はじめに
近年、大物YouTubeやセミナーで「個人事業を続けながら別会社を設立し、役員報酬8万円程度で社会保険に加入することで国民健康保険料を大幅に削減できる」という手法が注目されています。確かに数字上は魅力的に見えるスキームですが、税理士として30年の経験を持つ立場から、法的根拠と実務上のリスクを冷静に分析してみたいと思います。この手法は20年前にもはやりました。先生方は当然知ってますがあまり使わない!私のところも法人の設立目的・事業内容がないとしないです。
スキームの概要
このスキームは以下のような構造になっています:
従来の状況
- 個人事業主:所得300万円
- 事業専従者給与:200万円
- 国民健康保険料:高額(所得に応じて増加)
- 国民年金保険料:夫婦で約80万円
提案されるスキーム
- 個人事業は継続
- 別途、受付業務・広告宣伝・会計業務を行う会社を設立
- 個人事業から会社への外注費:月20万円
- 役員報酬:月8-9万円
- 社会保険料:年間約30万円
- 配偶者:第3号被保険者(負担なし)
理論上は約50万円の社会保険料節約が可能とされています。
法的根拠の検証
1. 健康保険法の観点
健康保険法第3条第2項では、適用事業所に使用される者は被保険者となると規定されています。しかし、ここで重要なのは「実質的な使用関係」の存在です。
問題点:
- 個人事業と会社の業務分離が実質的に可能か
- 外注費20万円に対する役員報酬8万円の合理性
- 業務の独立性・対価性の立証
2. 厚生年金保険法の適用
厚生年金保険法第9条により、適用事業所の被保険者となりますが、同様に実質的な使用関係が前提となります。
3. 法人税法上の問題
法人税法第34条(役員給与の損金不算入)
- 定期同額給与の要件
- 業績連動給与の要件
- 事前確定届出給与の要件
外注費の支払いが適正な対価であることの立証が必要です。
法的根拠の検証
1. 健康保険法の観点
健康保険法第3条第2項では、適用事業所に使用される者は被保険者となると規定されています。しかし、ここで重要なのは「実質的な使用関係」の存在です。
問題点:
- 個人事業と会社の業務分離が実質的に可能か
- 外注費20万円に対する役員報酬8万円の合理性
- 業務の独立性・対価性の立証
2. 厚生年金保険法の適用
厚生年金保険法第9条により、適用事業所の被保険者となりますが、同様に実質的な使用関係が前提となります。
3. 法人税法上の問題
法人税法第34条(役員給与の損金不算入)
- 定期同額給与の要件
- 業績連動給与の要件
- 事前確定届出給与の要件
外注費の支払いが適正な対価であることの立証が必要です。
実務上のリスク分析
1. 社会保険の適用除外リスク
健康保険法施行令第1条の2 実質的に個人事業の一部であると判断された場合、社会保険の適用が否認される可能性があります。
2. 税務調査での否認リスク
- 外注費の否認:個人事業主への給与認定
- 同族会社の行為計算否認(法人税法第132条)
- 私的経済取引の否認
3. 労働保険法上の問題
労働保険の保険料の徴収等に関する法律 実質的に同一事業であれば、労働保険の重複適用問題が生じる可能性があります。
グレーゾーンとなる理由
このスキームがグレーゾーンとされる主な理由:
1. 事業の独立性の立証困難
- 個人事業と会社の業務分離が形式的
- 実質的に同一人による同一事業の可能性
2. 経済合理性の欠如
- 外注費20万円に対する役員報酬8万円の不自然さ
- 利益12万円の使途・蓄積の必要性
3. 租税回避行為該当の可能性
節税を超えた租税回避との判断
一般的否認規定の適用リスク
税理士としての実務判断
30年の実務経験を踏まえ、以下のように判断いたします:
推奨できないケース
- 業務分離が困難な事業
- 一人親方的事業
- 技能に依存する事業(理美容、施術業等)
- 経済合理性に乏しいケース
- 所得が不安定
- 外注費に見合う業務の独立性がない
慎重検討が必要なケース
役員報酬の適正性
明確な業務分離が可能
経理、受付、広告等の分離可能業務
会社として独立した収益性
適正な対価関係
外注費の金額的合理性
結論と提言
このスキームは理論上の節税効果は認められるものの、実務上は以下のリスクを十分に検討する必要があります:
リスク要因
- 税務調査での外注費否認(約240万円/年)
- 社会保険の適用除外
- 加算税・延滞税のペナルティ
コスト要因
- 法人税(年間10万円程度)
- 申告書作成費用(年間15万円程度)
- 事務負担の増加
実質的節税効果:約25万円(50万円 – 25万円のコスト)
税理士としての提言
- 安全な法人成りを検討
- 所得1,000万円超であれば確実な節税効果
- 事業承継対策にも有効
- 適正な事業分離による正当な節税
- 実質的業務分離
- 適正対価の設定
- 十分な独立性の確保
- 長期的視点での判断
- 単年度の節税効果より事業の発展性
- コンプライアンスリスクの回避
最後に
税理士として、クライアントの皆様には常に「攻めるべきところは攻め、守るべきところは守る」姿勢をお勧めしています。短期的な節税効果に目を奪われず、長期的な事業発展と法的安定性を重視した選択をしていただければと思います。