23回 尼崎の税理士が解説 | 居住用財産3,000万円控除と空き家特例の「家屋と敷地の範囲」の重要な違い

税理士法人松野茂税理士事務所 23回 尼崎の税理士が解説 | 居住用財産3,000万円控除と空き家特例の「家屋と敷地の範囲」の重要な違い

自宅を売却する際に利用できる3,000万円特別控除。実は通常の居住用財産の特例空き家特例では、対象となる家屋と敷地の範囲に大きな違いがあることをご存じでしょうか。

今回は、実務上よく問題となる「家屋と敷地の範囲」について、わかりやすく解説します。

目次

居住用財産の3,000万円特別控除:不可分な一体利用の家屋・敷地すべてが対象

自己が居住している家屋を売却する場合の3,000万円特別控除では、不可分な一体利用の家屋・敷地全体が対象となります。

具体例で考えてみましょう

例えば、800㎡の敷地に以下の建物・設備がある場合:

対象となる家屋:すべての建物

  • 母屋
  • 離れ(居住用)
  • 倉庫

対象となる敷地:800㎡全体

  • 母屋の敷地:640㎡
  • 離れの敷地:160㎡

これらすべてが居住用として不可分一体で利用されていれば、家屋も敷地も全体が対象で、面積に上限はありません

重要ポイント

母屋、離れ、倉庫など、すべての建物が対象
母屋、離れ、倉庫、駐車場など、すべての敷地が対象
✓ 居住用として合理的に必要な範囲で不可分一体利用していること
✓ 面積制限なし(ただし著しく広大で明らかに居住用以外の用途に供されている部分は除く)

空き家特例:家屋は母屋のみ、敷地も母屋部分のみが対象

一方、被相続人の居住用財産(空き家)の3,000万円特別控除では、家屋と敷地の範囲が大きく制限されます。

ここが最大の違いです:空き家特例は家屋も敷地も「母屋だけ」が対象です!

家屋の範囲:母屋のみ

空き家特例の対象となる家屋は、被相続人が居住していた母屋のみです。

  • 母屋 → 対象
  • 離れ → 対象外
  • 倉庫 → 対象外

敷地の範囲:母屋の床面積割合で按分

母屋と離れなど2以上の建築物がある一団の土地の場合、母屋の床面積割合で按分した敷地部分のみが対象となります。

計算式: 対象敷地 = 敷地全体 × 母屋の床面積 ÷ すべての建物の床面積合計

具体例

前提条件:

  • 敷地全体:800㎡
  • 母屋の床面積:120㎡
  • 離れの床面積:30㎡
  • 倉庫(建築物)の床面積:なし(※)

※倉庫が建築物でない場合や、車庫・駐車場は床面積計算に含まれません

対象となる家屋

  • 母屋:120㎡ → 対象
  • 離れ:30㎡ → 対象外

対象となる敷地

  • 800㎡ × 120㎡ ÷ (120㎡ + 30㎡) ≒ 640㎡のみ対象
  • 離れ部分:800㎡ × 30㎡ ÷ 150㎡ ≒ 160㎡ → 対象外

居住用財産なら家屋も敷地も全体が対象なのに、空き家特例では母屋とその敷地部分640㎡しか対象になりません。

空き家特例で対象外となるもの

家屋:母屋以外はすべて対象外

  • 離れ(物置、納屋として使用)→ 対象外
  • 倉庫(建築物の場合)→ 対象外
  • 別棟の住居(二世帯住宅等)→ 対象外

敷地:母屋以外の建物部分は按分で除外

  • 離れの敷地部分 → 按分により対象外
  • 倉庫の敷地部分(建築物の場合)→ 按分により対象外
  • 車庫・駐車場 → 按分計算に含まれない

家屋は母屋のみ、敷地も母屋の床面積割合に応じた部分だけが対象という点を、必ず認識しておく必要があります。

なぜこのような違いがあるのか

居住用財産の特例

自己が実際に居住している(いた)財産であり、生活の実態に即した家屋・敷地全体を保護する趣旨です。

母屋、離れ、倉庫、駐車場など、不可分な一体利用のすべてが居住生活に必要な財産として認められます。家屋も敷地もすべてが対象です。

空き家特例

相続した空き家の流通促進と地域の安全確保が目的のため、より限定的な適用となっています。

被相続人が実際に居住していた「母屋だけ」とその床面積割合に応じた敷地部分に限定することで、制度の趣旨を明確化しています。

  • 旧耐震基準の老朽化した建物の除却・活用促進が目的
  • 被相続人が実際に居住していた母屋のみを対象家屋とする
  • 敷地も母屋の床面積割合に応じた部分のみを対象とする
  • 離れや倉庫など付属建物とその敷地部分は按分により除外

実務上の注意点

①敷地の測量・床面積の確認が必要

空き家特例では、母屋と離れの床面積を正確に把握し、按分計算が必要です。

  • 建物の登記簿謄本で床面積を確認
  • 母屋部分の床面積割合を算出
  • 按分計算により対象敷地を確定

②どちらの特例が使えるか確認

相続した実家を売却する場合、状況によっては:

  • 通常の居住用3,000万円控除(自己が居住していた場合)
  • 空き家特例(被相続人が居住、相続後空き家)

どちらも適用可能性がある場合があります。有利判定が重要です。

③建築物の定義に注意

空き家特例の按分計算では、「建築物」に該当するかどうかが重要です。

建築物に該当する例:

  • 母屋
  • 離れ(独立した建物)
  • 倉庫(基礎のある建築物)

建築物に該当しない例(按分計算に含めない):

  • 駐車場(屋根のみの簡易なもの)
  • 物置(基礎のない簡易なもの)
  • 庭、通路

国税庁の事例では、母屋と離れなど「2以上の建築物」がある場合の取扱いが示されています。

④譲渡価額1億円以下の要件

空き家特例には、面積制限はありませんが、譲渡価額1億円以下という要件があります。

まとめ:「家屋・敷地全体 vs 母屋とその床面積割合に応じた敷地」の決定的な違い

項目居住用財産3,000万円控除空き家特例
対象家屋母屋・離れ・倉庫など不可分な一体利用の家屋すべて母屋のみ
対象敷地不可分な一体利用の敷地全体母屋の床面積割合に応じた敷地部分のみ
面積上限なしなし(ただし譲渡価額1億円以下)
離れ(家屋)一体利用なら含む含まない
離れ(敷地)一体利用なら含む含まない
倉庫(家屋)一体利用なら含む含まない
倉庫(敷地)一体利用なら含む含まない
駐車場一体利用なら含む含まない
計算方法家屋・敷地全体床面積割合で按分

空き家特例は「家屋は母屋のみ、敷地は母屋の床面積割合に応じた部分だけ」という制限があるため、同じ敷地・同じ建物でも適用範囲が大きく異なります。この違いが数十万円から数百万円の税負担の差につながることもあります。

不動産の譲渡は大きな金額が動く取引です。3,000万円の控除が適用できるかどうかで、税負担が数百万円単位で変わることもあります。

特に空き家特例は要件が複雑で、「家屋は母屋のみ」「敷地は母屋の床面積割合による按分計算」など、専門的な判断が必要となるケースが多くあります。


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