はじめに
初めに 20年ぐらい前だったか? 秘密裏に実行されていた【事前届け出給与を活用した社会保険削減スキーム】が今や大流行で税理士では知らない人はいません。しかし 有名だか積極的に利用しようとする先生は少ないのが現状です。税理士会のセミナーでも話題となりましたが当時(今も)ですが、厚生労働省に照会を出した講師の先生は厚生労働省は違法ではないがやめてほしいような事をしゃべってたように思います。
重要な動向として、令和6年11月に厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会において、このスキームの規制強化に関する議論が開始されています。
社会保険の制度としては白なのかグレーであるが、黒ではないのでご紹介いたします。
基本的な仕組み
事前確定届出給与とは、役員に対して事前に支給時期と金額を確定し、税務署に届出を行った上で支給する賞与です。このスキームでは:
標準賞与額の上限を活用して社会保険料を削減
毎月の役員報酬を大幅に減額(例:月額100万円→10万円)
減額分を年1回の賞与として支給(事前確定届出給与として1,080万円)
社会保険料の上限設定
社会保険料には以下の上限が設定されています:
- 健康保険料:年間573万円(年度累計)
- 厚生年金保険料:月額150万円
この上限を超えた部分には社会保険料が課税されないため、削減効果が生まれます。
具体的な削減効果(シミュレーション)
【ケース1】年収1,200万円の場合
従来の方法(月額100万円×12ヶ月)
- 健康保険料(個人負担):年間約59万円
- 厚生年金保険料(個人負担):年間約109万円
- 個人負担合計:約168万円
事前確定届出給与活用(月額10万円×12ヶ月+賞与1,080万円)
- 健康保険料(個人負担):年間約29万円
- 厚生年金保険料(個人負担):年間約28万円
- 個人負担合計:約57万円
削減効果:年間約111万円(会社負担分含めると約222万円)
【ケース2】年収2,160万円の場合
より高額な報酬の場合、削減効果はさらに大きくなり、年間最大で約197万円(個人負担分のみ)の削減が可能です。
主要なリスクと注意点
1. 規制強化の動向
厚生労働省による問題視
- 標準報酬月額30万円以下で高額賞与を受給する者が令和2年から令和5年で約1.6倍に増加
- 社会保険制度の適正な負担の観点から規制強化を検討中
2. 税務上のリスク
届出内容の厳守義務
- 1日でも支給日がずれた場合、全額が損金不算入となるリスク
- 金額が1円でも異なれば同様のペナルティ
期限管理のリスク
期限を過ぎると制度利用不可
株主総会決議日から1ヶ月以内の届出が必要
3. 役員退職金への影響
最終報酬月額の低下
- 退職金の適正額は「最終報酬月額×勤続年数×功績倍率」で計算
- 事前確定届出給与は最終報酬月額に含まれない(裁判例で確定)
- 退職金の損金算入限度額が大幅に減少
具体例
- 月額報酬10万円の場合、功績倍率3.0として勤続30年で退職金上限は900万円
- 通常の月額100万円なら同条件で9,000万円
4. 将来給付への影響
年金受給額の減少
長期的な老後資金計画への影響
厚生年金保険料の減少により将来の年金受給額が減少
傷病手当金等の減額
- 標準報酬月額に基づく給付が減額
- 万一の際の保障が不十分になるリスク
5. 資金繰りリスク
会社側のリスク
- 賞与支給月の資金負担が集中
- 業績悪化時でも届出通りの支給義務
個人側のリスク
生活資金の確保が困難
月額報酬の大幅減額による日常資金不足
6. 死亡時のリスク
支給日前の死亡
相続人は事前確定届出給与を受け取れない
支給日時点で役員でなければ受給権利なし
注意説明 事前届け出給与の支給前に死亡した場合のこと
当事務所の見解とアドバイス
推奨しない理由
- 規制強化のリスク:近い将来の制度変更により効果が無効化される可能性
- 総合的なコスト:社会保険料削減額よりも退職金等への影響が大きい場合
- 運用の複雑さ:厳格な期限管理と手続きが必要
検討すべきケース
以下の条件をすべて満たす場合のみ検討可能:
将来の年金減少を受け入れられる
規制リスクを十分理解している
十分な生活資金を確保できる
退職金への影響を受け入れられる
厳格な期限管理が可能
代替的な節税・社会保険料対策
1. 適正な役員報酬設定
- 社会保険料と所得税のバランスを考慮した最適化
2. 企業年金制度の活用
- 確定拠出年金(企業型DC)の導入
- 退職金制度の整備
3. 法人保険の活用
- 適切な保険商品による節税効果
4. 経営セーフティ共済等
中小企業基盤整備機構の各種制度活用
まとめ
事前確定届出給与による社会保険料削減スキームは、短期的には大きな削減効果がある一方で、裁判例で確定した退職金への影響という重大なリスクを伴います。
重要なポイント:
- 令和6年から規制強化の検討が開始されており、今後の制度変更リスク
- 複数の裁判例で事前確定届出給与は退職金算定基礎に含まれないことが確定
- 総合的に判断すると、多くのケースで社会保険料削減額よりも退職金減少による損失が大きい
- 金融機関の融資姿勢にも悪影響を及ぼす可能性
30年の実務経験を持つ税理士として、このスキームはリスクと損失が利益を大幅に上回るため、積極的な推奨はできないというのが当事務所の結論です。