注意点 合併直後は類似業種比準方式による評価はできません。 比準要素が適正に計算されないため合併後3年目から類似業種比準方式により計算が可能です。3年間の時間的な余裕が必要です。【株式・公社債の評価の実務(大蔵財務協会) 【合併後に課税時期がある場合の類似業種比準方式の適用関係】を参照してください。
株式の引き下げ対策シリーズ(合併におる会社規模の拡大)
この記事は会社規模を大きくすると1株当たりの株価は引き下がることは書籍で知られていますが、どのくらい株価に影響を与えるのかを数字で確かめたものは少なく、非上場株式に興味を持った方への参考になるようにわかりやすく説明しています。 類似業種比準価格方式の評価は 配当 利益 純資産の3つの要素で計算されるためその他の株価引き下げの手法をあわせると効果は上がります。ただし 節税目的だけで合併などをして株価を引き下げると認められない可能性もあるので慎重に判断してください。
複数の会社を経営している方の事業承継では会社を1つにして従業員数を70名以上(改正で引き下げ)にすると大会社に該当しますので事業承継では非常に有効な手段となります。(中小の特例は受けられなくなりデメリットもあります。)
会社規模を大きくすることで株価は本当に下がるのか?
非上場会社の株式評価において、会社規模を大きくすることで株価を引き下げることが可能です。今回は、具体的にどのくらいの効果があるのかを数値で示しながら解説します。
会社規模を大きくする方法として最も一般的なのが合併です。小会社から中会社へ、中会社から大会社へと規模を拡大することで、株式の評価額を大幅に引き下げることができます。
なぜ会社規模で評価が変わるのか?
税法における非上場株式の評価では、会社の規模によって評価方法が異なります。
小会社の場合 小さな会社は個人事業とほぼ変わらないという考え方から、純資産価額を基本として株式評価を行います。純資産価額は、税法上の株式評価方法の中で最も高い評価額となります。
類似業種比準価額とは 評価会社の以下の指標を、同業種の上場会社と比較して計算します:
- 2年間の配当の平均
- 年間利益
- 純資産(簿価)
ただし、非上場株式は上場株式と異なり換金性が乏しいため、会社規模(大会社・中会社・小会社)に応じて、0.7・0.6・0.5という斟酌率を用いて評価に差をつけています。
取引相場のない株式の評価計算式
大会社
- 類似業種比準価額(純資産価額も選択可能)
中会社
- 類似業種比準価額 × L(0.9・0.75・0.6) + 純資産価額 × (1-L)
小会社
- 類似業種比準価額 × 0.5 + 純資産価額 × (1-0.5)
- または純資産価額
具体的な株価引き下げ効果
実際の計算例を見てみましょう。
【ケース1:類似業種比準価額30,000円の場合】
| 会社規模 | 区分 | 類似業種比準価額 | 斟酌割合 | Lの値 | L×類似 | 純資産価額 | 1-L | 純資産額計算 | 1株の評価額 |
| 大会社 | – | 30,000 | 0.7 | 1 | 21,000 | 90,000 | 0 | 0 | 21,000 |
| 中会社 | 大 | 30,000 | 0.6 | 0.9 | 16,200 | 90,000 | 0.1 | 9,000 | 25,200 |
| 中会社 | 中 | 30,000 | 0.6 | 0.75 | 13,500 | 90,000 | 0.25 | 22,500 | 36,000 |
| 中会社 | 小 | 30,000 | 0.6 | 0.6 | 10,800 | 90,000 | 0.4 | 36,000 | 46,800 |
| 小会社 | – | 30,000 | 0.5 | 0.5 | 7,500 | 90,000 | 0.5 | 45,000 | 52,500 |
【ケース2:類似業種比準価額3,000円の場合】
| 会社規模 | 区分 | 類似業種比準価額 | 斟酌割合 | Lの値 | L×類似 | 純資産価額 | 1-L | 純資産額計算 | 1株の評価額 |
| 大会社 | – | 3,000 | 0.7 | 1 | 2,100 | 90,000 | 0 | 0 | 2,100 |
| 中会社 | 大 | 3,000 | 0.6 | 0.9 | 1,620 | 90,000 | 0.1 | 9,000 | 10,620 |
| 中会社 | 中 | 3,000 | 0.6 | 0.75 | 1,350 | 90,000 | 0.25 | 22,500 | 23,850 |
| 中会社 | 小 | 3,000 | 0.6 | 0.6 | 1,080 | 90,000 | 0.4 | 36,000 | 37,080 |
| 小会社 | – | 3,000 | 0.5 | 0.5 | 750 | 90,000 | 0.5 | 45,000 | 45,750 |
評価額の差は数倍から十数倍に
上記の計算結果からわかるように、類似業種比準価額による計算と純資産価額方式による計算では、数倍から十数倍もの評価額の差が生じます。
特に注目すべきは、小会社から大会社へと規模を拡大した場合の効果です。ケース2では、小会社の評価額45,750円が大会社では2,100円となり、約22倍もの差が生まれています。
合併による株価引き下げ対策の実務
会社規模を大きくする方法として、合併が最も実務的で効果的です。合併により従業員数や総資産額、取引金額などの判定基準をクリアし、会社規模を引き上げることで、株式評価額を大幅に引き下げることが可能になります。
重要な留意事項
取得者による評価方法の違い
取得者が同族株主以外(少数株主など)の場合、原則的評価方式ではなく特例的評価方式(配当還元方式)が適用されます。株式の取得者が同族株主か否かによって評価方法が変わるため、事前に株主構成を十分に確認することが重要です。
合併による評価の注意点
合併先の選定に注意 合併後に利益や純資産額が増加すれば株式評価額の引き下げが期待できますが、収益性の低い会社や債務超過の会社との合併は逆効果になる可能性があります。必ず合併先の財務状況や収益力を慎重に確認する必要があります。
業種変更や保有資産の影響 業種の変更や、土地・株式等の保有割合の変化によって、特定評価会社から一般評価会社へ移行する場合があります。これも評価方式に大きく影響するため、合併前後の資産構成を十分に検討することが必要です。
特定評価会社の扱い 開業後3年未満の会社、休業中の会社、土地保有特定会社、株式保有特定会社などは特定評価会社として、通常とは異なる評価方式が適用されます。合併や組織再編に伴って「一般評価会社」へ移行する可能性があるため、その影響を事前に試算しておくことが重要です。
その他の実務上の注意点
評価時期の重要性 実際の評価は「課税時期に最も近い直前期の決算数値」を基本に行われます。合併のタイミングや決算期の設定によって評価額が大きく変動する可能性があるため、適切な時期を見極めることが重要です。
総合的な視点での検討 会社規模だけでなく、事業継続性や将来の収益力なども評価に影響する場合があります。会社規模の拡大に加えて、事業戦略の見直しや収益構造の改善など、総合的な視点での検討が必要です。
まとめ
事業承継や相続対策において、株式評価額の引き下げは重要な課題です。会社規模の変更による評価額の違いを理解し、適切なタイミングで合併などの対策を講じることで、大きな節税効果を得ることができます。
ただし、合併による株価引き下げ対策は、合併先の選定、取得者の属性、特定評価会社への該当性、評価時期など、多くの要素を総合的に検討する必要があります。一つの判断ミスが逆効果を生む可能性もあるため、必ず専門家に相談しながら進めることをお勧めします。
当事務所では、組織再編やM&Aの専門知識を活かし、お客様の事業承継・相続対策を総合的にサポートしています。株式評価や事業承継対策についてのご相談は、お気軽にお問い合わせください。
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