうどの場合でも、税務調査では詳細な確認が入る可能性があります。株主名簿や登記簿謄本などで正確な持株比率を証明できるよう準備しておきましょう。
Q3:相続開始の5年前に親族に自宅を売却していた場合は?
A:売却の態様によって判定が異なります。
持ち家要件は「相続開始前3年以内」に住んでいないことが条件です。
ケース1:売却後、別の賃貸物件に引っ越した場合
- 相続開始の5年前に3親等内の親族に売却し、その後別の賃貸物件に引っ越していた場合
- 相続開始前3年以内にはその親族の持ち家に住んでいないため、この要件はクリア
ケース2:売却後も同じ家屋に住み続けた場合
- 売却後も引き続き同じ家屋に住み続けた場合は、3親等内の親族が所有する家屋に住んでいたことになる
- 結論:家なき子特例は適用できません
税務調査で確認される重要ポイント
- 譲渡対価の妥当性:時価で売却したか、著しく低額ではないか
- 売却の実態:売買契約書、代金決済の証拠、所有権移転登記の時期
- 居住の実態:売却後の賃貸借契約書、家賃支払いの実態
- 租税回避の意図:売却の経緯、資金の流れ
租税回避とみなされるケース
- 相続直前に親族に売却し、相続後に買い戻す約束がある
- 著しく低額で売却している
- 売却代金が実際には支払われていない
- 売却後も無償または著しく低額な家賃で居住している
Q4:相続開始の2年前に離婚していた場合は?
A:元配偶者が所有する法人は「特別の関係がある一定の法人」に該当しません。
配偶者や親族の判定は、相続開始時点の状況で判定します。相続開始前に離婚していた元配偶者は、相続開始時点には配偶者ではないため、元配偶者が経営する会社は「特別の関係がある一定の法人」には該当しません。
実務上の注意点
- 離婚の時期が相続開始の直前(例:1ヶ月前)の場合、租税回避目的の離婚とみなされる可能性があります
- 離婚後も同居している場合や、生計を一にしている場合は、「事実婚の配偶者」として判定される可能性があります
Q5:勤務先の一般企業の社宅に住んでいた場合は?
A:家なき子特例を適用できる可能性があります。
勤務先の会社が親族と資本関係のない一般企業で、取得者等が50%超の株式を保有していない場合、「特別の関係がある一定の法人」には該当しません。したがって、他の要件を満たせば家なき子特例を適用できます。
確認すべきポイント
- 取得者等の合計保有割合が50%以下であること
- 間接保有も含めて判定すること
- 取得者等が役員になっていないこと(一般社団法人の場合)
Q6:相続人が複数いる場合、誰を基準に判定しますか?
A:宅地を取得する相続人(取得者)ごとに個別に判定します。
例えば、長男と次男が共同相続人の場合、長男が自宅の土地を取得するのであれば長男を基準に判定し、次男が取得するのであれば次男を基準に判定します。
具体例
- 長男がA社の株式を60%保有
- 次男が土地を取得する場合
- 長男は次男の2親等親族(兄弟)であるため、次男の判定に長男の保有株式を含める
- 次男の判定:取得者等の合計保有割合 = 次男の保有分 + 長男の保有分60%
- 長男の60%が含まれるため、A社は「特別の関係がある一定の法人」に該当
重要な実務ポイント
相続人が複数いる場合、誰が宅地を取得するかによって、特例の適用可否が変わる可能性があります。遺産分割協議の際に、この点を十分に考慮する必要があります。
Q7:相続開始前3年以内の途中で引っ越した場合は?
A:3年間の全期間を通じて判定します。
例えば、以下のようなケース:
- 4年前~2年前:一般企業の社宅に居住(該当法人ではない)
- 2年前~相続開始:親族経営会社の社宅に居住(該当法人に該当)
このケースでは、相続開始前3年以内に「特別の関係がある一定の法人」が所有する家屋に住んでいたことになるため、家なき子特例は適用できません。
Q8:申告時に必要な添付書類は?
A:以下の書類が必要です。
基本的な添付書類
- 家なき子特例のチェックシート(税理士作成)
- 取得者の戸籍謄本(相続開始時点)
- 取得者の住民票の除票(過去5年分、相続開始前3年以内の居住地を証明)
- 賃貸借契約書(相続開始前3年以内に居住していた物件)
「特別の関係がある一定の法人」の判定に関する書類
- 法人の登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
- 株主名簿または出資者名簿
- 定款(一般社団法人の場合、役員構成を確認)
- 親族関係図(取得者を中心とした3親等内親族の関係図)
- 株式保有関係図(間接保有がある場合)
税務調査で追加で求められる可能性がある書類
- 法人の決算書(過去3期分)
- 法人が所有する不動産の登記簿謄本
- 取得者の給与所得の源泉徴収票
- 家賃の支払い証明(通帳の写しなど)
税務調査での指摘事例
実務上、税務調査で指摘されやすいケースをご紹介します。
事例1:名義株の存在
ケース
- 取得者:長男
- A社の登記簿上の株主:長男30%、第三者(長男の友人)25%、その他
- 税務調査の結果:第三者名義の株式25%は、実質的に長男の名義株と判明
- 判定:長男の実質保有割合は55%(50%超)
- 結果:家なき子特例の適用が否認され、修正申告
教訓
名義株がある場合、実質的な株主で判定されます。株主名簿だけでなく、配当金の受取実態、株式取得資金の出所なども確認されます。
事例2:相続開始直前の株式譲渡
ケース
- 取得者:長男
- 相続開始の6ヶ月前、長男がA社の株式を第三者に譲渡(保有割合を60%→45%に減少)
- 相続開始後、長男が株式を買い戻し
- 判定:租税回避目的の譲渡とみなされ、譲渡前の保有割合(60%)で判定
- 結果:家なき子特例の適用が否認
教訓
相続直前の株式譲渡は、租税回避とみなされるリスクがあります。経済的合理性のある理由が必要です。
事例3:一般社団法人の役員就任時期
ケース
- 取得者:長男
- B法人(一般社団法人)の役員:相続開始の1年前に長男が理事に就任
- 相続開始の4年前~1年前:B法人所有の家屋に居住
- 判定:役員就任は相続開始の1年前だが、居住開始は4年前
- 結果:「相続開始前3年以内」に該当法人所有の家屋に居住していないため、家なき子特例は適用可能
教訓
役員就任時期と居住時期の両方を正確に把握する必要があります。
まとめ
家なき子特例における「特別の関係がある一定の法人」の判定は、以下の構造で行います。
判定の5つのポイント
- 取得者(相続人本人)単独で判定
- ①取得者本人、②取得者の配偶者、③取得者の3親等内の親族、④これらの者と特別の関係がある者を特定
- 株式会社等:①~④の合計保有割合が50%超の法人が該当
- 一般社団法人等:①~④の者が役員等となっている法人が該当
- 間接保有法人:①~④および該当法人の合計保有割合が50%超の法人も該当
実務上の注意点
- 配偶者の親族(義父母など)は「取得者の3親等内の親族」に含まれない
- 50%ちょうどは該当せず、50%超が要件
- 判定時点は相続開始時点
- 相続人が複数いる場合は、取得者ごとに個別に判定
- 名義株や租税回避目的の取引は、実質で判定される
遺産分割協議での活用
家なき子特例の適用可否は、誰が宅地を取得するかによって変わります。相続人の中で、最も有利に特例を適用できる者に宅地を取得させることで、相続税を大幅に軽減できる可能性があります。
おわりに
家なき子特例は、平成30年度の税制改正により要件が複雑化し、特に「特別の関係がある一定の法人」の判定は専門的な知識が必要です。
少しでも不明な点がある場合や、以下のようなケースに該当する場合は、相続税に精通した税理士にご相談されることをお勧めいたします。
こんなケースは専門家にご相談ください
- 同族会社を経営している
- 親族が経営する会社の社宅に居住している/していた
- 一般社団法人の役員になっている
- 相続開始前3年以内に親族間で不動産や株式の売買があった
- 複数の法人に出資している
- 相続人が複数いて、誰が宅地を取得するか決まっていない
税理士法人松野茂税理士事務所では、30年以上の実務経験に基づき、相続税申告および小規模宅地等の特例の適用判定について、専門的なサポートを提供しております。
DXにも力を入れており、弥生会計だけでなくクラウド会計にも対応。組織再編やM&Aなどの高度な専門知識も有しています。
家なき子特例の適用可否について疑問がございましたら、お気軽にご相談ください。
税理士法人松野茂税理士事務所
得意分野
- 所得税・法人税・相続税の申告
- 組織再編・M&A
- 相続対策・事業承継
- 記帳代行(弥生会計、クラウド会計)
参考文献
- 国税庁「小規模宅地等の特例」タックスアンサー No.4124
- 租税特別措置法第69条の4
- 租税特別措置法施行令第40条の2
- 国税庁「相続税の申告のしかた」(令和5年版)
- 各種税務専門誌・判例
※本記事の内容は、令和7年10月時点の税法に基づいています。税制改正により内容が変更される可能性がありますので、最新の情報は国税庁ホームページまたは税理士にご確認ください。
執筆者プロフィール
税理士法人松野茂税理士事務所 税理士 松野茂 税理士歴30年、 専門分野:相続税、組織再編、M&A
※本記事の内容について、ご不明な点やご質問がございましたら、お気軽にお問い合わせください。初回相談は無料で承っております。
税理士法人松野茂税理士事務所(尼崎)|事務所概要
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社員税理士:山本 由佳
所属税理士:近畿税理士会 尼崎支部
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法人番号:4140005027558
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