はじめに
今回は、相続税実務における重要論点の一つである「被相続人が2つ以上の宅地を所有していた場合の小規模宅地等の特例の適用」について、条文を踏まえて詳しく解説いたします。
小規模宅地等の特例とは
小規模宅地等の特例は、相続税の課税価格の計算において、被相続人等が居住または事業に使用していた宅地等について、一定の面積まで評価額を大幅に減額できる制度です。
特定居住用宅地等の場合、330㎡を限度として評価額を80%減額することができます。
法令の規定:原則は「主として居住していた1つの宅地」のみ
根拠条文
この問題については、以下の法令で明確に規定されています。
租税特別措置法第69条の4第1項第1号および同法施行令第40条の2第11項では、被相続人の居住用宅地が2つ以上ある場合について、特例の対象となるのは「その被相続人が主としてその居住の用に供していた一の宅地等」に限定されています。
つまり、被相続人が複数の住宅を所有し、それらを行き来する生活をしていた場合でも、小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)の適用対象となるのは、主として居住の用に供していた1つの宅地のみということになります。
実務上の影響
この規定により、別荘やセカンドハウスのように、主たる生活拠点ではない宅地については、原則としてこの特例を適用することはできません。
「主として居住」の判断基準
では、どの宅地が「主として居住の用に供されていた」と判断されるのでしょうか。
これは相続人が任意で選択できるものではなく、被相続人の生活の実態に基づいて客観的に判断されます。実務上は、以下の要素を総合的に考慮して判定します。
判断要素
実務上は、日常生活の状況やどちらの家屋に生活の基盤があったかといった生活の拠点性、電気・ガス・水道などの公共料金の使用量、住民票・運転免許証・確定申告書などに記載された各種届出の住所、新聞や郵便物が主に配達されていた送付先、さらには入居の目的や建物の構造・設備の状態、家財道具の配置状況など、これらの要素を総合的に勘案して判断されます。
申告時の注意点
申告にあたっては、これらの事実関係を証明する資料を揃え、被相続人の生活の中心がどこであったかを客観的に示す必要があります。
税務調査において説明を求められる可能性もありますので、電気・ガス・水道の使用明細、郵便物の記録など、生活実態を証明できる資料は保存しておくことが重要です。
例外:生計一親族の居住用宅地がある場合
ただし、例外的なケースとして、次の場合には複数の宅地で特例が適用できる可能性があります。
「被相続人自身の居住用宅地」と「被相続人と生計を一にしていた親族の居住用宅地」が別々に存在する場合
この場合、それぞれが要件を満たせば、両方の宅地で小規模宅地等の特例を適用できます。ただし、それぞれの宅地を合わせて限度面積(330㎡)の範囲内での適用となります。
複数の種類の宅地で特例を適用する場合
小規模宅地等の特例では、宅地の種類ごとに限度面積が定められています。
限度面積の調整計算
複数の種類の宅地について特例の適用を選択する場合、以下のように調整された限度面積の範囲内で適用します。
特定事業用等宅地等・特定居住用宅地等のみの場合
- 特定事業用等宅地等:400㎡まで
- 特定居住用宅地等:330㎡まで
- 両方を選択する場合:合計で730㎡まで
貸付事業用宅地等を含む場合
次の算式により計算した面積が200㎡以下となるように選択します。
(特定事業用等宅地等の面積 × 200/400)+(特定居住用宅地等の面積 × 200/330)+(貸付事業用宅地等の面積)≦ 200㎡
まとめ
被相続人が複数の宅地を所有していた場合の小規模宅地等の特例適用は、生活の実態に基づいた判断が求められる複雑なケースです。
相続税の申告にあたっては、条文の正確な理解と、事実関係を証明する資料の準備が不可欠です。特に、生活実態を客観的に示す証拠資料の収集は早めに着手することをお勧めします。
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